Ecological Company Special 〜環境経営の現場から〜

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Ecological Company Special 株式会社QDレーザ 代表取締役社長 菅原 充氏

デジタル社会を進化させる革新的な技術である量子ドットレーザの量産化に世界で唯一成功した株式会社QDレーザ。2018年中に網膜走査型レーザアイウェアを発売すると発表して注目を集めている、同社の代表取締役社長である菅原充氏にお話を伺いました。

御社の事業概要をご紹介いただけますか。

弊社は、量子ドットレーザ技術の事業化を目指し、2006年に富士通研究所のスピンオフとしてスタートしたベンチャーで、通信・産業・医療・民生用等の分野で新しい半導体レーザソリューションを開発・提供しています。最大の強みは、世界で唯一通信事業者の通信網にも利用可能な量子ドットレーザの量産技術を有していることです。

量子ドットとは、ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの小さな粒々のことで、これを半導体に挟み電圧をかけるとレーザ光が出ます。この量子ドットレーザは、従来の半導体レーザが苦手としていた200℃以上の高温でも安定した性能を発揮できることから、動作中に高温を発するCPUやLSIでの利用にも適しています。こうした特性からデジタル社会の進化に不可欠な技術として、世界中の研究者や企業から注目されています。

量子ドットレーザは情報通信社会を、どう変えるのでしょうか。

インターネットやクラウドが社会インフラとなる中、データ量は増加の一途を辿っており、既存技術では近い将来データ処理が追い付かなくなると予想されています。

ネットワーク分野では、弊社の量子ドットレーザ技術を応用したチップが導入される等、光ファイバー網の増強により課題を解消しつつありますが、今後は通信機器やコンピュータ内部の電気信号の伝送路がボトルネックになるといわれています。この回路内の信号伝送を電気ではなく、量子ドットレーザに置き換えれば、処理速度を100倍に高め、ボトルネックを解消することができます。さらに、余計な配線や光源が不要となるので回路を小型化でき、IoT(Internet of Things)やIoE(Internet of Everything)の普及にも貢献します。

量子ドットレーザ

レーザ光を発生させる活性層に「量子ドット」を用いた量子ドットレーザ。

レーザ光を使ったアイウェアが話題となっていますが、これはどのような商品ですか。

2018年7月以降に発売予定の「RETISSA® Display(レティッサ ディスプレイ)」は、弊社が得意とする精密に光を操る「VISIRIUM®(ビジリウム)」技術を用いて開発した網膜走査型レーザアイウェアです。これは従来のAR(拡張現実)・VR(仮想現実)ゴーグルやスマートグラスとは設計思想がまったく異なるもので、ディスプレイを使わずレーザ光を直接網膜に当てて映像を投影する革新的なアイウェアです。

有効な利用方法として考えられるのは、視覚に課題を感じる方の「見える」を支援することです。視覚弱者の助けになりたいと思っています。WHOによれば、世界には約2億8,500万人の視覚障がい者がいて、全人口に対して全盲の方が約0.5%、ロービジョン(視機能が弱く、矯正もできない状態)の方が約3.6%いるとされています。

ビジリウム技術は、角膜や水晶体等の前眼部の疾患(白内障、混濁、屈折異常等)に有効なソリューションと考えられます。前眼部にわずかでも光を通す部分があれば、そこからレーザ光を通して網膜に映像を直接投影できます。前眼部をバイパスするので、ピント調節ができなくても、混濁があっても、クリアな映像を取り戻すことが期待できます。

RETISSA(R) Displayのプロトタイプ。

RETISSA® Displayのプロトタイプ。

網膜に直接映像を描き出す

三原色レーザ光源からの微弱な光と高速に振動する微小な鏡
(MEMSミラー)を組み合わせ、網膜に直接映像を描き出す。

医療機器として発売されるのですか。

現時点では医療機器ではありません。国内では、前眼部疾患に起因する低視力者を対象に、視力補正の有効性と安全性を検証する治験が始まったばかりです。治験終了後すぐに認可を申請し、早ければ2019年中に医療機器として発売することを目指します。内蔵カメラの映像を投影することで視力補正ができるモデルとなります。

先行販売する民生用のRETISSAは、同じ技術を使っていますが内蔵カメラを搭載しておらず、視覚障がい者向けではありません。スマートフォン等と接続すれば映像を網膜に投影できるので、従来のディスプレイ等では見にくさを感じている方に新しい「見る方法」を提供できると考えています。

