〜特集〜 地球を着こなすサステナブル・ファッション

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地球を着こなすサステナブル・ファッション

ファッション業界のサプライチェーンは、農業から製造、販売に至るまで多岐にわたる。グローバル化によってサプライチェーンが分断され、身近にある服がどこから来ているのか、見えづらくなる中、ファッションが環境にもたらすさまざまな影響が懸念されている。本特集では、ファッション業界における環境問題を検証し、解決に向けて努力する企業の取組を紹介する。

ファッションが環境に与える影響

2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で縫製工場が入っていたビルが崩壊。1,100人以上の命が奪われ、2,500人以上の負傷者が出る大惨事となった。バングラデシュ史上最大となった産業事故は世界的に報じられた。被害を受けた縫製工場に仕事を依頼していたのは欧米の有名ファッションブランドだったからだ。以前から同国の縫製工場では火災による死亡事故が多発していたことも判明し、事故や災害に対する安全意識が欠如した製造現場の改善と労働条件の向上を求める声が高まっていった。

2015年には、2013年の崩壊事故をきっかけに製作された映画『ザ・トゥルー・コスト 〜ファストファッション 真の代償〜』が公開された。製造現場の劣悪な労働環境、さらに皮革工場から川へ流れ出す有毒な汚染水やコットン畑で使用される農薬のリスクといった環境への悪影響が明らかにされ、大きな話題を呼んだ。

こうした社会的な背景を受けて、国連も従来のファッション産業の在り方に危機感を持ち、動き始めている。2018年1月、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、ファッション業界での温室効果ガス削減について協議するため国際会議を開催。同会議には、アディダス、プーマ、ケリング、H&M、ヒューゴボスを含む38の有名ブランドに加え、紡績業者やリサイクル業者、環境団体が参加した。これに続き、3月、国連欧州経済委員会(UNECE)が「ファッションとSDGs(持続可能な開発目標):国連の役割とは」と題した国際会議を開く。温室効果ガスのほか、水資源、コットン栽培における農薬使用、労働環境といったファッション業界のさまざまな課題が共有され、「ファッション業界は態度をあらためる必要がある」とUNECE事務局長のオルガ・アルゲェロワ氏が発言する等、持続可能な開発に向けて取組の必要性が訴えられた。さらに7月に国連ハイレベル政治フォーラムが開かれた際には、 UNFCCCやUNECEを含む10の国連機関が、サステナブル・ファッションの実現を目指し新たな協力関係を築くことを発表した。

世界のアパレル市場は、2025年までに年平均3.6%(実質ベース)で成長していくことが予測されている(※1)。ファッション業界がサステナブルな業態に生まれ変わらなければ、環境負荷のさらなる増大を避けることができない。

環境にやさしい素材の開発

サステナブル・ファッションの実現には、素材を生産する農業から素材開発、企画、製造、販売、回収、廃棄まで、すべての段階での取組が必要となる。ここではまず、サプライチェーンの川上にある繊維メーカーの課題を検証する。

「繊維業界では今、エネルギー、水、有害化学物質が大きなテーマになっています」と、帝人フロンティア株式会社広報・IR部部長兼広報課課長の宮武龍大郎氏は話す。

1つ目のエネルギーについては、世界の温室効果ガス排出量の10%をファッション産業が占めるといわれており、業界全体で対策を推進していくことが求められている(※2)。帝人フロンティアでは、生産プロセスにおける省エネはもちろん、保温機能または通気性に優れた素材の開発等、さまざまなアプローチによるエネルギー負荷低減策を進めているという。

2つ目の水は、衣料品の生産には欠かせないものだ。ファッション産業は水消費量が世界で2番目に多い業界であり、世界の排水量の20%を占めると試算されている(※2)。特に、繊維製品の製造現場においては、染色工程で大量の水を必要とする。宮武氏は、染色に要する水使用量を減らす有効な技術はあるものの、実用化できるかはアパレルメーカーとの連携が鍵になるという。「たとえば、生地を織る前の段階で糸を着色する技術を使えば、水の使用量を大きく削減できます。問題はロットを大きくしないとコスト高になるため、同一の色の生地がたくさんできてしまうことです。アパレルメーカーさんからのオーダーは黒色ひとつとっても微妙に異なるので、その点をクリアしないと実用化が難しい状況です」。

