Ecological Company Special〜環境経営の現場から〜

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Ecological Company Special 独立行政法人国際協力機構 財務部 市場資金課 課長 田中 賢子氏

日本の政府開発援助(ODA)の中核を担う世界有数の包括的な開発援助機関である国際協力機構(JICA)。途上国の環境に配慮した国際協力の取り組みや、国内で初めてソーシャルボンドとして発行されたJICA債について、財務部市場資金課の田中賢子氏に伺いました。

「政府開発援助大綱(ODA大綱)」に代わり「開発協力大綱」が策定されましたが、これを受けてJICAの活動はどのように変わるのでしょうか。

「開発協力大綱」は、基本的に従来の「ODA大綱」の流れを汲みつつ、国際社会の平和・安定・繁栄に貢献するという日本政府の理念や方針をより明確化したものですから、これによってJICAの活動が大きく変わることはありません。違いを挙げるとすれば、民間企業や地方自治体、NGO、NPOなど幅広いパートナーとの連携を重視すると明示されたことです。これを受けてJICAには、今まで以上に民間の知識と資金を国際協力につなげるための触媒としての役割が期待されています。

「開発協力大綱」は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえて策定されていますが、JICAのSDGs達成に向けた取り組みの方針を教えていただけますか。

2015年に採択されたSDGsは、2030年までに達成するべき17の目標と169のターゲットが掲げられています。JICAでは、すべての目標達成を目指して取り組みを進めますが、特に、これまでの国際協力の知見を活かせる「飢餓・栄養」「健康」「教育」「水・衛生」「エネルギー」「経済成長・雇用」「インフラ・産業」「都市」「気候変動」「森林・生物多様性」という10の目標について、国際社会で中心的役割を果たすことを目指します。

SDGsでは、環境問題も重要なテーマとなっていますね。

SDGsでは経済と社会と環境という3側面のバランスを重視した持続可能な社会の実現を目指しており、環境をおざなりにした経済・社会の発展はあり得ないと明言しています。JICAでは、相手国の自然環境や地域社会に与える影響を回避または最小化する「環境社会配慮ガイドライン」を設け、すべてのプロジェクトでこれを遵守しています。
特に、近年では気候変動が社会のあらゆる場面に影響を及ぼすケースが増えており、道路などのインフラ整備においても、洪水被害に対応できる強じんな設計を施すなど、環境への配慮が欠かせなくなっています。

民間セクターとの連携が重視されていますが、官民連携を進めるための取り組みについて教えていただけますか。

途上国の持続可能な発展には、社会経済基盤の整備だけではなく、民間企業のビジネスを活性化し、投資環境を整備することが不可欠です。それを実現するためにJICAでは、国内の大手企業、中小企業、地方公共団体、NGO、NPOなどの主体が、それぞれの規模や特性を活かして途上国で事業や投融資を行うための事業メニューを開発しています。
たとえば、PPP(Public-Private Partnership)案件を形成するような大規模なインフラ開発事業や、中小企業が持つ技術・製品の現地適合性を高める普及実証事業、質の高い労働者を確保するための産業人材育成事業など、組織の大小や予算規模に合わせて活用いただけるメニューを揃えています。

途上国の発展に寄与する優れた技術や製品を持っていても、海外に目が向いていない、あるいは参入ノウハウがなくて手を挙げられないという中小企業も多いかもしれませんね。

そうした有望な企業との連携を進めるために、JICAでは国内14カ所の拠点で民間の皆さまからの相談を受け付けています。「こういう技術を持っているけれど、途上国で使えないか」「海外での投融資を検討している」「海外の優秀な人材を確保したい」など、途上国でのビジネスに関する相談を受け付けています。途上国で役立つ技術やノウハウをお持ちの企業は規模にかかわらずたくさんあると思いますので、ぜひ全国の窓口あてにお気軽にお尋ねください。 また、JICAのWebサイトには、対象国、スキーム、対象分野などを入力するだけで、民間連携事業や中小企業海外展開支援事業に関する案件事例を検索できるページがあるので、まずはこちらでどのような案件が実施されているのかご覧いただくとよいかもしれません。

