CFOメッセージ

不透明な環境においても着実に成長して目標を達成し、資本効率のさらなる改善と積極的な情報開示を通じて企業価値向上に努めてまいります。 取締役 執行役専務 グループCFO兼CSO 中島 達 不透明な環境においても着実に成長して目標を達成し、資本効率のさらなる改善と積極的な情報開示を通じて企業価値向上に努めてまいります。 取締役 執行役専務 グループCFO兼CSO 中島 達

 2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始しました。大規模な軍事侵攻には至らないであろうという大方の予想を覆す、まさに想定外の出来事でした。残り1ヵ月で2021年度が終わろうとするタイミングで、それまでの業績が非常に順調だったこともあり、早くも2022年度のことを考え始めていた私は急遽、3月までに行うべき必要な対応の舵取りを迫られました。その影響の大きさを吟味して財務的手当を行うと同時に、マーケットの不安を少しでも解消すべく、当社のロシアにおけるビジネスの現状について臨時の開示を行うよう指示を出しました。国内の金融機関としていち早く、ロシア向けエクスポージャーの詳細を開示したことは、投資家・アナリストの皆さまからも高い評価をいただきました。一方で、世界各国のインフレで金利が上昇し、不透明感が増大していく環境の中で、現在の施策をこのまま進めていって良いのかを改めて見直してきました。

 そんな慌ただしい3月でしたが、1年を通して振り返ると、2021年度は、前年に甚大な影響をもたらしたコロナ禍から、ビジネスがしっかりと回復してきたことを確認し、業績の進捗を当初想定していた軌道に戻すことができた年でした。グループCFOとしては、中期経営計画で投入している経営資源が期待する効果を出しているかにも心を配ってきました。グループCSOとしては、Transformation & Growthとして掲げた7つの重点戦略分野の施策の成果を検証すると同時に、デジタルやグリーンといった大きなトレンドに対しては、その加速を踏まえてプロアクティブに戦略を見直しました。また、インオーガニック成長を追求して投資を実行し、将来の成長に向けた布石も打ってきました。

 2021年度決算では、将来に対する予防的な手当も十分に行った上で、ボトムライン収益の力強い成長を示すことができたと考えていますが、残念なことに、当社の株価は1年を通して、決して満足のいくパフォーマンスとはいえない動きとなりました。2022年度もまだまだ不透明な環境が続きますが、中期経営計画で掲げた最終年度の財務目標を必達するだけでなく、次期中期経営計画を見据えてさらなる成長の種をまくと同時に、政策保有株式の削減の加速も含めた資本効率のさらなる向上にも取り組むことで、PBRの改善に努めてまいります。

中期経営計画の進捗

(1)2021年度の振り返りと2022年度の業績目標

 2021年度の親会社株主純利益は、ロシア・ウクライナ情勢を受けた与信費用の増加や航空機リース事業の減損によって1,000億円程度のマイナス影響があったものの、上期決算発表時に修正した通期目標を上回る7,066億円と、前年比1,938億円の大幅増益となりました。これは主に、コロナ禍からの営業活動の回復や各事業部門における中期経営計画の各種施策の着実な推進により、連結業務純益が力強い増益を見せたほか、政策保有株式の売却を進めた結果、株式等損益が大幅に増加したことによるものです。

 2022年度については、連結業務純益1兆2,350億円、親会社株主純利益7,300億円という目標を掲げました。これは、中期経営計画を発表した際の「3ヵ年で、特殊要因を除いたベースで連結業務純益を1,000億円増加させ、ボトムラインの実力を10%以上伸ばす」という公約通りの数字です。この不透明な業務環境の中、連結業務純益で前年比800億円以上の増益を実現するというチャレンジングな目標ですが、経済活動がコロナ禍から着実に回復していること、我々の中期経営計画の施策が順調に進捗していることを考えれば、決して不可能な数字ではありません。クレジットコストについても、ロシア向けエクスポージャーに対する引当は予防的なものも含めて十分だと現時点では判断しています。したがって、グループCFOとしては、2022年度に親会社株主純利益7,300億円を達成し、中期経営計画をきっちりと仕上げることに全力を尽くします。

 なお、中期経営計画の財務目標として掲げる収益性、効率性、健全性の3つの指標は、いずれも順調に進捗しており、引き続き経営効率にこだわった運営を行っていきます。

(1)2021年度の振り返りと2022年度の業績目標

ロシア・ウクライナ情勢による財務影響

 2021年度には、航空機リース事業におけるロシアの航空会社あてのリース機材の減損と、ロシア関連与信に対するクレジットコストの2つを合わせて、ボトムラインへ1,000億円程度のマイナス影響がありました。
 航空機リースについては、機材簿価の約半分の減損処理を行い、連結業務純益へのマイナス影響は470億円となりました。現在は、財務影響を極小化するため、保険金の受領に向けた手続等を進めています。
 クレジットコストについては、将来のさらなる信用劣化に備えた予防的な引当も含めて、ロシア系債務者あて与信の3割強に相当する750億円を計上しました。
 2022年度については、2021年度に実施した予防的な引当や減損で吸収する想定ですが、事態の帰趨によってアップサイドからダウンサイドのシナリオまで、ボラティリティがあるため、状況を注視しつつ、適切に対応していきます。

