社外取締役座談会

社外取締役座談会

成長投資を通じて
「複合金融グループ」としての新たなステージを目指す

三井住友銀行 社外取締役 手代木 功

三井住友銀行
社外取締役
手代木 功

三井住友フィナンシャルグループ 社外取締役 桜井 恵理子

三井住友フィナンシャルグループ
社外取締役
桜井 恵理子

三井住友フィナンシャルグループ 社外取締役 アーサー M. ミッチェル

三井住友フィナンシャルグループ
社外取締役
アーサー M. ミッチェル

三井住友フィナンシャルグループ グループCFO 兼 グループCSO 中島 達

三井住友フィナンシャルグループ
グループCFO 兼 グループCSO
中島 達

中島本日は、2021年度に実施した成長投資案件を中心に、今後のSMBCグループのあるべき姿を議論すべく、三井住友フィナンシャルグループの社外取締役であるミッチェルさんと桜井さん、また、三井住友銀行の社外取締役である手代木さんにお集まりいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

手代木私は三井住友銀行の社外取締役に1年前に就任しましたが、この間、成長投資をかなり積極的に進められた印象です。取締役会の場での私たち社外取締役へのM&Aに関する説明等も含めて、プロセス的に非常に慣れていらっしゃるなと感心していました。

中島2021年度は4,000億円を超える投資をしました。単年度でこれだけの資金を投じたのはSMBC日興証券の買収時に続いて、SMBCグループ発足後2回目です。SMBCグループのM&Aの歴史を振り返りますと、三井住友銀行の発足が2001年で、その時に「複合金融グループを目指す」というビジョンを打ち出しました。そして、翌年に三井住友フィナンシャルグループが発足し、銀行業務だけではなく周辺業務を強くするために、国内のクレジットカード会社や証券会社、信託銀行等のM&Aを進めてきました。続いて、海外でもM&Aを積極化していき、直近では、インドのFullerton India、ベトナムのFE Credit、フィリピンのRCBC等の買収・出資のほか、米国のJefferiesと業務提携も始めました。その結果、SMBCグループの収益に占める海外事業の比率は発足当初の5%程度から約3割に上昇し、銀行以外の事業の比率は2割弱から約4割に上昇しています。それでは、皆さまから見た私たちの現状の事業ポートフォリオに対するご評価をお聞かせ願います。

ミッチェル「複合金融グループ」に向けて着実に前進しており、海外事業の比率、銀行以外の事業の比率については、それぞれさらに伸びていくと思います。SMBCグループは国内だけではなく、世界においても重要な役割を担うポテンシャルを有していますので、より世界で存在感を高めていただくことを期待しています。海外については、たとえばJefferiesとの業務提携は、海外事業の成長に向けた足掛かりという面でも非常に良い投資だったと思います。一方で、どうやってSMBCグループ全体としてファイナンスを強くしていけるのかをもっと議論していただきたいですね。

一貫した全体戦略の下、
事業ポートフォリオを広げてこられたことは
素晴らしいことであると思っています。

桜井私自身は、「グローバル戦略を強化していきたい」ということで、社外取締役としてお声掛けいただきましたので、海外でのM&Aについては特に意見を申し上げてきたつもりです。インドネシアのBank BTPNの買収にあたっても、「なぜインドネシアなのか」「なぜBTPNなのか」等、根本的な話から一つひとつ確認していたことを当時企画部長だった中島さんも覚えていらっしゃるかも知れません。というのも、SMBCグループが描く全体戦略との整合性が取れているかどうか、つまり、目の前の買収自体が目的になってしまっていないかが極めて重要であるからです。5年ほど前、中島さんに「グローバル戦略について、どのような青写真を描いているのか」とお伺いしましたが、その時丁寧にご説明いただいた全体戦略と、これまで手掛けられてきた個別のM&Aの案件との整合性が取れており、一貫した全体戦略の下、事業ポートフォリオを広げてこられたことは素晴らしいことであると思っています。

手代木ここ数年のSMBCグループの動きを見ていますと、アジアの今後の成長を取り込むべく、次の成長の種を積極的にまこうとしていることが伝わってきます。ただしすべてが成功するとは限りませんので、やみくもに前に進むだけではなく、引く時は引くことも大事です。私が取締役になるより以前ですが、関西地銀の株式を売却する等、そのあたりも含めて、SMBCグループはしっかりできていますので、今後も投資規準に基づいた規律ある成長投資を続けていってほしいですね。

