事業戦略
世界をつなぐ日本発のトラステッド・パートナーへ
新中期経営計画が描くSMBCグループの未来
SMBCグループは新中期経営計画(以下、新中計)の策定にあたり、中長期的に目指す姿として「世界をつなぐ日本発のトラステッド・パートナー」というビジョンを掲げました。中長期的にROTE15%・ボトムライン利益2兆円台半ばを目指すという高い目標や今回の新中計は、いかにして生まれたのか。策定プロセスに深く関与した社外取締役の澤田純氏、門永宗之助氏、チャールズ D. レイク Ⅱ氏、そしてグループCFO兼グループCSOの安地和之が、新中計に込められた戦略的意図と実行への覚悟について議論しました。
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大切なのは最先端のものをすべて導入するのではなく、それぞれに合致した体制を構築することです。
社外取締役 澤田 純
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経営陣が決めたことが社員まで浸透しており、結果に結びつける力は本当に強いと感じています。
社外取締役 門永 宗之助
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経営環境が急変する中では、計画や業務もアジャイルに進化させ、変化にも戦略的に対応することが大切です。
社外取締役 チャールズ D. レイクⅡ
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今回の新中計は相応に議論を重ねて作ることができたという自負はあります。しかし、最も重要なのは、これをしっかりエグゼキューションすることです。
取締役 執行役専務 グループCFO兼グループCSO 安地 和之
新たな中長期ビジョンの策定
安地 今回の新中計の策定にあたっては、まず新たなビジョンや中長期の目標を設定するところから始めました。高い目標を置いて、そこからのバックキャスティングで議論を積み上げていくというプロセスを経ましたが、このような進め方について、どのように受け止めていらっしゃるでしょうか。
門永 2025年夏頃の取締役会で新中計のドラフトを議論する機会がありました。その時の率直な印象は、マルチフランチャイズ戦略で投資してきたものの収益化や証券ビジネスの強化等、方向性としては理解できるが、何がこの新中計の柱なのか、その時点ではあまりはっきりしておらず、「ワクワク感が足りない」というものでした。ワクワク感というのは、単に定性的な話を盛り上げるということではなく、高い数値目標を置くことに加えて、「こんな会社になりたい」というメッセージを明確に発信することです。これまでの中期経営計画(以下、中計)では、「社会的価値創造」を大きく打ち出したり、「アジアのマルチフランチャイズ」という先を見据えたチャレンジがあったりと、ある種の期待感がありました。こうした指摘を踏まえ、バックキャスティングのアプローチが取り入れられました。たとえば、IT投資については、グローバルの競合とどこにギャップがあり、そのギャップを、何を目標に何年でどのように埋めていくのかということが明確になりました。私は経営コンサルタントとしてさまざまな企業の経営に関与してきましたが、金融機関の戦略立案でこうしたアプローチを取ることは少ないと思っており、とてもポジティブに受け止めています。
澤田 新たなビジョンの策定については、私としても非常に納得感のあるものだと感じています。私自身がNTTで経営に携わっていた頃は、「Your Value Partner」という表現を使っていました。当時、パートナーという概念には、単なる営業上のつながりを超えて、顧客や社会とともに価値を創っていくという思いを込めていましたが、当社の「トラステッド・パートナー」も近い意味合いを持つ言葉だと理解しています。事業部門の方々とさまざまな議論をさせていただいた時にも、そういう意識を持っていることを感じましたので、このビジョンはSMBCグループが次のステージに向かって企業価値を高めていく宣言になっていると受け止めています。
安地 門永さんから「ワクワク感が足りない」と言われたことを、今改めて思い出しました。金融機関の生真面目な社員が作ると、どうしてもワクワク感が足りなくなってしまうので、新中計の策定で最も苦労したことのひとつが、ワクワク感のあるクリアなメッセージを社内外に伝えなければならないということでした。確かに、検討当初は海外ビジネスの採算性が低いという課題に対する解決の話に終始して、暗い話が多くなっていました。そこから、国内でトップを目指すという方向性や、「日本発の」という言葉の採用、ITでグローバルスタンダードの金融機関になるというアスピレーションを加えることで、足元の課題解決とワクワク感をハイブリッドに織り込むことができたと思っています。
