社外取締役座談会

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“社外取締役の意見を踏まえた形で2030年頃に目指す財務的成果をアップデートできたことは非常に意義があると感じています。”
社外取締役 ジェニファー ロジャーズ
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“SMBCグループが企業価値を最大化するためには、グローバル、デジタル、人材のケイパビリティを高めることが不可欠です。”
社外取締役(2025年6月に退任) 桜井 恵理子
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“グローバルベースで戦略を整合させていくということが今後ますます重要になってきます。”
取締役 執行役専務 グループCFO兼グループCSO 安地 和之
安地: SMBCグループは、2025年度を最終年度とする3ヵ年の中期経営計画で、「社会的価値の創造」と「経済的価値の追求」を両輪に、企業価値の向上に取り組んでいます。社外取締役のお二人には、経営を監督する立場から、これら2つの観点について率直なご意見をいただければと存じます。まず、社会的価値の創造について、サステナビリティ委員会の委員長を務めていらっしゃる桜井さんからご意見をいただけますでしょうか。
桜井: まず、ここ数年のSMBCグループにおけるサステナビリティの取組についてご説明します。サステナビリティ委員会が発足したのは2021年です。その前年から、サステナビリティ委員会を内部委員会として設置することについて、取締役会で議論を重ねてきました。その過程で、SMBCグループがいかに持続可能性を高めていくのか、そして持続可能な社会の実現にどのように貢献していくかといった根本的な議論を、執行サイドの皆さまも含めて実施できたことは非常に有意義だったと考えています。
2023年には、社会的価値の創造という言葉を中期経営計画に盛り込み、前面に打ち出しました。その際、私が執行サイドにお願いしたことは、従業員一人ひとりが社会的価値の創造を意識して日々の業務に取り組んでほしいということでした。しかし、初めの1年間は、従業員サーベイで「社会的価値の創造は良いことだと思ってはいるが、具体的に何をすべきか分からない」といったコメントも見られました。そのため、「全員参加」をスローガンに掲げ、まずは一人ひとりが行動することを推奨した結果、現在では教育格差や経験格差の是正につながる活動等、インパクトのあるアクションに結びついていると認識しています。また、ステークホルダーからも好意的な反応が数多く寄せられています。
安地: この1、2年の間で、サステナビリティへの取組に対する姿勢について、国や地域によって差が生じており、先行きの不透明感が増しています。そのような状況を踏まえ、どのような対応が必要だとお考えでしょうか。
桜井: 気候変動やDE&I等の取組について、潮流の変化が生じていることは確かです。しかし、それによってSMBCグループの取組の方向性が大きく変わるものではないと認識しています。SMBCグループは5つのマテリアリティとして、「環境」「DE&I・人権」「貧困・格差」「少子高齢化」「日本の再成長」を掲げています。脱炭素に関して言えば、SMBCグループの主要市場である日本はエネルギー資源が極めて限られた国であり、グリーンイノベーションを実現することは、「環境」だけでなく「日本の再成長」にとっても重要な取組となります。
また、DE&Iについても、その根源的な意味を考えると、一人ひとりが活躍でき、やりがいを持って働ける社会や企業を目指すということに尽きます。特に現在の日本では、「女性の活躍が難しい」「国際化が他国に比べて遅れている」といった社会課題がある中で、SMBCグループとしても何らかの対応をしていかなければなりません。そもそも女性が活躍できる職場環境は、男性にとっても働きやすい職場環境になるはずであり、そのような取組を進めていくことは当然です。人事施策については、取締役会やサステナビリティ委員会の場で積極的にさまざまな提言をしています。たとえば、外資系企業では一度退職した人が再び入社する「アルムナイ採用」は珍しくなく、そのような制度をSMBCグループでも導入しました。多様な人材がさまざまなアイデア、知識、バックグラウンドを持って活躍できる職場環境を整えることこそが本来のDE&Iであると考えていますので、引き続き推進していただきたいと思います。
ロジャーズ: 今、桜井さんがおっしゃった内容も含め、サステナビリティの取組については、取締役会やサステナビリティ委員会、リスク委員会で継続的にさまざまな議論がなされています。私の参加しているサステナビリティ委員会では、多様な専門家の知見や意見を取り入れながら活発に意見交換をしています。私とチャールズ D. レイクⅡさんは、米国出身の社外取締役として、積極的かつ率直に意見を経営陣に伝えることで、先ほども言及のあった気候変動やDE&I等に関わる取組について、米国の情勢を踏まえた議論につなげています。
私自身も、桜井さんと同様に、気候変動やDE&Iの取組の方向性は根本的に変わっていないと認識しています。とりわけ脱炭素の取組に関しては、むしろ、重要性が増していると感じています。このような環境では、SMBCグループが2023年に公表した「Transition Finance Playbook」の役割が、より一層大きくなるのではないでしょうか
