CFOメッセージ

MESSAGE FROM GROUP CFO 不透明な環境においても、中期経営計画の最終年度として施策をしっかり仕上げ、ROE改善と高い利益成長の両立を通じて、持続的な企業価値向上に努めていきます。 取締役 執行役専務 グループCFO兼グループCSO 安地 和之

 2025年4月にグループCFO兼グループCSOに就任しました。当社は、CFOとCSOの兼任に特長があります。財務戦略と事業戦略は一体不可分であり、CFOとして経営資源の適切な配賦によるROEのさらなる引き上げを、CSOとして重点戦略の策定・推進による期待成長率、PERの向上に尽力してまいります。

2024年度の振り返り

 2024年度は、マイナス金利の解除に加え、円安・株高・米国金利の高止まり等、良好な事業環境の下でスタートし、中期経営計画の施策を加速させて積極的にアップサイドに挑戦することで、SMBCグループとして初の1兆円を超える親会社株主純利益を目指すこととしました。本業については、国内において「Olive」によるリテール顧客基盤の拡大を進め、コーポレートアクションの活発化に伴う資金ニーズも捕捉する等、好調に推移しました。海外においても、Jefferiesとの連携によるCIBビジネスの強化やアジアのマルチフランチャイズ戦略が進展しました。

 一方で、政策保有株式の売却益の大幅な上振れ等もあったことから、低採算アセットの売却や過払債務の抜本的な引当等、将来の収益力向上のための手当を実施しました。年度末には米国の関税政策による影響を踏まえて予防的引当も計上しましたが、連結業務純益は前年比1,591億円増益の1兆7,193億円、親会社株主純利益は前年比2,150億円増益の1兆1,780億円とそれぞれ過去最高益を更新するとともに、東証基準ROE8%の目標も1年前倒しで達成しました。

2025年度の業績目標

 2025年度の業績目標は、連結業務純益は1兆8,500億円、親会社株主純利益は1兆3,000億円としました。これは、4月初めの米国の関税政策の公表によりマーケットが大きく変動する中、この不透明な環境が我々の業績にどの程度影響を及ぼすか、決算発表直前まで経営陣で議論して決めたものです。当初想定していた金利、為替、株価の前提条件の見直しに加えて、ビジネスフローへの一定の影響も想定し、できる限り合理的に影響を勘案して、連結業務純益、親会社株主純利益ともに1,000億円のマイナス影響を織り込みました。先行きの見通し難い状況ですが、中期経営計画の最終年度として各施策を推進し、前年比10%以上の増益を目指していきます。

 この目標を達成すると、現中期経営計画でのEPS成長率は年率19%を超え、政策保有株式の売却益の増加影響を除いても13%超の水準となります。さらなる成長を目指して、利益拡大と適切な資本コントロールを行っていきます。

企業価値向上への取組

 企業価値の向上に向けて、弛まぬ努力を続けていきます。持続的なROEの改善に加えて、PERを高めていくこと、とりわけグロース投資家が株主に占める比率が増加する中、環境に左右されない成長期待を自ら創り出していくことは一層重要になっています。ROE・PERの双方を引き上げることで、PBRのさらなる向上を目指していきます。

(1)ROEにこだわった業務運営

 現中期経営計画から東証基準ROEの目線を掲げ始め、ROEを意識した運営が社内に浸透してきました。CFOとして、適切な資本配賦を通じてROEをさらに改善すべく、低採算アセットの削減と高採算アセットの積み上げを加速し、2025年度はROE9%程度を目指します。

 事業ポートフォリオ入替の肝は、海外の低採算アセットの削減にあります。海外ビジネスは、国内がマイナス金利の厳しい環境にあった中、グループの成長を牽引してきましたが、トップラインを重視し、採算性の低い案件に取り組むケースもありました。2023年度の米国貨車リース事業の売却に加え、2024年度は損失を伴いながらも低採算なプロジェクトファイナンスを売却し、2ヵ年でRWAを8.4兆円削減しました。2025年度も一段と踏み込んだ低採算アセットの削減を進めていきます。

