企業の社会的責任(CSR)

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日本の復興と再生、世界の課題解決に向けて、今、私たちができること

安藤忠雄:建築家。東京大学名誉教授。東日本大震災復興構想会議議長代理。

國部毅:三井住友銀行 頭取

宮田孝一:三井住友フィナンシャルグループ 取締役社長



日本を元気にしていくために。
東日本大震災からの復興、少子・高齢化社会への対応など、社会が解決すべき課題は多岐に亘る一方で、今、我々にはグローバルな視野で自然・人との共生を目指す取り組みも求められています。
今回、三井住友フィナンシャルグループは建築家・安藤忠雄氏を迎え、金融機関として三井住友フィナンシャルグループが社会のために取り組むべき課題について意見交換をいたしました。


震災から復興へ。日本人がひとつになろうとしている。


―震災復興、そして環境、少子・高齢化、グローバルという4つを、三井住友フィナンシャルグループはCSRの重要課題として掲げています―


國部:今、日本社会では、少子・高齢化が進み、経済も成熟期に達しており、現状の方向で成長していくのはなかなか困難な時期にあると思います。このような中、東日本大震災という未曾有の大惨事が発生し、我々はこれに伴って生じた新たな困難に立ち向かっていかなければなりません。
我々金融機関としても、4つの重要課題を含め、さまざまな課題解決へ向け何をすべきなのか、再度問い直さなければならないタイミングにきているのではないかと感じています。
本日は被災地の復興ということに加えて、日本を元気にしていくためにはどういうことを行っていけばいいのかということについてお話ができればと思います。



安藤:日本は2回の奇跡を起こしています。すなわち、1868年の明治維新と、1945年以後の、第二次世界大戦後の復興は、世界的にも奇跡だと言われています。
1945年、日本に来た外国の外交官や商社マンは、焼け野原で焦土と化した日本を見ながらも、「この国は必ず復活する」と確信したといいます。それは、「人々が本当に助け合いながらよく働く。子どもたちは親の言い分をよく聞いて、よく勉強する。目が輝いているから」だと。
その後日本人は、経済大国と言われるまで猛烈に頑張りました。しかし、70年代に入り、豊かさにかまけて考えない、働かない、何もしないようになった。子どもたちはどうかというと、一流大学に行って、一流企業に行けばもう安心というようになって、もう幼稚園以前から塾通い。私は、「1980年以後に生まれた学生たちはだめだ」という講演会をして回っていますが(笑)、それは、このころから日本人が「日本の国は未来永劫発展する、経済的に安定しているのだ」と思い込み、親が子どもをかわいがりすぎて、何もできない子どもが増えたからです。その子どもがもう30歳になってたくさんいる。
そういう状況でバブルが崩壊し、リーマンショックが起こり、そして今回の大震災。不安ばかりがどんどん拡大していく状況ではないでしょうか。よほど一人ひとりが「もう一回やり直す」という気持ちにならない限り難しい状態だと思います。


宮田:確かに70年以前は、生活水準、あるいは給与の水準は非常に低いが、自分が頑張ったら、もっと暮らしがよくなる、頑張ることで会社がよくなる、もっといい日本ができてくる、非常に幸せな時代だったと思います。
今の先生のお話を伺って考えますと、現状安住型といいますか、「今、ある程度豊かだから、まあいいや」という人が増え、社会全体としてある種の閉塞感が漂っていました。そういう時期にこの大震災があった。みんなで頑張ろう、震災からの復興に向けて一致団結しよう、と。これは悪いことばかりではないぞ、と思いました。ただ、もっとうまく力を結集しないと大変だなというのが今の状況だと思います。


國部:三井住友銀行のことでいいますと、被災地域の支店や拠点の従業員が、自らの家が大変な時に出社し、ちゃんと業務することができるのか、休日にも営業できるのか考えました。結果は、水もガスもない中で、非常に頑張ってくれました。
そうした従業員のモチベーション、金融機関という公的なインフラを担っているという自負、これは非常にうれしいものだと。私は「現場力」と言っているのですが、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行はこういった「現場力」が非常に強い会社だと再認識しました。
今後、東北地区の復興については、我々金融機関の本業であり得意とする「プロジェクトファイナンス」のような手法で、インフラ整備などにも取り組んでいきたいと考えています。
東北の人たちと東北以外のお客さまとのビジネスマッチング、業務の斡旋なども活発に行っています。また、行政である宮城県と七十七銀行さんと私どもで提携させていただき、さまざまな支援活動などの取り組みを行っています。


宮田:三井住友フィナンシャルグループでも、グループ各企業が、ボランティアを出したり、義援金を会社のみならず従業員も出したりとさまざまな活動を行っています。その中核に三井住友銀行があるわけですが、我々のビジネスそのものが、社会への貢献とどうつながっていくかということを再確認する機会なのだと思います。
三井住友フィナンシャルグループ6万2000人の従業員が、みんな同じような思いで、自分たちが頑張れば世の中に相当なプラスの影響を与え得るのだと。その気持ちをどう共有できるかが大事だと思っています。



