導入事例
new
更新

切削工具トップシェア企業「オーエスジー」がDXで挑む脱炭素経営の実現

ドリルなどの切削工具で世界的なシェアを誇るオーエスジー株式会社。2022年には新中期経営計画「Beyond the Limit2024」を策定し、カーボンニュートラル時代に向けたESG経営を加速させています。

取り組みの一環として導入を決めたのが、三井住友銀行が2022年5月から提供を開始している、企業の温室効果ガス排出量(GHG)の可視化クラウドサービス「Sustana(サスタナ)」です。同社はなぜ 、ESG経営の推進が必要だと感じているのか。またSustanaの導入はカーボンニュートラルの実現にどのように役立つのか。代表取締役社長 大沢 伸朗氏に、ESG経営およびカーボンニュートラル実現にかける想いを伺いました。

2022年度からの新中期経営計画で、本格的なESG経営に着手

御社は世界トップシェアの切削工具を多数手がけていらっしゃいます。あらためて御社の事業内容、製品についてお教えください。

弊社が創業以来手がけている代表的な切削工具に、「タップ」という雌ネジを切るための工具があります。その他にも、穴を開けるための「ドリル」、金属を削るための「エンドミル」と呼ばれる工具が主力製品です。タップの世界シェアはナンバー1で、ドリルとエンドミルも非常に高いシェアを占めています。

オーエスジー主力製品

Sustana導入以前は具体的にどのような環境施策を行ってきたのでしょうか?

我々は金属に穴を開けたり、金属を削ったりする品を多数製造しているため、切削クズも大量に排出されます。そういった事実から、環境にも配慮をしなければいけないという気運が、ここ数年で私も含めた経営陣をはじめとする社の中で高まってきました。

その流れを受けて2022年度よりスタートさせたのが、新中期経営計画の「Beyond the Limit2024」です。我々の主要顧客である自動車産業をはじめ、あらゆる産業がカーボンニュートラルへの取り組みを進めていく現状に弊社も危機感を持っていました。約10年後にものづくり産業の中で弊社がより良いポジショニングを取るためにはどうすればいいのか。そこを基点に中期経営計画を策定しています。

具体的にどのようなことを行っているかといいますと、まずはCO2排出量の削減です。ものづくりに必要な電力を省エネ化し、CO2フリー電力への切り替えを順次進めています。また、弊社の敷地外に太陽光パネルの発電所をつくる「オフサイトPPA(※1)」と、工場の屋根等に太陽光パネルを設置する「オンサイトPPA(※2)」も導入を進めています。また実際の切削工具の製造についても、自動車産業や航空機産業などに向けた特殊品だけではなく、販売店の流通も含めた標準品の割合を増加していくことで、工場の生産稼働の効率を上げ、消費電力の軽減にも繋げていきます。

(※1)電力を必要とする場所の敷地外に発電設備を置き、電力を需要場所に供給するモデル。
(※2)電力を必要とする場所の敷地内に発電設備を置き、電力を自家消費するモデル。

オーエスジー株式会社 代表取締役社長 大沢 伸朗氏

サプライチェーン全体のCO2排出量もSustanaで算定

今回、Sustanaを導入した理由について教えてください。

CO2の排出量の算定にはスコープ1からスコープ3(※3)までの3つの区分があります。スコープ1とスコープ2はある程度自社で算定できますが、課題となるのがスコープ3です。上流も下流も含めたサプライチェーン全体でのCO2排出量の算定が必要なため、どう取り組みを進めていけばいいのかを思案していたところ、三井住友銀行さんからSustanaのお話をいただきました。Sustanaにはスコープ1からスコープ3まで算定可能な計算式や最新の係数データベースが搭載されており、当社はエネルギー使用量など活動データを入力するだけで効率的に算定ができるようになります。また、将来的に弊社の拠点がある33カ国のデータも集約し、弊社全体でのCO2排出量の把握ができるようになると考え、導入を決めました。

(※3)スコープ1は事業者が直接排出するCO2、スコープ2は他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴い間接的に排出されるCO2を指す。スコープ3はそれ以外で間接的に排出されるCO2(事業者の活動に関連したサプライチェーン上のCO2排出)のこと。

Sustanaについて

スコープ3はサプライチェーン全体のCO2排出量を算定することが必要ですが、御社のサプライチェーンにはどのような企業が含まれ、どういったときにCO2が排出されるのでしょうか?

サプライチェーン全体を上流と下流に分けると、上流部分は主に原材料メーカーになります。弊社は「特殊鋼」や「超硬」という少し特別な金属を材料に使いますが、それらの材料の製造および輸送時にCO2が排出されます。下流は実際に弊社の工具を使っていただいている企業ですから、より裾野が広くなります。比率が大きいのは自動車産業や航空機産業です。そこで実際に弊社の製品を使って行われる加工や製造において排出されるCO2が、スコープ3に含まれます。そして、使えなくなった工具を廃棄する際にもCO2は排出されます。

ESGを推進しない企業は、消費者に選ばれなくなっていく

2022年からカーボンニュートラルに向けた取り組みを中期経営計画に盛り込んでいらっしゃいますが、社内からはどんな反応がありましたか?

