事業戦略

MESSAGE FROM GROUP CFO 重点戦略領域への経営資源配賦と事業ポートフォリオ変革を通じ、成長を伴った収益性のさらなる引き上げと持続的な企業価値の向上を追求していきます。 取締役 執行役専務 グループCFO兼グループCSO 安地 和之

当社の特長のひとつに、グループCFOとグループCSOを兼任にしている点があります。新中期経営計画において、グループCFOとしては、資本・リスクアセット・経費といった経営資源を戦略的に配賦し、規律ある投資と精緻な管理を通じて、バランスシートと資本の双方のコントロールを徹底します。また、グループCSOとしては、グループ全体を俯瞰してビジネスを捉え、当社の強みである高い企画力と圧倒的な実行スピードを活かして重点戦略を加速させ、事業ポートフォリオの変革を推進していきます。
中長期的に目指す姿の実現に向けて、財務戦略と事業戦略を一体的に運営することで、利益成長とROTE/ROE向上の両方を実現していきます。

前中期経営計画の振り返り

 2025年度は、米国関税政策等を背景に、経済の先行きに対する不透明感が高まる中でスタートしました。しかし、その影響は当初の想定ほど顕在化せず、国内の政策金利の引き上げを含む良好な業務環境を的確に捉え、国内ビジネスを中心に収益を大きく伸ばしました。国内においては、金利のある世界への回帰が進む中、Olive等を通じた預金、決済、資産運用での顧客基盤の強化や、活発なコーポレートアクションの捕捉による貸出金・手数料収入の増加等が収益拡大に寄与しました。海外においては、低採算アセットから高採算アセットへの入替を進めつつ、Jefferiesとの連携を通じた証券ビジネスの拡大等に注力し、事業ポートフォリオの質の向上に努めました。
 収益力の向上と同時に、2025年度末には中東情勢やインフレリスク等を踏まえてフォワードルッキング引当を積み増すなど、将来の下方リスクへの備えも強化しました。そのうえで、親会社株主当期純利益は1兆5,830億円、1株当たり当期純利益は412円と、いずれも過去最高を更新しました。また、東証基準ROEは10%を超え、前中期経営計画で掲げた財務目標も着実に達成し、3ヵ年の計画を良好な形で締めくくることができたと考えています。

中長期的に目指す姿と
新中期経営計画

中長期的に目指す姿

 当社は発足以来、グローバル金融危機の発生やマイナス金利の導入等、数々の逆境に直面してきました。その中でも、将来の飛躍に向けた布石を積み重ねてきた結果、事業環境の好転を受けて業績は大きく伸長し、3年連続で過去最高益を更新しました。
 しかし、現状に満足しているわけではありません。「国内ビジネスでトップ、かつ、グローバルに存在感を発揮するプレイヤー」という高い目標を掲げ、欧米のトップティアに伍していくべく、中長期的にROTE15%、ボトムライン利益2兆円台半ばを目指していきます。

 このROTE15%の実現に向けては、事業ポートフォリオの変革が不可欠です。ポートフォリオの最適化を進め、資本・経費効率を高める「Optimize」、これまでの施策の効果を徹底的に刈り取り、アップサイドを追求する「Capitalize」、将来のコアとなるビジネスを育てる「Build Next Core」という3つの方針に沿って、事業ポートフォリオの変革を進めていきます。具体的には、海外の採算性の低い貸出ビジネスから、マルチフランチャイズ戦略や投資銀行・S&Tビジネス等の高成長・高採算が見込まれる領域へリスクアセットをシフトすると同時に、安定的な国内貸出ビジネスや、資産運用、アセットマネジメント、トランザクションバンキングといったアセットライトビジネスも強化します。これにより、安定性・収益性・成長性のバランスが取れた事業ポートフォリオへの変革を進め、それぞれのビジネスの収益性の向上を通じて、ROTE15%の達成を目指していきます。

新中期経営計画

 事業環境については、国内外ともに堅調な経済の下、旺盛なビジネス機会が続くことをベースシナリオとしています。一方で、国内では金利上昇に伴う預金獲得競争の激化や日本経済の再成長の停滞によるお客さまの事業活動の低下等のリスクを、海外では地政学リスク等に起因するストレス局面も想定しています。中東情勢に関しては、2025年度末にフォワードルッキング引当を積み増し、一定のダウンサイドリスクは吸収可能と考えていますが、原油高や供給制約による企業業績への影響等に引き続き留意し、環境変化に応じた業務運営を行っていきます。

