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気候変動に適応する包括計画を

 この夏、熱中症で病院に運ばれた人は全国で5万人に上り、気象庁の観測地点927のうち、およそ1割の地点で史上最高気温を更新したという。これまで、世界の合意は、人類の経済活動から排出される温室効果ガスによって引き起こされる地球全体の平均気温の上昇を、産業革命前(つまり人為的な温暖化が起きる前)と比べて2℃未満に抑えるというものだった。これは、それ以上の気温上昇になると、極めて深刻な問題が生じると予測されたからだ。しかし、2℃未満に抑えるという目標は、どうやら実現できそうもないという見通しが優勢になってきている。

 気候変動から人々の健康や財産をどのようにして守るのかが今後は問われる。米国ニューヨーク市は、全体で438ページにも及ぶ「より強靱で、回復能力を有するニューヨークをつくる」とする包括計画を2013年6月に発表した。2012年10月に街を襲ったハリケーン・サンディの甚大な被害が計画づくりの直接の引き金になったとはいえ、温室効果ガスの排出を原因とする気候変動の影響を加味した上での計画である。

 日本でも、「国土強靱化推進」が政策の俎上に載せられている。首都直下型地震や南海トラフ地震などといった大規模な自然災害に加えて、気候変動への適応の視点がより明確に盛り込まれる必要があるだろう。現状を見ると、農業分野で高温などに耐える品種改良の取り組みを打ち出す自治体が出てきている程度だが、防災をはじめ、医療・福祉・衛生、水道供給など気候変動への適応策の裾野は広い。縦割り行政の壁を乗り越えて、議論をスタートすべきときを迎えていると思えてならない。

(株式会社日本総合研究所 足達 英一郎)