3つ目の有害化学物質については、染料や機能性を付加する加工に使われる薬剤等に関する対策が進められている。衣料用撥水剤をめぐっては、含有されるPFOA(パーフルオロオクタン酸)が人体や環境に影響を及ぼす恐れがあるとして、欧米を中心に規制が強化され、PFOAフリーの撥水剤が開発されている。

北米でエコ素材のマーケティングを担当した経験を持つ宮武氏は、欧米の環境意識の高さを次のように話す。「欧米には、PFOAフリーだけでなく、フッ素フリーを実現すると打ち出した企業もいます。また、植物由来の原料を活用した製品の場合も、どんな植物を使っているのか、食糧生産と競合していないか、適正な土地利用で生産されたものか、欧米にはそうしたことまで質問してくる企業もいらっしゃいます。機能性と環境性の両方に優れた製品を開発し、素材メーカーとしてお客さまのニーズに応えていきたいと考えています」。

暮らしは、せんいで進化する 〜帝人フロンティアの環境配慮型製品〜

帝人フロンティアは、「THINK ECO」を合言葉に掲げ、①リサイクルの推進、②環境汚染物質排出低減、③オーガニックコットンの活用、④植物由来原料の使用、⑤省エネ貢献型製品の開発、⑥有害化学物質の使用低減、⑦気候変動への適応という7つのテーマに取り組んでいる。

テーマごとにさまざまな取組を展開しており、たとえば「リサイクルの推進」の枠組みでは使用済みペットボトルからポリエステル繊維「ECOPET」を再生。また、天然繊維でつくられた製品を回収し、岐阜県の反毛工場でリサイクルしている。反毛とは、針状の機具で繊維の織りを崩し、毛羽立たせることによって綿状に戻したもので、自動車のエンジン周辺の吸音材やカーペット等に利用されている。

このほか、オーガニックコットンを活用した「未来Organic」や、植物由来原料を活用した「SOLOTEX」等、さまざまな視点から多数の環境配慮型製品を取り揃えている。

ミノテックST

古来の雨具「蓑」からアイデアを得て開発した新発想の撥水素材「ミノテックST」。
生地の表面を水滴よりも小さい凸構造とすることで水滴を転がり落とす。

環境に配慮して商品を企画・販売する

次に、衣料品の企画から製造・販売・流通を担うアパレルメーカーの取組を見てみよう。

最近では多くのアパレルメーカーがオーガニックコットンの活用を進めているが、従来、コットンの栽培には大量の農薬が使用され、人体や環境に及ぼす影響が懸念されてきた。試算によると、世界の耕地面積の中でコットン畑が占める割合はわずか3%であるにもかかわらず、農薬の消費量は全体の11%、殺虫剤については24%にまで及ぶという(※2)

これに対し、無印良品を手掛ける株式会社良品計画は、いち早くオーガニックコットンの活用に取り組んできた。同社は、2000年から取組を始め、2018年時点で商品に使われるコットンを100%オーガニックコットンへと転換している。「地球環境もさることながら、農薬が生産者の健康に与える影響を懸念しています。生産者に配慮することは、無印良品のモノづくりの根幹に関わる大事なファクターだと考えています」と、良品計画で衣服・雑貨部企画デザイン室室長を務める永澤三恵子氏はオーガニックコットンを採用した理由を述べる。

再生コットン

「資源を無駄にしない」という、無印良品誕生以来の理念のもと、
服の生地を裁断する際に発生した端切れを活用して製品化された「再生コットン」。

また、衣料品の製造現場では、布を裁断する際に発生する端切れが大きな環境負荷となっている。良品計画によれば、無印良品の2017年春夏シーズンのカットソー商品をつくる工程で発生した端材はTシャツ数百万枚に相当する量だという。衣料品を製造する上で避けられない端材は、これまで産業廃棄物として処理されてきた。しかし、同社では製造過程で発生する裁断端切れを「再生コットン」として蘇らせる取組を2017年からスタートさせている。

再生コットンに取り組み始めた経緯を永澤氏は次のように説明する。「これまでは産業廃棄物を扱う業者に依頼してリサイクルしていましたが、再生されるのは雑巾や軍手等でした。自社製品に使うことで資源を循環させたいと考え、研究を始めたのですが、端材は繊維が短く、それだけでは良質の製品を生み出すことができません。そこで、バージン原料を半分混ぜ、何十種類もの糸をつくって調整を重ね、お客さまに手に取っていただける品質を目指しました。最初は限定販売でしたが、2019年から全店舗での展開を始める予定で、量を増やしていきたいと考えています」。

