将来の成長を支えるマルチフランチャイズ戦略

特集 Special Contents 1 マルチフランチャイズ戦略

 SMBCグループは、インド・インドネシア・ベトナム・フィリピンを対象国とした「マルチフランチャイズ戦略」を掲げています。高い成長が見込まれるアジアの新興国において、リテール業務を含むフルラインの銀行サービスを展開することで「第2、第3のSMBCグループ」を創ることを目指しています。

 前中期経営計画では、各国におけるパートナー企業への出資・買収を行い、すべての対象国に成長の礎を築くことができました。現中期経営計画では、将来の成長の果実を確実なものとするよう、現地に根差した適切な戦略を立て、実行していきます。

 マルチフランチャイズ戦略の実現加速のため、2023年度に、インドでは、Fullerton Indiaの社名を、SMFGブランドであるSMFG India Credit Companyに変更し、さらに追加出資を行って完全子会社化しました。フィリピンでは追加出資によりRCBCを、ベトナムではVPBankをそれぞれ持分法適用関連会社化したほか、インドネシアでは、オートローン会社OTO/SOFを連結子会社化しました。

 今後も各国の高い成長ポテンシャルを引き出せるよう、Post-Merger Integration(PMI)に注力していきます。ビジネス面では、SMBCグループによる出資先の資金調達支援・顧客の相互紹介、三井住友銀行がグローバルに強みを持つプロダクトでの協働、さらにはお互いのナレッジシェア・人材育成支援等を通じて、シナジーを発揮していくとともに、SMBCグループと出資先の1対1の協働にとどまらず、出資先間のシナジー創出にも一層取り組んでいきます。

 ガバナンス面では、三井住友銀行からの人員派遣や取締役会への参画等を通じ、現地の経営にしっかりと噛み込み、ガバナンス体制を構築しています。加えて、現地法制や商慣行を尊重しながらグローバルスタンダードの導入を進めます。こうした施策を通じて、持続的な成長とさらなる利益貢献を追求していきます。

 マルチフランチャイズ戦略を通じて、マイクロファイナンスの提供や金融教育等を通じ、新興国における貧困層の社会的自立支援や金融包摂を促進する等、社会的価値の創造にも取り組んでいます。

India

経済成長を取り込み、マルチフランチャイズ戦略を加速させる 常務執行役員 アジア事業戦略本部長 木許 剛 SMICC CEO and Managing Director Shantanu Mitra

 SMBCグループはインド国内で三井住友銀行の支店を展開しており、大企業を中心としたホールセール業務を提供しています。インドは2023年に世界最大の人口大国となりました。また、2030年までの年平均GDP成長率は約7%が見込まれ、2028年には世界第3位の経済大国になると予想されています。SMFG India Credit Company (以下、SMICC)は傘下に住宅金融子会社も有するノンバンクとして、中小企業や個人向けの金融サービスを提供しています。SMBCグループでは、インドにおける中小企業やリテール市場での成長機会を捉え、同国での事業をさらに成長させるため、2021年にSMICCを連結子会社化し、2024年には完全子会社としました。引き続き、リテール事業を含むフルラインの金融プラットフォーム構築に取り組み、インドの金融業界のさらなる発展に貢献していきます。

 次ページでは、インドにおけるSMICCの強みや今後の展望、SMBCグループとの協働について、SMICC CEOのShantanu Mitraと当社アジア事業戦略本部長の木許剛が行った対談の様子をご紹介します。

Shantanuインド経済はコロナ禍を経て力強い回復を遂げており、今後も高い経済成長が見込まれています。この経済成長を牽引する中小企業や個人消費者を支える上で、ノンバンクは大きな役割を果たすと考えています。

 インドは28の州(states)と、8つの連邦直轄領(union territories)からなり、それぞれ文化や言語が異なる多様性に富んだ国です。そのようなインドにおいて、SMICCはDiversified Non-Banking Financial Company (NBFC)として多角的に事業を展開しています。15年以上の業歴があり、Diversified NBFCトップ10社のうちの1社として、農村部と都市部の消費者、中小企業、Affordable House(中間層向け住宅)の購入希望者にサービスを提供しています。このように、SMICCはノンバンクとして、地域の多様性に対応しつつ、あらゆる人に金融サービスを提供し、国内の銀行ネットワークを補完する重要な役割を担っています。

 SMICCは都市部、地方農村部、デジタル、住宅金融の4セグメントで金融サービスを提供し、支店の約70%は人口10万人未満の都市に立地しています。私たちの強みは地域に深く根差したビジネスモデルで、郊外・地方農村部のお客さまに寄り添い、迅速かつきめ細かなサービスを提供しています。加えて、従業員への教育にも注力し、サービスの維持・向上に努めています。このように、長年にわたる地域社会に根差した活動を通じて、独自の知識やノウハウを蓄積し、競合他社との差別化を図ってきました。