現在、販売ルートを確立するべく、メガネ店等、複数の事業者と連携して準備を進めています。

大きさや重さはどのくらいですか。

最新のモデルは、メガネ部分が約50g、コントローラ部分が約350gで、実際に使用した方から「軽くて疲れない」「これなら街中でかけても恥ずかしくない」との声をいただいています。今後もリファインを続け、さらなる軽量化とデザインの洗練を進めます。すでに現段階で、レーザ光を網膜へ送るリフレクター部分をフラット化するめどが立っているので、2019年中には普通のメガネやサングラスと見分けがつかないスマートなデザインになる予定です。

また、現状ではピンポイントでレーザ光を送るため、瞳孔が動くと映像が見えなくなる課題がありますが、これも瞳孔の動きをトラッキングする基本特許を取得したので、近い将来解消できる予定です。

レーザ光を直接照射することによる健康への影響はありませんか。

本技術に使用しているレーザ光の出力は、安全に関する国際・国内規格(IEC60825-1・JIS C 6802)、もしくは米国FDA(食品医薬品局)の基準(21CFR1040.10)のクラス1に分類されます。クラス1のレーザ光は目に入れても害がない強さですから、安心してご利用いただけます。

この技術は、世界中の視覚弱者を救う可能性がありますね。

RETISSAは、前眼部の疾患には有効ですが、視神経系疾患には有効なソリューションとはいえません。視神経系疾患の最良の対処方法は、早期発見です。しかし、現在の医療環境では早期発見はほぼ不可能です。

なぜかというと、視神経系疾患を検査するための視野計や眼底撮影装置、OCT(光干渉断層計)等の装置が高額で、保有する眼科が限られるからです。さらに、オペレータがつきっきりで焦点調整等の操作をしなければならないので、手間も時間もかかるため、患者さんの負担が大きいという問題もあります。もっと手軽で安価にならないと、国民検診に組み込むことができず、早期発見は困難です。

視神経系疾患は珍しい病ではなく、誰もが発症するリスクを抱えていることは、あまり知られていません。人間の視神経は0歳から10歳の間に形成されますが、この期間に疾患を見過ごしてしまうと、視力を回復することはできません。疾患を持つ子どもは、生まれたときからロービジョン状態なので本人は異常があると気づかず、見過ごされるケースが少なくありません。それを防ぐには幼少期からの国民検診が必要です。

健康な視力を保っている大人も安心はできません。人間の目は70年ほどで寿命を迎え、視神経は確実に衰退していきます。視神経系疾患の代表例は緑内障です。緑内障は国内の失明原因の第1位で、40歳以上の20人に1人が発症します。早期発見すれば治療は可能ですが、自覚症状がないため国民検診のような形で診断しなければなかなか見つけられません。

こうした課題を打破するため、弊社は大学や医療機器メーカーと連携して、複数の検査を全自動で、しかも1台で行える安価な眼科検査装置の開発に取り組んでいます。我々が目指すのは、すべての眼科はもちろん、ショッピングセンター等にも装置を設置してセルフで眼科検査が行える環境を整えることです。撮影した診断画像は、診療ビッグデータと組み合わせてAIで分析し、疾患の可能性を迅速に判定できる仕組みを提供したいと考えています。

定期的な国民検診を実施して疾患を早期発見できれば、失明者の3割を救えると眼科領域に造詣が深い先生もおっしゃっていますので、できるだけ早く検査装置を実用化したいと思っています。

御社の技術の活用により、環境問題にプラスの影響を与える領域はありますか。

電子回路の伝送部を電気から光に変えるシリコンフォトニクスが普及すれば、消費電力を大幅に減らせるのでCO2削減効果が期待できます。RETISSAは、将来的に液晶モニターや大型ディスプレイを代替する可能性がありますので、そうなった場合、電力消費や資源利用の軽減につながります。

また、弊社のレーザ技術は、現在でも気象状況の観測や土中の状況把握等にご活用いただいており、こうしたセンシング分野でも環境問題に貢献しています。

今後の展望を教えてください。

できる限り早く認可を取り、視覚障がいの方に向けて医療機器モデルを出荷することが直近の目標です。その次のフェーズとしては、遠隔医療への応用、ビジネス分野におけるARを用いた作業支援、エンターテインメント分野への応用、クラウドと連携したスマートグラスへの発展等、幅広い分野への展開を考えています。

会社概要

社名
株式会社QDレーザ
所在地
神奈川県川崎市川崎区南渡田町1-1
事業内容
独自の通信・産業用高効率半導体レーザおよび視覚情報デバイスの開発製造
TEL
044-328-6808
URL
https://www.qdlaser.com/