このほかにも良品計画ではさまざま環境対策を行うが、「無駄なものをつくらないということが一番大事」と永澤氏は話す。「いくら環境に配慮しながらモノづくりに取り組んでも、売れ残ったりすれば無駄になってしまう。そのため、生産、販売、在庫をリンクさせ、商品計画の精度を上げることがとても重要です」。

販売後の商品を店舗で回収 〜無印良品のリサイクル・リユース〜

良品計画が進めるリサイクルは、自社が廃棄するごみを減らすだけではない。使用済みの商品を消費者から回収し、新たな資源として再生する取組を2010年度から展開している。回収された衣類のうち、繊維の一部はエタノールへ、ボタン等のポリエステル素材は糸へと再生される。回を重ねるごとに認知度を高め、回収量は初年度の1,150キログラムから2016年度は2,222キログラムへと倍増しているという。

さらに、回収された衣類の中から状態のよいものを仕分け、色を染め直し新たな商品として販売するプロジェクト「ReMUJI」を2015年から開始。「お客さまが持ち込まれたものの中にまだ着られるものがあることに気づいたのがきっかけでした。古いものに手を加え新しい価値を生み出す“アップサイクル”の手法で、こうした服を再利用できないかと考え、ReMUJIを始めたんです。昔から日本では、色を染め直したり、刺し子をして補強したりしながら、服を最後まで大切に着ていました。ReMUJIを通じて、日本古来の文化に立ち返り、服を大切に着るということを考えていきたいと思います」(永澤氏)。

無印良品のリサイクル・リユース

廃棄ゼロを目指して

世界では、ファッション業界から年間9,200万トンの繊維が廃棄され、その量は2030年までに1億4,800万トンまで増えると予測されている(※3)。最近、バーバリーが42億円相当の売れ残り品を焼却して世界的なニュースになったが、これは同社だけの問題でなく、ファッション業界には一度も消費されないまま処分される商品が相当数あることが問題視されている。

一般的に、定価で売れなかった衣料品は、店舗内でのセールの後、ファミリーセール、アウトレットといった順に値段を下げて販売される。それでも売れ残った商品は、廃棄(焼却・埋め立て)されるか、または在庫処分業者、いわゆる「バッタ屋」に流れていくことが多い。メーカーにとって余剰在庫そのものが望ましくないということに加えて、安売り市場に出回るとブランド価値を下げてしまう恐れがあることから、バッタ屋にはネガティブなイメージがつきまとっていた。

一方で、従来のバッタ屋のイメージを一新する手法で在庫を処分し、多くのアパレルメーカーの信頼を勝ち取る企業が登場している。2005年に設立された株式会社shoichi(ショーイチ)は、有名ブランドを含めアパレルメーカーや卸売業者、小売業者から売れ残った商品を買い取り、インターネット、輸出、卸、自社店舗で販売を行っている。現在は年間500万枚という日本一の取扱量を誇る。同社のサービスの特徴を代表取締役CEOの山本昌一氏は次のように説明する。

「これまでの在庫処分の取引は口約束が多く、買い取った商品をどこで販売するかは業者の判断に任されていました。これに対して、我々は商品を引き取る際に『ブランドショップの半径○キロメートル以内では販売しない』『Webショップやディスカウントストアでは販売しない』『タグを切ってブランド名をわからないようにする』といった買取先の希望を一つひとつ確認します。買取価格は、こうして販路を決めた上で販売価格を想定して決めます。定価販売の邪魔をしないよう細心の注意を払うことで、たくさんのお客さまから在庫を任せてもらえるようになりました」。

在庫は資源の無駄につながるとして否定的に捉えられがちだが、「問題は、在庫の発生ではなく廃棄にある」と山本氏は強調する。「安く買いたい、すぐに欲しいという2つの欲望が人間にはあります。工業製品はたくさんつくるほど安くなるので、メーカーは売れる枚数より多めにつくるため、必要以上に在庫が増えるんです。在庫はいわば潤滑油なのに、捨てられて無駄になるから悪者にされてしまう。我々は買い取った商品は必ず1年半以内に売ることをルールとしています。売り方を工夫すれば売れない商品はない。これまで培ったノウハウと幅広い販路を活用し、廃棄ゼロを実現しています」。

shoichiが運営するオンラインショップ

shoichiが運営するオンラインショップ。
モデルを使って商品を撮影したり、コーディネートを提案したり、
見せ方を工夫し、「売れなかった商品」を「売れる商品」に変える。

