CEOメッセージ

MESSAGE FROM THE GROUP CEO 疾風に立ち向かう 三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO 太田 純 MESSAGE FROM THE GROUP CEO 疾風に立ち向かう 三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO 太田 純

疾風に勁草を知る

 加速する少子化と人口減少、長年にわたる低成長に喘ぐ国内経済、マイナスとなり久しい政策金利、そして、昨年来続く新型コロナウイルス感染症の蔓延。我々のマザーマーケットである日本の金融セクターは今、厳しい逆境に直面しています。加えて、今後は金融と非金融とのアンバンドリング・リバンドリングが一段と進み、異業種や新興プレイヤーのプレゼンスも高まる中、預金、貸出、決済といった金融機能は残るとしても、我々のような旧来の金融機関が果たしてその機能を担い続けられるのか、保証は一切ありません。

 しかし、このような厳しい事業環境下においても私はなんら悲観しておらず、むしろ我々SMBCグループは、今後もグローバル金融機関として持続的に成長できると確信しています。

 まず大切なことは、どのような環境下でも成長の種は必ずあるということです。近年、BtoCの決済手段は現金からキャッシュレスへ、世界の自動車市場はガソリン車から電気自動車へ、そして自動運転へと、ニーズの変化や技術の進歩が急速に起きています。この根底には、デジタルシフトによる利便性向上やESGに対する社会的期待の高まりといった不可逆的なメガトレンドがあるため、今後もさらなる加速が予想されます。このような市場環境下では、旧来の業界地位や販売網は必ずしも強みとならず、むしろ負のレガシーやサンクコストを気にするがあまり、イノベーションの阻害要因ともなり得ます。代替需要のような新たなニーズを創出し、そこでプラットフォームを構築すれば、日本のような全体のパイが増えない市場においてもなお、持続的成長は十分に可能だと考えています。

 また、イノベーションによるテクノロジーの進化は、人類が新たな脅威に立ち向かう術をもたらしました。新型コロナウイルス感染症の蔓延が未だ中国の一部にとどまっていた2020年1月の段階で、世界の科学者は原因ウイルスを特定し、ゲノム配列を解析の上、インターネット上に公開。そして、1年も経たない間に有効なワクチンを開発し量産を始めました。ワクチンの普及を待つ間も行動制限によって感染拡大を抑えつつ、Web会議をはじめとするデジタルツールを駆使し、感染症の蔓延前と遜色ないレベルの企業活動を短期間の内に可能としました。過去のスペイン風邪やSARS等の新たな感染症との闘いにおいて人類は基本的に無力であり、感染者を隔離し人々の往来を制限した後は、蔓延が収まることをただ待つより他なかったことに比べれば、格段の進歩と言えます。新型コロナウイルス感染症は未だ世界中に甚大な影響を及ぼしており、一刻も早い収束を願うばかりですが、人類が英知を結集し、イノベーションによって感染拡大を抑制しつつ経済影響を最小限にとどめたことは、今回のコロナ禍で見た一筋の光だと考えています。

 疾風勁草しっぷうけいそう。厳しい疾風という逆境に直面した時にこそ、勁草として残る人や組織が際立つという中国・後漢書の言葉です。目下、SMBCグループのまわりには冒頭述べたさまざまな疾風が吹き荒れ、新たな試練にも直面し、組織としての真の強さが試されていると認識していますが、成長の種を見つけイノベーションを起こすことで、我々は今後も勁草として力強く生き残り、持続的な成長を実現できると信じています。なぜ私は自信に満ちているのか、順を追ってご説明します。

荒天下の船出

眼前の霧は消えて
進むべき道がはっきりと見え、
その先に差す光明までもが
見通せる状況になってきた

 現中期経営計画は、2020年春、新型コロナウイルス感染症による本邦初の緊急事態宣言が発令されている最中に公表しました。この未知なる感染症の影響が果たしてどこまで深刻化するのか、当時は全く見通せず、吹き荒れる疾風に加え、眼前には濃霧が重く立ち込める中での船出となりましたが、今日に至るまで、社員一丸となり日々工夫を重ねつつ業務に邁進してきました。

 まず、新型コロナウイルス感染症対応では、個人・法人のお客さまの日々の生活と事業を支える金融インフラとして、サービスを滞りなく提供し続けることを第一に掲げ、たとえば三井住友銀行では、十分な安全措置を講じつつすべての支店・ATMの営業を続けたほか、お客さまが外出せずともさまざまな取引ができるよう、各種オンラインサービスの充実を図ってきました。加えて、コロナ禍の影響を受けた国内外のお客さまに対し、ピーク時には計10兆円の与信を供与して資金繰りを支援し、グローバル金融機関としての社会的使命をしっかりと果たすべく努力を重ねてきました。

