〜特集〜 プラスチックごみから始まるイノベーション

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海岸に打ち上げられた空のペットボトル、海流に乗って何千キロメートルも流されるビニール袋、海底に堆積するマイクロプラスチック。プラスチックごみによる海洋汚染が世界的な問題となっている。海洋生態系への影響が懸念される中、各国の政府や企業は使い捨てプラスチックの削減に向けて動き始めた。本特集では、プラスチックによる海洋汚染の実情と世界の動向、解決を目指す企業の取組を紹介する。

プラスチックによる海洋汚染

地球上で使用されるプラスチックの量は、過去50年で爆発的に増加した。経済協力開発機構(OECD)の報告書によると、世界のプラスチック年間使用量は、1950年時点で200万トンだったが、2015年に4億700万トンに達した。その大半は使い捨ての容器や包装といった一度しか使用されない「シングル・ユース・プラスチック」で、年間3億2,000万トンものプラスチックごみが発生しているという。

投棄されたり、埋立地から流出したりしたプラスチックごみのほとんどは、川を流れて最終的に海へたどり着く。2010年時点で年間400万〜1,200万トンが海へ到達し、汚染による観光や漁業等の損害は総額年間130億ドルに達すると推計されている。

特に問題視されているのは、海洋生態系への影響だ。プラスチックごみの多くは自然分解されることなく、海中を漂い続ける。大きなごみの場合、海洋生物を傷つけたり、体に巻きつき溺死させたりすることがある。また、波や紫外線によって劣化し、小さくなった破片は、魚や海鳥等が餌と間違えて食べる恐れがある。中でも、直径5ミリメートル以下のマイクロプラスチックは、食物連鎖の底辺に位置する動物プランクトンに誤飲され、そのプランクトンを食べる別の動物の体内にも取り込まれてしまう。マイクロプラスチックは海水中の有害物質を吸着する性質を持ち、食物連鎖で濃縮される可能性が指摘されている。

サーキュラー・エコノミーを目指す「欧州プラスチック戦略」

いち早く使い捨てプラスチックの規制強化に動きだしたのはヨーロッパだ。2016年、フランスが使い捨てプラスチック容器を2020年から原則使用禁止にする法律を制定。2018年には、イギリスがプラスチック製のストローや綿棒、マドラーの流通販売を禁止する方針を発表した。

EUの行政執行機関である欧州委員会は、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の実現に向けた行動計画「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を2015年12月に採択しているが、その中でもプラスチックは優先分野のひとつとして位置づけられている。具体的な目標として、2018年1月に発表された「欧州プラスチック戦略」において、新たな投資とイノベーションを推進し、2030年までにEU市場に流通するプラスチック製の包装をすべて再生可能なものとすることが打ち出されている。

サーキュラー・エコノミーの仕組み

欧州委員会が描くサーキュラー・エコノミーは、環境政策の枠組みを超え、社会にイノベーションを起こそうとするものである。その波は今、日本にも確実に押し寄せている。「“資源制約”と“消費者の変化”がサーキュラー・エコノミーの後押しになっている」とアクセンチュア株式会社戦略コンサルティング本部でマネジング・ディレクターを務める海老原城一氏は説明する。

「過去40年間、エネルギー価格が上がる中、大量生産によるスケールメリットや人件費を抑えることによって製品価格は上がらないよう、企業は努力してきました。しかし、2000年以降、日本では製品価格が上昇傾向にあり、従来の大量生産・大量消費モデルは限界を迎えています。さらに、消費者の価値観は、店頭から商品を選択する『従順な購買』から、事前にインターネット等で欲しいものを探し出す『わがままな購買』となり、そして今は必要なときに使えれば購入しなくてもよいという『わがままな利用』へと変わってきています。『所有』よりも『利用』に敏感な消費者のニーズを理解し、モノが持つ潜在価値を最大限に引き出すサービスを提供できなければ、今後、企業は存続していくことが難しくなるでしょう。技術のイノベーションによって、車や家のシェアリングのように高価格帯の商品から順に新たなビジネスモデルが生まれています。こうした波に乗り遅れてしまうと、これまで競争優位の高かった企業が一挙に転落してしまうかもしれません。しかし、逆に新しいビジネスモデルへの転換を図ることで、企業は利益率やブランドイメージを上げることもできます。今後、こうした動きが拡大していけば、シングル・ユースのプラスチックに対しソリューションとなるサービスも出てくるかもしれません。プラスチックが抱える課題は大きいので、日本ならではの技術力でイノベーションを起こせれば、ビジネスを爆発的に変えるチャンスとなるはずです」と海老原氏は話す。