第三者機関によるソーシャルボンドとしてのJICA債に関するセカンドオピニオンの概要

第三者機関によるソーシャルボンドとしてのJICA債に関するセカンドオピニオンの概要

「JICA債(国際協力機構債券)」について教えていただけますか。

JICA債は、JICAの有償資金協力事業(円借款、海外投融資)に必要な財源を確保するために発行する資金調達手段の1つです。JICA債によって調達した資金が充当される有償資金協力事業は、国際社会の平和と安定および繁栄のための途上国向け投融資事業です。案件開始に当たっては、日本政府・外部有識者による厳格な審査承認プロセスが実施され、事業実施後には定量的な効果指標を含む外部の第三者による評価結果が公表されるなど、極めて高い透明性・公平性が確保されています。
なお、JICA債は2008年から発行されていますが、2016年9月から国内で初めてのソーシャルボンド(社会貢献債)として発行しています。ソーシャルボンドとは、途上国支援など社会的課題の解決を目的として資金を調達する債券で、世界的なESG(環境・社会・ガバナンス)投資の流れの中で、グリーンボンド(環境に好影響を及ぼす事業に資金使途を限定した債券)とともに投資家の高い関心を集めています。2016年6月に国際資本市場協会(ICMA)が、ソーシャルボンドの定義を公表したのですが、JICA債はソーシャルボンドの特性に従う債券である旨、第三者機関によるセカンドオピニオンを受け、国内初のソーシャルボンドとして発行されることになりました。

ソーシャルボンドとして発行されるメリットは何ですか。

ソーシャルボンドとしてのお墨付きを得たとはいえ、JICAが今まで行ってきた活動が変わるわけではありません。ただし、投資家にとってはJICA債への投資意義が明確化されるというメリットがあります。また、生命保険会社等の機関投資家の中には、年間運用額におけるESG投資の目標額を設定している投資家もいるため、そうした投資家にとってはそこにJICA債を組み込みやすくなったこともメリットといえるでしょう。

発行後の反響はいかがでしたか。

2016年9月に日本での初めてのソーシャルボンドとして発行した際、当初の発行予定額は200億円を予定していましたが、予想以上に需要が大きかったため350億円に増額しました。また、大手生命保険会社や金融機関など13社が、資産運用を通じた社会貢献の取り組みとしてJICA債の購入を対外的に表明してくださいました。

JICA債を活用して実施された環境分野の事業の事例を教えていただけますか。

インド北部のウッタラカンド州で森林資源管理のプロジェクトを実施しています。同州は、北部にヒマラヤ山脈をいだき、農村人口の多くが生計維持のために森林資源に依存した生活を営んでいます。森林資源を持続可能な方法で管理するには、地域住民の生計向上を図りつつ、住民と共同で適切な森林管理を行う必要があります。そこで、有償資金協力事業(円借款)により住民参加型の森林環境回復活動(植林、野生動物保護・生物多様性保全活動など)や防災・災害対策活動(治山事業、林道復旧、避難施設整備など)を実施し、同地域の環境保全と均衡のとれた社会経済発展、さらに気候変動の緩和および適応に寄与することを目指しています。
もう1つの事例は、エジプト紅海沿岸のザファラーナ地区で実施された風力発電設備設置事業です。エジプトでは、増加の一途をたどる国内の電力需要を満たしながら、温室効果ガスと大気汚染の抑制を実現するために大規模な風力発電所の建設を進めています。JICAは、有償資金協力事業(円借款)によって、142基の風力発電施設を新設しました。貸し付け完了2年後に実施された第三者による事後評価では、 ほぼすべての運用・効果指標実績値において計画値の8 割以上を達成し、同国の電力供給量拡大および化石燃料使用の削減、さらに温室効果ガスの排出削減に貢献したと評価を得ています。

インド・ウッタラカンド州。森林資源管理事業を実施し気候変動の緩和と適応に寄与

インド・ウッタラカンド州。森林資源管理事業を実施し気候変動の緩和と適応に寄与

エジプト・ザファラーナ地区。風力発電事業を実施し電力需要への対応と温室効果ガス削減を両立

エジプト・ザファラーナ地区。風力発電事業を実施し電力需要への対応と温室効果ガス削減を両立

今後の事業に関する抱負を教えていただけますか。

SDGsが掲げる大きな目標を達成するには、公的資金のみならず民間資金の動員が欠かせません。JICA債は、民間資金を途上国の支援に活かす有効な選択肢の1つです。日本政府の「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」がまとめた実施指針にも、資金動員の具体施策として「JICA債の発行を通じて国内の民間資金を成長市場である開発途上国のために動員する」と明示されています。私たちは、政府の実施施策に盛り込まれているという強みを活かし、より多くの投資家の皆さまにJICA債を購入いただき、持続可能な国際社会づくりに貢献していきたいと考えています。

財務部 市場資金課 課長
田中 賢子氏

組織概要

組織名
独立行政法人国際協力機構
所在地
東京都千代田区二番町5-25
資本金
7兆9,253億円(2016年3月末時点)
事業内容
開発途上国への技術協力事業、有償資金協力事業、無償資金協力事業など
TEL
03-5226-6660
URL
https://www.jica.go.jp/(JICA HP)
https://www.jica.go.jp/investor/(JICA債)