社外取締役座談会

社外取締役座談会

気候変動問題の解決に向け、金融機関が果たすべき役割を問う

SMBCグループのサステナビリティに対する取組について、当社社外取締役の河野氏、桜井氏にグループCSuOの伊藤がお話を伺いました。

三井住友フィナンシャルグループ 社外取締役 河野 雅治

三井住友フィナンシャルグループ
社外取締役
河野 雅治

三井住友フィナンシャルグループ 社外取締役 桜井 恵理子

三井住友フィナンシャルグループ
社外取締役
桜井 恵理子

三井住友フィナンシャルグループ グループCSuO 伊藤 文彦

三井住友フィナンシャルグループ
グループCSuO
伊藤 文彦

伊藤本日は座談会にご参加いただき、ありがとうございます。はじめに、世界中で加速度的に気候変動に対する問題意識が高まる中、脱炭素社会の実現に向けて、私たちグローバル金融機関にどのような役割が求められるかについてご意見をお伺いしたいと思います。それでは、桜井さんからお願いします。

桜井私はグローバルな製造会社での業務に携わる中で、長きにわたり環境に配慮した製品開発に取り組んできましたが、気候変動問題の解決にあたっては金融機関が非常に重要な役割を果たすということを、ここ最近より強く実感するようになりました。まず、金融機関が投融資先を判断する際に適用するフレームワークは、お客さまがビジネスの形態を脱炭素社会の実現に向けて大きく変革していくにあたっての指針となりえます。このことから、サステナビリティに配慮したフレームワークの策定が、金融機関に求められるひとつの役割だといえるでしょう。また、脱炭素社会の実現は、企業活動におけるサプライチェーン全体で達成していく課題であるため、どこか1社だけが目標を達成したとしても、他社にその分の負荷がかかるような形で進めるのであれば真にサステナブルであるとはいえません。金融機関はある意味中立的な立場から、共通のビジョンを示し、個社の枠を超えた全体的な活動につなげていくことが可能であり、気候変動問題の解決に向けて金融機関が果たすべき役割はますます重要なものになると思っています。

河野桜井さんがおっしゃるように、金融機関がどのような分野にどのような形の投融資をするかを考えること自体が、世界が注目するところでもあり、金融機関に求められる役割そのものだと思います。世界の潮流を振り返ると、15年ほど前にESGという新たな概念が広まってきた中で、気候変動問題が国際社会で大きな議論になり、それに続く形で、ESGよりさらに広い概念であるSDGsが登場しました。そうした流れが複合的に作用した結果、今日の脱炭素社会に向けてのグローバルでの大きな流れを形作っているように思います。私は外交官として政府の側から国際社会と関わってきましたが、過去20年の地球温暖化対策の潮流は、国際機関、先進民主主義国、国際NGOがリードして築き上げられてきました。しかし、その潮流を成果へと結びつけるためには、プライベートセクターの取組が不可欠です。さらに、こうした大きな地球規模の課題の解決に向けては、プライベートセクターの中でも特に投融資の担い手として社会的な存在ともいえる金融機関が果たすべき役割と責任は大きいと考えます。

伊藤これからの投融資においては、キャッシュフロー等の財務的な観点からお客さまへの投融資の判断を行うだけではなく、お客さまのESGへの取組等の非財務価値を適切にメジャーメントすることで、社会全体をESGの方向に促していくことが、金融機関としての重要な役割だと認識しています。今後もどのような形で非財務価値を測り、判断していくかについては引き続き議論を進めていきます。
 では次に、2021年5月に公表した気候変動対策ロードマップおよびアクションプランについてどのように評価されているのかをお聞かせいただけますでしょうか。

桜井私の印象を率直にお伝えしますと、まずSMBCグループ全体の目標を明確にし、今後の方向性を示そうという意図が強く感じられました。もちろん、ここから内容自体を練り上げていかなければなりませんが、長期的な視点で目指す方向性を描かれている点は大変好感が持てました。それからもうひとつ評価できることとしては、何もかも同時進行で一気にやるのではなく、インパクトの大きい課題から取り組みながら、そこで得た経験を活かして、また次の段階へ進むというステップを踏んでいく形を採用していることが挙げられます。実行性も高く、進めていきながらより良いものにしていこうという姿勢が見えます。加えて、ステークホルダーとの対話を重ね、ともに行動することを表明している点に共感しました。現在、社会的な意義が高い会社に勤めたいと希望する従業員がますます増えていますし、お客さまの側からもそのような会社とお付き合いしたいという機運が高まってきています。そうしたステークホルダーを巻き込んで取組を進めていく姿勢は素晴らしく、また、SMBCグループらしさが出ていると思います。

河野私も同感で、気候変動対策ロードマップおよびアクションプランというものを今の段階でしっかり社内外に示すことは非常に意義があります。一方で、どういった中身に落とし込んでいくのかは未知の世界であり、これからの課題です。SMBCグループ全員で考え、これから取組を進めていこうという中で、グループCSuOはその先頭に立っていく存在になるべきと考えています。これまでの伝統的な銀行の仕事とは違った、非常に重要なポジションといえるでしょう。もちろん私自身も、これからともに議論を深め、より良い取組になるよう協力していきます。

伊藤お二人がおっしゃったことと関連しますが、私はグループCSuOとして、特に従業員とのインナーコミュニケーションをしっかり図っていこうと考えています。まずは私の方から従業員の皆さんに発信する機会も積極的に作りながら、一緒になってさまざまな課題に取り組んでいきます。
 3点目となりますが、今後、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を進めていくにあたり、お取引のあるお客さまの排出量(Scope3)の削減も達成していく必要があり、難しい舵取りが求められているところです。こうしたお客さまとのエンゲージメントを円滑に進めていく上でのポイントについて、社外取締役の立場からのアドバイスをいただけますでしょうか。

