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トップインタビュー 株式会社竹中工務店 取締役社長 宮下正裕氏

1610年の創業以来受け継がれる「棟梁精神」を礎に、建設業のリーディングカンパニーとして、東京タワーや東京ドーム、あべのハルカスなど、地域のランドマークとなる建築物を数多く手がけてきた株式会社竹中工務店。まちづくりを通じてサステナブル社会の実現を目指す同社の想いや取り組みについて、取締役社長の宮下正裕氏にお話を伺いました。

2050年を目指しステップアップを図る

2010年に「環境コンセプトブック 2050年を目指して」を発表されています。背景にはどのような想いがあったのでしょうか。

弊社の環境に関する活動は、1971年に「設計に緑を」を標語として掲げたことから始まります。この言葉は、樹木や草花を増やすだけでなく、自然や故郷、季節、人情など、「緑」の持つ意味を敷衍して捉え、豊かな環境を創造しようという想いを込めたものです。手書きで設計していた時代から、弊社の設計図面には社名とともにこの言葉が書かれています。新しく入って来た社員に「設計に緑を」に込めた想いを説明することもありますが、中でも設計部の社員は日常的にその言葉を目にするので、自らその意味を考えるようになったと思います。
1990年代に入ると地球環境問題が世界的に注目を集めるようになり、弊社も「地球環境整備室(現在は、CSR推進部に統合)」という専門の部署を設置しました。「リオ・地球サミット」のあった1992年には「竹中工務店地球環境憲章」を制定し、全社的な地球環境保全活動を開始しました。そして、特にエネルギー問題について、建物の消費エネルギーを減らそうと、外壁やガラス、設備などに工夫を凝らし、いっそう省エネに取り組むようになったのです。
2004年11月に竣工した弊社の東京本店社屋は、その象徴的な例です。自然風を活用した空調システムや段ボールを採用したダクト、ITを駆使したエネルギー管理システムなど、最新の環境技術をふんだんに採用し、建物の総合環境性能評価システム「CASBEE」において、オフィスビルとしてはいち早く最高ランクのS評価を受けました。
2010年に発表した環境コンセプトブックでは、これら長年にわたる弊社の環境への取り組みをまとめ、2050年までのロードマップとともに、「人と自然をつなぐ」という環境メッセージと「人の感性や創造性を高め、自然を生かし、ネット・ゼロエネルギービル※1からカーボンニュートラルな都市への実現を目指す」ことを掲げました。

2010年から40年後の2050年を目標に設定されたのはなぜですか。

地球環境問題は最先端の技術があれば一気に解決できるというものではありません。2016年に発効したパリ協定も2050年をめどとしていますが、地球環境問題に取り組むには中長期的な視点が不可欠です。すぐに解決できなくても、先を見据えて今できることを続けていけば、30年後の目標達成を目指すことができます。弊社は、2050年に向けて、2020年にネット・ゼロエネルギービル(ZEB)のリーディングプロジェクトの実現、2030年にZEBの定着、2030年以降にネット・プラスエネルギービル(PEB)※2の実現という段階的な目標を設定しています。
この目標の既存建物での達成に挑戦しているのが、2016年3月に改修工事を完了した弊社の東関東支店社屋です。築10年を超える既存ビルをPEBに変えるため、太陽光発電の採用、地中熱利用、設備機器などの改修に加え、ワークスタイルや意識の変革によるエネルギー消費量の低減など、従来なかった視点を採り入れています。2016年5月から2017年4月まで計測した結果、改修前に比べ、年間消費エネルギーが71%減の403MJ/m2になりました。創エネルギーは417MJ/m2で、消費エネルギーを上回り、PEBを達成しました。

2050年に向けた長期目標

2050年に向けた長期目標

エネルギー以外での取り組みにはどのようなものがありますか。

東関東支店社屋の改修では、自然換気口を設置するなどパッシブデザインも採用しています。自然の力を採り入れ快適な空間をつくるパッシブデザインは、エネルギー消費量の低減だけでなく、「空間の質」という点でも効果を発揮します。『徒然草』には「家の作りようは夏を旨とすべし」とありますが、日本では気候風土に合わせた住まいづくりがなされてきました。外断熱のように建物を外部からガードして室内の環境を一定に保とうとする手法もありますが、これからは自然との調和を図る空間のつくり方が再び大事になってくるのではないかと考えています。
空間づくりに関しては、「健康」の「健」に着目した「健築」というコンセプトを掲げた新たな試みも進めています。心身の健康をはじめ、快適性、働きやすさ、創造性といった価値を生み出す空間の在り方を追求する取り組みです。

