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【オルツ社×SMBCベンチャーキャピタル】急成長を遂げるパーソナルAI開発企業・オルツ社。成長の要因と描く未来とは

個人の特性を反映したAIによるデジタルクローンの開発や、会議の発言をリアルタイムに文字起こしする「AI GIJIROKU」のサービスを提供する株式会社オルツ。同社が掲げる「ラボーロからオペラへ」というビジョンには、AIの発展により人類は労働(Lavoro)から解放され、アーティスティックな営み(Opera)に没頭できるようになるという未来予想が込められています。

そんなオルツ社の可能性を早くから見出し、2016年より累計3度の出資等の支援を行なっているのが、SMBCグループのSMBCベンチャーキャピタルです。世界でも類を見ないディープテック企業の発展に、金融系ベンチャーキャピタルがどう関わってきたのか。株式会社オルツの代表取締役を務める米倉 千貴氏と、SMBCベンチャーキャピタル株式会社の安田 純也氏に、さまざまな角度からお話を伺いました。

AIの時代に残るのは「人がやることに価値のある仕事」

米倉さんがAIに興味を持ったきっかけを教えてください。

米倉私は常に、労力対効果の高い仕事をしたいと考えていて、インターネットの世界に飛び込んだのもそれが一つの理由です。当時はインターネットこそが労力対効果を最大化するだろうと考えていました。しかし、そこにも限界を感じて、AI領域に挑戦を決めました。

オルツ設立前の起業経験も含めて、中小企業が規模を拡大するときの最大のネックは、社長の業務時間が圧倒的に不足することです。それを解決するために、AIによる自動社長ボットを作って一部の業務代行を始めました。将来的には、現状私たちがやっている仕事の9割はAIに置き換わっていくと考えています。そこで残るのは「人がやることに価値のある仕事」だと思います。

それはデザインするとか、絵を描く、音楽を作るなどでしょうか?

米倉そうですね。それ以外にも、おもてなしなどのサービスもあるでしょう。同じおもてなしでも、人とロボットでは価値が変わりますよね。受け手の人が「人がやることに価値がある」と考える仕事は今後も残るでしょう。

9割の仕事がAIに置き換えられると聞くと多くの人は悲観的に受け取るかと思いますが、米倉さんはどうお考えですか?

米倉私はすごくポジティブなタイプなので、人が本当に価値のある仕事に集中できる社会はより豊かになっていくと考えています。AIに置き換えられる9割の仕事というのは、現状の経営者がコストダウンしたいと考えている仕事です。コストダウンではなく、できる限り高いバリューであることに意味がある仕事。そういった仕事が今後も残っていくでしょう。

AIを活用した事業について教えてください。

米倉研究の主体はパーソナライズ人工知能、「P.A.I(Personal Artificial Intelligence)」と呼んでいる技術です。これは利用者を丁寧に解析することで、その人らしさを導き出すことを目的にしています。Googleの音声認識では1,000人が話したら1,000人全員に同じ結果が返ってきます。私が話しても、他の人が話しても同じ。一方で私たちのサービスは、「この人の場合はこういうことを意味しているのではないか?」とAIが判断して、その人用にカスタマイズした結果を返すようになります。オルツが提供している「AI GIJIROKU」というサービスでは、話者の特性を分析してその人の意図に沿った議事録の作成を可能にしています。

音声認識のマーケットは20年ほど前から存在していますが、その規模は精度と直結しています。英語の音声認識精度は現在92%で世界全体での市場は2兆円となっていますが、対して、最難関の言語といわれている日本語の精度は85%程度です。この数%の差で、日本語の音声認識マーケットは英語に比べて4年ほど遅れている状況です。けれどもP.A.Iを導入することで、日本語の精度も5%~10%の向上が見込めます。これにより北米と同じ水準でビジネスを展開できるようになっています。

オルツ社に出資を決めた二つの理由

安田さんにお伺いします。最初にオルツ社の事業構想を聞いてどのような印象を持たれましたか?

安田初めて米倉社長にお会いしたのは2015年です。当時から、AIで人間のコピーをつくるということを口にされていて、それを聞いて純粋にワクワクしたこと、自分の想像の枠を大きく超えており、今でも鮮明に覚えています。世の中のためにも、これに賭けるんだという米倉社長の本気度がすごく伝わってきました。

ただ出資となると話は別です。本当にP.A.Iは実現できるのか、ビジネスとして成り立つのか。重視したのはその二点です。まず、P.A.Iの実現性についてはオルツ社のバックグラウンドになっている有識者、当時の人工知能学会の会長など専門家へのインタビューを重ねました。皆さん、具体的な実現の時期については意見が分かれるものの、オルツの高い技術力と自分たちのバックアップがあれば十分に実現できるだろうとのことでした。

では、P.A.Iはビジネスとして成立するのか。ヒアリングの結果、P.A.Iを直接ビジネス化するのではなく、その開発途中でたくさん出てくる要素技術、例えば音声認識の技術などをサービス化していくことで収益を生むことが可能だとわかりました。P.A.I自体が収益を生むにはまだ10年~20年とかかるかもしれません。けれども、要素技術のビジネス化は短期で実現可能という見込みがありました。そこで投資に至ったという形です。
初回投資以降はその後オルツの成長に合わせて二回の追加投資をさせていただきました。

米倉さんは銀行系のVCにどのような期待をお持ちでしたか?