 業績面では、2020年度上期は営業活動や施策推進が停滞し不本意な進捗となりましたが、下期はオンラインツールも駆使しつつ営業を質・量ともに梃入れの上、各重点戦略への取組を加速しました。コロナ禍による消費低迷やグローバルな経済活動停滞の煽りを受け、コンシューマーファイナンス、航空機リース、アジアビジネス等が低調にとどまったものの、好調であった資産運用や海外証券ビジネス等で打ち返し、連結業務純益は2019年度並みで着地。加えて、各国の政策効果や流動性支援が奏功して信用コストは想定対比低水準にとどまり、ボトムラインは、本来の実力にこそ届かなかったものの、期初の想定を大幅に上回る水準で着地することができました。

 新型コロナウイルス感染症は未だ世界的に猛威を振るっていますが、ワクチンの接種が着実に進み、お客さまも我々もデジタル技術を駆使した企業活動に適応し、業績影響も相応の確度を持って把握できるようになってきました。引き続き荒天は続いていますが、中期経営計画開始時点とは異なり、眼前の霧は消えて進むべき道がはっきりと見え、その先に差す光明までもが見通せる状況になってきたと感じています。

進むべき道は不変

成長の種を見つけ
イノベーションを起こすことで、
我々は今後も勁草として力強く生き残り、
持続的な成長を実現できる

 今後、我々が進むべき航路は、ビジョンである「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」の実現に向けた第一歩として策定した現中期経営計画に他なりません。コロナ禍は、計画策定段階では織り込んでいなかった想定外の事象ではありますが、計画開始以来起きていることは、キャッシュレス化の加速、ESGに対する気運の高まり、地政学リスクの深刻化等、いずれも想定していた事象の時間軸とモメンタムが変化したのみと捉えており、中期経営計画の方向性は変えず、自信を持って前へ進んでいきたいと考えています。

 ただし、コロナ禍を経て我々の取り組むべき課題や加速すべき戦略がよりクリアになったことを踏まえ、戦略ごとにファインチューニングを柔軟かつ的確に行っていきます。

 たとえば、海外証券業務は、中期経営計画に基づく体制強化を進める前にマーケットへ追い風が吹いてしまい、業容に勝る競合他社は、買収後最高益となったSMBC日興証券を大きく上回る利益を上げました。キャッシュレスは、現金敬遠やオンラインショッピング拡大等から、利用者や加盟店の裾野が大きく広がっています。こうした事業領域では、中長期的な成長を見据え、中期経営計画における施策を一段と加速していきます。

 他方、コンシューマーファイナンス、航空機リース、アジアビジネス等は、2020年度は厳しい市況に晒されましたが、中長期的な成長見通しは変わっておらず、我々の強みや戦略的な重要性も不変です。国内消費やグローバルな経済活動の正常化による反動増を見据え、マーケットをプロアクティブに取り込み、反転攻勢を仕掛けていきます。

 新型コロナウイルス感染症による業績影響は、中期経営計画の最終年度である2022年度にも一定程度残ると想定していますが、上記施策の加速やコスト削減の徹底等によって十分に挽回できると考えています。中期経営計画における「実力ベースで7,000億円超」とのボトムライン目標も変えることなく、引き続き持続的な成長を目指していきます。

お客さまが進むその先へ

時々の環境が変化しても
「絶対に逃げない」ことを胸に、
将来のプラットフォームの芽を
探し続けてきました

 持続的な成長に向けて我々が進むべきは、これまでも申し上げてきた「3つの方向性」です。これは、我々が独りよがりに定めた針路ではなく、今後、お客さまや社会のニーズが変わっていくであろう未来を見据え、そこで我々が活かせる強みや果たせる役割とは何か、我々が対処できない課題は異業種のパートナーと組んで解決できないかと徹底的に考え抜いた結果、自ずと導き出された道筋です。

 1つ目が、情報産業化。情報やデータは、バランスシートに計上されない非常に価値の高い資産として、金融機関のみならずさまざまな業界がグローバルに利活用を目指しており、今後は、この目に見えない資産をいかにマネタイズするかが企業の勝敗を分ける鍵となります。

 2つ目が、プラットフォーマー化。我々は国内だけで4,300万人もの個人のお客さまと取引があり、三井住友銀行の貸出先は8万社あります。この強固な顧客基盤を活用すれば、我々は金融機能をベースに多様なサービスを展開するプラットフォーマーになることができます。