棟梁精神に根ざしたまちづくり

2050年に向けた中長期の構想を発表された翌年、1000年に一度といわれる東日本大震災が起きました。震災によって変わったことはありますか。

自然災害はいつか来るものといわれていても、どこか身近な現実として捉えられていない部分があったと思います。東日本大震災によって自然災害の脅威が現実のものとなったことで、自然がどのくらい莫大なエネルギーを持っているかをあらためて認識させられました。
サステナブルな社会を実現するには、さまざまなレベルの課題をクリアする必要がありますが、まず安定した日常生活という基盤を確保しなければなりません。この基盤の上に、安全・安心、豊かな暮らしなどを積み重ねていくわけです。そういう意味では、日常の生活の質を考えることが、サステナブルな社会構築の出発点となります。震災後、多くの人々が生活基盤を失い、以前の生活を取り戻そうと努力しています。震災によって、災害対応にとどまらず、高齢化や人口減少への対応を含め、サステナブルな社会をいかに達成するかという大きな課題を考えさせられることにもなったと思います。

2014年にスタートした「グループ成長戦略」では、事業領域を「建築」から「まちづくり」へ広げていくことを発表されています。

我々が手がける建物は、単なる商品ではなく文化の象徴として後世に遺る「作品」です。同時に、建築主や設計者、施工者をはじめすべてのステークホルダーの想いがかたちとなった「作品」でもあります。このような考え方を、我々は「作品主義」と呼んできました。
しかしながら、これからの時代に求められるサステナブルな社会を築いていくには、建物という「作品」だけではなく、そこにある社会的課題を踏まえて、人々の生活を支える「まちづくり」というステージまで視野を広げなければなりません。「まち」には、さまざまな社会的課題がありますが、その解決策はすべて「まちづくり」というステージの中にあると考えています。ですから、我々は「まちづくり」の中で何ができるかを考え、ビジネスモデルを変えていくことも必要だと考えています。

サステナブルな「まちづくり」における御社の役割をどのように捉えておられますか。

我々は「つくり手」ですから、建物をつくり、なおかつ「まち」もつくる役割が求められます。しかし、「まちづくり」は、我々だけではなく、行政やデベロッパー、地域社会など、さまざまな主体が役割を果たさなければ、実現できません。もともと我々は、ソリューションやノウハウを提供してきた企業であり、昔風にいえば「棟梁」なんですね。「棟梁」には、プロデューサーであると同時にコンサルタントやアドバイザーとしての機能も求められます。我々は創業以来続くものづくりの精神を「棟梁精神」という言葉で表現していますが、構想を語るだけでなく具現化できる「棟梁」であることこそ、我々の強みだと思っています。

木造建築の再興に向けて

「まちづくりの棟梁」として、今後、どんな課題に取り組んでいくお考えでしょうか。

大きなテーマの1つに国も推し進めている国産木材の利用拡大による森林・林業の再生があります。木造建築がなぜ減少したのかというと、戦災で木造住宅がほとんど焼失してしまったからです。戦後、燃えない街をつくろうと法律が整備され、純木造の建物をつくることが難しい状況になりました。
こうした状況に対し、木材の活用を広げようと考え開発したのが、耐火性に優れた集成材「燃エンウッド」です。純木の「荷重支持部」、モルタルと木で構成された「燃え止まり層」、純木の「燃え代層」の3層で構成されており、火災時には燃え代層が炭化して断熱効果を発揮し、燃え止まり層から内部へ燃焼が広がるのを阻止します。「1時間耐火構造部材」として国土交通大臣認定を取得しており、木造耐火建築の最上階から4階下までの部分に使うことができます。
2018年4月に開校される「江東区立第二有明小・中学校(仮称)」は、「燃エンウッド」を利用した建物の中でも最大規模のものとなる予定です。子どもたちの生活空間に木材をふんだんに採り入れ、安らぎや安心感に満ちた空間をつくり出します。「燃エンウッド」を使うと、木の質感を生かしたぬくもりのある空間づくりができるため、今、学校や医療施設、商業施設などを中心に導入が進んでいます。

燃エンウッドの3層構造

燃エンウッドの3層構造

耐火性だけでなく、デザインという観点からも、木造は排除されてきたのではないでしょうか。

モダニズム建築というと鉄筋コンクリート造をイメージされるかもしれませんが、実は日本には優れた木造のモダニズム建築が残されています。たとえば、京都・大山崎には、我々が保存に取り組んでいる1928年築の「聴竹居」という木造住宅があります。「聴竹居」を設計したのは、かつて弊社に在籍していた藤井厚二です。藤井は弊社において数々のビルの設計に携わり、その後、創設されたばかりの京都大学建築学科で教鞭を執りながら、実験的な自邸を次々と建てました。日本の気候風土に適した住宅の在り方を追求し、実験住宅の5番目にして最後の住まいとなったのが「聴竹居」でした。

