〜特集〜 物流クライシスを乗り越えサステナブル・ロジスティクスへ

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物流クライシスを乗り越えサステナブル・ロジスティクスへ

物流業は、すべての人・企業にとってなくてはならない基幹産業である。景気の回復基調を反映し、物流各社は順調に取扱量を拡大してきた。だがここにきて、業界には2つの大きな壁が立ちはだかる。ひとつは、トラック輸送に代表されるように、運輸部門ではCO2排出量が多いこと。そしてもうひとつは、ドライバーや作業員の不足である。「物流クライシス」が叫ばれる中、現場の課題と向き合い、物流を持続可能な基盤とするために知恵を絞る業界各社、および荷主企業の取組に迫る。

トラック輸送におけるCO2排出量の問題

我が国が排出しているCO2のうち、運輸部門からの排出量は17.4%(2億1,300万トン、2015年度)を占めている。この運輸部門の内訳を見ると、貨物自動車(トラック輸送)によるものが35.8%(7,627万トン)を占める一方で、鉄道、航空、内航海運は、いずれも5%未満の低い水準にとどまっている。

トラック輸送は、荷主企業からのリードタイム短縮や多頻度化等の要請に応じて柔軟な配車計画を立てやすく、輸送スピードも速い。今日では、国内で取り扱われる貨物輸送量のおよそ半分(トンキロベース)を担っている。だが、トラック輸送にはエネルギー効率の低さという弱点がある。たとえば、同じ1トンの貨物を運ぶのに営業用貨物トラックは鉄道輸送の8.7倍ものCO2を排出している。運輸大手や荷主企業の物流部門はこの点を重く受け止め、以前から低公害車の導入や積載率の向上等、トラック輸送を対象とした環境対策を進めてきた経緯がある。

一方、物流業界では昨今、人手不足が深刻化している。トラックドライバーや作業員が十分に確保できないため現場が疲弊し、事業所によっては現状のサービス水準を維持することが困難な状況になっている。「自動車運転の職業」の有効求人倍率は、全職業の平均を大きく上回る傾向が続く。そこで、各社は環境対策と並行して、労働力不足の課題を解決できる施策を練る。

出典:国土交通省

出典:国土交通省

出典:厚生労働省

出典:厚生労働省

車両と幹線輸送の見直しでドライバー不足に対応

宅配便最大手のヤマト運輸株式会社では、大型トラックに巨大トレーラを連結し、車両長が25メートルに及ぶ「スーパーフルトレーラ25(以下、SF25)」を国内で初めて導入。2017年秋から主要都市間の幹線輸送で運行を開始している。2016年より国土交通省は、物流の生産性向上を目的として車両長を緩和する検討を開始、ヤマト運輸は同省とともに実証実験に取り組んできた。「通常は12メートルの大型トラックをSF25に代替することで、輸送効率は210%ほど向上します。つまり、ひとりのドライバーが2倍の荷物を輸送できるわけです。しかも、ロールボックスパレット(かご形状のキャスター付きパレット)単位の燃費は半分以下に抑えられます。CO2排出量の削減効果についても、これまでの実証実験で得られたデータを基に検証しているところです」。こう語るのは、同社 ネットワーク事業開発部 幹線ネットワーク事業開発課 課長の加地慎二氏である。

日本最長となる連結トラックの導入と並行して、ヤマト運輸では最新鋭のマテハン機器(※1)を導入した総合物流ターミナル「ゲートウェイ」の整備を進めている。仕分けや運搬作業の自動化を図り、最少の人数で正確な荷物の処理が可能となる。加えて、厚木と中部、関西に設けたゲートウェイを核に、従業員の労働環境を改善しながら、輸送効率を高める構想を実行に移している。たとえば、東名阪の幹線輸送は、これまで片道約600キロメートルをひとりのドライバーが9時間かけて走行していた。現地で睡眠を取り、夜間のうちに荷物を積み込んで、再び復路の600キロメートルを走行するやり方が主だった。しかし、このやり方はドライバーに多くの負担がかかり、自宅に帰ってくつろげる日数も限られていた。

「こうした状況に対して何も手を打たなければ、“運びたくても運べない時代”が間もなく到来することになります。そこで、当社が取り組む解決策のひとつがSF25であり、ゲートウェイ間の新たな輸送方法なのです」(加地氏)。現在、東名阪の幹線輸送は、中部ゲートウェイを中継地点とした「多頻度循環型輸送」という方法を採用している。たとえば厚木を出発したドライバーは中部ゲートウェイまでの区間を走行し、そこから大阪までのルートは別のドライバーが輸送を引き継ぐ。一番手のドライバーはその日のうちに厚木ゲートウェイに戻り、自宅に帰ることもできる。この方法によって、トラックドライバーのワークライフバランスは大きく改善しているという。

