環境先進企業トップインタビュー

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トップインタビュー ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂 真哉氏

1952年の創業から安全運航を第一に航空輸送サービスを提供し続けるANAグループ。1986年に国際線定期便が就航し、世界トップクラスの航空会社に数えられるまでに成長を遂げました。持続可能な社会の実現を目指す「環境リーディング・エアライン」の取り組みについて、ANAグループ全体の経営を担うANAホールディングス株式会社の代表取締役社長 片野坂真哉氏にお話を伺いました。

2020年度までにCO2排出量を20%削減

2010年にICAO(国際民間航空機関)総会で「グローバル削減目標」が決議され、2016年にはCO2排出に関する基準案が合意されました。「環境リーディング・エアライン」として、貴社ではどのような目標を掲げていますか。

私が社長を務めるANAホールディングスは、フルサービスキャリアである全日本空輸(ANA)、ANAウイングス、エアージャパン、LCCのバニラ・エア、Peach Aviationの5社のエアラインを中心に、80社に及ぶ連結子会社、および持分法適用会社を統括しています。エアラインにとって、環境問題、特にCO2の問題は見過ごすことができない経営テーマであり、ICAOの決定は今後のガイドラインとなるものです。

2010年のICAO総会で「2050年まで燃費効率を毎年2%改善」「2020年以降国際航空分野からのCO2排出量を増加させない」という長期目標が決議されたことを受けて、私たちは「ANA FLY ECO 2020」と題した中長期環境計画をつくりました。この計画の中で、国内線・国際線の有償輸送トンキロ※当たりのCO2排出量を、2020年度までに20%削減(2005年度比)という目標を掲げ、2015年度時点で16.1%まで達成しています。

国際線の新規路線の開設が続いていたので、総量の削減というのはなかなか難しく、それで単位当たり排出量としたのですが、それでよいのかという思いがあって、国内線についてはCO2総排出量の削減目標を掲げました。2012年度から2020年度までのCO2総排出量を年平均440万トン以内にするというのが目標です。2015年度は413万トンでした。

有償輸送トンキロ:輸送した貨客の重量にそれぞれの貨客の輸送距離を乗じたもの。有償貨客輸送重量(トン)×輸送距離(キロ)。

飛行機による環境負荷を低減

目標達成のために、どのような取り組みをされていますか。

CO2の削減は、私たちにとって、省エネに加えコストを削減する効果があります。2016年度は、営業費用1兆6,200億円(連結決算)のうち燃料費は2,735億円、約17%です。予想外に原油価格が下がってこの数値です。原油価格が上がれば、すぐに4,000億円を超えてしまう危惧があります。このため、私たちは燃料効率のよい航空機の導入を進めています。炭素繊維複合材料で低重量化したボーイング787やエアバスA320neoなどの省燃費機材であれば、従来型と比べ20%程度の燃費向上ができます。ANAグループでは、2020年までに保有する機体を現在の約270機から約330機まで増やすことを目指していますが、このうち75%程度を次世代機にすることを計画しています。現在は約60%です。

運航分野においては、パイロットの飛行技術の工夫によるCO2削減に取り組んでいます。たとえば、飛行機を下降させるとき、従来は水平飛行と下降を繰り返す階段型のアプローチを取っていましたが、最少のエンジン推力で直線的に降下していく連続降下到着方式に変えることで、燃料の消費を低減できます。また、着陸後、航空機が地上走行する際、2つのエンジンのうち片方だけを使うことでCO2を削減しています。整備の段階では、エンジンを水洗いすることで燃費改善に取り組んでいます。これは、10年以上前から我々が世界に先駆けて行ってきたことです。

ANAグループの航空機燃料によるCO2排出量実績と目標

ANAグループの航空機燃料によるCO2排出量実績と目標

CO2以外では、どのような取り組みをされていますか。

「ANA FLY ECO 2020」では、CO2削減を図る「地球温暖化対策」に加え、「大気汚染対策」「騒音対策」「省資源化の推進」「環境保全」という5つの目標を掲げています。このうち、近年、特にその意義をあらためて痛感しているのが、低騒音機の導入です。ボーイング787など次世代機は非常に静かなので、首都圏上空を横切っての離発着が可能となりました。これにより、羽田空港の発着枠を年間4万回増やすことができます。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、これはとても大事なことです。

環境保全」の分野では、お客さまを巻き込んだ活動を展開しています。以前から東日本大震災で津波被害を受けた海岸林の再生プロジェクトや、沖縄のサンゴの再生プロジェクトに取り組んできましたが、2014年からは、6月の環境月間に合わせてANAマイレージクラブの会員さまからマイルをご寄付いただくキャンペーンを実施しています。ご提供いただいたマイル相当分の金額を、2つのプロジェクトの活動資金の一部に充てています。