また、「トラステッド・パートナー」にはさまざまな思いが込められています。SMBCグループが提供するサービスは多岐にわたっており、もはや単なる金融機関とお客さまという関係ではありません。これまでの枠組にとらわれることなく、お客さまをさまざまな面でサポートをする形になってきています。社員からは「具体的に何をするべきか」という声も聞こえてきますが、これは経営陣が一方的に決めるものではなく、社員やお客さまとともに作り上げていくものだと思っています。
資本政策・株主還元の深化
安地 今回の新中計策定にあたって、社外取締役の皆さまに特に深く関与していただいたのが資本政策と株主還元です。累進的配当方針について「減配しない」から「毎期増配」へ一歩踏み込んだことや、株式分割、株主優待制度の導入等、これらはすべて社外取締役の皆さまとの議論から生まれたアイデアです。策定に至るプロセスや新たな政策に対する評価はいかがでしょうか。
レイク まずは、株主を含めたステークホルダーからの期待にどう本質的に応えるのかという重要テーマに関して、取締役会も含め、さまざまな形で充実した議論ができたことを評価しています。コーポレートガバナンス・コードの観点からは、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上、稼ぐ力の強化が求められています。不確実な経営環境の中でも、ステークホルダーの視点で健全性の確保・成長投資・株主還元のバランスを重視しつつ、資本政策における予見性と柔軟性のバランスをどう設計するかが核心的な論点でした。新中計では、40%の配当性向を維持しつつ毎期増配にコミットすることで予見性を高め、自己株取得は「より機動的に」行うこととしました。「より機動的に」という表現は、資本水準や株価水準、成長機会への投資等をしっかり見極めたうえで柔軟に対応するということを意味しています。当社の長期的な成長戦略を評価し、長く当社の株式を保有していただける株主との関係構築が重要です。社外取締役としても、効果的な成長戦略に資する合理的なリスクテイクを後押ししつつ、機動的な資本政策が実行されることを適切に監督することで、長期投資家の期待に応えることが重要だと考えています。
澤田 今回導入したVポイント付与等の株主優待制度は、株価だけを意識した施策ではなく、株主と顧客を重ね合わせ、長期的に企業価値を上げていくという方向性を体現したものだと思っています。株主イコール顧客という複合モデルを志向するという意味で、今の時代の流れに非常に合っていると考えています。
安地 配当については、予見性を高め、増配していくパスを明確に示したいです。一方で、自己株取得はメリハリをつけて、良い意味でマーケットにサプライズを生み出したいと考えました。タイミングも金額も、より柔軟に判断していきたいと思っています。一見するとあまり変わらないように感じるかもしれませんが、実際の運営の中で「一歩踏み込んできた」と感じていただけるよう、しっかり体現していきます。
新中計達成に向けた課題
安地 今回の新中計は、かなり大きなトランスフォーメーションを含んでおり、難易度が高いという認識を持っています。新中計で掲げた目標を達成するうえで最も気をつけるべき点について、ご意見を頂けますでしょうか。
門永 約10年にわたってSMBCグループを外から見てきて思うのは、現場のエグゼキューション能力が非常に高いということです。経営陣が決めたことが社員まで浸透しており、結果に結びつける力は本当に強いと感じています。一方で、インオーガニック案件になると、PMIの計画や人材等のリソース投入に対する戦略が明確でないことがありました。この部分は以前から課題に感じており、これまでも執行サイドに指摘してきた経緯があります。新中計において、マルチフランチャイズ戦略で投資した先の収益化に注力することは理にかなっていますが、アジアの各国を一括りにして語るのが適切ではないことは言うまでもありません。マーケットの成長フェーズや競合状況、ビジネスモデルの有効性、当局の方針等、各国によって状況は異なります。新中計をしっかり見ていくとそうなっているのですが、対外的なコミュニケーション上も、個別の対応が当然であることを共有していくことが大切だと思います。
レイク 新中計策定プロセスでは、過去の成功・失敗体験も含めて、取締役会では自由闊達で建設的な議論が行われました。地政学リスクをはじめ、環境変化の想定が難しい状況が続く中で、外部・内部環境分析や強み・弱みを新中計にしっかり組み込み、作り上げたことを評価しています。同時に、エグゼキューションにおいては、想定外のことも必ず起きます。その時に、不都合な真実に対して、執行サイドと取締役会がともに誠実に向き合い、機動的に対応することが肝要です。中計は一度決めたら3年経つまで修正できないとするのではなく、内外の環境変化を直視し、有機的な議論を行い、継続的にアジャイルに進化させることで実効性を高めていくことが重要だと考えます。
