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環境対策は経済の敵か味方か

 揉めに揉めた温室効果ガス削減の中期目標をめぐる議論。ここで、明らかになったことは「環境対策は経済の敵か味方か」についての見解が、我が国においては極端に二分されているという事実であろう。

 日本経済団体連合会を中心とする多くの経済団体は、目標達成に要する限界削減費用について、欧米が現在掲げる目標と同等となる選択肢(1990年比プラス4%)が最も合理的であるとした。国際的公平性の確保がとりわけ重要であるという主張である。排出量取引制度や環境税などは、研究開発などの原資を奪うとともに、国内におけるモノ作りの制約要因としてエネルギー効率の高い我が国からエネルギー効率の低い海外への生産の移転を助長する(炭素リーケージ)など、地球温暖化問題の解決に逆行するのみならず、国内雇用の減少、地域社会の疲弊の原因となるとの立場で一貫していた。温暖化対策は経済のお荷物以外の何者でもなく、したがって荷物の重さは各国(少なくとも先進国)で同じにすべきだという論理だ。

 一方で、地球の平均気温上昇を産業革命前に比べ、2℃よりはるかに低く抑えることを優先すべきと考える市民団体や有識者は、(1)対策費用ばかりが負担として強調されており、対策をとらない場合の悪影響へ対応する費用との比較が全く考慮されていない、(2)温暖化対策によるエネルギー削減で得をする費用が過小評価されている、(3)新たな温暖化対策費用追加による雇用創出効果、内需拡大の経済効果が全く考慮されていないとして、温暖化対策は経済の追い風になるはずとの考えを繰り返し主張した。

 議論は平行線が続いた。1つだけ残念なことがあるとすれば、「市場が変わる」「市場を変える」という認識がどちらからも出てこなかった点であろう。本当は、環境対策は経済の敵にも味方にもなりうる。だが、企業は「高くても買ってくれる顧客がいる」など端から考えていない。市民も「温暖化対策を回避する企業の不利益となるよう消費行動を変える」ことにコミットしない。ここに日本の隘路(あいろ)がある。経済は観察の対象だけではなく、我々一人ひとりが、その中に存在していることをもう一度、思い返したい。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)