容器包装における自主的な環境配慮を推進

プラスチックを取り巻く状況や消費者意識の変化を、国内の企業はどのように感じているのだろうか。「消費者・顧客を最もよく知る企業に」をビジョンとして掲げる花王株式会社は、近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)を新たな成長の柱に位置づけ、取組を進めている。同社ESG部門の副統括を務める柳田康一氏は、次世代の購買層の登場を次のように話す。

「最近は高校の教科書に“ESG”“フェアトレード”“森林破壊”といった言葉が載っていますし、実際に学生さんに会うとパーム油の環境影響について質問されることもあります。マレーシアまで行ってパーム農家から直接話を聞いてきた中学生もいるほどです。ESGネイティブ、SDGsネイティブ、ソーシャルネイティブとも称される彼らが10年後、20年後に購買層の中心になるということは、今後、そうした価値観が経済にも大きな影響を及ぼすことになります」。

花王の詰め替え・付け替え製品におけるプラスチック使用量と削減量の推移

ESGを推進する花王は、プラスチックをめぐってこれまで先進的な取組を進めてきた。商品に含まれるプラスチック粒子の廃止はその一例だ。従来、化粧品や歯磨き粉等には、角質の除去や歯のホワイトニングのために微細なプラスチック粒子が含まれていた。アメリカが2017年からプラスチック粒子を含む製品の段階的な使用禁止を始めたことで、企業の取組が加速したが、その前から花王は自主的にセルロースやコーンスターチといった天然由来成分の開発に取り組み、2016年末までにすべての製品で代替素材への切り替えを実現した。

また同社は、容器包装に使用されるプラスチック資源の削減にも積極的だ。ボトルの薄肉化・軽量化、内容物の濃縮による容器のコンパクト化というアプローチに加え、特に注力してきたのが詰め替え用製品の開発である。

1991年、花王は資源使用量を抑えたフィルム素材の詰め替え用製品を発売。それ以降、詰め替え用製品の品数を増やすととともに、消費者が詰め替えやすいようにボトルの大きさや内容物の粘度に合わせた改良を続けてきた。たとえば、2016年に商品化された「ラクラクecoパック」は、シャンプーのような粘度が高い製品も、こぼさず、素早く、残さず詰め替えられる。続けて開発された「スマートホルダー」は、“詰め替え”から“付け替え”に発想を転換。ラクラクecoパックをスマートホルダーに取り付け、ポンプを差し込んで使用する。内容物を移し替える手間を省き、ユーザビリティを向上させることで、詰め替え用製品の利用促進を図る狙いがある。

花王における環境に優しい容器包装の開発

花王の詰め替え・付け替え用製品は2017年12月時点で289品目に上り、その販売比率は全体の84%に達する(数量ベース)。すべて本体容器(プラスチック製ボトルに入った製品)であった場合と比較した削減効果と、製品のコンパクト化による削減効果を合わせると、約9万トンのプラスチック使用量を削減したことになるという。

さらに、花王は新たな環境配慮型容器「エアインフィルムボトル(AFB)」の開発を進めている。AFBの最大の特徴は、フィルム素材でありながら、二重構造にすることで隙間に空気を入れ自立を可能とした点だ。ボトル型容器と比べ、プラスチック使用量を大幅に削減。内容物が減ると、内部フィルムが収縮し、最後まで残さず使える。「化粧品やトイレタリー製品は意匠性が求められますが、AFBはさまざまな形状に加工できます。商品化にあたっては、使用する樹脂を1種類にしてリサイクルしやすくすることも検討しています」と柳田氏はAFBの特徴を強調する。本格的なリサイクルの実現に向け、すでに花王は全国5ヵ所の自治体と協力して、使用済み詰め替え用商品のパッケージを回収して再生樹脂とし、暮らしに役立てる実証実験を進めている。