(2)7つの重点戦略

 長引くコロナ禍に加え、ロシア・ウクライナ情勢や世界各国でのインフレ進行等、中期経営計画策定時には想定していなかった事態が相次いで起こっています。しかし、これらの変化は、我々に計画の変更を迫るというよりも、むしろ想定していたトレンドをさらに加速させるものであり、我々もそのスピードに遅れることなく、しっかりと各種施策を前倒しで実現させていく必要があります。

 2021年度は、ポストコロナを見据えたお客さまの新しいニーズに向き合うとともに、事業環境の変化の中で明確となった課題に対する取組を進めてきました。

 たとえば、資産運用ビジネスでは、グループ一体となった商品企画やお客さまへのアプローチ、デジタル販売の強化を進め、ペイメントビジネスでは、「stera」の決済プラットフォーム拡大とナンバーレス/カードレスカード等の次世代カードの発行に力を入れて、キャッシュレス市場の成長を取り込んできました。また、国内法人ビジネスにおいては、事業再編や不動産ビジネス等、コロナ禍で浮き彫りになったニーズに対するソリューション提案の機会が増加し、海外では資産・資本効率の向上に向けて採算性の高いプロダクトの投入も進めてきました。

 一方で、アジアのリテールビジネスや米国を中心とした海外証券ビジネス等、従来注力してきた戦略に則った出資や業務提携を通じて、中長期的な成長に向けた施策も推進しています。まずは各案件のPMIにしっかりと取り組みますが、次期中期経営計画期間中には相応の収益貢献を期待しています。

 こうして各施策を着実に進めることで、現中期経営計画の最終年度の目標達成を確実なものにしていくとともに、次の3ヵ年での成長の布石も打っていきます。

(3)コストコントロール

 中期経営計画では、「国内のビジネスモデル改革」「リテール店舗改革」「グループベースの業務集約」の3つの主要施策により、3年間で1,000億円のベース経費削減を当初目標として掲げました。

 コロナ禍でデジタルシフトが加速したこともあり、業務のデジタル化・効率化を通して3,900人分の業務量を削減し、国内支店の個人専用店舗への転換を1年前倒しで達成する等、各施策が順調に進んだ結果、2年間で860億円の削減を達成しました。現在は削減目標を上乗せし、1,300〜1,400億円のベース経費削減を目指しています。

 同時に、追加の削減効果をデジタルや海外ビジネス等の前向きな戦略投資に投入することで、ビジネスをスリム化するだけでなく、トップラインの成長につながる施策にもしっかり手を打って、成長に向けた好循環を作っていきたいと考えています。特にIT投資は、今後収益規模の拡大や生産性の向上を目指す上で必要不可欠です。既存システムに対する保守コストをできるだけ抑えて投資余力を捻出するとともに、2022年度の投資枠を300億円増額し、新たなビジネスの開発やレジリエンス強化に投資していきます。

財務目標

財務目標

資本政策

(1)資本政策の基本方針

 我々の資本政策の基本方針は、健全性確保を前提に、株主還元強化と成長投資をバランスよく実現していくことです。健全性の指標であるCET1比率は、バーゼルⅢ最終化の影響を織り込み、その他有価証券評価差額金を除いたベースで10%程度を目標としていますが、これは規制上求められる所要水準8.0%をベースに、さまざまなストレスシナリオにおいても必要水準を維持できる2.0%のバッファーを加えた数字になります。

 2021年度までは、コロナ禍に苦しむ国内外のお客さまへの資金繰り支援を最優先に位置付け、与信増加分に相当する0.5%を切り下げて、9.5%を中心に±0.5%を運営目線としていましたが、2022年3月末のCET1比率が10.0%まで回復したことを受けて、今後は本来の目線である「10%程度」に戻して、資本運営を行っていきます。

資本運営目線

資本運営目線

(2)株主還元強化

 我々の株主還元の基本は配当であり、累進的配当、すなわち、減配せず、配当維持もしくは増配を原則としています。また、中期経営計画の最終年度である2022年度までに配当性向を40%に引き上げることを目指してきました。その公約通り、2022年度の配当予想は220円としており、これにより配当性向は41%となる見込みです。コロナ影響で親会社株主純利益が減少したことにより一時的に40%を超えたこともありましたが、中期経営計画の最終年度に、想定通りの利益水準とともに公約を果たせることを嬉しく思っています。

 一方、自己株取得については、2021年11月に、1,000億円の自己株取得を発表しました。SMBC日興証券の問題の帰趨が不透明であることから、まだ買付は開始していませんが、可能な状況になり次第、速やかに実施していきます。また、2022年度分の実施については、ロシア・ウクライナ情勢の影響に加え、インフレや各国の金融政策の動向等、世界経済の見通しが非常に不透明なこともあり、実施の判断を見送りました。今後の状況を見極めながら、年度中も引き続き実施を検討していきます。

