業界にイノベーションを起こすリーダーの考え方 SMBCグループ磯和啓雄氏×GENDA申真衣氏
今企業に求められているのは、過去の成功体験にとらわれずに挑戦を続ける変革力だ。イノベーションの必要性はわかっていても実現には至らず、足踏みしている企業が多い中、リーダーに求められるものとは何だろうか?これまでさまざまな変革を起こしてきた三井住友フィナンシャルグループ(以下、グループを総称し、「SMBCグループ」)執行役専務 グループCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)磯和 啓雄氏と、GENDAの代表取締役社長 申 真衣氏が、イノベーションを生む組織のつくり方について語り合った。
「常識を超えて新しさを取り入れる」雰囲気が大事
両社が業界でイノベーションを起こしている背景には、どんなポイントがあるのでしょうか?
磯和金融業界の、お金を貸したり預かったりする機能は今後も残ると思いますが、この機能を誰が提供するかは変化しつつあります。SMBCグループには、このまま同じビジネスを続けることへの危機感が強くあるため、業界の領域を超えた非金融領域も含めて幅広い新規事業に挑戦しています。この姿勢がグループ全体に好影響を与え、イノベーションを推進するキーになっていると思います。
申ゲームセンターなどアミューズメント施設の開発・運営を手がけている当社グループでは、業界に変革を起こしているというよりは、成長中の市場をよりよくするための取り組みを展開しています。その中で変革者と感じていただいているとすれば、純粋持株会社であるGENDAで優秀なエンジニアを採用し、各グループ企業が展開するサービスのDX化をほぼ社内で実行できる強い組織を実現しているからだと思います。
具体的にどんなイノベーションを、どのように起こしていますか?
磯和SMBCグループは積極的に他社と協業し新規事業を生み出しています。電子契約サービスの「SMBCクラウドサイン」、組織力向上デジタルプラットフォーム「SMBC Wevox」など、非金融領域におけるデジタル子会社を、これまで10社以上立ち上げました。
こうした新しいことへのチャレンジをすれば、もちろん衝突も起きます。それでも形にできたのは、月に1度開催している「CDIOミーティング」があるからです。デジタルのような領域の新規事業は、5年以内にROIがプラスになることはまれで、経営会議にかけても通りにくいという課題がありました。そこで、新規事業担当者が経営トップに直接プレゼンテーションする場として、CDIOミーティングを始めました。
事前の打ち合わせなしで、経営トップがその場で判断し予算を割り当てることで、スピーディーに大胆な投資ができる場として大きな役割を果たしています。いっさい根回しをしないので、前社長の故・太田純とも「これ、面白いからやりましょう」「何を言っているんだ」とよく議論したものです。
でも、経営陣が社員の前で本気で議論を戦わせるからこそ、社内に「言いたいことを言っていい」「金融機関の常識と違うことを提案してもいい」という雰囲気ができていったんだと思います。
申GENDAは、ゲームセンターをDXするために4年間取り組んできました。例えば、「GiGO」で使えるサブスクサービス「プライズパス」や、クーポン付きのアプリを通して顧客の来店頻度や遊び方などのデータを取得する「ID-POS」の導入などがそれに当たります。
従来のゲームセンタービジネスは、運営会社は誰がいつどのように遊んでいるかが把握できないことから「100円玉を数えるビジネス」といわれてきました。「ID-POS」がそれを一変させ、ゲーム機ではなく一人ひとりの顧客にひも付いたデータを取り、それに基づいた施設運営ができるようになりつつあります。
こうした施策が成功しているのは、優秀な人材を仲間に加えてこられたからだと思います。開発を他社に依頼すると、的確な要件定義に至りづらかったり、納期に時間がかかったりしてしまうケースがあると思います。GENDAは、レベルの高い技術を持った人材を社内にそろえているため、ゲームセンターの現場で働く人たちの声を聞きながら、会社として描いた理想像をスピーディーに実現できています。
リーダーは「ビジョンを示し、現場に権限を持たせる」
変革を起こす際に、リーダーとして気をつけていることはありますか?
磯和私は、会社が向かうべき方向、つまりビジョンを明確に示し、かつそれを発信し続けることを徹底しています。
SMBCグループではデジタル戦略の1つに「Beyond & Connect」という標語を打ち出しています。新しいことを始めたり、他社とつながったりすることで、摩擦が起きたり、サービスの強みが薄まったりすることもよくありますが、それはまったく問題ないと再三伝えています。ビジョンを明確にすることで、各自が自分で考えて行動できるようになりました。
申GENDAも、同じ考えです。リーダーに求められるのは、大きな目標を描いて示すことと、現場に権限を持たせること。みんなで大きな船に乗れば、それぞれの部署やチームが単体で動くより、もっとすばらしい成果を出し、すてきな世界を目指せます。
標語を掲げる重要性も、強く感じています。GENDAには「Speed is King」「GRIT and GRIT」「Enjoy our Journey」という3つのバリューがあります。これを指針として言い続けてきたからこそ、現場が迷わずに仕事に取り組める面があります。
一方で、なるべく現場に権限を与えることも意識しています。今は変化の激しい時代ですから、必ずしも上長が解を持っているとは限りません。まず現場がトライして、その結果を見ながら軌道修正しアジャストしていく方法が、結果的に早く成果を出せます。
日本企業に今必要なのは、どんな「変革」でしょうか?