“紙でできることは紙で。”

容器包装をはじめ、ストローやレジ袋等、使い捨てプラスチックを使用する企業が対策を模索する中、従来のプラスチックを代替する素材として紙に注目が集まっている。日本製紙株式会社グループ販売戦略本部で紙化ソリューション推進室長を務める長知明氏は、「ニーズに応じて紙でできることを提案することが大事」と話す。「プラスチックは熱可塑性や強度に優れており、生活のさまざまな場で使用されています。プラスチックがなければ今と同じライフスタイルを享受することはできないでしょう。問題は消費に対してリサイクルやリユース等の処理が追い付いていないことです。プラスチックの機能をすべて紙で補うことはできませんが、紙には自然界で分解される、マテリアル・リサイクルをしやすいといった利点があります。弊社は“紙でできることは紙で。”を合言葉に、紙の特性を生かしながらプラスチックの排出が過剰になっている部分を削減することを提案しています」。

具体的な取組として、日本製紙は紙製ストローや紙コップ、飲料用紙パック等の開発に加え、2017年から食品の劣化を防止する機能を持つ紙製包装材料「SHIELDPLUS®(シールドプラス)」の普及に注力している。時間の経過や周辺環境の影響を受けやすい食品を包むパッケージには、酸素や水蒸気の透過を防ぐ機能が求められる。紙は酸素や水蒸気を通しやすいため、これまで食品の包装材料として利用されてこなかったが、日本製紙は長年培ってきた紙の製造技術と塗工技術を応用し、紙の表面にバリアコーティング層を付与することで、腐食、湿気、移り香から食品を守ることに成功した。パッケージの基材を紙に置き換えることによって、プラスチック使用量を削減できる。

シールドプラスの構成

プラスチックに適した加工・充填ラインが多い中において紙素材が参入することは簡単ではないが、日本製紙の新素材営業本部に所属する内村元一氏は「まず重要なのは、幅広い用途に使える紙をつくり、スケールメリットを出しコストを下げること。コンバーターやインキメーカーと連携し、耐水性や撥水性等を付与する表面加飾技術を施すことで、紙製品の用途はより広がります」と説明する。

海外では、持続可能なパッケージへのニーズが高まっており、シールドプラスには追い風になりそうだ。2018年1月の世界経済フォーラムで、グローバル企業11社が2025年までにすべての包装を再利用、リサイクル、堆肥化が可能な素材へ変える方針であることが明らかにされた。11社のうち、ウォルマートはプライベートブランドの包装資材をすべてリサイクル可能なものにすることを表明している。「こうした企業が出てくると、そこに供給している食品・包装メーカー等の取組も促進され、環境素材の開発や設備投資等が、より活発化していくことが予想されます。持続可能なパッケージをつくるには、国の政策に加え、原料メーカーからコンバーター、食品メーカーやコンビニエンスストアといったエンドユーザーまで一体になって取り組んでいくことが重要ですが、日本発の技術がグローバルスタンダードになる可能性があります」(内村氏)。

包材1平方メートルあたりのCO2排出量

デジタル化が進み印刷用紙の需要が減る中、製紙業界は事業転換をしなくてはならない時期を迎えている。日本製紙では、自前の森林資源を効率的に活用すべく、これまで印刷用紙の原料に使われてきた広葉樹で包装材料をつくる研究のほか、バリューチェーンの中でリサイクル資源を活用することも視野に入れ、検討を始めている。将来的には、バイオマスプラスチックと組み合わせることで、バイオマス度をさらに高めた製品の開発も目指していく考えだ。

紙の風合いを生かしたシールドプラスのパッケージデザイン
紙の風合いを生かしたシールドプラスのパッケージデザイン

ニーズが高まる生分解性ポリマー

株式会社カネカが開発した「生分解性ポリマーPHBH®」が脚光を浴びている。従来の石油由来のプラスチックに対し、PHBHは植物油を原料とする。微生物に植物油を摂取させて培養し、ある程度の大きさになったところで体内からポリマー(化合物)を取り出し、精製する。100%植物由来原料のバイオマスポリマーであると同時に、自然界において微生物の働きにより最終的に水とCO2に変換される生分解性ポリマーである。