グローバル時代。日本の未来も、国際的視野で考えていく時代。


―日本が元気になるためには、グローバル、特にアジアとの関係を考えて行動していかなければなりません―


安藤:1950年代、60年代は、可能性を追いかけて頑張る者には、社会が少し隙間をあけてくれていました。私は大学も出ていないし、専門教育も受けていませんが、建築をやりたいと大阪からスタートし、猛烈に頑張る者を受けとめる企業家がいて、これまでやってこられた。その隙間が狭まってしまっている。もう一回やり直さないといかんと思います。そのためには日本というよりも世界、世界の中でもアジアを視野に置いた一つの経済圏ということを考えていかなければならないと思います。


國部:我々銀行の、今後の成長をどう確保していくかという観点でいっても、やはり中長期的にはグローバル、なかでもアジアがポイントになってきます。地理的にも近いし、文化的にも非常に近い。例えばそのアジアのマーケットで、我々が今日本でやっているような商業銀行業務を展開していくということが、日本という国のみならずアジアという地域が成長していける戦略だと。だからこそアジアは一つなのだと考えています。
三井住友銀行は、アジア、それから欧米と、ビジネスの場をどんどん拡大していこうと考えています。そのときにはやはりグローバルなコミュニケーション能力、すなわち、英語とか中国語とかの語学、そして国際感覚、更に自分の考えをしっかり主張すること。これらが大事なのだと思います。コミュニケーションをとりながら業務を展開していきませんと、目指しているグローバル企業にはなかなか到達できないでしょう。そのため語学研修も充実させ、グローバル人材を急速に拡大しようと努力しているところです。


宮田:アジアでも今、さまざまなインフラ関連のプロジェクトがあります。そのお手伝いをするというのがもちろん我々三井住友フィナンシャルグループの本業であるし、それはある意味、持続的な社会の発展、アジアを含めた世界の持続的な発展に貢献するということだと考えて取り組んでいます。後ほどお話しすることになると思いますが、三井住友銀行はもちろん、日本総合研究所などを含めた複合金融グループの総合力で、環境保全やインフラ整備などの課題に取り組んでいます。


安藤:震災以降、世界中が一気に変わったと思います。例えば、食糧、エネルギー、資源問題があります。省エネルギーについて言えば、日本は世界でも一番レベルが高いと思います。世界に貢献できる技術を持ち得ながら、それをしっかりと国際的に発信できていない。
日本の企業は随分遠慮してやってきています。もっと自由に発言できる国にならないといけないと思います。例えば学生も自由がない、サラリーマンの人たちにも自由がない。誰もが思い切って、自由に発言できる国にしなければならないのです。外国とのつき合い方で非常にまずいのは、日本人は自分の思いをしっかりと発言しない、表現しないから、相手がわからない。日本の国でも自分の思いをしっかりと発言する個人をつくっていかないといけないです。相手のことをしっかりと聞く、そして相手にしっかりと話をする。これは個人も企業も一緒だと。
日本という国は、アジアだけでなく世界中に信用があります。日本は安心と。人間関係でも信用があるし、企業対企業の信用もあります。この信用が崩れないうちに、立て直さないといけない。産業界・経済界をはじめ、各界のいろいろな人たち、これが一体になっていかなければいけない。お互いに助け合いながら、国を挙げてやっていかなければならないですね。



少子・高齢化時代にこそ大切なもの。それは、家族の絆。


―今、日本のみならず、世界が抱える大きな問題として「少子・高齢化」問題があります―


宮田:繰り返しになりますが、震災前、日本社会には非常に閉塞感が漂い、あるいは現状安住型の若者たちがいる、そうした重苦しく、テーマの絞りにくいものとの戦いだと思っていましたが、むしろみんなで頑張ろうと、そう思っている人が増えているのが今の状況だと思うのです。日本人というのは、いざというときにみんなで頑張れる民族だと私は思います。


安藤:東北には、日本が失ってしまった「家族」が、まだあります。家族の絆が支える漁業であったり、農業であったり。子どもからお年寄りまで、その家族の「絆」が残っているうちに、次の時代をしっかり考えなければいけないと思います。その次の時代を支える若者を、心の中に希望を持っている人たちを育てなければいけません。今回の震災で私は遺児育英資金(桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金)を立ち上げました。年に1万円を10年間払い続ける人を1万人集めようと思ってやっているのですが、1日にだいたい150人ぐらい申し込んで来ます。しかし、多くは60歳以上の人です。この年代の人たちはまだ、家族、国のことを思い、そして自分のことも考える。こういう人たちがいたのですよ。そうした思いを今の30代の人が持てるかどうかということを考えないといかんですよ。


