〜特集〜 タンパク質クライシスと気候変動問題を“おいしく”解消する植物性代替肉

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このまま気候変動が進み、また世界人口が増え続けると、畜産は限界に達し食肉によるタンパク質摂取は難しくなるかもしれない。なぜなら後述するように、食肉の生産には大量の穀物とそれを育てるための水を必要とするからだ。その解決策として、今、世界中の注目を集めているのが、環境にもやさしく、おいしくなった植物性の代替肉だ。

アメリカで代替肉ハンバーガーが大ブレイク

アメリカの国民食ともいうべきハンバーガーに異変が起きている。肉を一切使わない植物性代替肉のハンバーガーが大ヒットしているのだ。そのムーブメントを牽引しているのは、ビル・ゲイツ氏も出資しているビヨンド・ミート(アメリカ)とインポッシブル・フーズ(アメリカ)という2大ベンチャー企業である。

ビヨンド・ミートを創業したイーサン・ブラウン氏は、学生時代から環境問題や持続可能な社会の実現に興味があり、再生可能エネルギーの会社に勤務していたが、「リチウムバッテリーの効率を1%上げることに必死になりながら、会議の後にステーキを食べる」という理不尽に我慢がならず、「環境問題の解決には、食からのアプローチが必要不可欠」と考え、2009年にビヨンド・ミートを起業。動物由来の食材を使わない代替肉の開発に取り組んできた。

2016年5月、エンドウ豆から抽出した植物性タンパク質をベースに開発したハンバーガー用パティ「ザ・ビヨンド・バーガー」をホールフーズ・マーケットで販売したところ、一気に人気が拡大。現在では、アメリカの国内1万5,000店以上の食料品店で販売され、レストランや大手ファストフード・チェーンにも代替肉を供給し、世界に販路を拡大している。

なぜ、これほど爆発的なヒットを成し遂げたのか。その理由は、牛肉の組成を徹底的に分析・研究し、食感や風味に加え見た目まで本物の肉に近づけることで、一部のビーガンやベジタリアンだけではなく、健康志向や環境意識の高い消費者をも惹きつけたからだといわれている。

販売形態も画期的だった。従来の代替肉は、調理済みの冷凍食品やレトルト食品として販売されていたが、ザ・ビヨンド・バーガーは“生肉”の状態で販売されている。この“生肉”は加熱すると、ジュウジュウ音を立て、肉汁が滴り、焼き色まで付く。「肉を焼く」調理体験まで再現したのである。そして、世界で初めてスーパーマーケットの「精肉売り場」に牛肉や豚肉と並べて販売される「肉ではない食材」となったのである。

こうした熱狂を背景にビヨンド・ミートは、2019年5月初旬、アメリカニューヨークのナスダック市場に新規上場。すると、株式公開価格(25ドル)が一時的に646%高を記録し、株式市場が騒然となった。

タンパク質をベースに開発したハンバーガー用パティ

もう一社のインポッシブル・フーズも、大豆やジャガイモ、小麦由来のタンパク質をベースとした「インポッシブル・バーガー」を販売。すでにアメリカと香港で1,000店以上のレストランに代替肉を供給し、急速に事業を拡大している。

こうした動きを背景に、今アメリカでは、植物性の「代替肉」市場に参入する企業が増えている。世界最大手の食品会社のネスレ(スイス)も、傘下の食品会社スイート・アース(アメリカ)が開発した代替肉のハンバーガーを販売、加工食肉大手のタイソン・フーズ(アメリカ)は独自開発の代替肉チキン風ナゲットを2019年秋に販売すると発表。食肉大手スミスフィールド・フーズ(アメリカ)も、大豆由来の代替肉ブランド「Pure Farmland」を発表した。代替肉のソーセージやハンバーグを使用したメニューを取り入れるレストラン、ファストフード店も増え続けている。

独立行政法人農畜産業振興機構 調査部によると、2017年のアメリカの「代替肉」分野の売上は世界最大となった(※1)

迫り来るタンパク質クライシスと地球温暖化

今、代替肉が世界で注目されている背景には、近い将来到来が予想される「タンパク質クライシス」への懸念がある。

現在77億人の世界人口は、2050年には97億人に達すると予想されており、今の延長にある食肉供給では必要なタンパク質を賄えないといわれている。そもそもタンパク質は、筋肉や骨、臓器、皮膚、血液等、人体を構成する最も重要な栄養素のひとつである。その上、人は体内でタンパク質を生成も蓄積もできないため、常に外部から補給し続けないと生命を維持できない。人が1日に必要なタンパク質は、おおよそ体重の1,000分の1とされており、体重50キログラムの人は50グラムのタンパク質を摂る必要がある。このまま世界人口が増え続けると、2050年ごろにはタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質クライシス」現象が起きると、欧米を中心に議論が沸騰している。