世の中は極めて複雑に変化していますが、SMBCグループが社会に貢献するために何ができるか、という根本的な部分は変わっておらず、マテリアリティの背景にある普遍的な考え方は正しいと信じています。一方で、変化に対応することも必要となるため、さまざまな観点から継続的に取締役会において議論を行うべきです。特に、私は弁護士でもありますので、リスクの低減に資する助言を心掛けていきます。
安地: ロジャーズさんからリスクに関するご指摘がありましたが、執行サイドの視点はどうしてもオポチュニティに偏りがちです。リスクとオポチュニティのバランスを取りながら取組を進めていくことが大切ですので、引き続きさまざまなご意見をいただければ幸いです。
次に、経済的価値の追求の話に移りたいと思います。2025年5月に、中期的に目指す財務的成果をアップデートし、2030年頃を目途に、当期純利益2兆円、ROE11%程度を達成することを掲げました。これまでSMBCグループは、どちらかと言えば保守的な目標設定をしており、投資家との対話においても、「よりチャレンジングな目標設定をすべきだ」というご意見を多くいただいていました。このようなご意見を踏まえ、中期的に目指す財務的成果については蓋然性の高いシナリオに基づいたものへと変更しましたが、お二人のご意見をお聞かせください。
ロジャーズ: SMBCグループの業績見通しや目標設定が保守的過ぎるのではないかという意見は、私自身も以前から申し上げていました。また、中期的に目指す財務的成果の設定にあたっても、「成長に対してやや慎重すぎるのではないか」「グローバルソリューションプロバイダーを目指すのであれば、もっとスピード感を持って実現すべきではないか」といったことをお伝えしてきました。そのような意見を踏まえた形で、2030年頃に目指す財務的成果をアップデートできたことは非常に意義があると感じています。また、米国の関税措置をはじめ、コントロールできない要因が多々ある中で、ステークホルダーの皆さまが不安を感じているからこそ、SMBCグループとして明確な目標を伝えることが必要であると考えています。さらに、それをどのように目指していくのかについて、「日本の再成長」「アジアの成長」「資本市場の成長」の3つの領域で成長を追求するという方向性を示したことも評価しています。
また、今後はSMBCグループの持続的な成長に向けて、いかに差別化を図るのかが重要になるでしょう。たとえば、SMBCグループは、デジタルやAIに関する投資戦略において、かなり先進的な目標を掲げ、現中期経営計画期間中のIT投資額を8,000億円にまで引き上げました。国内では、個人向け総合金融サービス「Olive」や、法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk」をリリースしました。デジタルを活用することで、個人のお客さまに対しても、中小企業のお客さまに対しても、効果的なビジネスを展開できると考えています。AIへの投資にも力を入れており、次期中期経営計画期間までの合計で500億円の投資枠を設けています。SMBCグループが掲げるAI-leading Financial Institutionの実現をぜひ応援したいと思っています。さらに、インオーガニック投資の推進については、インドの商業銀行YES BANKへの出資を決定しました。アジアのマルチフランチャイズ戦略の中でも、インドは特に注目されるべき国であり、成長ポテンシャルが高い市場です。この出資案件はPBRが低く、プレミアムを抑えた形で出資できた点も評価しています。また、インドの商業銀行ビジネスは、当社のマルチフランチャイズ戦略における最後のミッシングピースとも言える存在であり、SMBCグループにとって非常に重要な位置付けにあると認識しています。本件の検討時には、投資リターンをしっかりと見極めると同時に、SMBCグループの戦略と整合するように案件の合理性について丁寧に議論を進めました。一方で、過去の投資案件の反省も踏まえ、出資後のフォローアップについては、出資先の状況を定期的に確認し、資本効率を適切に評価するための体制をしっかりと整備する必要があると感じています。
桜井: ご指摘の通り、これまでさまざまな出資を行ってきましたが、必ずしもすべてが想定通りに進捗した訳ではなく、減損が発生する事例もありました。過去から学び、取締役会では成長投資を後押しするためのさまざまな取組を行っています。たとえば、投資時に適切な分析・評価を行えるよう、出資を検討する国のマクロ経済情勢等について、専門家からレクチャーを受ける機会が設けられています。また、事業部門の担当者からも、セグメントごとの成長戦略について詳しい説明を受けています。投資後のPMI(Post Merger Integration)については、実効性を高めるために現地の経営陣と定期的にコンタクトを取り、状況把握に努めています。加えて、日本からも、出資先の経営を支えられるよう、地域をよく知る人材の育成を進めています。ガバナンスに関しては、取締役会で個別分野ごとの進捗を確認する機会が設けられているほか、マルチフランチャイズ戦略全体としてのポートフォリオの状況についても、定期的に報告を受けています。
安地: 執行サイドの視点から申し上げると、減損が生じるということは、当初想定したシナジーが発現しなかったことを意味しており、PMIへの取組が甘かったと捉えています。これを踏まえた体制面の見直しを行い、従来は出資を検討するチームとPMIを推進するチームが別々でしたが、数年前から出資を検討したチームが自ら現地でPMIを行う形に変えています。また、業績計画について、出資先から受けた報告を本社が査定する形式から、現地に入り込み、マーケットを見て、一緒に計画を作成する方向に転換しています。インドネシアやベトナムの出資案件における減損を重く受け止め、投資の入口の段階でディシプリンを利かせることに加え、PMIについても、今まで以上にしっかりと現地に入り込んで取り組んでいきます。
