社外取締役座談会

サステナビリティ実現に向けたSMBCグループのあるべき姿 サステナビリティ実現に向けたSMBCグループのあるべき姿

伊藤本日は、2023年5月に発表した新中期経営計画(以下、新中計)を踏まえ、今後のSMBCグループに期待する点について、社外取締役の松本さんと桜井さんにご意見をお伺いしたいと思います。新中計の策定のプロセスにおいては、取締役会やその内部委員会で約1年にわたるディスカッションを重ねており、お二人にも深くかかわっていただきました。

松本私は今回の新中計は一味違うなという印象を持っており、次の3つの観点から評価しています。1つ目が、策定までのプロセスで多くの役職員が参加し、多くの時間と労力を費やして作り上げたという点です。それにより、これまでの中期経営計画の課題や成果を踏まえつつ、さらに足元で進んでいる環境変化を取り入れた計画に仕上がりました。2つ目は、「経済的価値の追求」「経営基盤の格段の強化」を前提としながらも、「社会的価値の創造」を新たな柱に据えている点です。そして、3つ目は、その実現に向けて、取り組むべき社会課題を明確にし、解決していくのだという決意を明確にした点です。新中計の柱として掲げた以上、やり遂げる責任と覚悟を持って取り組んでほしいと思っています。

 すでに新中計はスタートしていますが、役職員の皆さんが非常に熱意を持って取り組んでいるという印象があります。この熱意を持続させ、新中計をやり遂げることで、SMBCグループの組織的な力が一段と向上することを期待しています。

松本 正之

桜井松本さんから全体感のお話がありましたが、私はサステナビリティ委員会の委員長として新中計の策定にドラフトの段階からかかわらせていただいたので、まずその立場からお話ししたいと思います。率直に申し上げて、初期のドラフトは総花的な印象がありました。「社会課題を解決する」と言葉にするのは簡単ですが、企業活動に実際それをどう織り込んでいくのかが重要です。従業員一人ひとりがオーナーシップを持たなければ、本当の社会課題の解決は実現できませんので、そのためにも、SMBCグループとして注力するポイントを絞り込むべきであるということをお伝えしました。

 もともとSMBCグループでは、何十万人もの高校生に金融経済教育のセミナーを実施する等、「社会的価値の創造」に貢献するさまざまな取組がすでに行われています。そうした中で、従業員一人ひとりが、社会課題の解決により意識的に取り組むためにはどうすればよいか、議論を重ねました。たとえば、「幸せな成長」というキーワードが出てきた時も、幸せとはどのような意味か、成長の実現のためには自分たちが社会の中でどうあるべきなのかといった、従来のSMBCグループにはなかったような論点について深く議論を交わしました。

 また、私は報酬委員会と指名委員会にも委員として参加していますので、「社会的価値の創造」を報酬やリーダーを選ぶ時の評価軸にどのように反映していくのかといった観点からも検討に加わりました。多岐にわたるSMBCグループの活動の中で「社会的価値の創造」というテーマを真に実現するため、私もあらゆるステークホルダーの立場を代弁するよう心掛け、さまざまな提言をさせていただきました。

伊藤桜井さんがおっしゃるように、サステナビリティ委員会が新中計における戦略の骨子の作成に深く関与すること自体、SMBCグループが「社会的価値の創造」を重要視して、真ん中に据えて進めていくという意思を具現化しているといえるのではないでしょうか。

 一方で、松本さんからもお話があった通り、計画として策定した以上、責任と覚悟を持ってこれをやり遂げることが重要です。今後もそのプロセスの中で従業員を巻き込みながら、新中計で掲げた取組をさらに進化させていきたいと考えています。