「東名阪の幹線輸送を担うトラックを、順次SF25に置き換えていくことで、輸送効率の向上と環境負荷の大幅な軽減を目指しています」と加地氏は話す。

ヤマト運輸では、これら一連の施策は物流業界が抱えるドライバー不足等の課題解決にもつながると考えている。

「スーパーフルトレーラ25(SF25)」

「関西ゲートウェイ」の敷地内を走行する「スーパーフルトレーラ25(SF25)」

路線バスを活用した宅急便輸送「客貨混載」が、地域課題の解決に貢献

ヤマト運輸では、全国の自治体や企業と連携し、地域活性化や課題解決に向けた取組を各地で推進している。その一環として、地方のバス事業者と連携し、路線バスによる宅急便輸送「客貨混載」を、2015年から地方都市の沿岸部・中山間地域等で実施している。

客貨混載は、バス車両の空きスペースを使って荷物を輸送するものだ。これによりバス路線の生産性が向上し、バス事業者は新たな収入源を確保できるようになった。

一方、ヤマト運輸のエリア担当者は、移動に要する時間を削減でき、現地に滞在できる時間が増加した。この時間を生かして、集荷締め切り時間の延長や「高齢者見守り支援」等、顧客サービスの向上を図っている。また、集配車両の走行距離を減らせたことが、CO2排出量の削減にもつながっている。

地域住民にとっての最大のメリットは、都市部へのアクセス手段であるバス路線が廃止に至ることなく、これまでと同様に確保されたことであろう。つまり、同社による客貨混載事業は、地域の大切な交通インフラの維持にも貢献しているのである。

宅急便輸送

ライバル企業とともに共同輸送のスキームをつくる

物流サービスの存続が危ぶまれる昨今、荷主企業の側でも注目すべき取組が始まっている。

2017年1月、ビール業界ではアサヒビール株式会社とキリンビール株式会社が、関西エリアの工場から北陸への配送を、鉄道を用いた共同輸送方式に切り替えた。同年9月には北海道の釧路・根室地区で、サッポロビール株式会社とサントリービール株式会社も加わった計4社が、鉄道とトラックの併用による共同輸送に着手した。さらに2018年4月からは、関西・中国―九州間の商品輸送において、同じく鉄道を活用した共同モーダルシフト(※2)を4社でスタートさせた。

「我々メーカーが推進してきた物流施策は、拠点を集約して輸送距離を伸ばしていくというものでした。しかしこの施策は、トラックドライバーを長期間拘束することになり、結果としてドライバー職が敬遠される原因のひとつにもなっていました。そこでビール4社が手を組み、ドライバー不足への対処と環境負荷の低減を目的に、鉄道を用いた新たなスキームづくりに着手したのです」。アサヒビール 生産本部 物流システム部 担当副部長の千田悠氏は、大手4社がモーダルシフトに共同で取り組む背景をこう説明する。

共同輸送を開始して1年余りが経過した北陸エリアでは、年間1万台相当のトラック輸送を鉄道コンテナにシフトし、年間2,700トンのCO2排出量削減を実現した。関西・中国―九州間の共同モーダルシフトでは、4社合計で大型トラック2,400台相当の輸送能力を鉄道コンテナで代替し、年間約1,500トン(従来比で約74%)のCO2削減を見込んでいる。

鉄道貨物による配送は、往路と復路で積載率の差が大きい面がある。たとえば北海道の場合、地方部で収穫した農産物が大消費地の札幌に運ばれる。しかし、帰りの路線においては、コンテナのスペースが余っている場合が多い。ビール業界が開始した今回の共同輸送では、輸送余力のある鉄道路線を使ったスキームを組んだことで、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の採算性向上にも寄与している。

こうした成功事例を参考に、物流課題の解決を模索する業界および企業は、今後増えていくと見られる。千田氏は、こんなアドバイスをする。「私たちのケースでは、まず課題意識を共有した上で、事業で競争する部分と協調すべき部分を明確化しました。物流のスペシャリストである日本通運およびJR貨物とも、パートナーシップを築いています。両社からの提案に耳を傾けながら、ビール4社で細部のプロセスを調整し、共同スキームを組み立てていきました。今や、ほとんどの企業が物流効率化や環境対策に取り組んでいます。自社だけで取り組める対策は、ほぼやり尽くしているはずです。今後は既存ビジネスの枠にとらわれず、まずは異業種も含めた他社と、物流に関するフラットな情報交換をする場を設けるべきだと考えます」。