今の若い人たちも「聴竹居」のような建物から、学ぶことがあるのではないでしょうか。

それはすごくあると思います。今、コンピューターで設計が行われる中、「聴竹居」のような昔の木造建築が持つ価値は、若い世代の間でも高く評価されています。それは、木造建築の構造というより、「空間の質、クオリティ」といったことへの評価なのだと思います。抽象的になりますが、そういう空間の持つ価値は、どの世界、どの時代でも失われないので、若い世代も「聴竹居」を見ると感激するのでしょう。

環境共生住宅の原点とも言われる「聴竹居」

環境共生住宅の原点とも言われる「聴竹居」

「空間の質」は、建物の中だけでなく、外の空間も重要な要素になりますね。

そうです。建物の中と外、全体が大切です。これは個人的な印象ですが、「ヨーロッパの街並みは美しい」という評価に加えて、最近では「アジアの街並みが好きだ」という声も聞かれるようになりました。時代の変化の中で、アジア的なカオスがよいという価値観が生まれてきたんですね。このことからもわかるように、空間の評価というのは、単一の尺度ではなく、もっと複層的な問題なのです。そのベースには、人のにぎわいや触れ合いがあり、近年そういったものも含めて空間の価値を考えるようになったことは、すごくよい傾向だと思います。

伝統と最先端技術の融合

今後、人口減少や高齢化が進む中、何がまちづくりの鍵となっていくのでしょう。

東日本大震災後、地域のコミュニティが崩壊し、人のつながりをいかに取り戻していくかが重要なテーマとなりました。「絆」という言葉がよく使われるようになりましたが、今求められているのは、人と人との関係性や触れ合いを生む環境をつくることだと思います。
大都市においては、近年、「国際競争力」や「都市間競争」がキーワードになっています。弊社は、市街地の再開発事業やPPP/PFI事業などに積極的に参画し、まちづくりで新たな価値を創造したいと考えています。
一方、地方では、商店街の衰退、シャッター通り化が問題となっています。そうした中で地域を活性化しようと一生懸命に取り組む若者がたくさんいます。そこに我々もコミットしたいと考え、現在、次世代のまちづくりを担う人材を育成するプログラムを東日本大震災の被災地で展開しています。このプログラムは「子どもと築く復興まちづくり」という名前で、日本ユニセフ協会から委託を受け、岩手県大槌町、宮城県仙台市・石巻市などで子どもを対象としたワークショップやイベントを開催しています。石巻市立門脇中学校の1年生81人が参加したワークショップでは、生徒たち自らが描いた「みんなの公園」を模型に表現しました。彼らの想いやアイデアを反映した公園がもうすぐ完成する予定です。

未来のまちの姿をどのように描かれていますか。

人工的な環境は自然に対立する存在として捉えられることがありますが、よりよい環境をつくりたいという想いが我々のものづくりの根底にはあります。では、理想的な空間とはどんなところか。この疑問に対して、「森に帰る」というテーマに惹かれます。日本人の心の中には森に帰りたいという気持ちがどこかにいつもあるのではないでしょうか。これは信濃の森の中で、里山を原風景として育った私のきわめて個人的な想いかもしれませんが、一方で、日本の歴史を遡ってみても、我々は森で暮らしてきた民族ですから、欧米の真似ではない、日本ならではの建築の在り方があると思うのです。
最近、弊社では、環境配慮型建築のコンセプトモデルを提案するデザインコンペティションを社内で実施したり、大学生が参加するコンペに協力したり、新しいアイデアを募る機会をいろいろ設けています。特に、今、注目しているのは、AIやIoTなどの新しい技術です。こうした最先端の技術を駆使することにより思考の幅が広がり、まったく新しいデザインが生まれる可能性を秘めています。人のくらしの原点に立ち返り、空間に価値を生み出す。自分たちの中に脈々と流れるものと最先端の技術をどう融合させるかはこれからの課題ですが、新たな提案を創造する可能性が大いにあると感じています。

【聞き手】三井住友銀行経営企画部CSR室長 末廣 孝信
日本総合研究所シニアマネジャー 井上 岳一

PROFILE

宮下 正裕(みやした まさひろ)

宮下 正裕(みやした まさひろ)
1971年、東京大学工学部都市工学科を卒業後、株式会社竹中工務店へ入社。長年にわたり開発計画本部に在籍し、主に都市再開発事業に従事。常務取締役、専務執行役員、取締役執行役員副社長を経て、2013年より取締役社長を務める。現在、一般社団法人日本建設業連合会副会長を兼任。

会社概要

会社名
株式会社竹中工務店
創立
1899年(創業:1610年)
本社
大阪府大阪市中央区本町4-1-13
資本金
500億円(2017年3月現在)
代表者
取締役社長 宮下 正裕
事業内容
建築工事および土木工事に関する請負、設計および監理、不動産事業など
URL
http://www.takenaka.co.jp/