 こうした前提の下、新中期経営計画は、従来の積み上げによる計画策定にとどまらず、中長期的に目指すROTE15%からバックキャストして、今後3年間で到達すべき水準を定めたうえで策定しています。2028年度には、ボトムライン利益を2兆円まで増加させるとともに、経費コントロールやRORAの改善等によってROTE13%を目指します。収益成長と、経費・資本運営の規律を徹底することで、成長を伴う資本効率の改善を実現していきます。

 新中期経営計画では、7つの重点戦略領域を設定しています。国内においては、Olive・Trunk等のデジタルプラットフォームを通じて預金基盤を拡大し、法人ビジネスやウェルスマネジメントビジネスの強化にもつなげることで、トップを目指します。海外においては、貸出中心のビジネスモデルから脱却し、より資本効率の高いCIB・S&Tビジネスへ軸足を移し、マルチフランチャイズ戦略の収益化も進め、ビジネスモデルの構造改革を断行します。また、トランザクションバンキング、アセットマネジメントといったアセットライトビジネスを国内外で強化し、顧客基盤と収益力の強化に加え、戦略領域間の相乗効果も生み出しながら、それぞれのビジネスモデルを進化させていきます。

 なお、初年度の2026年度は、親会社株主純利益で1兆7,000億円を目指します。

資本政策

基本方針

 新中期経営計画においても、健全性の確保を前提に、株主還元の強化と成長投資をバランス良く実現するという資本政策の基本方針は不変です。
CET1比率の運営目線は、地政学リスクの高まりや事業ポートフォリオの変化、政策保有株式の削減に伴う含み益の減少等を踏まえ、3ヵ年をかけて10.5%程度へ引き上げていきます。

株主還元

 株主還元については、当社の株式を長期保有する価値を感じていただけるよう、引き続き配当を基本とし、利益成長を通じた力強い配当成長を実現すべく、配当性向40%を目標とします。また、累進的配当方針についても、従来の「減配しない」から一歩踏み込み、「毎期増配」にコミットし、増配の予見可能性を高めていきます。自己株取得については、資本水準、株価水準、成長投資機会等を総合的に勘案し、より機動的に実施していきます。なお、2026年度の配当予想は、前年比23円増配の1株当たり180円としました。自己株取得については、2026年5月に1,800億円の実施を発表しており、期中の追加実施も検討していきます。また、当社株式をより保有しやすく、魅力あるものとす べく、株式分割と株主優待制度の導入も発表しました。

成長投資

 成長投資については、低採算アセットの削減で捻出した資本を、国内を中心とする高採算アセットへ配賦していきます。前中期経営計画期間においては、プロジェクトファイナンスや非日系のコーポレートファイナンス等における採算性の低いアセットに加えて、米国の貨車リースビジネスやデジタルバンクからの撤退等、主に海外において削減を実施しました。新中期経営計画では国内外を問わず、9兆円分の低採算アセットを削減し、国内の旺盛な資金需要にしっかり応える一方で、3ヵ年でのオーガニックのリスクアセットの増加を5.5兆円に抑制します。

 また、テクノロジーを経営の柱と位置付け、AI・デジタルの活用を一段と加速すべく、IT投資にも資本を配賦していきます。IT基盤の抜本的な高度化や開発力を強化するとともに、AIを活用して社員の生産性やお客さまへの提供価値の高度化、リスク管理の精緻化等の経営基盤の強化にもつなげていきます。一方で、インオーガニック投資については、既存出資先の収益化に注力していく方針です。

政策保有株式の削減

 政策保有株式については、5ヵ年で簿価6,000億円を削減する計画に対し、2025年度までの2年間で、標準進捗を上回る約3,090億円の削減を実現しました。一方で、株高の影響もあり、連結純資産に対する政策保有株式の時価の割合は低下しにくい状況です。2028年度末までに20%未満にするという目標も意識し、お客さまとの交渉を粘り強く継続し、削減計画の前倒し達成を目指していきます。

企業価値向上への取組
- 成長を伴うROTE/ROEのさらなる向上へ

 企業価値向上のため、収益力のさらなる改善だけでなく、持続的な収益成長も追求していきます。欧米のトップティアは収益性指標としてROTEを使用しており、比較容易性から当社もROTEで目標を掲げていますが、国内の投資家が参照する東証基準ROEも着実に引き上げていきます。グループCFOとして、収益力の向上、資本の適切なコントロール、投資家が認識するリスクの低減を通じた資本コストの抑制を推進していくと同時に、競合と比較したROE水準の差も意識して改善に取り組んでいきます。