安地: では最後に、社会的価値、経済的価値の両方を含めて、総括的なご評価をいただければと思います。桜井さんは、これまで10年の長きにわたり当社の社外取締役を務めてこられましたが、SMBCグループがどのように進化してきたか、あるいは今後何が課題なのか、ぜひお聞かせください。
桜井: 10年前を思うと、いかにSMBCグループが進化し、そして社会も変化してきたかを強く感じます。たとえば、取締役会の議題において10年前は国内の話がほとんどだったと思いますが、現在の取締役会ではさまざまな地域の話をするようになり、グローバル戦略が大きく進化したことを感じています。
私が社外取締役を務めてきた中で、特に意見を申し上げてきたテーマが3つあります。1つ目が今お話しした「グローバル」です。2つ目が「デジタル」であり、今やすべてのプロジェクト、案件、施策が、何らかの形でデジタルに紐付いています。10年前を思い出すと、AIという言葉はその時から私たちの取締役会で出ていたものの、まだ夢のような話でしたので、隔世の感があります。そして3つ目が「人材」であり、私が常々重視してきたところです。人のポテンシャルは、その人のやる気と周りからの期待によって大きく花開くものであり、最近のSMBCグループの皆さんを見ていると、そのことを実感します。
SMBCグループが企業価値を最大化するためには、今申し上げたようなグローバル、デジタル、人材のケイパビリティを高めることが不可欠です。そのような考えの下、この10年間、さまざまな議論を重ねてきました。それがもしSMBCグループの企業価値向上につながっていたとしたら嬉しく思います。社外取締役としての役割は終えますが、引き続きSMBCグループを厳しい目で見守りつつも、温かい心で応援していきます。
安地: ロジャーズさんは現中期経営計画のスタートと同時に社外取締役にご就任いただきました。これまでの2ヵ年を振り返っていただくとともに、今後ここに注目していきたいといった点があれば教えていただけますでしょうか。
ロジャーズ: PBRは1倍程度まで改善し、SMBCグループに対する投資家の関心がバリューからグロースへとシフトしていることは非常に大きな進展であり、中期経営計画で掲げた目標についても達成が視野に入っています。しかし、先ほど申し上げた差別化という点については、より一層力を入れて取り組んでいただくことを期待しています。
また、監督という立場で言えば、グローバルガバナンスが重要なテーマです。先日、桜井さんとニューヨークの拠点を一緒に視察し、米国の取締役会の監督状況を確認し、現地のさまざまな経営陣ともお会いすることができました。このような活動を通じて社外取締役としての監督義務を果たすとともに、世界中の優秀な人材と会ってさまざまな話をすることが、グローバル化の実現に向けて重要な取組のひとつになるのではないかと思います。また、YES BANKやJefferies等、新しいパートナーとの連携を強化していく中で、地域による文化の違いにどのように対応すべきかといったことも含め、多様な観点で私たち社外取締役が監督すべきだと思います。特に課題を感じているのは、「リスクリターンをどう測るのか」という点です。ベトナムで減損を計上した事実もありますので、成長投資を行うだけでなく、ディシプリンの観点からリスクリターンを評価し、投資後のフォローを強化していくべきだと考えています。
また、私はSMBCグループが掲げる「Five Values」の中の「Integrity」という言葉が好きなのですが、コンプライアンスを大切にする企業文化を醸成することも重要です。SMBCグループとして、不正が起こらないようにさまざまな取組を進めていますし、それは当然やるべきことです。しかし、それ以上に、従業員一人ひとりが自発的に「Integrity」を大切にし、事業拡大に努めながら正しいことを守ることが極めて大切であり、そのような文化が浸透しているかを、従業員アンケート等を通じて確認することも必要ではないかと思います。
安地: グループガバナンスやグローバルガバナンスの重要性は、ますます高まっています。私自身は現在、三井住友銀行、SMBC日興証券、三井住友ファイナンス&リース、SMBC信託銀行の取締役を務めているのに加え、取締役ではないものの、米国や欧州拠点の取締役会に必要に応じて出席し、グループ全体の方針や検討事項等を伝えています。さらに、グローバルベースで戦略を整合させていくということが今後ますます重要になってきますので、これらの取締役会での議論の内容を当社の取締役会でしっかりと報告するということをより一層心がけていきます。
また、桜井さんからは人材の話がありましたので、2026年1月に予定している三井住友銀行の人事制度改定について、最後に少しお話をしたいと思います。SMBCグループの投資家向け説明会資料において、「実力本位にする」とか「年功序列を廃止する」といった話を盛り込んでいるのですが、海外の投資家からは「当たり前のことをなぜ言うのか」と言われることが多々あります。そのような、日本ではまだ当たり前ではないことも、SMBCグループでは当たり前のこととなるように、グローバル化に向けて努力していく所存です。本日はお二人から貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。