ミッチェル同感です。「ディシプリンを利かせる」ことは非常に大事です。ただし、M&Aはさまざまなステークホルダーの利害が複雑に絡み合うため、投資規準を遵守することは実は容易なことではありません。以前、とある金融機関の買収案件をSMBCグループが見送ったことがありました。日系企業のM&Aは、出資先の価値に対して投資金額を払い過ぎている印象がありますが、当時の案件を振り返ると、そういったことをうまく回避できたのではないかと評価しています。「ディシプリンを利かせる」ことができた事例だといえるでしょう。

中島もちろん失敗した経験もあります。たとえば、Bank BTPNへの出資では、出資後2年で減損を計上しました。その時の反省を基に、M&Aガバナンスの強化に注力し、デューデリジェンスプロセスの見直し等を徹底的に行ってきました。その流れの中で、2020年にはM&Aの実行部隊として事業開発部を立ち上げる等、体制面の整備を進めることができました。まだまだ改善すべき点はありますが、ここまで来られたのは、社外取締役の皆さんからいただいたご指導のお陰でもありますので、大変感謝しています。

桜井取締役会においても、過去の成長投資について定期的にレビューし、改善の方向性を議論する場を設けていただいていますし、良い運営ができていると感じています。一方で、今後の課題を挙げるとすると、M&Aによるシナジーをより創出するための取組を進めるべきではないでしょうか。それが、SMBCグループがさらにグローバルで成長する上での鍵になると思っています。

手代木インオーガニック戦略を進めていく中で、出資先に対してはSMBCグループとしての全体戦略を明確に説明するとともに、「どういったカルチャーを重視しているのか」を十分に理解してもらうことが重要です。それができなければ、一体感が育まれませんし、シナジーは創出できないですね。SMBCとして目指す方向性をどのくらい強く出資先に伝えることができているかは、M&Aを成功させる要諦であるといえるでしょう。

中島新型コロナウイルス感染症拡大に伴う海外への渡航制限も緩和されつつありますので、私自身もそうですし、CEOの太田にも出資先の会社にできるだけ出向いてもらい、コミュニケーションを深めていきたいと考えています。

桜井M&Aの成果を最大化する上で、PMIは非常に重要です。特に最初の数年間におけるPMIの巧拙によって、長期的に大きな差が出ると思っています。その点でいえば、先ほど中島さんがおっしゃったように事業開発部が立ち上がりましたし、アジアを中心に出資先の現地に精通した人材が増えてきており、PMIを実行する体制が以前よりかなり改善してきていると感じています。

ミッチェル事業ポートフォリオをさらに広げていく上で、人材の獲得は不可欠です。これから新しい分野へ進出していこうとした時に、どういった人材がSMBCグループに必要なのかも十分に検討した上で、出資先の選定を進めるべきではないでしょうか。

中島おっしゃる通りですね。たとえば米国で投資銀行業務を展開するのであれば、外部から人材を獲得する必要があります。しかし、現状のSMBCグループのグローバルでのレピュテーションや事業規模ですと、その分野で優秀な人材を獲得することは容易ではありません。ただし、Jefferiesにはそういった人材が多数いますので、同社との業務提携契約の締結は大きな意義があると考えています。

手代木グローバルでのレピュテーションの話が出ましたので少しご提案しますが、取締役会でのご説明等の際にお示しいただいている「国内メガバンクとの比較」は、もはや必要ないのではないでしょうか。つまり、比較相手をグローバル企業にすべきであり、それによって外部から見た時の評価も、SMBCグループの一人ひとりのマインドセットも、国内からグローバルを軸にしたものへと変わっていくのではないかと思います。

桜井どの企業と比較するのかは大事ですよね。私が社外取締役を務めていた別の会社でも、同様の提言が社外取締役からありました。結果として、今では外部からの評価においても、国内企業との比較ではなく、グローバル企業と比較されるようになっています。

中島以前のメガバンクの戦略は似通っていましたので、比較する意味がありましたが、現在は戦略自体が異なってきています。お二人のおっしゃる通り、変えていく必要がありますね。ありがとうございます。