松本私はメガバンクが果たすべき役割について4つあると考えています。1つ目は国民生活および日本経済への貢献と責任を果たすこと、2つ目はすべての基盤として信用と信頼を築くこと、3つ目は収益やガバナンスを含めて、健全経営を基本とすること。4つ目はすべてのステークホルダーに貢献するとともに、公正であることです。これら4つのいずれも欠けてはなりません。新中計における「社会的価値の創造」「経済的価値の追求」「経営基盤の格段の強化」という3つの基本方針は、これらの役割を果たした上で質の伴った成長を目指すという揺るぎない哲学の軸を持っていると感じているところです。

伊藤松本さんが3つ目に挙げた健全経営という観点では、東京証券取引所からのPBR改善の要請を受け、執行サイドとしてまずはPBR1倍に向けて資産・資本効率を重視した経営を通じ、東証基準ROE8%を目指していくことを打ち出しました。また、海外におけるマルチフランチャイズ戦略や米国での事業拡大、国内リテール・ホールセールのビジネスモデル改革を通じ、将来の期待成長率も向上させ、ROE・PERの両面からPBR1倍を目指していきます。

伊藤 文彦

松本PBR1倍は企業としてあるべき姿だと思いますし、各社もそれを目指して努力しているところですが、金融業は、規制対応として資本蓄積も求められる中で、PBR向上に向けた努力が必要とされる業種です。東証基準ROE8%は高い目標ではありますが、事業ポートフォリオの入替等を通じて収益改善に注力する必要があるでしょう。

桜井東京証券取引所からの要請をどのように新中計に織り込んでいくのかについては、取締役会でもよく議論しました。ひとつ申し上げるとするなら、金融業というさまざまな規制のある環境の中で、SMBCグループが成長できる分野をしっかり見定めていく必要があるということです。私が社外取締役に就任した2015年から業容も随分変化してきていますので、新中計においても目標達成に向けていかに成長分野への取組を進めていくかという点を、引き続き注視していきたいと思います。

伊藤ありがとうございます。次に、ステークホルダーの関心の高いテーマでもある気候変動への取組について、お二人の評価をお聞かせいただけますか。

松本取締役会でサステナビリティ委員会からの気候変動に関する報告を受ける際、その内容が詳細かつ徹底的に議論されたものであることに、いつも感心しています。同委員会での議論や気候変動問題の現状を確実に把握した上で、グローバルで求められる基準をベースに全体の長期行動計画を策定しています。これに沿って現在も取組を進めているところですが、今回の新中計におけるマテリアリティのひとつである「環境」のゴールに「トランジションの支援を通じた脱炭素社会の実現」を掲げたことで、改めて課題解決に向けた姿勢を示したと思います。お客さまと対話しながら、日々変化する環境の中で出てきた課題を整理し具体的なアクションプランの策定を進めていることも伺っていますので、そのような取組から着実に計画を推し進めるという覚悟を感じています。

桜井私は、気候変動への取組体制がグループ内で十分整っているのかという点を重視し、非常に突っ込んだ提言を行ってきました。私はグローバル化学品メーカーに長く勤めていましたが、こうした産業においてGHG排出量の削減に取り組むとなると、その技術に対応した工場が必要となります。そのために用地を取得し、工場を建設し、そしてようやく製品の生産ができるようになるまでには数年の歳月がかかります。SMBCグループがこのような外からは見えづらい実情を把握した上で、真に一つひとつのセクターに向き合っているのかということを厳しい目をもって注意深く見てきたつもりです。そのような中、たとえば主要セクターのお客さまと話をするだけではなく、実際にその産業に従事していた方をSMBCグループに採用するといった、現場の意見を反映するためのさまざまな改善がなされているのを目の当たりにしました。また、大企業であれば、気候変動に関するデータを自前で算定する等、GHG排出量削減に向けた体制が整っていますが、中小企業においてはそうしたデータ算定のノウハウを持っていない場合が少なくありません。そうしたお客さまには「Sustana」をはじめとしたGHG排出量算定サービスを提供する等、さまざまなニーズを満たす支援を執行サイドがしっかり意識して取り組んでいると実感しています。