安地 投資家からも、オーガニック投資はディシプリンが利いているが、インオーガニック投資は不十分だという批判をよく頂いてきました。ここ数年でかなり細かく課題を特定できてきたと思いますが、それでもまだ対応すべき課題に気づくことがあり、もう一段しっかり取り組んでいかなければなりません。たとえば、アジアの出資先に共通しているのは、調達コストを抑制するために、預金獲得が非常に重要だということです。一方、マクロ環境も金融機関のポジションも国によって違うので、課題や対応は異なります。足元では、中東情勢の影響がアジアに出やすいという新たな課題もありますが、しっかりと向き合っていきたいと思います。
不確実な時代に中期経営計画を作る意義
安地 取締役会では、このような不確実性が高い時代に中計を作る意義があるのかという議論もありました。この問いはどのようにお考えになりますか。
澤田 今の世界は、地政学的な変化も、AIに象徴される技術革新も、変化の速度と不確実性が極めて高くなっています。ゆえに、マネジメント的にも、PDCAという計画に基づいた戦略遂行ではなく、OODA*のような、環境を踏まえて戦略を柔軟に変更していく即物的な動きが求められるという議論はよく理解できます。ただ、それだけで良いのかというと、そうではありません。芯になる将来の姿、「何を目指しているのか」「自分たちのシェアード・バリューはどこにあるのか」というビジョンはしっかりと中計の中で定め、そのフレームワークの中で機動的に動く必要があります。両方が矛盾しているようでしておらず、「環境が変化するから中計は不要」というのは、少し短絡的な議論ではないかと思います。ビジョンという芯と機動的な実行の両面を実現していただきたいと思っています。
レイク 戦略の研究において、「計画自体に価値はないが、立案はすべてに勝る(Plans are worthless, but planning is everything)」という言葉がありますが、今の時代はウォーターフォール型とアジャイル型という2つの戦略思考を融合させることが肝要だと考えます。こうした戦略思考を念頭に当社の新中計を見た場合、中長期的に目指す姿に基づきROTE15%という中長期目標を掲げ、事業ポートフォリオを大胆に変革するという方向性を明確にしており、その実現のためにはウォーターフォール的に業務改革を進める必要があるので、その意味で中計の策定は組織を動かす上で必要です。同時に、経営環境が急変する中では、計画や業務もアジャイルに進化させ、変化にも戦略的に対応することが大切です。
安地 加えて、もう一点大切なのは、社員が戦略に納得していることです。新中計の策定は、国内外のさまざまな社員の課題意識や挑戦したいことを集めながら進めました。エグゼキューションで最も差がつくのは、社員がどこまで戦略について腹落ちして動いてくれるかということです。3年に一度、自分たちのポジションを確認し、今後何に取り組んでいくかを共有するプロセスは、戦略実行のために非常に大切だと思っています。
*OODAループ(Observe, Orient, Decide, Act)
IT・AI活用への投資
安地 新中計では、IT・AI活用に1兆円を投資するという計画を掲げました。グローバルトップティアの金融機関とのギャップ分析も含め、かなり議論を重ねた部分です。こちらについて、どのように評価されていますか。
門永 ITに関する経営課題の認識は取締役会でも十分に共有されています。クラウド化は急がなければならないし、AIを使った開発環境の整備も待ったなしです。また、サイバーセキュリティはどれだけ手を打っても追いつくのが大変という状況がこれからも続くと思います。こうした喫緊の課題があることは皆が認識していますが、一朝一夕に解決できる話ではありません。取締役会ではIT投資額を2兆円に引き上げればもっと早く対応できるのかという議論も出ましたが、人材の確保等にボトルネックがあるため、1兆円が適切という結論になりました。前半で申し上げた通り、グローバルの競合とどこにギャップがあって、それを何年でどう埋めていくのかという目線を明確にするよう指摘しましたが、その後の議論を経て、今はとても分かりやすくなったと思います。
澤田 私自身、NTTセキュリティという会社の社長を兼務していた経験から申し上げると、SMBCグループのセキュリティはかなり高いレベルで運営されています。一方、IT分野は日本全体が世界から何周か遅れているという面があります。クラウド化も金融機関としてはまだこれからで、AI活用等にも対応する必要があります。大切なのは最先端のものをすべて導入するのではなく、現状のオペレーションからどこまでプロセスを変えて適用していくかという、それぞれに合致した体制を構築することです。