収益力の向上

 ROTE/ROEを高める第一のドライバーは、分子である収益力の向上です。本業による増益を重視し、着実な利益成長を実現していきます。特に国内においては、活発なコーポレートアクションの捕捉に注力すると同時に、金利のある世界で預金獲得にも注力していきます。当社は、預金獲得力において他社との差別化が図れていると認識しており、Oliveはアカウント開設数が750万件を突破し、メイン口座としての利用も拡大するなど、個人預金残高は競合と比較しても高い増加率を実現しています。また、Trunkの口座数も5万件を超えており、法人顧客においても粘着性の高い預金の獲得を進め、金利のある世界での収益力を強化していきます。海外については、グローバルCIB・S&Tやマルチフランチャイズ戦略等の重点戦略領域へ経営資源を集中させ、収益化に注力していきます。特にマルチフランチャイズ戦略については、これまで投資の成果が出ていないことを虚心坦懐に受け止めています。出資先の経営陣の刷新や与信基準の厳格化等、痛みを伴う改革も含めて立て直しを進めており、各出資先の業務計画に対する関与の強化や、出資を検討していた人員がPMIにも携わるよう体制も見直しました。この3年間を勝負の期間と位置付け、収益性の改善に全力で取り組んでいきます。

 また、資本を費消せずに収益を伸ばせるアセットライトビジネスの強化も重要で、ウェルスマネジメント、アセットマネジメント、トランザクションバンキング等の強化を進めていきます。

 加えて、経費のコントロールも重要です。経費率は3ヵ年で50%台前半を目指しますが、国内の金利が上昇する中、トップラインの増益により経費率が抑制され、経費規律が緩みやすい状況も生じ得ます。そのため、成長に必要な経費投入はしっかり実施しつつも、インフレや為替等の環境要因、IT経費、収益連動経費といった構造的な増加要因を除いて営業経費を横ばい以下に抑制することで、収益成長をより確実に親会社株主純利益の増益へと結びつけていきます。

資本のコントロール

 ROTE/ROEを高める第二のドライバーは、分母である資本の適切なコントロールです。金融機関にとって健全な自己資本の確保は不可欠である一方、過度な資本の滞留は資本効率の低下につながります。CET1比率10.5%程度を目安に、株主還元の強化や、政策保有株式・低採算アセットの削減等を進めることで、適正な資本量を維持していきます。

 また、地政学リスクの高まりに加え、国内の資金需要が旺盛な中、資本の安定的な運営は、投資家の皆さまが金融機関を評価するうえで一段と重要な要素となっていると認識しています。引き続き、規律あるリスクアセットのコントロールを徹底していきます。
 こうした資本配賦の規律は、インオーガニック投資においても同様です。将来、投資機会が生じた際には、戦略的意義、投資採算、リスク等を厳格に見極め、これまで以上にディシプリンを利かせた意思決定を行います。加えて、投資を実行する場合にも、PMIを含めた実行後の管理を徹底し、着実な利益貢献と企業価値向上の実現につなげていきます。

 さらに、提携先の外国株式にかかる含み益が財務レバレッジの重しとなっている点も課題と認識しており、今後3年間で対応に着手したいと考えています。
 企業価値の向上には、ROTE/ROEの引き上げに加え、資本コストの抑制も重要です。足元では、中東情勢をはじめとする地政学リスクやインフレ再燃等への警戒が続いています。当社では、フォワードルッキング引当を積み増すとともに、リスク管理態勢の高度化を進めてきました。今後も、環境変化に応じた機動的なリスクコントロールを徹底するとともに、安定性・収益性・成長性のバランスの取れた事業ポートフォリオへの変革を進めることで、リスクが顕在化する局面でも安定的な利益成長を実現し、資本コストの抑制につなげていきます。併せて、持続的な収益創出力や将来のリスク低減の観点から、人的資本投資や社会的価値の創造にも取り組んでいきます。

ステークホルダーの皆さまとの対話

 2025年度、日本証券アナリスト協会から、銀行部門のディスクロージャー優良企業に2年連続で選定されました。これは、当社の開示姿勢に対する評価であると同時に、さらなる改善への期待でもあると受け止めています。不透明な事業環境が継続する中だからこそ、引き続きタイムリーかつ丁寧な情報開示に努めていきます。

 また、ステークホルダーの皆さまとの対話はグループCFOとしての重要な役割であると同時に、私自身にとっても新たな視点や気づきを得られる貴重な機会です。新中期経営計画や資本政策の策定においては、皆さまとの意見交換を通じて議論を深めることができました。もっとも、環境の変化に応じて、計画は機動的に見直すことも念頭に置く必要があります。今後も皆さまとの対話を重ねながら、新中期経営計画をさらに進化させ、持続的な企業価値の向上につなげていきます。