 こうして捻出した資本は重点戦略領域に振り向けていきます。国内では、大企業ビジネスは資本効率が高く、金利上昇やコーポレートアクションの活発化でさらなる成長が期待できます。銀行と証券の兼務者の拡大による銀証一体運営の強化で資本効率をさらに高めながら、この成長を捕捉していきます。リテールビジネスでは、クレジットカードビジネスの強化や、顧客の買物に伴う決済起点のファイナンスの強化で採算性を引き上げていきます。海外では、CIBビジネスにおいて、プライマリ・セカンダリ一体運営の強化に取り組み、引受能力の向上、プロダクトの拡充等により、アセットに頼らない資本効率の改善を進めていきます。

 また、ROEの引き上げにはコストコントロールも重要です。国内店舗の軽量化・効率化やグループ機能の集約等の施策を通じて、この2ヵ年で950億円のコスト削減効果が出てきており、ベース経費全体では現中期経営計画の3ヵ年で横ばいを目指していきます。同時に、将来の成長に向けて必要な投資・経費を投入し、利益成長の加速につなげていきます。

(2)期待成長率の向上と資本コストの抑制

 PERの要素のひとつである期待成長率の向上については、中長期的な成長が見込まれる事業に注力し、戦略や目指す利益水準、その進捗や成果を丁寧に説明することを通じて高めていきます。

 国内ビジネスは、国内金利の上昇に向けた取組により、競合他社との差別化が図れてきています。リテールビジネスでは、「Olive」のアカウント開設数が570万件を突破し、預金残高は競合他社比でも高い増加率を実現しています。その結果、「Olive」は2024年度に当初想定よりも1年早く黒字化を達成することができ、2028年度には800億円の収益貢献を期待しています。また、外部パートナーとともに「Olive」の利便性のさらなる拡充を図っており、PayPayとの提携は、キャッシュレス決済市場の拡大を通じて、顧客基盤のさらなる拡大につながると考えています。SBI証券との提携では、「デジタル富裕層」の資産運用への対応を強化していきます。ホールセールビジネスでは、中小企業向けの総合金融サービス「Trunk」をリリースしました。デジタルでの効率的な顧客基盤の拡大を通じて、法人顧客からも粘着性の高い預金の獲得を進め、金利ある世界での収益力を強化していきます。

 海外においては、マルチフランチャイズ戦略での収益化を急ぎます。日本が再成長を始めたとはいえ、より高い成長の実現には、アジアの成長を取り込むことが不可欠です。一方で、想定していた成果がまだ出ていない状況を重く受け止めています。これまで、出資先の経営への関与が十分でなかったのではないかと考えており、事業戦略や業績計画の策定段階から現地に入り込み、出資先のマネジメントとより密に経営管理をする体制に変更していきます。そのほか、ベトナムの出資先では経営陣の刷新や与信基準の厳格化等、痛みを伴う改革も実行しており、早期のキャッチアップを目指します。4つの戦略対象国の中でも、インドは今後の成長を特に期待している国であり、商業銀行YES BANKへの20%の出資を発表しました。外資系金融機関による商業銀行への出資は極めて珍しい中、ディシプリンの利いた価格交渉ができたと思っており、今後彼らの成長をサポートし、シナジーの追求にも努めていきます。また、CIBビジネスは米国をはじめとして成長余地が大きい領域です。Jefferiesとの協働案件は250件を超えましたが、両社の強みを掛け合わせた協働モデルを確立し、グローバル全域で協働をさらに推進していきます。

 資本コストの抑制に向けては、認識している8%程度の水準から低減すべく、経営基盤の強化や社会的価値の創造、非財務情報を含めた情報開示の拡充に取り組みます。特に、安定したシステム基盤の確立や人的資本経営の推進は、経営基盤の強化において肝要です。

 IT投資の重要性はますます高まっており、「Olive」や「Trunk」等の成長施策への投資を通じて収益力の強化を図るとともに、サイバーセキュリティやガバナンス強化のための経営基盤投資も行います。現中期経営計画での投資額を6,500億円から8,000億円に増額し、生成AIの投資枠も新たに設定しており、具体的なAI活用事例も生まれてきました。今後はAIの普及を前提として、業務効率化への活用にとどまらず、AIを主軸に据えたビジネスモデルへの転換も必要になってきます。インフラ整備や社員のマインドセットの変革も進め、AI-leading Financial Institutionとしてのブランドを確立していきたいと考えています。

