社外取締役座談会

ステークホルダーの期待に応え、持続可能な成長により企業価値の向上を図る

社外取締役
チャールズ D. レイク II

社外取締役
ジェニファー ロジャーズ

社外取締役
桜井 恵理子

取締役 執行役専務 
グループCFO兼グループCSO
伊藤 文彦

伊藤中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」がスタートし、1年が経過しました。本日は、この1年を振り返り、サステナビリティ委員会委員長の桜井さん、そして、2023年度から新たに社外取締役に就任されたレイクさん、ロジャーズさんより、SMBCグループのガバナンスに対する評価や、企業価値の向上および社会的価値の創造に向けた取組に関してご意見を伺います。

レイク私はこの1年を通じて、「持続可能な成長」と「中長期的な企業価値の向上」という観点から、SMBCグループのコーポレートガバナンスや、攻めのガバナンスを可能とするリスク管理態勢の構築および企業文化の醸成等について、取締役会でさまざまな意見を述べてきました。当社の取締役会や内部委員会では、自由闊達で建設的な議論が行われており、実効性の高い運営ができていると考えています。取締役会や内部委員会における議論を建設的なものにするためには、それぞれの取締役が一定のスキルセットを有して議論に臨むことは当然ですが、執行サイドにおいても、こうした議論の内容をはじめ取締役会の機能をしっかりと活用していく姿勢を示す必要があります。そうした意味で、SMBCグループでは、取締役と執行サイドがあるべき姿に向けてさまざまな情報を共有しながら、形式論ではなく本質論に基づいて議論することができており、総合的に見て、高いレベルでコーポレートガバナンス態勢が構築されていると評価しています。

ロジャーズ私もレイクさんと同様の印象を持っており、取締役会はそれぞれのスキルセットを発揮して活発に意見を交わしています。2024年6月の株主総会を経て取締役会の構成が変わりましたが、外国籍比率・女性比率も高まったことで、取締役会のダイバーシティ向上も進みました。しかし、改善すべき点もあります。たとえば、2023年度は社会的価値の創造への取組やDXに関する対応、人材活用といったさまざまな内容を取締役会で議論してきましたが、全体を通じて、成長に向けた取組に少し保守的な部分があると感じました。SMBCグループが中長期的に目指す姿として掲げる「グローバルソリューションプロバイダー」という目標を達成するためには、よりスピード感をもって成長していかなくてはならないでしょう。とりわけ、グローバル人材の育成・活用は喫緊の課題であり、継続して議論を行っていく必要があります。また、DXを推進することが極めて重要です。たとえば、三井住友銀行では、企業とサプライチェーン全体のCO₂排出量の算定から、削減施策の立案・実行までの一連の業務を管理できるクラウドサービス「Sustana」を新規ビジネスとして2022年に立ち上げ、導入企業数が1,900社を超えるまでになりました。業務効率化だけではなく、新たな収益を獲得する上でも、DXは大きな役割を担うことが期待できます。

桜井SMBCグループがグローバルな動向に注意を払わなければならない中で、米国の金融市場等の領域に見識の深いお二方が参画し、取締役会での議論が深まっていると感じています。レイクさんは日米双方での経営経験に加え、金融市場にも精通されており、学ばせていただくことが多くあります。ロジャーズさんは外資系銀行での勤務経験やグローバル企業での上級法律職経験等のご経歴に加え、多数の日本企業において社外取締役を務められており、政策保有株式の問題を含めた、現在の日本の課題をよくご指摘くださいます。ロジャーズさんが初めて参加された取締役会における最初の議題に対して、先陣を切って質問されたことがとても印象に残っています。議論をより深めていこうという姿勢を、いつも心強く感じています。

伊藤ロジャーズさんからは、当社が中期経営計画策定時に公表した2023年度の業績計画に対して、「資本市場から保守的に受け止められ、結果的に相対的な株価パフォーマンスの悪化につながっているのではないか」というご指摘を受けました。併せて、「企業価値向上を図るためにはDX投資を拡大すべきではないか」というご意見も踏まえ、2024年度からの業績計画は一定程度チャレンジングな目標を設定するとともに、DX投資をはじめとしたIT投資計画を当初の6,500億円から1,000億円増やし7,500億円としました。

 このように、社外取締役の皆さまからのさまざまなご意見を取組につなげています。しかし、対応できていない課題がまだまだ残っており、たとえば、企業価値向上という観点では、未だPBRが1倍に満たない状況となっています(2024年6月末時点)。

レイク投資家をはじめとしたさまざまなステークホルダーの期待に応える上でも、PBR1倍をしっかりと達成することが大切です。ただし、それは通過点であり、資本市場はさらに上の水準を期待しているでしょう。その期待に応えるためには、ROEの向上に取り組むとともに、ステークホルダーとの対話を行い、さまざまなご意見等を踏まえながら、取締役会における議論をさらに活性化していくことが重要であると考えています。