株主還元策

株主還元策

(3)成長投資

 中期経営計画では「Growth」を基本方針のひとつに掲げています。これは、成長分野にしっかりと資本を投入することで、オーガニック・インオーガニックともに、質を伴った量的成長を追求していくことを表しています。

 2021年度は、これまで検討してきた複数のインオーガニック案件がたまたま同時期にクロージングを迎え、インドのFullerton India、ベトナムのFE Credit、フィリピンのRCBC、米国のJefferies等、矢継ぎ早に出資・提携を発表する結果になりました。とはいえ、いずれの案件も、「SMBCグループの戦略に合致すること」「ROCET1が8.5%以上展望できること」「リスクマネジャブルであること」の3つの投資規準の下、ディシプリンを徹底して、持続的な成長に資するかどうかを軸に判断した上で実行したものです。投資先のターゲットも従来と変わらず、「資産・資本効率の高い投資」および「中長期的な成長に向けたビジネスプラットフォームを創るための投資」の2つです。

 アジアについては、インドやベトナム、フィリピンの現地金融機関への出資を完了し、すでに進出していたインドネシアと合わせ、アジアで「第2・第3のSMBCグループを創る」というマルチフランチャイズ戦略の対象国それぞれにおいて、今後の発展に向けた基盤を構築することができました。海外証券ビジネスは、残念ながらこれまで競合他社に後塵を拝してきた分野であり、その打開策として、米国の大手総合証券会社Jefferiesと戦略的資本・業務提携を行いました。まずは、Sub-IG、 クロスボーダーM&A、ヘルスケアの3分野で業務協働を開始しており、早速、協働による成功案件が複数出てきています。

 2022年度に入ってからは、SMBC Aviation Capitalが Goshawk Management (Ireland)の買収を発表し、既存保有機分と合わせて1,000機規模の運営体制と新たな顧客基盤を獲得しました。また、SBIホールディングスとの資本提携および個人向けデジタル金融サービスにおける業務提携も発表しました。

 このようにインオーガニック案件が続いたことで、投資家の皆さまからは、成長投資偏重ではないかという声を数多くいただきました。成長投資はタイミング次第となる部分もあるため、今回のように、短期間に案件が集中してしまうケースもある点は否めません。一方で、成長投資機会がまったくないという時期ももちろんあります。短期的にはチャンスを捉えて機動的に対応し、中長期的には自己株取得とのバランスを図りつつ、持続的な成長に向けて取り組んでいきます。

キャピタルアロケーション

キャピタルアロケーション

(4)政策保有株式の削減

 2020年度からの5年間で政策保有株式3,000億円を削減するという計画に対し、ここまで2年間の累計で1,220億円を削減しました。特に、2021年度は、東京証券取引所の市場区分の見直しやコーポレートガバナンス・コードの浸透といった社会の変化を追い風に、お客さまとの交渉を加速させました。加えて、売却についてお客さまの応諾を取得済の未売却残高が580億円あるため、2022年3月末時点で1,810億円の削減に目処がついたことになります。

 政策保有株式の削減は、株価変動に伴う財務リスクを抑える上で、資本政策上も非常に重要です。引き続きお客さまとの十分な対話を重ねながら精一杯削減に努め、計画達成の前倒しにも挑戦していきます。

ステークホルダーの皆さまとの対話

 現在のように業務環境が目まぐるしく変化していく不透明な環境においてこそ、積極的かつタイムリーに情報開示を行い、ステークホルダーの皆さまの関心の高い分野について分かりやすくお伝えしていくことが重要だと考えています。また、2021年度はインオーガニック案件が複数続きましたが、我々の戦略の全体像や狙いをご理解いただくため、中長期的なスパンで計画をしっかり説明するとともに、今後も進捗状況をお示ししていく必要があると考えています。資本効率のさらなる改善によってROCET1やROEの向上に努めるとともに、こうした開示内容の充実に取り組み、投資家の皆さまとの情報格差を財務・非財務面ともに埋めていくことで、資本コスト低減を通じた株主価値向上を目指していきます。

 2021年度、日本証券アナリスト協会より、3年連続で銀行部門のディスクロージャー優良企業に選定されました。高い評価を頂戴したことは大変嬉しく、ステークホルダーの皆さまのご意見に真摯に向き合い、今後もこれらの取組をさらに磨いていけるよう努めていきます。

 投資家やアナリストの皆さまと建設的な対話を重ねることは、グループCFOとしての最も重要な責務のひとつです。皆さまとの対話は、学びや気付きを得られる非常に貴重な機会であり、特に2021年度は、成長投資と株主還元や、サステナビリティに対する関心を受けて、テーマ別説明会を開催するとともに、日々の面談やIRイベントを通じて、さまざまなご意見をいただきました。

 こうしたご意見を、取締役会やマネジメントで共有し、皆さまとのエンゲージメントで直接お応えしたり、各事業部門へフィードバックして取組に活かしたりしていくことで、ステークホルダーの皆さまとのコミュニケーションをさらに活性化させ、我々の持続的な成長と企業価値の向上につなげていきたいと考えています。