現代の食生活におけるタンパク質摂取は、食肉への依存度が高く、今後新興国のGDPが拡大して食生活が向上すると、さらに肉消費量が増えることになる。

しかし、肉消費量の増大には限界がある。その最も重大な要因のひとつが飼料となる穀物生産の問題だ。一般的な畜産では、1キログラムの食肉を生産するために牛肉で11キログラム、豚肉で7キログラム、鶏肉で4キログラムの穀物が必要とされる。ところが、穀物を生産する耕地面積や単位あたり収穫量は、近年ほとんど伸びていない。その原因は、農地の土壌流出や養分不足等の「土壌劣化」と、気候変動の影響で気象条件が変化して生産量を確保できなくなっていること等にあり、今後も生産量の飛躍的な増加は見込めない。

タンパク質を多く含む食品の生産に伴う水消費量

このままの状態が続くと、いずれ人間と家畜が穀物を奪い合うことになりかねない。すでに、世界の穀物生産量の3割は飼料用に回されており、農地の7割は放牧や飼料用穀物の生産に使われている。穀物が飼料に回れば、途上国では飢餓が増える可能性が高い。それに加えて穀物生産には膨大な水が必要となることも大きな問題だ。一般に牛肉1キログラムの生産には20.7トンの水が必要となるため、結果的に畜産を増やすことは水資源の減少にもつながってしまう(※2)

肉食の拡大により、気候変動への悪影響も懸念される。なぜなら、牛のげっぷやおなら等に含まれるメタンガスはCO2以上の温室効果があり、畜産規模の拡大は温室効果ガス排出量を増やしてしまうのだ(※3)

こうした理由から肉を使わない植物性の代替肉は、タンパク質クライシスや気候変動の緩和策としても期待が寄せられている。

世界に先駆けて大豆ミートを開発

日本でも近年、健康志向の高まりから代替肉が注目され、多くの企業が市場に参入している。その中でも、老舗といえるのが1950年創業の不二製油株式会社である。不二製油は、創業以来、植物性油脂や大豆を原料とした食品素材の開発・生産・販売を行い、機能性を持った製品をグローバルに展開。現在では世界15ヵ国36社から成る企業グループへと発展。特に、業務用チョコレートでは世界第3位のシェアを誇り、海外売上高比率約50%以上のグローバルカンパニーである。

代替肉の研究開発においても世界的なパイオニアといえる存在だ。その取組は、半世紀以上前の1957年に遡る。脱脂後の大豆にタンパク質が豊富に含まれていることに着目した創業者が「いつか必ず植物性タンパクが必要とされ、社会に役立つ時がくる」と開発を命じ、これを受けてひき肉タイプの製品を販売したことが代替肉(大豆ミート)事業のきっかけだった。

なお、不二製油では代替肉ではなく「大豆ミート」と呼んでいるため、この項ではその呼び方をさせていただく。

大豆ミートの製造工程では、まず大豆を粉末状に砕いてから水と一緒に押出成形機「エクストルーダー」に入れ、高温・高圧をかけて押し出して乾燥させて「粒状大豆タンパク」をつくる。この大豆タンパクは、加工の仕方によって形状や食感のバラエティを増やし、多様なニーズに応えることができる。

不二製油の研究開発施設「不二サイエンスイノベーションセンター」
不二製油の研究開発施設「不二サイエンスイノベーションセンター」

では、大豆タンパクをベースに、どうやって肉の食感や風味を加えていくのだろうか。不二製油 開発部門 たん白素材開発室 グループリーダーの中野康行氏に伺った。

「本物の肉は脂や赤身、筋等が組み合わさっているため、食感が均一ではなく、硬いところ、柔らかいところ、いろいろな食感があり、それが肉の味を形成しています。また、豚肉や牛肉等の肉の種類、部位によっても食感は異なります。こうした肉の味を再現するために、我々は硬さや色、大きさ、食感、風味が異なる60種類もの大豆ミートの素材を開発しました。この素材を組み合わせることによって、お取引先である食品メーカーさまの要望に応じてハンバーグやカツ、チキンナゲット等、さまざまな肉の味を再現しています」。

開発における最大の難関は「大豆くささ」が抜けないことだった。ひき肉の一部に混ぜてしまえば多少ごまかせるが、口の中に残る「大豆くささ」は消せなかった。これをいかにして除去するかが研究開発の最重要テーマだった。

