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排出権取引制度をめぐる対立の行方

 「中国国内の各航空輸送会社が欧州連合(EU)域内における温室効果ガスの排出権取引制度(ETS)に参加することを禁止し、また各社がこれを理由に運賃を引き上げたり、新たな費用項目を増やしたりすることを禁止する」。国務院の承認を得て中国民用航空局は、2012年2月6日までに、こうした通達を中国国内の各航空会社に発出したという。

 EUが2012年1月1日から導入した、域内の空港を発着するすべての航空会社にEU-ETSに基づく支払いを課す措置に、中国は強く反対を表明してきた。一方、EU側は、同制度はEU域外諸国の主権の侵害には当たらず、関連する国際的な取り決めとも矛盾するものではないとの立場に立ち、2011年暮れ、最高裁判所に当たる欧州司法裁判所(ECJ)が「航空業界へのEU-ETSの適用は、関係する慣習国際法もオープンスカイ協定も侵すものではない」との判断を下して、これを牽制したのだった。

 今回の通達は、いわば「宣戦布告」のようなもので、ある国の環境規制が外交的な対立を引き起こす時代になったことを象徴している。中国航空運輸協会の試算では、EU線を運航する中国の航空会社のコスト増は8億元(2012年)と見込まれ、路線拡大を織り込むと2020年には30億元のコスト増になるという。9年間に176億元もの国富がEUに流れるという推計で、これを黙って見過ごすわけにはいかないというのが中国側の主張となっている。

 「EUは輸入する製品にまで対象を広げ、一種の非関税障壁を形成する可能性がある」と中国側は警戒心を強め、原則は譲れないとの姿勢で、対立の出口は今のところ見通せない。EU側が中国の航空会社の発着を認めないなどの措置に出るのかが、次の焦点であろう。一国が新たな環境規制を発動しようとしても、すでに経済のグローバル化が進んでしまっていると、必ずこうした摩擦が引き起こされる。地球と社会の持続可能性を追求しようとする挑戦には、なお険しい壁が立ちはだかっている。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)