米倉SMBCグループは金融のトップリードカンパニーであり、金融領域でP.A.Iを活用するための豊かな土壌を持っています。P.A.Iを進化させた上で、金融領域でいかにしてP.A.Iを浸透させていくか、ともにチャレンジできることを期待しています。また投資だけでなく多くの企業をご紹介いただいており、安田さんとはP.A.Iとオルツの可能性についてさまざまな議論もさせてもらっています。さらに、AIへの理解がまだ薄かった7年前から私たちの構想をご理解いただき、同じ水準で物事を考えてくれています。安田さんの存在がなければ、今のオルツはなかったと感じています。

面接、買い物、教育……、AIが切り拓く未来

米倉さんは過去のインタビューで、面接はすべてAIで代替可能とお話をされていましたが、AIが持つさまざまな可能性について教えてください。

米倉おそらく、私はこれまで1万人以上と面接してきたかと思いますが、最初の質問はこれで、こう答えたらこの質問をしようという具合に、すべてパターン認識が可能です。いずれは買い物もAIに任せられるでしょうね。普段の買い物も、パターン認識で代行が可能だと考えています。人によって「ここのお店でこれを買いたい」などのニーズは異なりますが、それもパーソナルデータがあれば個人の特性を読み取ってその人にマッチした買い物ができるでしょう。
AIならデータを活用してその人に合った最高の買い物を提供できるはずです。

顧客の好みをすべて把握して、その人に合った商品をレコメンドしてくれるデパートの外商サービスに近い印象を持ちました。

米倉そうですね。その話の発展になりますが、教育にもAI活用の余地があります。私が作りたいのは、自身の成長を促してくれるAIティーチャーです。どんな勉強をして、どんな方向に才能を伸ばしていくべきか。社会的なデータと組み合わせてそれらを判断できるAIティーチャーは実現可能だと思っています。

AIの精度を上げるまでの苦労について教えてください。

米倉これはディープテック企業の宿命といえるかもしれませんが、研究が進んでも市場での評価が上がらないということです。オルツは世界トップの学会でも採択された技術を持っていますが、実質的な売上には直結していません。そのため、金融市場でもユーザー市場でも目に見える形にはなりにくいので、評価も低い状態です。その中で、どのように研究を進めながら事業化していくのか。そこが最大の苦労です。

創業してから今までの事業の進捗、成長速度は、当初の予定と比べてどうでしょうか?

米倉まだまだ遅いですね。感覚的には今よりも5倍速くできたと思っていますし、世界と勝負していくには今の成長速度の少なくとも5倍は必要と考えています。私たちの技術は日本国内に限ったものではなく、世界で勝負できると思っていますが、そのためにも会社の持つポテンシャルを引き上げていく必要を感じています。

大企業に有利に活用されているAIを、個人の味方に

安田さんは今後のオルツにどのようなことを期待していますか?

安田やはり「ラボーロからオペラへ」というビジョンを貫き続けてほしいですね。グローバルで見てもオルツのような会社はないと思いますし、P.A.Iが実現できれば人類の歴史が変わるほどのインパクトがあります。オルツという会社はそこを本気で目指してますし、そのポテンシャルも十分にあります。私たちも出資という形で関わらせてもらい本当に嬉しく感じており、その成長を少しでもサポートできればと思っています。

今、AIを最も活用しているのはGAFAM(グーグル[の持ち株会社アルファベット]、アップル、メタ[フェイスブック]、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)のような大企業です。例えばAmazonで買い物をしたときにレコメンドの商品が表示されますが、ユーザーだけでなくAmazonという企業にとっても最適化されたAIであり、私たちが本当に買いたい商品ではなく、なかにはAmazonにとって最も買って欲しい商品がレコメンドされるケースもあります。
対してオルツがやっていることは、AIを消費者にとって最適化させることです。大企業が持つAIに誘導されないよう、自分の代理人、エージェントとして機能するAIですね。AIを個人の味方にするという動きは、世界的に見ても不可欠になってくると思っています。

オルツ社の今後の展望を教えてください。

米倉現在、IPOマーケットは低迷していますが、市場の状況に左右されない確固たる成長基盤を持ち続けたいと思います。

さらにAIによる音声認識のパーソナライゼーションの研究に力を入れていきます。シンプルな構成の英語と異なり、日本語は同音異義語も多く、コンテクスト(文脈)に沿った理解が求められる言語です。その日本語でパーソナライゼーションができれば、世界に先行できると思っています。今後は日本を代表するディープテック企業として、海外マーケットも含めて私たちのバリューを証明していくことにもチャレンジしていきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社オルツ 代表取締役

    米倉 千貴氏

    株式会社オルツ代表取締役。2001年株式会社メディアドゥ取締役に就任。2004年に独立。
    2014年株式会社未来少年を年商15億円まで成長させた後に全事業を売却。同年11月に株式会社オルツ創業。

  • SMBCベンチャーキャピタル株式会社

    安田 純也氏

    2006年三井住友銀行入行、2007年より企業調査部にて主にTMTセクターのアナリスト業務従事。2013年SMBCベンチャーキャピタルへ参画、主にITセクター領域を中心とした投資を行っている。
    主な投資実績(IPO) JTOWER、BASE、クリーマ、GMOフィナンシャルゲート、ハウテレビジョン、エアークローゼット

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。