試行錯誤の末、2000年ごろにエクストルーダーの加工を工夫することで大豆の風味を出にくくする方法を確立。完全除去とはいえないが、調味すればおいしく食べられるレベルまで改善に成功した。これにより、従来は業務用の餃子やシューマイのひき肉に混ぜるしか使い道のなかった大豆ミートが、ハンバーグやソーセージ、カツ等主役の食材として使われるようになったのである。

不二製油が開発したサイズや形状が異なる多様な大豆ミートの素材例
不二製油が開発したサイズや形状が異なる多様な大豆ミートの素材例

「大豆ミートを開発した当初は、10社に声をかけても、反応があるのは1社あるかないか。しばらくは鳴かず飛ばずの状況が続きましたが、味が改善されたことと、世の中に健康志向が広まったことで、近年は需要が右肩上がりに伸びています」と、不二製油 開発部門 企画室長 兼 不二サイエンスイノベーションセンター副センター長の伊吹昌久氏は、市場の変化について説明する。

しかし、不二製油は、必ずしも「本物と見分けのつかない肉」の開発を目指しているわけではないと伊吹氏は主張する。

「牛肉は牛肉、豚肉は豚肉のおいしさがあるように、大豆ミートには大豆ミートのおいしさがあります。我々は、そこを追求していきたいと考えています。実際、お客さまからは『肉よりあっさりしておいしい』との評価もいただいています。大豆ミートには、肉より低カロリーで高タンパク、イソフラボンや食物繊維等の栄養も含まれる付加価値の高い食品なので、新カテゴリーとして定着する可能性もあると思います。もちろん、弊社では肉の食感や味を再現する研究開発は今後も続け、現在は困難とされているステーキ肉の開発にもチャレンジしています。ですが、個人的には肉の代替にこだわるより、おいしくヘルシーな食品を開発し、環境や食糧課題の解決にもつなげられればよいという思いもあります」。

近年、急速に需要が拡大している大豆ミートは、すでにフル操業しても供給が追い付かなくなっており、不二製油は24億円を投じて、2020年4月の操業を目指し、急ピッチで新工場建設を進めている。

本物の肉を超えるゼロミートに挑戦

大塚食品株式会社も、肉を一切使わない大豆由来の代替肉食品「ゼロミート」シリーズを2018年11月に発売した。現在のラインアップは、「ゼロミート デミグラスタイプハンバーグ/チーズインデミグラスタイプハンバーグ」(140グラム)と、2019年6月に発売の「ゼロミート ソーセージタイプ」(6本入り)だ。東名阪の大手スーパーマーケット、コンビニエンスストアを中心にチルド(冷蔵)コーナーで販売されている。

大塚食品の「ゼロミート ハンバーグ」
大塚食品の「ゼロミート ハンバーグ」、デミグラスタイプ(左)とチーズインデミグラスタイプ(右)

大塚食品が独自に行った消費者3,000人へのアンケートによると、全体の約15%が「肉は食べたいが、健康のために我慢している」と回答し、そのうち約7割が「代替肉商品を食べてみたい」と回答したことから、同社では日本でも代替肉商品は十分受け入れられると判断し、新ブランドを立ち上げたのだと、大塚食品 新規事業企画部 部長の嶋裕之氏は説明する。

大塚食品は歴史的にさまざまな大豆を使った商品を開発してきた。

「実は、ゼロミート以前にも大豆を使った代替肉商品を販売していましたが、今回の商品はまったく別物です。当時のモノと比較すれば、ゼロミートは飛躍的な進歩を遂げています。旧商品との最大の違いは、開発過程で本物の肉を徹底的に研究したことです。電子顕微鏡でハンバーグの粒の大きさや配列等を分析し、肉を噛みつぶすときの食感や香り等に工夫を凝らし、肉のおいしさを再現しました」(嶋氏)。

商品パッケージには「肉じゃないのに、そこそこ美味い!」とキャッチコピーを記載し、肉不使用のハンバーグであることを強調。商品写真も、香ばしい焦げ目や照りのある肉汁、とろけるチーズ等、シズル感の強いビジュアルを採用し、そのおいしさを訴求している。

ゼロミート ハンバーグは、デミグラスソースにも動物性タンパク質を一切使わずトマトペーストや赤ワイン等を使用しており、チーズにも乳製品ではなく豆乳クリームが使われているので、ベジタリアンにも受け入れられる商品となっている。ソーセージは、燻製の香りをつけることで本物の風味を再現している。

肉を使ったハンバーグと比較すると、カロリーで約2割、脂質で約5割を削減。ゼロミート ソーセージもカロリーで3割、脂質で5割も削減しながらタンパク質は約2倍という健康志向の商品になっている。

