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米国で進む温室効果ガス規制

 我が国では、「地球温暖化対策基本法案」が2010年3月12日に閣議決定された。ただ、条件つきの25%削減目標、排出量取引における原単位制の容認、原子力発電の積極位置づけなど最後まで迷走した上での決定であったという印象は否めない。

 一方の米国では、3月29日に米国環境保護庁のリサ・ジャクソン長官から、温室効果ガスを年間2万5,000トン以上排出する産業施設について、建設・操業認可の取得を義務づける規則を2011年1月までは実施しない旨の発表があった。

 もともと、この規制は2007年4月、米最高裁判所がマサチューセッツとそのほかの11州、ならびにさまざまな環境保護団体に同意し、環境保護庁がクリーンエア法で温室効果ガスを規制する責任を持つという判決を5対4で下したことに端を発する。

 環境保護庁は2009年9月に規制案を公表。12月には、気候変動の主な原因として、温室効果ガスは気温の上昇や熱波、オゾン濃度の上昇につながる恐れがあり、ヒトの健康や環境に悪影響を及ぼすものであると認定を下すなど、規制への地ならしも行ってきたところだった。

 今回、新聞報道では、「景気回復に悪影響を与えるとする企業や自治体の主張に譲歩し、規制が先送りされた」「規制強化が2010年秋の中間選挙に悪影響を与えかねないとの配慮も働いた」との観測がなされている。しかし、「2011年1月までは実施しない」という声明は「それ以降は実施する」という宣言とも読める。

 この規制は、現在、上院で審議が難航している「米国クリーンエネルギー・雇用・電力法案」が成立見送りとなった場合の、オバマ大統領の伝家の宝刀だともいわれている。実施を先送りしても、中身は譲歩しないという点に、ジャクソン長官のしたたかさが見える。4月1日には、2012年型の新車から段階的に適用される自動車の燃費規制強化策もほぼ原案通り最終決定された。米国では、温室効果ガス規制が静かに前進している。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)