在庫販売を通じて途上国の子どもたちを助ける 〜shoichiの社会貢献〜

余剰在庫からプラスの価値を生み出す。現在、shoichiが力を注ぐのが、在庫販売を通じて途上国の子どもたちを支援する「TASUKEAI 0 プロジェクト」だ。アパレルメーカー等から余剰在庫を購入し、タイやカンボジアの店舗で安価に販売。その売り上げの一部が、現地で子どもの教育支援や食糧寄付等に取り組むNPOの活動資金となる。

「すでに国内のアパレルブランドのベスト20に入る2社が賛同し、服を提供してくれています。子どもが好きだから何か支援をしたいと思って始めましたが、同じように在庫処分を行う人間からはとても驚かれます。しかし、業界でトップとなった今、社会貢献を考えることはすごく重要だと考えています」(山本氏)。

TASUKEAI 0 プロジェクト

「TASUKEAI 0 プロジェクト」を通じて助け合いの輪をつくり出し、
余剰在庫からプラスの価値を生み出す。

ファッションが導くサステナブルな社会

ファッションがもたらす影響はマイナスの側面だけでなく、プラスの側面もある。ファッションの可能性について、良品計画の永澤氏は次のように話す。「グローバルな視点で見ると、今、アパレル業界やスポーツ業界は高い意識を持って環境問題に取り組んでいます。『環境意識を広げるにはファッション化すること』。昔、そう言われたことが印象に残っているのですが、ファッション化することで環境を意識することがかっこいい、素敵だ、豊かであると感じるようになれば、みんなそれをマネしたくなります。それが定着すれば、当たり前のことになっていく。ファッション業界が同じ方向を向いて動き出したことは、社会にポジティブなムーブメントを生むきっかけになるかもしれません」。

近年、雑誌で「エシカル」や「サステナビリティ」といった特集が組まれ、その中ではラグジュアリーブランドやファストファッションブランドによる環境保全宣言だけではなく、自ら企画・製造した商品をECサイトでのみ販売するD2C(Direct to Consumer)ブランド等、ファッション業界の新たな動きが紹介されている。たとえば、D2Cブランドのパイオニアといえる米国発のEverlane(エバーレーン)は、店舗や中間業者、大規模な宣伝広告を排除してコストを下げ、商品ごとに生地や縫製、流通に要した費用を開示している。こうした徹底して透明性を貫く姿勢は同社の魅力のひとつとして受け入れられ、流行に敏感なミレニアル世代を中心に多くのファンを得ているという。

商品の透明性を高めようとする動きは既存のブランドの中にも見られる。2010年、グローバルなアパレルブランドや小売業者等が集まり、「サステナブル・アパレル連合(SAC)」を設立した。SACが取り組むのは、サプライチェーン全体での環境・社会的影響の測定や評価方法の指標化だ。現時点で日本企業としてはアシックス、帝人フロンティア、東レ、ファーストリテイリングの4社のみが参加している。

帝人フロンティアのSAC加盟を後押しした宮武氏は「国内ではあまり知名度がありませんが、世界では200以上の企業が参加しており、その売上総額は5,000億ドルを超えるといわれています。SACが開発した『Higg Index』と呼ばれる指標を使用することで、将来的には消費者に商品の環境・社会的影響を開示することを目標にしていますが、すでに縫製をどこに頼むか検討するとき、こっちの工場の方が点数が高いとか、意思決定の基準として使われ始めています。サステナブルという観点からも製品のライフサイクルにわたった指標があることは非常に有用と思われますので、もっと多くの企業が参加してくれることを願っています」と話す。

サステナブルな在り方を模索し、環境へ大きく舵を切るファッション業界。これから起こる変化が、消費者や社会を巻き込むムーブメントにつながることを期待したい。

  • ※1出典:経済産業省製造産業局生活製品課「繊維産業の課題と経済産業省の取組」
  • ※2出典:UNECE発表資料(2018年3月1日)
  • ※3出典:Global Fashion Agenda and The Boston Consulting Group, Inc. Pulse of the Fashion Industry(2017年)

取材協力(本記事 登場順)

  • 帝人フロンティア株式会社
  • 株式会社良品計画
  • 株式会社shoichi

参考資料

  • 『誰がアパレルを殺すのか』日経BP社