「店舗戦略」

顧客体験の最大化を目指して店舗を改革。未来を見つめて「変わる」ものと「変わらない」価値を

2021.12.29

三井住友銀行 チャネル戦略部 副部長 三宅信彦
三井住友銀行 チャネル戦略部 チャネル開発グループ 上席部長代理 野路崇史
三井住友銀行 チャネル戦略部 企画グループ 吉久真悠子

急速なデジタル化によるお客さまの多様化するニーズを捉え、三井住友銀行では2017年から「店舗改革」を推進してきました。店舗を「事務手続きの場からコンサルティングの場」へと再定義し、2020年には約430店の「次世代型店舗」への移行が完了しています。

2022年現在も「店舗改革」は継続中。店舗機能を見直し、キャッシュレス・予約制・グループ共同店舗など先進的な取組にチャレンジしています。今回は当プロジェクトを主導してきた、チャネル戦略部の三宅信彦、チャネル開発グループの野路崇史、企画グループの吉久真悠子が登場。改革に込めた想いから、コンサルティング強化の背景、未来の店舗の在り方まで、クロストークでお届けします。

INDEX

  1. 1. 進展するデジタル化と対面相談のニーズ。双方に応えるべく、店舗改革をスタート
  2. 2. ネットワークを見直し、個人専用店舗とフルサービス店舗に分けて役割を明確に。コンサルティング機能を強化
  3. 3. グループが連携し、顧客体験を最大化。お客さまの人生に寄り添う、コンサルティングスペースへ

進展するデジタル化と対面相談のニーズ。双方に応えるべく、店舗改革をスタート

店舗改革が企画された背景やきっかけを教えてください。

三宅 : 近年、デジタル化が急速に進展し、それに伴うお客さまのニーズが多様化したことがきっかけです。日常的なお取引はインターネットやスマートフォン、ATMを利用される方が増えて、来店数は10年間で大きく減少しました。そんな中、銀行の店舗はレイアウトも含めて、30年以上も変わっていないというのが当時の現状でした。一方、海外に目を向けると、デジタル社会に対応したスマートな店舗へと進化しており、海外視察でその差を大いに実感しました。

野路 : デジタル化へ完全にシフトしたとしても、一方では対面を希望されるお客さまもいらっしゃいます。「デジタル」と「対面」という両方のニーズに応えるという命題がありました。

店舗改革のコンセプトとこれまでの歩みを教えてください。

三宅 : 2015年に、「店頭を事務手続きの場から、コンサルティングの場に変える」を旗印にプロジェクトチームが立ち上がりました。私は当初からのメンバーですが、海外の銀行の先進事例を視察し参考にしたうえで、まずは店舗の課題整理に着手、5年後、10年後の店舗の在り方を検討しました。

  • ※事務手続き:口座開設や入出金、住所変更などの手続きのこと。

2017年に本格的な店舗改革がスタート。「お客さまへのサービス提供の仕方を変える」「事務プロセスを変える」「店舗の在り方を変える」という3つのコンセプトを掲げて、次世代店舗戦略に取り組みました。

三井住友銀行 チャネル戦略部 副部長 三宅信彦

野路 : 実際に店頭でお客さまにデジタルチャネルの利用をご案内しながら、行内ではリモート化・ペーパーレス化を推進し、主要な事務作業を大規模センターに集約するという体制の変革を図りました。これにより、かつては店舗において大きなスペースを割いていた銀行員の事務スペースを縮小することができ、お客さまスペースを従来の1/3から2/3に拡大。資産運用などの相談にいらっしゃったお客さまが、ゆったりとご利用いただける店舗へと変えることができました。

三宅 : 店舗改革のフラッグシップとなったのが2017年4月にGINZA SIXに移転オープンした銀座支店。次世代型店舗のシンボルとして、ロビーではコンシェルジュがお迎えし、事務手続きのためのタブレットを配置。ペーパーレスの窓口やアイランド型のブース、個室でじっくりと相談できるプレミアムゾーンを設けるなど、お客さま目線でレイアウトやデザインを一新しました。この銀座支店を手始めに、3年間で約430店全店を改装・移転し、国内のすべての有人店舗を「次世代型」へ変更しました。

改革を通して苦労した点を教えてください。

野路 : 多岐にわたる部署と連携して進めたので、各部署との調整が難しかったところでしょうか。30年間変わっていなかったものを変えていく、という大胆な提案は、さまざまな議論となり、変化を起こすことの大変さを痛感しました。

しかし、この改革は何のためにやるのかと議論を突き詰めると「お客さまのために」となり、みんなが納得する。それはまさに三井住友銀行の行員の中に同じ気持ちがあるからだと感じています。

次世代型店舗への移行後に、お客さまからどのような声がありましたか?