木許今後のインド経済の成長は、個人の所得向上・消費拡大や中小企業の業容拡大が牽引していくと見込んでいます。その中で、SMICCが地方農村部を含めたインド全土のお客さまにサービスを提供することを通じて、SMBCグループも、インドとともに成長していきたいと考えています。そのために、SMBCグループはSMICCの資金調達力向上を支援するとともに、グループの顧客基盤とSMICCの金融サービスを掛け合わせて、インドにおける競争力を高めていきます。その中でも特に成長ポテンシャルの高い領域のひとつが、SMICCが積極的に取り組んでいるデジタル事業ですが、Shantanuさんはその成長性についてどのように考えていますか。

Shantanuインドではあらゆる分野、特に金融サービスのデジタル化が着実に進んでいます。その契機となったのは、2009年に政府が導入した国民一人ひとりに固有IDを付与する本人確認システムです。このシステムを土台として経済活動のデジタル化が大きく進展し、キャッシュレス決済が広く普及しました。こうした潮流も後押しし、インドにおけるデジタルビジネスは今後ますます成長すると見込んでいます。

 SMICCは優れたフィンテック企業との協働を積極的に進めており、パートナー企業が集約した顧客のデータベースを活用することで、新規顧客の開拓や融資サービスの提供が容易になりました。先進的なフィンテック企業のデジタルソリューションを活用し、幅広いお客さまに当社の金融サービスを提供しています。

業績

木許Shantanuさんがおっしゃる通り、デジタル技術・インフラを活用して、これまで金融サービスが十分に行き届いていなかった地域の方々が、身近で利用できるようになるのは素晴らしいことですね。SMBCグループの中期経営計画においても、主体的に取り組むべきマテリアリティのひとつに貧困・格差を掲げており、SMICCの取組は、まさに金融包摂の実現に寄与していると言えるでしょう。SMICCと一緒に、デジタルプラットフォームの利便性向上や地方農村部へのマイクロファイナンスの提供等を通じて、社会課題の解決に貢献していきたいと思います。

Shantanuありがとうございます。私たちも金融リテラシーの向上や女性の雇用、環境問題といった社会課題の解決は企業としての重要なミッションであると認識しており、SMBCグループの掲げるマテリアリティにも通じるものがあると考えています。私たちの社会貢献活動のひとつに、酪農業を営む家庭の収入の安定化や生活の向上に資するため、乳牛の健康維持を支援する取組があります。また、農村部における女性の雇用機会の創出にも取り組み、貧困・格差の解消を図っているほか、マングローブ植林活動といった環境課題の解決にも注力しています。こうした1つひとつの取組が社会的価値の創造の実現に寄与するものであると確信しています。

インドの農村部で牛の健康診断「Pashu Vikas」を実施

木許2024年に三井住友銀行は、お客さまからお預かりした資金を保健医療の改善や貧困解消等の社会課題に対応するプロジェクトに充当する「ソーシャル預金」を設立しました。こうした取組はまだ始まったばかりですが、SMICCの活動も対象プロジェクトのひとつとしつつ、グローバルな社会的価値創造の一助にしたいと考えています。

Shantanu社会的価値の創造と経済的価値の追求の両面において、SMBCグループとSMICCがシナジーを創出し、インドの金融業界の発展のために尽力できることを嬉しく思います。経済的価値の追求では、SMBCグループの顧客基盤を活かし、インドでサプライチェーンを有する企業に対して、販売金融等のソリューション提供を進めていきます。こういった取組を通じて、貸出金残高を今後3年間で倍増させ、2023年度に12%程度だったROEを18%超まで引き上げることを目指しています。

 私は、SMICCが企業として成長することはもちろん、お客さまとともに成長していくために何ができるかを常に考えるよう心掛けています。ニーズに応じたきめ細かなサービスをインド全域のお客さまに提供するために、支店ネットワークの拡大やスタッフの育成にも継続して注力していきます。

木許SMICCの経営陣との定期的なコミュニケーションにより、国内外で得た知見を共有し、ベストプラクティスを探求していくことを通じて、年月を重ねるごとにグループ連携が深まっていると感じています。今後もSMBCグループはSMICCとの協業を加速し、質の伴った成長の実現を目指していきます。マルチフランチャイズ戦略を実行していく中で、SMBCグループへの貢献利益(のれん償却前)は、2028年度に1,200億円を目指していますが、SMICCには、その中核的な役割を担い、3~4割の貢献を期待しています。この目標の達成に向け、SMBCグループは株主として、またビジネスパートナーとしてプロアクティブに協働していきます。

Columnアジア・大洋州本部
共同本部長メッセージ

Rajeev Kannan常務執行役員
アジア・大洋州本部 共同本部長
SMICC取締役会長を兼務

APACにおけるSMBCグループの事業戦略

 SMBCグループは、APAC地域において広範な拠点網を持ち、銀行・証券・リース等のビジネスを展開しています。企業を中心に付加価値の高いソリューションを提供し、過去5年間でトップラインは2倍に成長しました。また、顧客とのリレーションを深めつつ、セクターへの知見を強化し、金利・非金利収益いずれも伸ばしてきました。

 加えて、サステナビリティの分野では、ファイナンスを通じて顧客の脱炭素化を支援し、市場での存在感を高めています。また、デジタルの分野も、自社の業務効率を高めると同時に、顧客とのエンゲージメントの質を高めていく上で重要です。そういった取組を通じて、社会的価値と経済的価値双方を追求し、持続可能な成長に貢献していきます。