 また、さらなる企業価値向上に向けて、SMBCグループがどのように政策保有株式に向き合おうとしているのかは、投資家の大きな関心事のひとつであると認識しています。政策保有株式の解消は、日本企業全体における長年の課題ですが、金融庁と東京証券取引所が合同で策定した「コーポレートガバナンス・コード」の浸透に加えて、大手損害保険会社が政策保有株式「ゼロ」を目指すことを宣言したことも後押しし、日本の資本市場は大きく変わろうとしています。SMBCグループでは政策保有株式の削減計画を表明していますが、このような変化を踏まえ、前倒しで進めていくことも視野に入れるべきでしょう。削減にあたっては、形式的に売却を進めるのではなく、SMBCグループおよび資本市場全体の発展も念頭に、「売却の合理性」を本質的に判断して進めていくことが必要であり、加えて、売却で得た資金をどのように活用するのかといった観点も重要です。「コーポレートガバナンス・コード」の要請も踏まえ、引き続き取締役会において十分に議論をする必要があると考えています。

ロジャーズ私自身は、政策保有株式の削減計画について、ペースが少し遅いのではないかと感じていました。2023年度は計画を超えたスピードで削減を進めることができ、その点は高く評価していますが、正直なことを申し上げると、より一段とペースを上げるべきでしょう。レイクさんのおっしゃる通り、資本市場は変わりつつあり、投資家からの声も含め、外的圧力がさらに強まることが予想されます。また、政策保有株式の削減は、ガバナンスの観点に加え、キャピタルアロケーションの観点でも重要です。さまざまな成長戦略を実現するための原資を確保する上で、重要性はますます高まっていると言えるでしょう。もちろん、この問題はSMBCグループ側だけで解決できることではありませんが、重要なテーマとして取締役会で引き続き議論していきたいと考えています。

伊藤中期経営計画では、「幸せな成長」への貢献を目指し、基本方針として社会的価値の創造を掲げています。SMBCグループがこれまで取り組んできた中期経営計画との大きな違いのひとつとなっていますが、この点について、ご意見をいただけますか。

桜井2023年度は過去最高益を更新する等、中期経営計画は順調な滑り出しとなりましたが、「社会的価値の創造」という文脈においても、予想以上の成果を残すことができたと感じています。SMBCグループでは、金融教育や顧客企業へのサポートを通じた社会的価値の創造に向けた活動に注力しています。私は、サステナビリティ委員会の委員長として、そのような活動に従業員一人ひとりが主体的に取り組む「全員参加」の仕組づくりを進めていくべきであると、取締役会の場等を通じてお伝えしてきました。初年度を振り返ると、三井住友銀行の各支店や各グループ会社において、さまざまなワークショップや勉強会を実施し、社会的価値の創造をSMBCグループ全体の力につなげていくために自分たちに何ができるかを話し合う等、具体的な取組が数多く見られました。従業員の意識醸成という観点からも、良いスタートが切れたと感じています。

ロジャーズ桜井さんがおっしゃったタウンホールミーティングでは、SMBCグループ・グローバル・アドバイザーを務めるポール・ポールマン氏をはじめとしたさまざまな方にご出席いただきました。参加者は、サステナビリティに関する知識を大いにインプットすることができたと思います。今後もそのような機会を設けることで、SMBCグループ全体のコンピテンシーが高まることにつながるのではないでしょうか。特に気候変動への対応は、サステナビリティ委員会においても重視しているテーマであり、継続的に議論しています。現在、さまざまな企業が「カーボンニュートラル」を標榜し、積極的に取組を進めていますが、決して一足飛びに達成できるものではありません。そこで、注目が高まっているのが「トランジションファイナンス」です。これは、カーボンニュートラルの実現に向けた長期的な戦略を策定し、温室効果ガス(GHG)排出量削減の取組を着実に実行している企業を対象に、その取組を支援する新しいファイナンス手法です。SMBCグループの中長期的な成長に向けても、このような気候変動に対応する金融ソリューションを提供し、顧客企業のカーボンニュートラルに向けた取組に貢献することが、ますます重要になってくるのではないかと考えています。

レイクお二人がおっしゃったように、企業の中長期的な成長のためには、社会的価値の創造に取り組むことが不可欠です。一方、慈善活動ではなく、ビジネスとして取り組む以上は、経済的価値の追求と両立させることが重要であり、その実効性を確保する上で経営基盤をさらに強化する必要があります。私はリスク委員会の委員を務めていますので、リスク管理態勢を含め、社会的価値と経済的価値を両立できる経営体制がいかに整えられているかという観点から、さまざまな意見を述べています。

 ただし、この考えは決して新しいものではなく、SMBCグループの歴史を紐解けば、三井・住友として何世代にもわたり本業を通じて社会的価値の創造を実践してきたことは間違いありません。社会的課題を解決する上で、金融機関が果たす役割は大きく、それは今後も変わることがないと考えます。SMBCグループが長い歴史の中で培ってきた企業文化を礎に、将来に向けても社会的価値の創造を実践し続けていくことを期待しています。