吉久 : お客さまへのアンケートから、「広くなった」「個室で相談しやすい」「きれいになった」「利用しやすくなった」といった変化に対する前向きな声をいただいています。行員からは「お客さまとの距離が近くなった、面談に集中できる」という声が多かったですね。お客さまと接している現場の声にしっかりと耳を傾け、それを施策に反映させるといったスピードの速さも三井住友銀行ならではだと思います。

SMBCの店舗改革1

第一次改革の3つのコンセプト

  1. ・お客さまへのサービス提供の仕方を変える
  2. ・事務プロセスを変える
  3. ・店舗の在り方を変える

次世代型店舗の導入

  • ●改革前の店舗イメージ
    長いカウンターで仕切られた向こうに窓口担当者、その背後の机が2、3列並んだ場所に事務スタッフがいる。カウンターの横にはパーティションで仕切られた相談ブース。
  • ●改革後の店舗イメージ
    後方の事務セクションを大規模センターに集約し、お客さまのスペースを拡大。窓口には納税などにも対応した高機能ATM、広いロビーにはタブレットでお手続きいただけるスペースやオープンな相談ブースが配置されている。さらに、プレミアムゾーンと称するコンサルティングのための個室スペースを配備。

改革前後の店舗イメージ ピンチで拡大

ネットワークを見直し、個人専用店舗とフルサービス店舗に分けて役割を明確に。コンサルティング機能を強化

現在はどのような店舗改革に取り組んでいるのですか?

三宅 : 2020年度以降は全店一律でサービスを提供してきた店舗機能を見直し、個人のお客さまのご相談に特化した「個人専用店舗」と、従来通りすべてのサービスを提供する「フルサービス店舗」に分けました。個人専用店舗は住宅街を中心に約250店、従来通りのフルサービス店舗はターミナル駅を中心に約100店あります。

店舗を変えるだけではなく、店頭のオペレーションも変革しています。受付ではコンシェルジュがお迎えし、まずご用件をお伺いします。コンシェルジュは手続きやスタッフの戦力を熟知しているので、適切な窓口へご案内し、込み入ったご用件のあるお客さまは簡易応接に腰かけていただいて、ゆっくりとお話を伺います。そのうえで、ご相談がある方は個室へご案内するなど、お客さまに寄り添う店づくりを目指しました。

コンサルティングに注力する背景とSMBCの改革の強みを教えてください。

野路 : コンサルティングを重視しているのは、資産運用や金融ニーズが高まり、SMBCグループとして総合金融サービスをお客さまに提供することでニーズにお応えできる分野だからということです。「家族には話しにくいお金の話も銀行員には相談しやすい」というお客さまも多くいらっしゃるため、そこにコンサルティングをやる意義があると感じています。

一般的に効率化を求めると店舗削減といった方向に進みますが、三井住友銀行では、店舗は「顧客体験を提供する重要な場」と捉えています。既存店の生産性向上を図りながら、当行のファンを増やすため、これまで出店がない地域、今後の市場の成長が見込まれる地域などに、2017年度以降、すでに11ヵ店出店し、2021年度も武蔵小山支店がオープンしました。引き続きマーケットの変化に応じて新規出店を継続していきます。また、お客さまのニーズの変化を捉え、実験的な店舗の出店や、SMBC日興証券(以下、日興証券)、SMBC信託銀行プレスティア(以下、プレスティア)とのグループ共同店舗などにも取り組んでおり、当行ならではの試みです。

三井住友銀行 チャネル戦略部 チャネル開発グループ
 上席部長代理 野路崇史

現在の店舗改革で象徴的な取組を教えて下さい。

野路 : 昨今、現金を使わないシーンも増えているので、キャッシュレス店舗を出店しました。一号店は東京・汐留で、そのほか東京・大手町、大阪・梅田と都心のオフィス街に3店舗を展開しています。

三宅 : 2つ目は予約専用の店舗です。シンボル店の麻布十番支店は完全予約制ですが、実は予約システム自体は、すでに全店に導入されています。もちろん麻布十番支店以外の店舗については「予約必須」ではなく予約することもできるといった形です。