 マルチフランチャイズ戦略では、パートナー企業を通じて、インド・インドネシア・ベトナム・フィリピンにリテールや中小企業の顧客基盤を築くことができました。SMBCグループの顧客への提案活動も含めて、協働によりシナジーを生み出し、ROE向上やマーケットプレゼンスの拡大を図るとともに、社会的価値の創出にも取り組んでいきます。

マルチフランチャイズ戦略のパートナー企業との協働を通じて付加価値を拡大

 APAC地域でビジネスを展開する企業に対して、よりきめ細かなサービスを提供していきたいと考えています。マルチフランチャイズ戦略のパートナー企業と協働することにより、サプライチェーンファイナンスや給与支払管理、販売金融等のサービスを拡充していきます。

 また、APAC地域のイノベーションに貢献すべく、スタートアップ支援を行う「SMBC Asia Rising Fund」を立ち上げました。パートナー企業とも連携して、デジタルトランスフォーメーションを牽引していきます。

SMICCの取締役会長として注力すること

 1997年に三井住友銀行でのキャリアを開始して以来、SMBCグループがAPAC地域でビジネスを拡大するための一翼を担ってきたことを、大変誇らしく感じています。これからは、SMICCの取締役会長としても、人口増加や対内投資拡大等により高い経済成長が見込まれるインドで、SMBCグループのさらなる発展に貢献していきます。

 2024年3月にSMICCを完全子会社化しましたが、三井住友銀行の支店とともに、企業からリテール・中小企業、地権者等のお客さまにローンや金融サービスを提供していきます。

 SMICCには、多様な金融サービスの提供を通じて、地域社会の発展を支援するという企業精神があります。この考え方を背景に2024年半ばより「Pragati hi Aapki Nayi Shakti Hai」(progress is your new power)という新たなブランドイメージを発信しますが、SMICCは発展を志す個人や企業を支援していくことに引き続きコミットし、地域社会に貢献していきます。

Vietnam

 ベトナムでは、2023年10月にFE Creditの親会社であるVPBankに15%出資し、持分法適用関連会社化しました。

 2021年10月に出資した持分法適用関連会社のFE Creditについては、ベトナム経済の低迷により与信関係費用が増加し、新規貸出が減少していましたが、SMBCグループは、親会社であるVPBankとの連携を一層強化して継続的に支援しています。 SMBCグループの信用力を活用した資金調達力強化や人的サポートを通じたガバナンス高度化等を継続し、今後もVPBankと一体となり、FE Creditの経営基盤強化をサポートしていきます。

 VPBankには、ベトナムで事業を展開する三井住友銀行のお客さまである日系多国籍企業を、数多く紹介しています。サプライチェーン・ファイナンスやディーラー・ファイナンス等の地場金融機関ならではのサービスを提供し、VPBankの事業拡大をサポートしています。 引き続きVPBank・FE Credit両社のSMBCグループとの連携を深化させ、ベトナムでのさらなるビジネス基盤の強化およびプレゼンスの拡大を目指していきます。

VPBank 業績(連結)FE Credit 業績(連結)

Indonesia

 インドネシアでは2013年に、マルチフランチャイズ戦略の足掛かりとしてBTPNを持分法適用関連会社化しました。2019年には、ホールセールビジネスに強みがあるインドネシア三井住友銀行とBTPNを合併した上で連結子会社化し、フルラインの商業銀行となりました。現在、総資産は2兆円に迫り、インドネシアで10番目の規模まで成長しています。

 足元では、デジタルバンク「Jenius」やSME向けデジタルサービス「TouchBiz」等、デジタル戦略を加速させています。2024年3月には、オートローン会社のOTO/SOFを連結子会社化しました。ジョイントファイナンスや相互送客等を通じて、リテールビジネスも強化していきます。

 SMBCグループが誇る法人の顧客基盤を活用したサプライチェーンビジネスや、ガバナンス体制の高度化プロセス等、インドネシアで蓄積したマルチフランチャイズ戦略のノウハウを他の対象国に展開し、ビジネスを拡大していきます。

BTPN 業績(連結)

The Philippines

 フィリピンでは、2021年に初めてRCBCに出資し、その後、2023年7月に追加出資を行って持分法適用関連会社化しました。SMBCグループが実施した資本増強や調達支援が奏功し、RCBCの2023年度の貸出金残高は堅調に増加し、増収増益を達成しています。

 フィリピンの地場金融サービスが必要なSMBCグループのお客さまに、RCBCを活用したソリューションを提案する等、連携して幅広いニーズに対応しています。

 たとえば、SMBCグループと協働で企画・開発したキャプティブ・ファイナンス・キャンペーンや残価設定型自動車ローンを導入し、順調に成約数を積み上げています。

 加えて、取引先企業の従業員に対して、SMBCグループとともに金融リテラシー向上プログラムを提供する等、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。

 引き続きSMBCグループとの協働を活性化させ、フィリピンでのプレゼンスのさらなる拡大を目指していきます。

RCBC 業績(連結)