手代木現状はインドネシア、インド、ベトナム、フィリピンの4ヵ国を中心にアジア戦略を進めていらっしゃいますが、それら以外の新興国についても、各国の経済成長を見ながら、SMBCグループとしてどのような貢献ができるのか、また、どのくらいのリターンが将来的に得られるのかを検討し、どの国に進出していくのかを議論していただきたいと思います。ここにいる皆さんも含め、社外取締役の方々はそれぞれ異なった知見をお持ちであり、幅広い角度からのご意見をいただくことができますので、そういった議論を取締役会の場でも十分に行った上で、リスクを取ってでも新しい市場を開拓していっていただきたいですね。また、先進国においても、産業別にどの分野を成長産業と捉え、どのように成長を取り込むのか、もっと議論する必要があると思います。

桜井私はサステナビリティ委員会の委員長を務めていますが、サステナビリティの分野において金融機関は新たな役割が求められるようになるのではないかと見ています。ただし、まだ具体的な解があるわけではありませんので、そのような議論をサステナビリティ委員会でも行っていきたいですね。また、成長機会だけではなく、リスクの検討も重要です。直近では、ロシアのウクライナ侵攻があり、地政学リスクをどのように捉えるのかが極めて重要になってきています。

中島地政学リスクについては、国や地域によって、SMBCグループに与える影響が大きく異なってきますので、しっかりと見極めていく必要があります。たとえば、ロシアのウクライナ侵攻は業績への影響がある程度予測できており、一定のインパクトはあるものの、全体の業績の中では限定的ではあります。

桜井米国の企業では、影響の大きい国や地域において有事が生じた場合のシナリオプランニングを詳細に詰めている印象がありますね。SMBCグループでも始めていらっしゃるとは思いますが、早急に進めていただければと思います。

ミッチェル私は別の会社でも社外取締役を務めており、そちらでも同様の議論を進めています。また、長期的な成長に向けても、10年先の市場の変化を予測し、そこからバックキャスティングして、どのような製品が必要か、また、どのような人材が必要か、といった議論をしています。しかし、このような議論はメーカーであれば比較的容易ですが、金融の場合は難しいですね。とはいえ、金融の世界がこの先どのようになっていくのかは考える必要があるでしょう。

今の混とんとした変化の速い世の中において、成長投資を抑えてしまうと、
完全に世の中の動きから取り残されてしまうのではないでしょうか。

中島議論はしており、さまざまなシナリオを描いてはいますが、ミッチェルさんのおっしゃる通りで、難しいですね。金融は実経済の裏側を支えているようなビジネスですので、金融の将来を想定することは、この世界が10年後にどうなっているのかを想定することとほぼ変わらないといえます。ただし、その努力を怠ってはいけないと私自身も思っています。少し論点が変わりますが、成長投資というのは資本活用の手段であり、我々の資本政策は「余剰資本を成長投資と株主還元にバランスよく配分する」というものです。投資家との対話等では、「成長投資をするよりも、PBRが0.5倍を切っている自社の株を買うべきである」という意見が多々聞かれます。そのあたりを皆さんはどうお考えでしょうか。最後に、忌憚のないご意見をいただければと思います。

手代木今の混とんとした変化の速い世の中において、成長投資を抑えてしまうと、完全に世の中の動きから取り残されてしまうのではないでしょうか。ただし、対話は必要です。株主や投資家との対話をこれまで以上に行い、「SMBCグループがグローバルで存在感のある金融機関を目指すためにはこの成長投資が不可欠である」としっかり説明した上で、個々の案件を進めていく必要があります。

ミッチェル私も同感です。取締役会や経営会議の場では、CFOである中島さん自身が、株主や投資家の立場に立って、そのマインドで発言するよう心掛ける必要があります。そうすれば、投資家にも説明可能な案件が選定されるようになるはずです。

桜井私も投資家との対話の中で、同様の質問が出る時があります。その時には、ミッチェルさんのおっしゃるように、投資家の視点でディスカッションして成長投資を決めたと説明しています。成長の実態がないにもかかわらず、株価だけが上がっていても良くはありませんので、成長に向けてやると決めたことを着実に進めていただきたいと思います。

中島皆さんからいただいたさまざまな示唆をグローバル戦略に反映するとともに、株主や投資家との対話の質の向上につなげていきますので、引き続き率直なご意見を賜りますようお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。