生分解性ポリマーとしてはほかにトウモロコシやジャガイモ等の糖類を原料とするPLA(ポリ乳酸)が知られるが、PLAの分解には堆肥のように微生物が豊富な環境が必要とされ、海中では分解されにくい。これに対して、PHBHは、30℃の海水中で6ヵ月以内に90%以上が水とCO2に分解されることが立証されており、ヨーロッパの国際機関による認証「OK Biodegradable MARINE」を取得している。

カネカの常務執行役員・新規事業開発部長である武岡慶樹氏は、PHBHの市場戦略について「現在、PHBHは、ヨーロッパを中心に果物・野菜売場で使われる袋やコンポスト袋等の素材として採用が広がっています。ほかにもさまざまな用途が考えられますが、まず使い捨てプラスチックに対するソリューションとして、食品包装の分野に優先的に取り組んでいきたいと考えています。紙製容器をコーティングしたり、ボトルやフォーク、ナイフ等を成形したり、出口に合わせて強度や物性を調整することが必要となりますが、これまでの研究を通して微生物の種類によって生成される樹脂の強度を変えるノウハウがありますし、別のポリマーを配合させることで物性を調整することもできます。今後の法規制の方向性としては、バイオマス比率、土壌中の生分解度、さらにもう一段進むと海洋での生分解度がポイントになっていくでしょう。環境性や生分解性、耐久性、成形性、使いやすさといったバランスを考慮しながら、用途に合わせて最適な材料をつくるため、専門の研究所を設置し、配合技術の研究に取り組んでいます」と話す。

急速に高まる需要に応えるべく、カネカは実証プラントを増強する形で2019年12月までに生産能力を現在の5倍に引き上げ、年産5,000トンとすることを決めた。さらに、同社は年産規模2万トンの新プラント建設計画や、海外拠点への技術移転も検討しており、2018年10月に開かれた国際会議「Our Ocean Conference」で世界市場においてPHBHの量産供給を目指すことを発表している。

生分解性ポリマーPHBHのライフサイクル

「CO2削減を目指し、原料に使用済み食用油を利用する検討を始めています」と武岡氏は話す。同社では、バリューチェーンと連携して使用済みの食用油を回収・再利用して樹脂をつくったり、最適な仕組みを検討している。

「地球規模での環境負荷低減と汚染防止のため、資源循環をベースとした循環型経済の樹立が求められています。その観点からこうしたバイオマスプラスチックの普及を加速する必要があり、これからはみんなで知恵を出していくことが求められているのだと思います。日本企業はさまざまな先進的技術を持っているので、政府が中心となり、生分解性ポリマーやバイオマスポリマーをめぐるレギュレーションの中でこうした技術を活用できるよう発信していくことが重要なのではないでしょうか」と武岡氏は提言する。

日本独自の戦略を世界へ発信

2018年6月の先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)において達成期限付きの目標を盛り込んだ「海洋プラスチック憲章」が提起された。当時、日本は産業界と調整できていないことを理由に署名を見送ったが、今、国内では官民が一体となりプラスチックをめぐる戦略が協議されている。

2019年1月、海洋プラスチックごみ問題の解決を目指すため、159企業・団体が加盟する「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」が設立された。素材メーカーや包装メーカー、食品・日用品メーカー、小売業者等が加わり、官民連携でプラスチック製品の3Rの強化、代替素材の開発・普及に取り組む。

さらに、現在(※)、政府は「プラスチック資源循環戦略」の策定を進めている。2019年6月に大阪で開催される20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)に向けて、同戦略には「海洋プラスチック憲章」の内容を踏まえた数値目標が盛り込まれると見られている。

業界の垣根を超えて動き始めた日本のプラスチック対策。環境と経済の両方にとってプラスとなる戦略を示すことができるのか。国内開催のG20を間近に控え、待ったなしの状況といえるだろう。

  • 2019年2月時点。

取材協力(本記事 登場順)

  • アクセンチュア株式会社
  • 花王株式会社
  • 日本製紙株式会社
  • 株式会社カネカ