桜井お客さまとともにサステナビリティの取組を進めていくにあたって、時にはお客さまのビジネスそのものに大きな変革を求める必要が出てくる場合もありますから、難しい議論になると思います。私が携わっている会社の事業においても、取組を推進するために、お客さまのビジネストランスフォーメーションに要する時間軸を見据えながら、長期にわたってお互いの目指すビジョンをすり合わせるための議論を重ねています。こうした地道なコミュニケーションが非常に大事だと肌身で感じていますが、金融機関でも同じことがいえるのではないでしょうか。サステナビリティの観点でビジネストランスフォーメーションを進めていくには、今まで以上に粘り強く、将来に向けた長期的な視点を意識した対話を続ける必要があるでしょう。その際、この改革が自分たちの価値向上につながり、ひいてはビジネスの成長にもつながるのだということを双方の共通認識として持っておくことが肝心であり、そうすることで、サステナビリティに取り組んで良かったと最終的にお互いに思えるような関係を構築することができると考えています。

伊藤その大前提として、SMBCグループ全体の中でもお客さまと対話する従業員一人ひとりがそのような共通認識を持っていることがとても大事で、インナーコミュニケーションを通じて、しっかりと浸透させていきたいと思います。

桜井十数年前までは、サステナビリティは「Nice to have」、あった方が良いものという考え方で、会社の中でも組織の一部が取り組むようなものでした。それが今は、「Sustainability is business」で、会社全体、従業員全員でサステナビリティを推進していくことがビジネスの中心であるというような意識に変わりつつあります。ですから、従業員の皆さんがサステナビリティはグループCSuOである伊藤さんだけの仕事ではなくて、自分の仕事だという自覚を持って業務に取り組んでいくことが必要でしょう。

河野まずひとつに、気候変動問題をはじめとしたサステナビリティに対する課題について、経営陣それぞれがこの問題を真正面から議論できるようにならないといけません。SMBCグループ全体を引っ張っていく人たちが、この問題について自分の言葉で意見を言えるようにしていくことが極めて大事であり、それが結果として、さきほどお二人がおっしゃったようなサステナビリティに対する共通認識となってグループ全体に浸透していくことにつながります。
 それから2つ目に、新しい課題に取り組む中で、従業員の皆さん一人ひとりがSMBCグループの一員として、グループの抱える課題認識をお客さまに適切に伝えることが大切です。これまで私たち取締役の間で「お客さま本位の業務運営」について議論を重ねてきましたが、共通の課題をお客さまと共有し、共感し合うことが新たな付加価値の創出にも寄与すると考えています。そして、それこそが真の「お客さま本位の業務運営」の達成であるといえるでしょう。
 3つ目に、SMBCグループ自身が、新しいライフスタイルを提示し、実践できる組織でなくてはなりません。ここにスピード感を持って取り組まなければ、周回遅れになって取り返しのつかないことになるという危機感をSMBCグループ全体で共有するとともに、すでにそうした新しいフェーズの入り口に立っているという認識を持つことが大切ではないでしょうか。

伊藤それでは最後に、私たちSMBCグループの非財務価値向上やサステナビリティ経営高度化の実現に向けて、社外取締役として果たしていきたいと考えるご自身の役割について、お聞かせください。

桜井今までの議論の続きでもありますが、SMBCグループが国際社会に与えるインパクトは大きいことから、そのことを自覚し、リーダーシップを取ってサステナビリティの取組を進めていっていただくことを期待しています。さまざまな業界を結ぶことのできるSMBCグループだからこそ、冒頭申し上げたように、サステナビリティに配慮したフレームワークを策定する等、業界の枠を超えて影響を与える取組を行うことが可能です。そうした試みが新たな顧客層の開拓につながり、企業価値の向上にも貢献するものと考えています。社外取締役として私自身に求められている役割は、そのような取組を後押ししながらも、しっかりと監督していくことであり、さきほど、「Sustainability is business」と申し上げたように、事業戦略における役割と特に変わりはないものと認識しています。

河野私自身は、外交官としての経験を基に国際的な視点から提言することが自分に課せられた役割であると考えています。2021年4月にバイデン政権は気候変動に関する首脳会合を開催しました。私にとって非常に驚きだったのは、この会合の分科会に国防長官が参加したことです。つまり、気候変動問題が安全保障の問題に直結するという認識を米国が抱いているということなのです。こうした新しい世界の流れにも注目していかなくてはなりません。
 第2に気候変動問題への対応というのは、未来に向けての取組ではありますが、過去の取組と切り離して考えるべきではないでしょう。たとえば、過去に外国からの投融資を受け、石炭火力発電所を建設して発展してきた途上国に対し、脱炭素社会の流れの中で、石炭火力発電への支援を一切やめてしまうということだけでは、これまで投融資を行ってきた責任を最後まで果たしているとはいえません。投融資先であるお客さまが新しいフェーズにどのように適応していくかという局面において、これまでとは異なる形で支援ができないのかを絶えず考えていく必要があります。
 第3に、この十数年の気候変動問題への取組は常に欧州がリードしてきた経緯があります。日々変動する世界の情勢を把握していく上で我々は、欧州に対するアテンションを常に持っておく必要があります。気候変動は人類共通のグローバルな課題ですから、常に世界に目を向けながら議論を重ねていくべきです。

伊藤本日は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。今後ともさまざまな観点からアドバイスをいただければ幸いです。