業界初となる共同輸送

アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールは、
業界初となる共同輸送を2017年9月に開始。

ビール4社の商品

JR貨物の鉄道コンテナに積み込まれた、ビール4社の商品。

ビール4社による共同輸送

ビール4社による共同輸送<関西・中国−九州間>のスキーム

ドローン配送で「空の産業革命」

物流業が直面する課題をより深刻にしているのは、ネット通販の活況であろう。物流が小ロット化し、現場ではさらに多くの労働力が求められている。ラスト・ワンマイル(※3)の配送時に排出するCO2も、増加する一方である。

ネット通販国内最大手の楽天株式会社も、これらの課題を強く認識し、対策に乗り出している。同社が着目したのは、日本の「空」である。同社 ドローン事業部 事業開発チームの谷真斗氏は、次のように説明する。「現在、高度150メートル以下の空間には、基本的に電波と鳥しか飛んでいない状況です。この空間を利用してドローン配送を実施すれば、労働力不足や交通渋滞といった物流課題の解決に結びつくと考えました」。楽天は2015年、自社開発のショッピングアプリと、株式会社自律制御システム研究所と共同開発した独自の配送用ドローンを組み合わせ、「楽天ドローン」という新事業を立ち上げた。自社ビジネスへの適用だけでなく、外部の事業者に向けての提供も視野に入れている。この「楽天ドローン」事業は、次の3点をミッションに掲げている。

  • 空から商品を届ける、新しいショッピング体験の提供
    同社は2016年、千葉県・御宿町のゴルフ場で、専用アプリを使ってプレーヤーに飲み物等を配送するサービスをスタートさせた。また、ドローン宅配の実現を目指す千葉市の取組にも参画。幕張新都心等にドローンが移動する拠点となるポートを設け、住民に商品を配送する計画が進んでいる。
  • 物流困難者の支援
    買い物弱者や交通弱者への支援策として、ドローンを活用したサービスを提供する。これまでに離島や山間地域において、楽天はドローンによる商品配送の実証実験を行っている。2017年10月からは福島県南相馬市で、株式会社ローソンとの協業による配送サービスを試験的に半年間実施した。
  • 災害等、緊急時のインフラ構築
    同社は複数の自治体と、災害時等にドローン物流を活用する包括連携協定を結んでいる。岐阜県飛騨市では2017年秋に被災時の物資運搬を想定した飛行見学会を行っている。

現時点の課題は、法律による規制である。「たとえば国土交通省への申請時に、操縦者を確保しておく必要があります。しかし、一定時間以上の飛行実績を持つ人材は限られており、人件費は商用化を目指す上で課題となっています」(谷氏)。政府はドローン物流を普及させるため、規制緩和と新たな法制度の整備に着手している。2018年中に山間部等での配送を実施し、2020年代には都市部においても安全なドローン配送を普及させるロードマップを描いている。

「空の産業革命」とも称されるドローン物流への期待は、日増しに高まる。「近々実施される規制緩和を経て、まずは小口配送市場の数%程度をドローンが占めると見ています。当社としては物流課題の解決と顧客満足の両立を意識しながら、ドローンを用いた最先端のサービスを展開していきます」。同社 ドローン事業部 事業戦略グループの西村剛氏は、事業の展望をこのように語る。

同社は、日常的に発生している再配達の問題も強く認識している。「東京都内では再配達の比率が35%にも上っており、ドライバーのモチベーションが大きく低下する要因にもなっています。配送予定時刻の通知機能等を備え、渋滞に影響されない『楽天ドローン』を普及させることで、再配達の抑制にも貢献したいと考えています」(西村氏)。

業界初となる共同輸送

革新的な配送サービスを提供する「楽天ドローン」。
ゴルフ場では、専用アプリを使ってゴルフ用品や軽食、飲み物等を注文すると、
ドローンがコース内の受取所まで商品を配達するサービスがすでに展開されている。