また、AIは正しい答えを出しますが、間違ったデータを入れると「正しく」間違えます。入力するデータの品質がすべてを左右するため、データのガバナンスを意識しながら展開していくことが重要だと思います。
安地 同じ1兆円のIT投資でも、過去の1兆円とは効率が違うはずです。開発効率等もKPIに設定したうえで、しっかりモニタリングしていきたいと思います。また、デジタル化に向けた社内ガバナンスの整備は非常に重要で、ここを担保できてこそ、グローバルでAIを活用できるということになります。ガバナンスがしっかり確保されていることで、将来的に外部のパートナーと提携する際も、SMBCグループは信頼できると評価されることにつながると思います。
グローバルガバナンスの高度化
レイクこの1年を振り返り、最も有意義な議論のひとつだと考える論点は、グローバルガバナンスのさらなる高度化です。SMBCグループは今や海外収益が全体の約4割を占めるまでになりました。今後、「世界をつなぐ日本発のトラステッド・パートナー」としてグローバルに活動を展開し、リーディングバンクへと成長していくためには、グローバルガバナンスのさらなる高度化が不可欠です。Jefferiesとの提携のさらなる深化や、「フロンティアAIモデル」等のテクノロジー分野でグローバルに起きている変化を素早く戦略に反映するために、各地の取締役会と三井住友フィナンシャルグループの取締役会との戦略アライメントを確保し、直接的な対話を含めたガバナンス高度化の取組をさらに進めるべく、建設的な議論が行われたことを評価しています。
安地 具体的な例をひとつご紹介すると、SMBC日興ジェフリーズ証券の設立等、Jefferiesとのさまざまな提携を発表するにあたって、グローバルにしっかり連携を取るべきだというご指摘をいただきました。私自身、米国と欧州の現地法人の取締役会にそれぞれ6回ずつ出席し、戦略の背景や検討状況を説明して、現地の理解を得ながら進めました。グローバルCIB、アセットマネジメント、トランザクションバンキング、グローバルマーケッツといった領域のトランスフォーメーションは、いずれもグローバルな意思疎通が必要な取組ばかりであり、取締役会等でのご指摘を踏まえて枠組も整備しました。今後もグローバルに共通認識を持ったうえで、さまざまな戦略を実行していきたいと思っています。
最後に、今回の新中計は相応に議論を重ねて作ることができたという自負はあります。しかし、最も重要なのは、これをしっかりエグゼキューションすることです。マルチフランチャイズ戦略における課題解決も含め、結果をしっかりお示しできるよう取り組んでいきます。
社外取締役の皆さまには、引き続きさまざまなステークホルダーの観点から、時には私たちが困るような鋭い問いを投げかけていただければと思います。
リスク座談会
不確実性を精緻に読み解き、レジリエンスを高める
地政学リスクの高まり、高性能AIによるサイバー脅威、国内金利の上昇——。かつてないほど複雑に絡み合うリスク環境の中で、SMBCグループはいかにして高いレジリエンスを実現しようとしているのか。リスク委員会委員長を務める社外取締役のチャールズ D. レイク Ⅱ氏と、グループCROの鮫島夏洋、グループCFO兼CSOの安地和之が、SMBCグループのガバナンスの現状と今後の課題について議論しました。
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社外取締役
リスク委員会委員長 チャールズ D. レイクⅡ -
執行役専務
グループCRO 鮫島 夏洋 -
取締役 執行役専務
グループCFO兼グループCSO 安地 和之
リスクを経営戦略に組み込む
鮫島 現在、当社が直面しているリスクの質は、以前とは根本的に異なると感じています。中東情勢の長期化、米国の関税政策の転換、プライベートクレジット市場の信用不安、さらには高性能AIを活用したサイバー攻撃・技術リスク、AI関連株の期待剥落シナリオ等が挙げられ、これらが個別に発生するのではなく、複合的に絡み合って顕在化する可能性が高まっています。国内に目を向ければ、金利上昇環境への移行に伴い、預金獲得競争が激しさを増し、バランスシート管理の難度も増しています。
安地 今回の新中期経営計画(以下、新中計)の策定にあたって、環境認識とリスク認識に今までにないほど時間をかけました。加えて、策定の終盤となる段階で中東の地政学リスクが顕在化し、まさに不確実性が極めて高い状態で新中計がスタートしたと言えるでしょう。そうした意味でも、新中計で掲げた目標の達成に向けて、リスクをどう経営に組み込むかという議論がこれまで以上に重要になっています。