省エネ降下方式のイメージ図

省エネ降下方式のイメージ図

全国各地の魅力を発信

発着枠拡大の話がありましたが、人口減少、高齢化、過疎化に悩む国内各地は、地域を持続可能にするためのインバウンドの観光振興に期待を寄せています。「持続可能な観光地」をつくるために、貴社ができることはありますか。地域の側には何が必要だと思われますか。

地域を持続可能にするということを、私たちはとても重視しています。持続可能性、サステナビリティは、CSRの根幹的なテーマだからです。最近、海外から来られるお客さまが、京都や東京、富士山といったメジャーな観光地だけでなく、他の地域を訪れることが増えてきました。こうした動きを後押しするため、私たちは、2013年から全国の「食」「酒」「スイーツ」「カルチャー」を紹介する「Tastes of JAPAN by ANA」というキャンペーンを実施しています。全国から3都道府県ずつ選んで、3カ月間、ご当地の和牛を使ってファーストクラスの機内食をつくったり、特産の果物を使ったデザートや地酒を空港のラウンジでご提供したり、さらにドローンで空から撮影した日ごろ見たことのない美しい映像とともに地域の観光資源を紹介するオリジナル番組「SKY EYE」を機内で上映したりといったことをしています。

世界遺産になれば観光客が増えるという期待がありますが、これだけでは一過性のブームになりかねません。持続可能にしていくためには、自治体の境を越えて観光地をつなぐ「広域連携」や「広域観光」が重要になります。象徴的なものとして、中部・北陸地方の9県の自治体にまたがる広域観光ルート「昇龍道」がありますが、弊社のWEBページ「ANA EXPERIENCE JAPAN」でも、全国7つの「広域観光周遊ルート」を紹介しています。

こうした取り組みを通じて、世界へ日本の地方の魅力を発信するとともに、日本のお客さまにも国内の自然や食べ物、文化の価値を再認識していただく。そうして、日本の美しい山河が残っていた方がいいとたくさんの人に思っていただければ、森林伐採をはじめ環境問題に対する意識が高まっていくのではないでしょうか。

多種多様な文化を知る

世界中から多様なお客さまが来日されるようになると、迎える側にも多様性が求められることになります。多様性に対応しながら、企業としてのサービスの質を維持するため、どのような工夫・取り組みをされているのでしょうか。

キーワードは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいても重要となる「ユニバーサルサービス」です。たとえば、車椅子を利用するパラリンピック選手の方々は、一人3台ほどの車椅子をお持ちになります。30名の選手団を迎えると約100台という大変な数になりますが、その対応に時間がかかってしまうと飛行機の定時性を損ないかねないので、搭乗手続きから機内への移動までスムーズに、他のお客さまと同じようなレベルでのサービスを提供しなければいけません。

2016年にオリンピック・パラリンピックが開催されたブラジルにも調査団を派遣して、2020年に向けた検討を進めているところですが、すでに導入したものもあります。樹脂製の車椅子はその1つです。保安検査を受ける際、従来の車椅子は、金属探知機に反応してしまいますが、樹脂製の車椅子ならば、搭乗カウンターから飛行機の座席まで、車椅子に乗ったままの移動が可能です。また、羽田の空港カウンターでは、耳や言葉の不自由なお客さまにiPadを使った手話通訳のサービスを導入しています。このほか、多言語対応についても、IoTなどの新しい技術の活用を検討しているところです。

多種多様なお客さまにサービスを提供するには、私たち自身が多様性(ダイバーシティ)のある組織になることが必要です。私は、社長に就任した2015年4月、「ANAグループダイバーシティ&インクルージョン(D&I)宣言」をしました。この宣言を起点として、国籍や性別、あるいは信条といったものにとらわれず多様性を尊重しながら仲間となり、新しい価値を生み出していこうと呼びかけています。定期的に開催する「D&Iフォーラム」などを通じて多様性を尊重する風土が醸成されてきていると感じています。

外国の方がたくさんいらっしゃる中でこれから大事になるのは、他の国の文化を知るということだと思います。空港の係員も、空港にはいろいろな国の方がいらっしゃいますから、それぞれの国の文化を尊重し、世界中のお客さまを平等におもてなししなければなりません。そのためには、社員一人ひとりが世界の国々を知っていくということが大事になります。

身近なところからできることを

2015年9月、国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。ダイバーシティやインクルージョンは、SDGsにおいても鍵となる概念です。一方、CO2の問題はサステナビリティというテーマの一部にすぎません。