 また、トップマネジメントが気候変動に対してどれだけコミットメントしているかにも着目していますが、役員の報酬体系において、非財務指標として「社会的価値の創造」を組み込んだことについては大きな前進だと捉えています。その他にもM&A等を実行する際には、社外取締役として、提携先の社会的価値のビジョンや、気候変動に対する取組が確実に行われているかといった点は特に重視して確認するようにしています。

伊藤次に、2022年度に発生したSMBC日興証券の相場操縦事案をはじめとする不祥事を受けて、取締役会での厳しいご意見もいただきながら、再発防止策を策定し、浸透・定着に取り組んでいるところですが、その進捗に対する評価や考えを忌憚なくお聞かせください。

松本どのような会社にも、存立のために絶対に失ってはならない重要な価値観があります。証券会社にとっては、市場の公平性を守ることが重要な価値観といえますから、今回の相場操縦事案は極めて遺憾です。二度とこのようなことを起こさないよう、私自身も監査委員会の委員長として、今回事案が発生した原因やそれに対する再発防止策についての報告を受けるとともに、実際にSMBC日興証券に足を運び、幹部に会って話を聞く機会を持つようにしています。

 私は長く鉄道業界に携わってきましたが、鉄道業界では、安全を第一として考え、疑わしい時は安全な方を選択すべきという「fail safe」という考え方が伝統的なカルチャーとして根付いています。実際、現場の従業員がこの考え方に基づいて適切な行動を取ったことで重大事故を回避し、お客さまの安全が守られたという経験もあります。

 存立の基礎となる価値観を守るというカルチャーを定着させるには、継続した忍耐強い取組が必要です。SMBC日興証券の社長の話を従業員がしっかりと受け止め、一体となって再発防止に取り組んでいる姿を見ていると、このような姿勢を継続していくことができれば、カルチャーの定着につながるものと思います。危機を乗り越える中、一度立ち止まって考えることでより良いものが生まれてくることも多いですから、今後のSMBC日興証券に期待しています。

桜井松本さんをはじめとした監査委員会の方が、SMBC日興証券の役員や従業員に実際に会って話を聞き、取締役会を代表してご対応いただいた点に本当に感謝しています。再発防止に向けて、地道に取組を重ねる中で、今おっしゃったようなカルチャーの定着を図らなくてはならないという点は私も同感です。私自身も、従業員へのサーベイの仕方や上司と部下がどのような対話を行っているのか等、具体的に質問したり結果を聞いたりして、進捗を見守っていきたいと考えています。SMBC日興証券の皆さんが前向きな形で変わっていっている様子は、SMBCグループの中にいる私たちも感じていますので、これからも温かくも厳しい目でモニタリングしていきます。

桜井 恵理子

松本本日の座談会の冒頭で、すべてのステークホルダーに貢献することがメガバンクの果たすべき役割のひとつであると申し上げました。私自身は監査委員会の委員長として、健全な経営が維持・推進されているか、そして、リスク管理等も含めてガバナンス体制はどうかという観点でフォローしており、疑問に感じることがあれば必ず意見をいって答えを求めるようにしています。今後も引き続き、ステークホルダーの皆さまの期待に応えられるよう、SMBCグループの健全経営に向けた提言や意見表明を行っていきます。

桜井私は社外取締役として、世界各国で活躍されている企業のトップの方と直接話をしたり、外部のさまざまなリーダーの話を聞いたりすることで、それをグループの経営に反映できるよう常に自分のアップデートを図っているところです。SMBCグループがグローバル基準でサステナビリティおよびガバナンスの観点から発展できるよう、引き続き研鑽を積んでいきたいと思います。

伊藤SMBC日興証券の再発防止策については、お二人からもご指摘いただいたように、従業員一人ひとりに健全なリスクカルチャーを浸透・定着させていくことが大切だと考えています。また、新中計の推進およびサステナビリティの実現に向け、いただいたご意見を今後の経営戦略に反映するとともに、着実に取組を進めていきます。本日は誠にありがとうございました。