 3つ目が、ソリューションプロバイダー化。貸出や決済のような手段ありきではなく、お客さまがその資金調達や取引に至った動機や悩みを起点に、非金融ともオープンに連携しつつ、高度なソリューションを一体的に提供しなければ、お客さまに評価される付加価値は生まれません。

 これら3つの方向性は、独立したものではなく互いに密接に関連しています。中期経営計画で進めるさまざまな施策はこれに則したものですが、狙いを端的に示す事例を3つご紹介します。

広告ビジネス

 銀行、証券、コンシューマーファイナンス等の各ビジネスラインでは、莫大な決済・信用情報が日々蓄積されており、我々は、金融をベースとする一大プラットフォーマーと言えます。この金融データという強みを活かせるさまざまな新規事業を検討しており、2021年7月、金融ビッグデータを活用した広告・マーケティング事業を営む新会社「SMBCデジタルマーケティング」を設立しました。データ利活用の前提となる個人情報保護やセキュリティ確保を徹底の上で、我々のプラットフォームにおいてお客さまのニーズを分析し、一人ひとりに合わせた情報や広告を配信するサービスを提供することで、新たな付加価値の創出を目指していきます。

エルダービジネス

 超高齢社会を迎えた日本において、お客さまのニーズがますます多様化する中、金融業というカラを破って始めたビジネスが「SMBCエルダープログラム」です。高齢者の方々の悩みは、老後の生活資金のみならず、財産の相続、健康や介護、家事や防犯、あるいはご家族とのつながり等、多岐にわたります。こうした高齢者の方々のさまざまな悩みにワンストップで応えるため、金融機能を中心に据えつつも、家事代行やホームセキュリティのような我々が提供できないサービスは異業種・非金融と柔軟に連携し、さまざまなソリューションをトータルに提供するプラットフォームを作っていきます。

アジアのフランチャイズ拡大

 我々は「マルチフランチャイズ戦略」の下、アジアの新興国に第2・第3のSMBCグループを創るべく、10年・20年の計で取り組んでいます。アジア各国に新型コロナウイルス感染症の影響が拡大した後もその方針をぶらすことなく、私がこの戦略を策定した際に決めた3つのこと、すなわちフルラインの金融事業展開を目指すこと、地元経済に根差すローカライズされた企業になること、そして時々の環境が変化しても「絶対に逃げない」ことを胸に、将来のプラットフォームの芽を探し続けてきました。

 これまでの努力が結実し、先般、ベトナムの消費者金融最大手であるFE Credit社に対し49%の出資を決定しました。当社は、成長著しいベトナムの消費者金融市場において市場シェア50%という高い競争優位性と強固なリテール基盤を持ち、ROE20%超の高い収益性を維持しており、今後も資産規模・収益ともに力強い成長が期待されます。さらに、フィリピンでは、フランチャイズ獲得の足掛かりとして、地場中堅商業銀行であるRizal Commercial Banking Corporation社との資本業務提携に至ったほか、インドでは、国内全域に拠点網を有し、中小企業や個人向けに貸出を展開する優良ノンバンクであるFullerton India社を買収し、近い将来に世界一の人口になると見込まれる同国において、リテール金融の大きなプラットフォームを獲得しました。

 これらの地域では、従来、三井住友銀行の支店を通じて主に地場や日系の大企業にアプローチしてきましたが、一連のディールを通じて中堅・中小企業や成長著しいリテール市場へもカバレッジが広がり、すでにBTPNを買収しているインドネシアに続き、アジア新興国でのフルバンキング構築にまた一歩近付くことができました。

 今後もディシプリンの徹底を前提に、また、後程申し上げる株主還元強化ともしっかりとバランスを取りながら、持続的成長に向けて優良なインオーガニック案件を追求していきます。

緑の地球を
子孫に返すために

 脚本家の倉本聰氏が主宰し、我々が設立来支援を続けている富良野自然塾に、地球の歴史46億年を置き換えた460メートルの「地球の道」があります。現生人類の歴史は約20万年と言われていますが、この「地球の道」の中で、人類が生きてきた長さとはどのくらいになるのでしょうか。