磯和私はスタートアップのファイナンス担当をしていて、2023年の1年間で108社を訪問しました。そこで感じたのは、日本企業はもっとM&Aをして結び付くべきだということです。成長を目指すなら、1つのビジネスモデルを続けるだけでなく、自社を変革するという強い意思が不可欠です。
では、なぜM&Aが進まないのか。それは、日本企業はとてもまじめで、昨日と同じことを今日も明日もやり、それで満足する「経路依存」を引き起こしているからだと思います。だから、いいスタートアップがあっても、なかなかM&Aに進めないのではないでしょうか。経路依存のマインドが、日本経済の停滞につながっていることは否めません。
申GENDAも、創業からの6年間で28件(2024年5月末時点)のM&Aや資本取引を実行して、ここまで成長してきました。変革を起こす1つの手段として、M&Aは非常に有効だと思っています。M&Aによってシナジーが生まれ、効率性の向上やデジタル化への大規模な投資がかない、大きなインパクトを生み出せた手応えがあります。
アミューズメント業界は中小企業の多い業界ですが、スタートアップや中小企業は、大企業と異なる課題を持っていると思います。例えばDX。中小企業がDXに向けてバラバラと投資をするのは、社会全体から見ると非効率です。M&Aなどを経て数社がまとまったほうが、投資の余力が生まれ、次のステージに向かいやすくなります。
変革者としての自分をつくった「原体験」
最後に、変革者としてのご自身をつくった原体験と、そこから学んだことを教えてください。
磯和私は、2015年に部長としてIT戦略室を立ち上げた経験が大きかったです。当時のIT戦略室は銀行員7人のみで、コードを書ける人材は1人もいませんでした。どう考えてもうまくいくはずがない状態だったので、外部のエンジニアを数十人呼び寄せ、最終的に70人の組織にしました。
そのときに邪魔となったのが、銀行に根付いていた古い慣習でした。しかしそうした固定観念の枠を超えて、当時の銀行業界では常識外れだった「私服勤務」を許可するなど、外部のエンジニアが働きやすい環境づくりを進めました。最初は社内から大反対されましたが、徐々に私の狙いが理解され、考えが広がっていきました。
あの頃も今も、銀行業界の常識にとらわれずいいものは取り入れ、現場が力を存分に発揮できる環境づくりを大事にしています。
申私は2007年に外資系金融に就職し、その後5年間で部署を4回異動しました。1つの部署で長年スキルを磨くケースが多い業界で、異色のキャリアだったと思います。
ただ、さまざまな部署を渡り歩いたことが結果的にプラスになりました。例えば、営業の経験を持って商品開発の部署に行けば、顧客のニーズをくみ取った商品開発ができます。
私がそこから学んだのは、変化を恐れる必要はないということ。失敗を怖がる人は多いですが、その中身は「挑戦して失敗したら、周りから笑われそうだ」という心配ではないでしょうか。人の評価ほど移ろいやすいものはありません。コロコロ変わるものを気にして萎縮するのはもったいない。
私はいい意味で人の言うことに耳を貸さず、リスクを取れたからこそ、GENDAの起業にも踏み切れました。今後も、周りから「普通じゃない」と思われたとしても、イノベーションを起こし続けていきたいなと思います。
磯和ビジネスも同じですね。誰もが「いい」と評価するものは、結局レッドオーシャンなので大きな成功にはなりません。むしろ、みんなが反対するものにこそ、新しい社会的な価値を生み出せるチャンスがあります。リーダーの皆さんは、反対されたらむしろ「これ、いけるな」と思って頑張ってほしいです。僕自身も、この姿勢で挑戦を続けていきたいですね。
出展元:「2024/6/28公開 東洋経済オンライン タイアップ広告より」
制作:東洋経済企画広告制作チーム
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三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
磯和 啓雄氏
1990年入行。法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ、デビットカードの発行やインターネットバンキングアプリのUX向上などに従事。その後、トランザクション・ビジネス本部長としてBank Pay・ことらなどオンライン決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進を牽引。
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GENDA 代表取締役社長
申 真衣氏
東京大学経済学部経済学科卒。2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2017年11月、マネージングディレクターに就任。2018年8月、株式会社GENDA取締役就任。2019年6月より現職。