私は2004年から5年間ほど人事部長を務めたのですが、そのときにCSR推進室をつくりました。ちょうどそのころに、ミレニアム開発目標(MDGs)をはじめ国連の掲げる目標の達成に向けて活動する「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)」が設立され、弊社も参加することになりました。GCNJ代表理事が高校の先輩だったことから、研究会には私自身が参加しました。

そこで知ったことが非常に大きかったんです。1年間、専門家の話を聞いたり、関連する本を読んだりして、児童労働の問題やブラッドダイヤモンドの問題、生物多様性の問題などさまざまなことを学びました。このときに、「サステナビリティ」という言葉の意味を実感しました。たとえば、アフリカのマラリアを防ぐため蚊帳を無償提供している企業がある。でも、これは一度や二度ではなく、続けないと意味がない。つまり、社会貢献は、企業が利益を出して価値創造をして、持続していかなければならないことなのです。

CSR、SRI、CSVなどの概念も学んだのですが、そこで感じたことは、テーマが非常に広く、カバーする領域も多岐にわたるので、これはもう経営そのものであるということでした。

SDGsには17の目標がありますが、どれもとても重要です。CO2削減は重要だけれども、あくまでもOne of Themであって、ほかにもいっぱいあります。2016年9月に「Dow Jones Sustainability Asia Pacific Index」に航空会社として唯一弊社が選定され、これまでの環境負荷低減や採用に関する取り組みが評価されたことは大変うれしかったのですが、一方で、これもまだ1つの指標にすぎないわけですから、もっと幅広くやっていかなければいけないと思っています。

SDGsの達成という観点から、今後注力していきたい取り組みはありますか。

私たちは「安全」を絶対的な使命としてきました。この「安全」というテーマは、SDGsが目指す「産業と技術革新の基盤をつくろう(目標9)」や「住み続けられるまちづくりを(目標11)」においても重要な要素です。ですから、今後もこれまで通り安全確保の徹底を図ることで、SDGsの達成に貢献できる部分があると考えています。

また、SDGsには「健康」というテーマが含まれています。私たちも「健康経営」に取り組んでいますが、これは社会貢献とは一見関係がないように見えて、実は医療費削減という国の課題につながるものです。

CSR部に女性部長がいるのですが、彼女が17の目標のベースになるのは「人権」だと言うわけです。それで「人権宣言」をしようという話になったのですが、それは役員の中でも相当に議論になりました。グループ会社が採用している社員にはいろいろな国の人がいて、待遇も異なる面があります。人権宣言をしたら、そういった観点からさまざまな要求が出てくるのではないか、こういう議論があったのですが、それでも私は宣言をしようと決めて、2016年4月に「ANAグループ人権方針」を公表しました。

誰も置き去りにしない」というSDGsの基本理念と、貴社が目指す方向が重なっているのを感じます。このような素晴らしい取り組みを進める上で、社員一人ひとりに期待されるのはどのようなことでしょうか。

社員に配布する経営計画の巻頭に、「地球環境課題へのグループの取り組みを家族に紹介したところ、歯磨き中の水道水の出しっぱなしを注意されてしまいました」と書きました。環境問題は非常に大きなテーマですが、実はやれることは小さいところからあります。社員もできることがあるでしょう。会社もできることがあるでしょう。国もできることがあるでしょう。おそらく人類はこの地球に責任があるでしょう。地球環境問題というと大それたテーマに聞こえますが、全部がつながっているのだと思います。ですから、私自身ももう少し肩の荷を下ろして、みんなにももっと理解してもらって、特定の部門のテーマでなく、全社員のテーマであり、その家族のテーマだよというふうに意識が広がっていくような活動をしていきたいと思っています。

【聞き手】三井住友銀行経営企画部CSR室長 末廣 孝信
日本総合研究所シニアマネジャー 井上 岳一

PROFILE

片野坂 真哉(かたのざか しんや)

片野坂 真哉(かたのざか しんや)
1979年、東京大学法学部卒業後、全日本空輸株式会社へ入社。人事部長、上席執行役員、常務、専務、副社長などを経て、2015年4月よりANAホールディングス株式会社代表取締役社長を務める。全日本空輸株式会社取締役会長を兼任。

会社概要

会社名
ANAホールディングス株式会社
創立
1952年
※ 持ち株会社制へ移行に伴い2013年4月1日に全日本空輸株式会社からANAホールディングス株式会社へ商号変更
本社
東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター
資本金
3,187億8,900万円
代表者
代表取締役社長 片野坂 真哉
事業内容
ANAグループの経営戦略策定、経営管理およびそれに付帯する業務
URL
http://www.ana.co.jp/group/