 たった2センチメートルです。歴史の教科書では遥か遠い昔に感じた人類の起源も、地球から見れば、ほんの指先ほどの長さでしかありません。そして、地球の温暖化が本格的に始まった産業革命以降の約200年間とは、わずか0.02ミリメートルです。この「地球の道」は未来へと続いており、その先にある石碑には「地球は子孫から借りているもの」と記されています。とても良い言葉だと思います。サステナビリティの実現に向けては、現在の世代の誰もが経済的繁栄と幸福を享受できる社会を創るのはもちろんのこと、緑豊かな地球を借りたままの姿で子孫へ返すという、言わば至極当たり前のことを当たり前にやることが重要です。そして、文明の進化を享受してきた裏側で、わずか0.02ミリメートルの間に地球の温暖化を急速に進行させてしまったことを、私たち人類は真摯に受け止めなくてはなりません。

 この緑の地球を未来の子孫へと返していくために、我々は、気候変動対策の強化に向けた長期のロードマップを策定しました。まず、SMBCグループ自身が排出する温室効果ガスは、2030年までにネットゼロを実現します。また、グローバル金融機関として、お客さまの気候変動対応やトランジションを最大限サポートすべく、2030年までにサステナブルファイナンスを30兆円実行します。さらに、2050年までに我々のサプライチェーン全体でもカーボンニュートラルを実現することを目指し、まずは投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量把握に着手し、脱炭素化に向けてお客さまと対話を重ねていきます。しかし、こうしている間にも社会からの期待は日々高まっており、気候変動は、我々金融機関のみならずさまざまな業界にとってゲームチェンジャーとなり得るほどのマグニチュードを持つと捉えています。脱炭素化に向けた行程やアクションプランは今後も柔軟に見直しつつ、取組のさらなる高度化を追求していきます。

 一方、気候変動対策の強化に向けては、長期的な高みを追求し続けていくと同時に、足元に目を転じ、各セクターやお客さまの現状を冷静かつ客観的に分析して、今できる最良の方策を地に足つけて着実に進めていくことも重要です。グローバルにさまざまなセクターのお客さまとつながり、金融という経済の血液を供給する我々が急に誤った方向へ舵を切ってしまうと、エネルギーの安定供給に支障を来し得るほか、お客さまの脱炭素化に向けた技術開発を阻害してしまう懸念もあります。ステークホルダーの皆さまと丁寧に対話を重ねつつ、各産業への影響や、トランジション、イノベーションの動向を十分考慮した上で、脱炭素社会の構築に向けて、お客さまとともに一歩一歩前へ進んで行きます。

緑の地球を子孫に返すために

社員一人ひとりの
夢の実現に向けて

最も大切な経営資源は「人」です。
そして、社員にとって会社とは、
自分の人生を演じる大事な
舞台のひとつです

 金融グループの経営において、最も大切な経営資源は「人」です。そして、社員にとって会社とは、自分の人生を演じる大事な舞台のひとつです。社員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、より高く遠くへ跳べるだけの広いステージを整え、個々の魅力を最大限引き出す脚本を書くことは、CEOとしての重要な責務であると認識しています。

 昨今、特に若手社員の意識が大きく変化しており、自分の勤める会社が、社会に対しどのように貢献しているかをより重視する人が増えてきました。一人ひとりは実にさまざまなアイデアを持ち、新たな分野へ挑む気概に満ちています。私は、社長に就任して以来、「カラを、破ろう。」と呼び掛け、前例や固定観念に囚われず、新たな領域へ勇気を持って踏み出そうとする社員の背中を後押ししてきました。手を挙げた社員には、中堅・若手であっても経営資源を渡して社長になってもらっており、この「社長製造業」プロジェクトによってこれまで10社が立ち上がっています。この取組を通じ、社員には「やればできる」とモチベーションを高めてもらうとともに、今後はそれぞれの新会社が成長し、グループへの収益貢献やお客さまに対するサービスの高度化へとつながっていくことを期待しています。

 そして、この湧き出るイノベーションの泉を、さらに力強く、幅広く、持続的なものとするために、私は2つの取組を加速していきます。

 1つ目が、2020年に開始した社内SNS「みどりの広場(ミドりば)」です。三井住友銀行ではすでに2万人以上の社員が参加し、約6,000人の社員がアクティブユーザーとなって、日々さまざまなアイデアや情報を投稿しています。新たなビジネスアイデアに対して部署や年齢の分け隔てなく有益なアドバイスや建設的なコメントが投稿され、社員の挑戦をまわりが「いいね!」と応援する自発的なコミュニティが形成されています。いくつか実用化できそうな新しいビジネスのアイデアも出てきました。今後はこのプラットフォームを他のグループ会社にも拡大していく予定です。