伊藤中長期的な時間軸で考えれば、社会的価値の創造を通じて経済的価値を向上させることは可能であり、このような考え方は一般的にも受け入れられやすくなっています。しかし、短期的な時間軸で考えてしまうと、社会的価値と経済的価値とでコンフリクトが発生することがあるのは確かです。桜井さんが「全員参加」という言葉をおっしゃっていましたが、社会的価値の創造を一丁目一番地に据えて取り組むことの難しさが、この点にあります。そのため、SMBCグループが提供するソリューションや商品が、中長期的な観点から本当に社会的課題の解決にプラスになるのか否か、または、ステークホルダーに対してポジティブな影響があるか否かを常に重要な判断軸として考えるよう、さまざまな機会を通じて全社に呼びかけてきました。実際に、私自身も現場を回り、若い従業員の皆さんと対話すると、「お客さまの役に立ちたい」「社会課題の何らかの解決につながるようなサービスを提供したい」という思いが強まってきていることを感じます。「全員参加」に向けて越えるべきハードルがまだまだ多くありますが、社外取締役の皆さまからの助言もいただきながら今後も継続して取り組んでいきたいと考えています。

 また、社会的価値の創造について、現在のところは定量的に開示することはできていませんが、どのように社会的価値への影響を開示していくかについて、まさに今取り組んでいるところです。現時点ではまだ模索中ですが、まずは、SMBCグループが社会的価値にプラスの影響を与えているいくつかの事例について、できる範囲から定量的な開示を進めていきたいと考えています。

 では最後に、社外取締役の皆さまから今後の課題等をお聞かせいただけますか。

桜井2021年にサステナビリティ委員会を立ち上げた際、特に念頭に置いていたのは、気候変動への対応でした。そのため、日本で最も気候変動施策に精通している高村ゆかりさん、足達英一郎さんに外部委員になっていただき、私たち社外取締役もかなり勉強しました。委員会から執行サイドへ、適切なデータ集約・分析のためにエネルギーセクターでの業務経験がある人材の採用を推奨する等、さまざまなアドバイスを行っていますが、執行サイドも積極的に取り入れてくれています。このほか、私たち社外取締役とSMBCグループの顧客企業のマネジメントとで、気候変動に関して議論するといった取組も行っています。サステナビリティ委員会では、このような取組を通じて、社外取締役としてサステナビリティ関連の知識を身に付けることで、執行サイドを監督するとともに、適宜アドバイスしながら、サステナビリティに関する諸問題に取り組んでいます。特に気候変動への対応は「待ったなし」の状態にあるため、引き続き力を入れていきたいと考えています。

レイク先ほど申し上げた通り、私はリスク委員会の委員も務めているため、主に世界の地政学リスクや米国で起きている事象等に関し、意見を述べてきました。現代の企業を取り巻く経営環境は、専門家でも予測困難な「超VUCA」の時代だと考えています。このような環境の中では、冒頭申し上げたような「攻めのガバナンス」を可能とするリスク管理態勢を構築し、形式論ではなく本質論に基づき、機動的かつ合理的に対応していくことが求められます。そのためには、リスク管理を経営戦略の中心に置いた上で、自由闊達で建設的な議論がさらに高いレベルで実践できるよう、これまで以上に努力していくことが重要です。私自身がこれまで培ってきた経験を活かして、SMBCグループにおけるガバナンス態勢の強化に貢献していきたいと考えています。

 また、日本の戦国武将の一人である武田信玄は「人は城、人は石垣、人は堀」という有名な言葉を残していますが、経営においても同じことが当てはまると考えています。SMBCグループは経営基盤の中心に人材を置き、従業員が挑戦し続け、働きがいを感じる職場・チームの実現を目指しています。

 さらに、グローバル企業にふさわしい、人材力を発揮するための制度の構築や企業文化の醸成に向けた取組を経営における中心的なテーマに設定しており、グローバルな視点でのベストプラクティスを最大限取り入れようと努力しています。たとえば、指名委員会では、後継者計画に関する先進的な取組を進めていますが、人材獲得競争がさらに激化する中で、私から新たな目線でのベストプラクティスをお伝えする等、社外取締役として、人材の観点からもSMBCグループの中長期的な成長を後押ししていきます。

ロジャーズ2022年に発覚したSMBC日興証券の不祥事に関連して、SMBCグループ全体で再発防止策に力を入れており、従業員のコンプライアンス・カルチャーの醸成を目的としたタウンホールミーティングを実施する等、さまざまな活動を行うとともに、コンプライアンス態勢の整備を進めてきました。しかし、重要なことは、短期的ではなく、長期的に、コンプライアンス・カルチャーをどのようにグループ・グローバルに浸透させていくのかということであり、その長い道のりのスタート地点に立った段階にあります。これは、SMBCグループの「Five Values」のひとつである「Integrity」にかかわることでもあり、取締役会においてより集中的に議論を行うべきでしょう。そのような議論の場において、率直な意見をお伝えすることが、社外取締役としての重要な役割のひとつであると認識していますので、引き続き忖度することなく、さまざまな提言を行っていきます。