野路 : 銀行は待つ所というイメージが強いので、ご予約いただいて、待つストレスをなくしたい、というのがそもそものコンセプトです。好きな時間に来ていただいて、時間も30分、1時間と長めに取っていますのでゆっくりお話ができます。お客さまに快適にご利用いただくためのトライアルとして麻布十番支店があります。2018年の出店以降、予約サービスは全店的にも認知が広まってきましたが、最終的には「銀行は予約していくもの」「待たない場所」を目指したいですね。

三宅 : 3つ目は日興証券やプレスティアとのグループ共同店舗です。お客さまの多様化するニーズに対し、銀行・証券・信託のサービスをワンストップでご提供できるメリットがあります。すでに新宿支店をはじめ30以上の店舗で実現していますが、今後も、グループベースでのチャネル連携、ブランド発信は強めていきたいですね。

その他の新しい試みはありますか?

吉久 : 例えば、店舗をご利用いただくお客さまの利便性向上という観点で「営業時間」を工夫する取組も行っています。一般的に銀行の営業時間は平日の9:00~15:00ですが、働いているとその時間内に来るのはなかなか難しいと思います。そこで、オフィス街を中心に19:00まで営業している店舗や土曜・日曜も営業している店舗などを展開しています。今後もインフラや営業時間などさまざまな観点から、お客さまのニーズに応えていきたいです。

三井住友銀行 チャネル戦略部 企画グループ 吉久真悠子

SMBCの店舗改革2

3つのシンボル店

  • ●キャッシュレス店舗(汐留出張所)
    ビジネスパーソンに向けて、デジタル取引に特化。ロビー全体がフリースペースで19時まで営業。無料のWi-Fiも提供している。

    キャッシュレス店舗(汐留出張所)

  • ●予約制店舗(麻布十番支店)
    新規出店で完全予約制を打ち出した店舗。各個室にコンセプトがあり、落ち着いた内装デザインを採用している。

    予約制店舗(麻布十番支店)

  • ●グループ共同店舗(渋谷駅前支店)
    日興証券、プレスティアとロビーや応接スペースを共用。住所変更などの手続きや資産運用のご相談をワンストップでサービス提供している。

    グループ共同店舗(渋谷駅前支店)

グループが連携し、顧客体験を最大化。お客さまの人生に寄り添う、コンサルティングスペースへ

今後、三井住友銀行の店舗は、どのように変わっていきますか?

吉久 : お客さまと銀行との日常の接点はデジタルが中心になってきていますが、店舗は、これまで以上にお客さまが気軽に相談できる「場」にしていきたいと思います。例えば、ネットで名義変更の手続きを予約された方に、来店前にお忘れものが無いか確認の電話をしたり、お客さま情報をもとにニーズを想定して事前準備を行い、来店の際には、手続きだけでなく、ご提案させていただく。こういった動きが増えています。デジタルと店舗をうまく活用いただくことで、お客さまと銀行員がより深い繋がりを持てる場になっていくのではないでしょうか。

野路 : 今後、店舗は事務受付の場所から、お客さまの人生に寄り添うコンサルティングスペースへ変わっていくと思います。人生100年時代と言われる中で、結婚や退職、相続など、ライフステージが変わったときに、一番の相談相手がいる場所ですね。まだ、お客さまにとって、銀行は手続きの場というイメージではないでしょうか。この店舗のイメージを、使命感をもって変えて行きたい。今後も店舗改革の取組を、現場と一緒になって続けていきます。

三井住友銀行の店舗戦略の展望を聞かせてください。

三宅 : コロナ禍の影響もあり、デジタル化の浸透など、顧客行動は大きく変化、ニーズも多様化しています。また、ネット証券の台頭など、他行他社との競争環境も変化しており、その動向をしっかりと捉えた戦略を立てていく必要があります。
日常の接点であるスマホアプリやWeb相談ができるリモートチャネルと、変わらないリアルの価値を提供する店舗とが一体になってお客さまのニーズに応えていく、新しい形を目指していきます。
また、三井住友銀行だけでなく、日興証券やプレスティア、三井住友カードなどのグループ各社と連携して多様なニーズに応えることで、さらに価値提供を高めていけると思います。グループベースのチャネル全体で、顧客体験の最大化を実現することがミッションだと考えています。

  • ※ 2021年11月取材時の情報です。今後、内容が変更されることもありますのでご留意ください。