 また、人的資本投資について、2025年度に三井住友銀行で前年比8%増を見込んでおり、成長領域へのリソース投入や専門人材の確保等を通じて、人材力を最大化させます。2026年1月には、三井住友銀行で抜本的な人事制度改定を予定しています。ポイントは、「実力本位」「プロフェッショナリティ」「DE&I」の3点で、特に「実力本位」については、役割と貢献に基づいた評価制度により、年功序列から脱却したいと考えています。経営理念のひとつである、「勤勉で意欲的な社員が、思う存分にその能力を発揮できる職場を作る」の実現を目指します。

資本政策

基本方針

 資本運営は、健全性確保を前提に、株主還元強化と成長投資をバランス良く実現していきます。健全性の指標であるCET1比率は、規制最終化の影響を織り込み、その他有価証券評価差額金を除いたベースで10%程度を目標としています。これは規制上求められる所要水準8.0%に、さまざまなストレスシナリオにおいても所要水準を維持できる2.0%のバッファーを加えた水準です。2025年3月末時点では10.2%とレンジ内にあることも踏まえ、ROEの向上も意識しながら、今後も機動的に資本を配賦していきます。

株主還元強化

 株主還元は配当を基本に、配当性向40%とし、累進的配当、すなわち、原則として減配せず、配当維持もしくは増配を実施する方針を維持した上で、ボトムライン成長を通じて増配を目指していきます。2024年度の配当は最終的な利益の上振れを踏まえて1株当たり122円に引き上げました。さらに2025年度の配当予想は、前年比14円増配の1株当たり136円としました。自己株取得については、2025年5月に1,000億円の実施を発表しました。業績の進捗や資本の状況、成長投資の機会、当社の株価水準等を踏まえ、期中の追加実施も検討していきます。

成長投資

 成長投資については、資本効率を意識して高成長が期待できる領域にフォーカスしていきます。オーガニックについては、特に日本の再成長の追い風を背景とした国内の旺盛な資金需要に応えていきます。インオーガニックについては、「資産・資本効率の高い投資」および「中長期的な成長に向けたビジネスプラットフォームを創るための投資」の2つのターゲットは不変です。アジアでは、YES BANKへの出資によってマルチフランチャイズ戦略に必要なピースが揃いました。今後、既存先への追加出資やボルトオン出資は必要に応じて検討しますが、出資対象国の拡大や新規ビジネスへの出資の予定はなく、既存出資先の収益力向上に注力していきます。

政策保有株式の削減

 2024年11月に、5ヵ年で簿価6,000億円という削減計画を公表し、2024年度は、標準進捗を大幅に上回る1,850億円の削減ができました。足元の先行き不透明な環境の中、売却交渉は停滞しやすい状況ですが、2025年度も、標準進捗である1,200億円以上の削減をしっかりと進めていきます。

 連結純資産に対する政策保有株式の時価の割合についても、次期中期経営計画期間中に20%未満に引き下げるべく削減を進めていきます。

2030年頃に目指す
財務的成果

 2024年5月に、2025年度でROE8%、次期中期経営計画でROE9%程度を目指すとお示ししましたが、1年前倒しでROE8%を達成しました。そこで、この目指す姿をアップデートし、次期中期経営計画でROE10%程度、その次の中期経営計画では親会社株主純利益2兆円、ROE11%程度を目指すこととしました。現在、次期中期経営計画の検討を進めていますが、「日本」「アジア」「資本市場」という3つの領域を中心に成長を追求するという方向性は見えてきました。持続的な成長を実現すべく、1年かけて計画を具体化していきます。

ステークホルダーの
皆さまとの対話

 2024年度、日本証券アナリスト協会より、銀行部門のディスクロージャー優良企業に選定されました。高い評価を頂戴したことを大変嬉しく感じています。不透明な業務環境が継続する中、今後もステークホルダーの皆さまの関心の高い分野について、タイムリーに、分かりやすい情報開示を行っていきます。

 2026年度は新しい中期経営計画が始まります。投資家をはじめとする皆さまと建設的な対話を重ねることはグループCFOとしての重要なミッションであり、学びや気づきを得られる貴重な機会です。皆さまからのご意見を取締役会やマネジメント間で共有した上で次期中期経営計画を策定し、持続的な成長と企業価値向上につなげていきます。