社内では数年前からSDGsやESGに関連する取り組みを進めていましたが、今回発表した中期経営計画では冒頭でESG経営の推進について明記していますし、私自身、具体的な旗振りをしたことで社内全体の士気も高まったと思います。

CO2削減の取り組みについては、やはり経営トップが果たす役割は大きいのでしょうか?

大きいと思います。CO2の削減だけではなくて、SDGsやESGに取り組むということは、経済面から考えるとまずコストがかかります。当然、企業としては利益を出す必要があるため、そことのバランスの問題が出てきます。経営者がどのように考え、どう行動するのか。そこが一番重要な点でしょう。例えば、CO2フリーの電力を導入するといっても、現状ではCO2を多く排出する火力発電による電力のほうが安く調達できます。最近は原油のコスト、天然ガスのコストともに上昇していますが、それでもCO2フリー電力のほうが若干割高なので原価にも響いてきます。そういう意味ではやはり経営者の判断は重要だと考えています。

オーエスジー株式会社 代表取締役社長 大沢 伸朗氏

お題目としてのSDGsやESGではなく、そこに取り組むことでどう収益を増やすかという視点も必要なわけですね。

SDGsを意識したり、ESG経営を推進したりすることによって周囲からどういった評価をされるのかも重要なポイントです。その点は非財務的項目になってしまいがちなので、現時点ではESGやSDGsを推進しただけで直接的な利益には繋がりません。ただ、将来的にはそれらの取り組みを一生懸命やっている企業は世界的にも評価され、消費者からもそういった企業の製品やサービスは受け入れられるようになるでしょう。

当社の製品はBtoBなので一般消費者と接する機会は少ないのですが、将来的にはESG関連の取り組みをしない企業は消費者に選ばれなくなってくるでしょうし、金融機関も融資をしなくなるかもしれません。

算定精度の向上とカーボンニュートラル実現へ

今後、Sustanaを本格的に運用していくことでどのような効果を期待していますか?

弊社はこれまで国内のスコープ1,2の算定を行ってきましたが、今後スコープ3を含めた算定範囲の拡大や算定精度を向上させていく為には、Sustanaのような効率的なデータ収集および算定ができる仕組みを活用する必要があります。弊社は海外33か国に70ほどの拠点がありますので、海外拠点も含めたグローバル全体でのCO2排出量の算定管理も想定しています。三井住友銀行さんにもお力添えをいただきながら、随時運用をしていきたいと考えています。また、算定結果を踏まえた削減施策に関するアドバイスや、カーボンニュートラル実現に向けた情報提供等、各種サポートに期待しています。新中期経営計画では「2030年度までにスコープ3の算定と評価を行う」と表明していますので、その実現を目指していく上でSustanaを活用していきます。

今後のSDGsやESGに関連する取り組みの展望を教えてください。

弊社はこれまでCO2の削減以外にもSDGsやESGの取り組みを進めてきました。その取り組みが評価され、イギリスのFTSE Russellが算出する ESGインデックス「Blossom Japan Sector Relative Index(※4)」の構成銘柄に選出されています。

(※4)FTSE Russellにより構築されているESG指数。ESG評価の高い日本企業で構成されている。

さらに冒頭でも述べたように、オンサイトPPAとオフサイトPPAも積極的に導入しています。今後どのような取り組みを推進するかを宣言していくことはもちろんのこと、既に行動している部分があることも重要だと考えています。自社の敷地内に太陽光発電を導入するオンサイトPPAは弊社以外にも多くの企業が推進していますが、敷地外に発電設備を導入するオフサイトPPAはそれほど普及していません。このオフサイトPPAの導入計画を推し進めてまいります。

NEO新城工場
太陽光発電所 完成イメージ

今後も業界における先駆者として、カーボンニュートラル実現への取り組みはもちろん、SDGsとESGを標榜した経営に取り組んでまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • オーエスジー株式会社 代表取締役社長

    大沢 伸朗氏

    1991 年 4月 オーエスジー販売(株)入社
    1997 年 11月 OSG UK Limited 取締役
    2003 年 10月 OSG UK Limited 代表取締役(現任)
    2004 年 12月 OSG Europe S.A. 代表取締役社長
    2006 年 2月 執行役員欧州統括担当
    2010 年 2月 常務取締役
    2011 年 12月 南アジア統括担当
    2013 年 12月 国内営業担当(現任)
    2014 年 1月 OSG Europe S.A. 代表取締役会長
    2018 年 2月 常務執行役員
    2019 年 2月 取締役専務執行役員
    2021 年 2月 代表取締役社長兼COO(現任)

この記事でご紹介したサービス
ESG
(Eivironment, Social, Governance)

類義語:

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指す。

カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。

GHG
(Greenhouse Gas)

類義語:

  • 温室効果ガス

Greenhouse Gasの略称であり、地球の温暖化現象を引き起こす気体のこと。 大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、地球表面の温度は上昇するため、地球温暖化の主な原因とされている。