マテハンメーカーが主導する物流現場の生産性改善

自動倉庫や搬送機器を手掛けるマテハンメーカーも、持続可能な物流の仕組みづくりに大きな役割を果たそうとしている。

業界最大手の株式会社ダイフクは、流通・卸売業向けの物流システムを一括で提案し、顧客企業が抱える固有の課題を解決に導くノウハウを持つ。同社が注力するのは、人間が担っていた単純作業や繰り返し作業の工程を、可能な限り機械化したシステムで代替させ、顧客企業の労働力不足への対応を支援することである。この点が、顧客企業からも支持されている。「物流現場を支える従業員の確保は今後、ますます難しくなります。お客さまからも、『自動化率をさらに向上したい』という要望が高まっています」。こう話すのは、同社のマテハン・ロジスティクス総合展示場「日に新た館」館長を務める高光巧一氏である。近年は物流の小ロット化に伴う取扱量の増加に対応するために、単位時間あたりの処理能力がきわめて高い自動倉庫等も手掛けている。

省力化のニーズは、小売店舗の側でも高まっている。たとえば検品作業の効率化、または検品作業そのものを不要にする運用が求められている。それは、物流施設からの商品出荷精度を大幅に向上することで実現できる。無線表示器等を搭載したダイフクのデジタルピッキングシステムは、ピッキングミスが限りなくゼロに近い高精度を誇る。

ダイフクが顧客から支持されるもうひとつの理由は、事業を通じた環境貢献を強く意識し、実行に移していることだ。ある企業の案件では、8ヵ所あった通販向け物流センターを1ヵ所に集約し、貨物トラックの倉庫での待ち時間や貨物輸送量を削減させて、CO2排出量を大幅に削減。また、RFID(※4)の使用等により年間700万枚以上もの帳票類を不要にする等、資源の削減にも貢献している。最先端の自動化機器の導入は、物流モデルを変革するとともに、顧客企業の現場における省エネと環境負荷低減にも貢献するのである。同社製品の環境性能について高光氏は「移動ラック、自動倉庫、コンベア等の主力製品は、競合他社の製品よりも小型で高効率のモーターで駆動します。そのぶん、お客さま側で用意する電源容量を少なくできます」と話す。現在、ダイフクは機械構造のさらなる見直しや回生電力の有効活用(※5)等を進めており、2020年までに顧客企業に貢献できるCO2削減量を、10万トン(2005年比)にする目標を掲げている。

業界初となる共同輸送

ダイフクの代表的な環境配慮型製品のひとつである
スタッカークレーン「ラックマスター(Rシリーズ)」。
パレット単位の荷物をラックに入出庫する装置で、
高効率のモーター等を採用することで消費電力を削減。

業界初となる共同輸送

ダイフクが誇る最先端のマテハンシステムは
海外の大手総合スーパー等でも活用されている。

サステナブル・ロジスティクスの実現に向けて

ここまで見てきたように、物流の現場には生産性の向上や環境負荷を低減できる余地がまだまだある。だが、アサヒビールの千田氏のアドバイスにもあったように、自社だけで悩んでいても、現状を変えていくことは難しい。同業他社や異業種企業との、既存の枠組みを超えた協力体制等によって、目の前の壁を突破できる可能性が見えてくるはずだ。

今後は、IoTや人工知能といったテクノロジーの発展によって、物流の課題や環境問題が解決していくことが考えられる。しかし、テクノロジーだけですべてを解決することはできない。ヤマト運輸の幹線道路における輸送方式の工夫や、ダイフクが手掛ける現場作業の自動化率向上を目的としたコンサルティングのような“人間の知恵”をテクノロジーと融合することで、“物流クライシス”は解消へと向かうのである。こうして理想的な“サステナブル・ロジスティクス”の姿に近づいていくことができるだろう。

  • ※1マテハンは「マテリアルハンドリング」の略。物流拠点内の商品仕分けや運搬作業を自動化する機械およびシステム。
  • ※2モーダルシフトとは、貨物や人の輸送手段の転換を図ること。物流業界の例では、大型トラックをはじめ自動車による貨物の輸送を、鉄道や船舶による輸送に転換する施策等に、この言葉が使われる。
  • ※3ラスト・ワンマイルとは、主に通信業界で使われている用語で、通信事業者と利用者を結ぶ最後の区間という意味がある。物流業界においては、企業が各地域に設けた配送拠点からエンドユーザー宅までのルートを指す。
  • ※4RFIDとは、近距離無線通信を用いた自動認識技術のこと。電波等を使ってID情報を埋め込んだタグから情報を読み取り、物品を識別・管理する。
  • ※5自動倉庫システムのクレーンが下降する際に生じた運動エネルギーを電力に変換して再利用する。

取材協力(本記事 登場順)

  • ヤマト運輸株式会社
  • アサヒビール株式会社
  • 楽天株式会社
  • 株式会社ダイフク

参考資料

  • 「わが国における物流の近代化」(渡邊徳栄)