國部:先生がよくおっしゃっている「絆」ということですが、これは復興だけでなく、少子・高齢化社会での家族のつながりにも大切な言葉だと思います。


安藤:日本で今一番評価の高いものは何かといいますと、長寿です。だいたい寿命は83歳くらいです。女性は86歳までいく。外国へ行くといつも、日本の女性は何であんなに若くてきれいで元気なのか、そして男性は何であんなに元気がないのかと聞かれます。世界中の人たちのあこがれの的はやっぱり長寿できれいで長生きする日本の女性なのです。だから、もっと女性も参画していただき、働いてもらわねばなりませんね。


宮田:長寿社会、つまり少子・高齢化が進む社会で三井住友フィナンシャルグループが本業の金融を通じてどう取り組むかを考えますと、将来に備えて一定の蓄えを作りたいという人生設計に対してアドバイスをして、どうお手伝いができるかということだと思います。これがうまく日本で回転できるようになりますと、次にアジアで少子・高齢化が進む中国やタイの方々のニーズをサポートしていくことができるのではないかと考えています。



この国には、環境時代をリードしていける技術力がある。


―環境問題も重要な課題。自然との共生など、課題解決に向けたキーワードとは―


安藤:環境問題も重要ですね。これは地球の問題です。地球に生きるものすべてが手をとり合って、つくり直していかないといけない。安全なエネルギーを確保し、かつ環境も守っていく。世界で資源もエネルギーも食糧もなくなっていく中、空調から冷蔵庫まで世界一レベルが高い省エネの技術で、カバーできる部分がかなりあるのです。この「技術」で、これから日本はかなり脚光を浴びるだろうと思います。


國部:エネルギーの問題は、一国の競争力、産業力を左右する最大のものだと思います。是非、時間軸、つまり短期的かつ利己的なものだけではなく、将来を、社会全体を見据えるという概念をエネルギー戦略にも入れていきたいですね。


安藤:私もそう思います。産官学が本気で話をしてもらわないといけない。ぶつかっているだけではダメです。


國部:私は、環境ビジネスの推進が本業を通じたCSRの一つの軸だと考えています。例えば、三井住友銀行では「成長産業クラスター」というプロジェクトチームを立ち上げました。水、資源、環境、新エネルギーといった分野では、一つの業界だけで話が完結できるわけではなく、さまざまな業界が携わってプロジェクトができていく。その全体の流れを一つの取引とみなして対応していこうということです。このプロジェクトがアジアを含めた世界の持続的発展に貢献できるという思いで取り組んでいます。


宮田:三井住友フィナンシャルグループの中では、日本総合研究所が、中国の天津市が展開しているエコシティープロジェクトのアドバイザリーを務めています。それに付随してファイナンスが必要になると、私たちには銀行があり、証券会社があります。そういった有機的なお手伝い、複合金融グループとしての本業を通じてサポートしております。


國部:安藤先生は、日本の企業は技術力を大変持っていると。私もそのとおりだと思います。先ほど申し上げた「成長産業クラスター」のプロジェクトチームというのも、例えばアジアへのインフラ輸出というものがあれば、その企画構想の段階から銀行員が参画しています。こうした役割が、金融機関の仕事の一つだと思っています。


安藤:私は、金融機関の役割は大きいと思っています。やはり「動かしていく力、大きな力」ですから。
市民の心の中に、希望さえあれば必ず前へ行けるという気持ちを植えつけて、引っ張っていかないといけない。一人ずつが自分の心の中に、希望さえあれば必ず前へ行けるということを自覚する。そして教育は世界を視野に入れた、希望のある教育をしてもらわないといけないと私は思っています。
日本の技術力とか日本人の人間性は信頼されていますからね。そのことを含めて、信用されている日本のあらゆるものを総合的に使って引っ張っていくのは「誰か?」ということですね。


宮田:三井住友フィナンシャルグループの各社で、休暇をとってボランティアに行きたい従業員がいれば、それができるようなサポートづくり、働きながら介護しなければならない従業員がいればそれを可能にする制度づくりを是非やっていきたいと思います。
 また、やっぱり社会的に大きな貢献ができるようなパワーを持った企業集団、つまり複合金融グループとしての力を結集して、どういうふうなことが働きかけられるのか。「自分はそういう仕事の一翼を担っているのだ」というのが従業員の生きがい、やりがいにつながるような、そんな企業を作っていきたいと思います。


國部:三井住友銀行も同じです。従業員が目を輝かせて働ける、活力のあふれる銀行にしていきたいと思っております。安藤先生をはじめ、さまざまな方々からいろいろなご指導をお願いできればと思っています。



(聞き手)日本総合研究所 理事 足達 英一郎





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