電子レンジで温めれば、すぐ食べられる手軽さもポイントだ。大塚食品は今後、菜食を基本としながら肉や魚も臨機応変に取り入れる「フレキシタリアン」(柔軟な菜食主義)をターゲットに、ゼロミートシリーズのラインアップを拡充していく方針を打ち出している。

世界的に広がるミートフリーのムーブメント

代替肉への注目は、アメリカ、日本だけではなく、世界全土に広がっている。たとえば、オランダでは、Enkco社が「Vivera」というブランドでビタミンB12を含んだ代替肉商品を販売。カナダでは、2018年11月、政府が植物性タンパク質分野の研究に1億5,300万ドルを投資するとの発表があった。ブラジルでも2019年5月に食肉加工会社JBSが代替肉ハンバーガーを発表している。

各国の調査会社によると代替肉(植物性タンパク質)の市場は、今後世界的に拡大すると予想している。たとえば、グローバルな調査会社メティキュラスマーケットリサーチ社の調査報告書によると、同市場が2022年までに1兆円規模に達し、2017年から2022年にかけてCAGR(年平均成長率)が6.7%に達すると予測(※4)。ラックスリサーチ社の調査では、2054年に同市場シェアが33%にまで達すると予測(※5)。マーケッツ&マーケッツ社も、2025年には同市場が279億ドル(約3兆円)に達すると予測している(※6)

EUにおける食肉と牛乳・乳製品の代替製品の売上高の推移

一方、消費者側も代替肉を受け入れるトレンドが広がっている。有名なところではイギリスの歌手ポール・マッカートニー氏が始めた月曜日に肉を食べない運動「ミートフリーマンデー」だ。この運動は大きな反響を呼び、これを取り入れた米ニューヨーク市が全学校(生徒110万人)で「ミートレスマンデー」を始める等、世界的なムーブメントとして定着し始めている。宗教上の理由から食肉習慣のない人たちにも代替肉が広がっていく可能性は高い。また、一部のビーガンやベジタリアンだけでなく、地球にやさしい食べ物を選ぼうとする意識から肉食を減らす「フレキシタリアン」や、「ギルトフリー」という罪悪感なしに食品を楽しむトレンドも広がっている。ギルトフリーは、ローカロリーのスイーツを食べるときに使われることが多いが、これからは肉を食べたいときのギルトフリー食材として代替肉が使われるシーンも増えていくことだろう。

人口爆発による食糧問題から環境問題、健康志向の高まり等、さまざまな観点から代替肉市場への注目度は高まっており、アメリカ、日本のみならず全世界的なムーブメントに発展していくことは間違いないだろう。

クリーンで環境負荷も少ない培養肉の開発
〜日清食品ホールディングスと東京大学生産技術研究所が共同研究〜

タンパク質クライシスおよび環境問題に対するもうひとつの解決策として、近年注目を集めているのが動物の細胞を培養してつくる「培養肉」だ。

培養肉は、2013年にマーストリヒト大学(オランダ)の教授であるマーク・ポスト医学博士らが牛培養肉のハンバーガーを発表し、話題となった。無菌状態で培養するため、病原性大腸菌等有害菌による汚染リスクが少なく、畜産のように土地や水、飼料を大量に使う必要がないことから、未来の代用食肉として関心が高まっている。

日本でも、2019年3月に日清食品ホールディングス株式会社と東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授の研究グループが、牛の筋細胞を培養し、長さ1センチメートル、幅0.8センチメートル、高さ0.7センチメートルのサイコロステーキ状の培養肉をつくることに世界で初めて成功したと発表し、注目が集まった。

今、世界中で培養肉研究が進められているが、その大半はミンチ肉の研究である。これに対し、同研究グループは肉本来の食感を持つステーキ肉に挑戦するべく、筋組織の立体構造を人工的に作製する研究に取り組み、1センチメートル角サイズの培養肉をつくったことは特筆に値する。

国内ではほかにも、2015年創業のベンチャー企業インテグリカルチャー株式会社が培養肉の実用化に取り組んでおり、今後の展開が期待されている。

出典

  • ※1独立行政法人農畜産業振興機構 調査部 月報「畜産の情報2017年11月号〜消費者の求める需要に対して揺れる米国の畜産業界」
  • ※2東京大学生産技術研究所 沖研究室
  • ※3UNFCCC「Greenhouse Gas Inventory Data 2015」
  • ※4Plant Based Protein Market-Global Opportunity Analysis and Industry Forecast (2017-2022)
  • ※5WhooPea: Plant Sources Are Changing the Protein Landscape
  • ※6Plant-based Meat Market by Source, Product, Type, Process, and Region - Global Forecast to 2025

取材協力(本記事 登場順)

  • 不二製油株式会社
  • 大塚食品株式会社