 2つ目が、ダイバーシティ&インクルージョンです。未来へつながるイノベーションは、性別・年齢・国籍といった属性の多様な社員たちが、異業種ともオープンに連携しつつ、豊かな個性とさまざまな価値観を混ぜ合わせることから生まれます。SMBCグループは、際立つ個性を持つグループ会社から構成され、世界約40の国と地域で、多様性に富む10万人もの社員が活躍していますが、昨今、お客さまのニーズや事業領域がますます多様化しグローバル化する中、ダイバーシティのさらなる加速に向けた手綱を緩めることはできません。経営陣の多様化や女性活躍の推進、ライフイベントとの両立支援等の取組を通じ、真のダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指していきます。

財務・非財務両面での
株主価値極大化

企業価値を持続的に向上させ、
投資家の皆さまに対する
利益の還元を重視する方針は、
コロナ禍を経ても一切変わっていません

 SMBCグループの企業価値を持続的に向上させ、投資家の皆さまに対する利益の還元を重視する方針は、コロナ禍を経ても一切変わっていません。株主還元は累進的配当を基本とし、中期経営計画期間中に配当性向40%を目指しています。2020年度は、ボトムラインが大幅な減益となりましたが、累進的配当方針に基づき配当は190円で据置きとしました。配当性向が51%へと上昇しましたが、減益によって目標達成とはせず、現中期経営計画で目指す7,000億円超の利益水準での40%達成を目指しており、それに向けた着実な一歩として、2021年度の配当は期初予想の段階から200円へ増配としています。

 株主還元のさらなる強化に向けては、機動的な自己株取得の機会も追求していきます。2021年5月の決算発表時点では、本邦において緊急事態宣言が再延長されコロナ禍の収束が見通せず、不透明な環境が続いていること等を踏まえ、実施の判断を見送りとしました。しかし、資本はインオーガニック投資後も十分な水準を維持できる見込である上、現在の株価は割安な水準にとどまっていると認識しており、コロナ影響や海外動向等を踏まえつつ、2021年度中においても実施の機会を追求していきます。

 また、中長期的な企業価値向上に向けては、ROEに代表される定量的な財務的価値の向上に加え、これまで述べてきたデータ、人材、ESGといった、バランスシートに載らない非財務価値を持続的に高めていくことも非常に重要であると認識しています。サステナビリティに対する施策の加速や、社員一人ひとりの夢の実現に向けた環境整備等を通じ、人的資本、知的資本、社会関係資本を充実させていきます。そして、財務・非財務情報は最大限開示の上、ステークホルダーの皆さまと適切なエンゲージメントに努めることで情報の非対称性を極小化し、株主資本コストの低減を通じて企業価値の持続的向上に努めていきます。

天の我に與えし所以

私自身が先頭に立って疾風に立ち向かい、
グループ一丸となって
逆境を越えていきます

 「天之所以與我者、豈偶然哉」(天の我にあたえし所以ゆえんは、あに偶然ならんや)。天が自分にこの使命を与えたのは単なる偶然だろうか、いや決してそうではない。中国・宋の時代に編纂された文章軌範にあるこの言葉は、どんな境遇においても己の責務を完遂することの重要性を説いています。私が銀行に入ってから約40年間、バブル経済崩壊や金融ビッグバン、リーマンショックや今回のパンデミック等、幾多の逆境に直面してきましたが、いつ如何なる時も心掛けてきたことは、環境の変化や降りかかる試練を憂うことなく、自らのやるべきことを着実にやり遂げるということです。

 同じことが企業にも言えます。マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏が語った「Banking is necessary, banks are not」という言葉は、社会にとって必要不可欠なものは「銀行」という業態なのか、それとも金融という「機能」なのかという根源的な問であり、時に巷で聞かれる「銀行不要論」も、同じ発想からくる悲観論だと理解しています。しかし、答えが明確に後者の「機能」である以上、我々は、過去の実績や「銀行」という業態に拘泥せず、必要な「機能」の担い手であり続けなければなりません。天に与えられた使命を果たしていくため、成長の種を見つけ、イノベーションを起こし、金融機能を通じてお客さまや社会に貢献していくことが重要だと考えています。

 今後、時代の変化はますます加速し、私たちの未来には幾多の好機と逆境が待ち構えているはずですが、我々SMBCグループは、勁草として力強く生き残りつつ、より深く広くしっかりと根を張って、さらなる成長を目指していきます。私自身が先頭に立って疾風に立ち向かい、グループ一丸となって逆境を越えていきますので、ステークホルダーの皆さまにおかれましては、今後ともより一層のご理解・ご支援を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO 太田 純

三井住友フィナンシャルグループ
取締役 執行役社長 グループCEO

三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO 太田 純 三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO 太田 純