レイク 当社が実効性の高いリスク管理態勢を確保するうえで、取締役会の内部委員会であるリスク委員会の運営において重視すべき点が3つあると考えています。1つ目は、戦略的なアジェンダ設定です。リスク委員会が取締役会における重点戦略領域の議論の深化に真に貢献するために、グループCROの鮫島さんをはじめとする執行サイドと協働して、経営戦略に直結したテーマを的確に設定することが極めて重要です。2025年度は、新中計の策定に向けて、まず環境・リスク認識、リスクアペタイト方針、リスク管理の基本方針といった重要事項を中心に議論しました。これらが経営戦略の企画立案・実行および見直しを支えることで、統合的リスク管理の実施に実質的に貢献できます。2つ目は、各委員の深い専門性と実務経験に裏付けられた知見の発揮です。リスク委員会には、社外取締役を務める手代木さんに加え、山﨑さん*1や山口さん*2といった豊富な知識と経験を持つ外部有識者も参画しています。各委員がそれぞれの知見に基づき当社を取り巻くリスク環境について、形式的ではなくリアルタイムに本質的な議論をすることが大切です。そのために、各委員からご意見いただいた点に応じ、さらなる問いかけを意識的に増やすことで、知見のキャッチボールがもたらす互いの気づきを基にさらに議論が深まるよう、議長として心がけています。3つ目は、経営陣がリスク委員会に参加・関与している点です。委員の議論を経営陣がリアルタイムに受け止め、機動的な業務運営と取締役会による牽制・監督に直結させる態勢が、変化の激しい環境において、ガバナンスの機動性と実効性向上につながっていると考えています。
*1 山﨑達雄氏(国際医療福祉大学特任教授、元財務官)
*2 山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長、元日本銀行副総裁)
リスク耐性のあるポートフォリオへの変革
レイク 経営戦略を展開するうえで特に重視するべき環境変化は、「地政学と経済の連動における構造的変化」だと考えています。地政学リスクが大きく変化し、リスクが大規模かつ非常に速いスピードで顕在化する一方、その影響に対する予見可能性は低下しているという難しい状況にあります。特定のリスクイベントだけではなく、それを受けた世界秩序やマクロ経済への影響をいかに見極めて、戦略の立案とリスク管理をセットで検証し判断することの重要性について、リスク委員会でも繰り返し議論してきました。
安地 表層的な事象だけを見るのではなく、「この変化の本質は何か」という問いを常に立てることが大切だと改めて感じています。
鮫島 また、そうした環境変化に対して、「何が起きてもビジネスを続ける」というレジリエンスの確保が私たちの最重要課題であると位置付けています。具体的には、内外の事象からトップリスクを選定し、リスクがどう波及するかの経路を整理して、波及経路に応じた対策を準備しています。今回、中東情勢の長期化、プライベートクレジット市場の混乱、AI期待の剥落という3つのリスクが複合的に顕在化するシナリオを想定し、ストレステストにより財務健全性への影響をシミュレーションしました。その結果を踏まえ、業務運営方針の見直しや危機時のオプションプランを整備しています。また、このような環境で特に重視しているのは「一線のリスクオーナーシップ」の向上です。フロントに立つ一線が、普段と異なる兆候を早期に察知し、それを適切にエスカレーションする。どのリスクを経営として取るのか、絶対に取ってはいけないリスクは何かといった判断を、一線と二線が緊密に連携しながら行う態勢を強化しています。
レイク 加えて、予兆管理の高度化と、事象発生時の対応力の向上は、引き続き極めて重要です。そのうえで大切なのは、専門性の高い委員が揃ったリスク委員会の場を最大限に活かし、執行サイドが検討したシナリオ等に関するリアルタイムな議論を高いレベルで積み重ねることだと思っています。金融資本市場において重要なプレイヤーとして成長を続けるSMBCグループが、変化の激しい環境においても確固たるガバナンスの下で機動的な経営を実践できるように、実効性の高いリスク管理態勢の確保に向けて、引き続きリスク委員会のさらなる機能強化に取り組んでいきたいと考えております。
安地 こうした不確実性の高い環境においては、ポートフォリオのトランスフォーメーションとリスク管理の強化、この2本柱で臨むことが重要だと考えています。リスク管理だけでは不十分であるため、もとよりリスクに対して耐性のあるポートフォリオへと変革していく。時間をかけながらも、着実に進めていくことが、結果として業績の安定性と危機時の対応力や回復力をステークホルダーの皆さまにお示しすることにつながると確信しています。