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トップインタビュー日精樹脂工業株式会社 代表取締役社長 依田 穂積氏

1947年に創業した日精樹脂工業株式会社は、プラスチック製品をつくる射出成形機の専業メーカーとして独創的な成形機や成形技術の開発に取り組み、70年以上にわたり日本の射出成形業界をリードしてきました。近年は生分解性樹脂をはじめとする環境対応素材の成形技術開発にも積極的に取り組んでいます。「世界の日精 プラスチックをとおして人間社会を豊かにする」という経営理念のもと、本業を通じて環境や社会への貢献を目指す同社の取組について、代表取締役社長の依田穂積氏にお話を伺いました。

プラスチックで社会を豊かに

貴社は創業以来「世界の日精 プラスチックをとおして人間社会を豊かにする」を経営理念として掲げておられます。この経営理念はどのような背景から生まれてきたのでしょうか。

当社は、初代社長の青木固が1947年(昭和22年)、故郷の長野県坂城町で創業した会社です。終戦後、旧満州から引き揚げてきた青木は、すぐには定職につかず、いろいろな場所を放浪していたとき、東京で飛行機の風防ガラスの破片を偶然手にします。この風防ガラスは、透明のアクリル樹脂、つまりプラスチックでした。初めて見たプラスチックの感触や輝きに青木は魅了されました。温めるとやわらかくなり、冷やすと硬くなる。さらに、圧力を加えると形を変えられる。この素材を美しく表現したいという思いから会社をスタートさせました。

しかし、プラスチックの成形加工を生業とするのは簡単ではありませんでした。プラスチック製品をつくるには、アクリル樹脂を細かく切って、それを溶かして金型に流し込み、成形します。当初は電球のソケットやたばこケース、傘の柄等をつくっていました。そのままうまくいっていれば成形加工メーカーとして成長できたはずですが、創業者は製品の仕上がりにはとても頑固だった一方で、商売が下手だったんです。創業から8年間赤字が続き、もうやめようかと思ったとき、自分で開発した機械がたくさんあることに気づきました。近隣の会社さんからその機械を譲ってくれないかという話もあり、成形加工業よりも、成形の経験を持つ機械屋になろうと決心し、1957年(昭和32年)、成形機の製造販売を本格的に開始しました。

経営理念の「プラスチックをとおして人間社会を豊かにする」というのは、モノづくりや社会を支えるために必要な素材としてプラスチックを考えていくということです。モノのコストが安くなったり、今までできなかったものがつくれるようになったり、世界の国々、地域の産業に役立つ技術を届けたい。この思いを我々は創業以来ずっと大事にしながら、研究開発に取り組んでまいりました。

SDGsの実現に向けて

近年はSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた取組として、環境対応素材の普及に力を入れておられますね。

環境対応素材への取組は1973年のオイル・ショックのころに始まりました。当時はお店からトイレットペーパーが消え、プラスチックもなくなってしまうといわれた時代でした。そこで開発したのが、樹脂に木粉を混ぜる技術です。これはブレンドフィラーと呼ばれており、環境対応というより資源が枯渇してしまう危機感から生まれた代替素材といった方が近いかもしれません。

1990年代になりますと、業界として生分解性樹脂の開発に取り組むようになり、環境対応が進みました。しかし、2008年のリーマン・ショックで景気が悪くなると、本業のど真ん中として環境への対応を考えていなかった企業では、おそらく背に腹は代えられないという理由で、環境への取組をどんどんやめていってしまったんですね。当社の場合、射出成形機の専業メーカーとして環境対応は本業のど真ん中にある、そう考えてこの間もずっと継続的に取り組んできたというわけです。

SDGsが採択されたのは2015年ですが、こうした経緯もあり、2030年までの目標に対して、我々に何ができるのかという感覚でSDGsに接することができました。意識的にSDGsに合わせていこうとしたわけではなく、これまで取り組んできたこととSDGsの歩調がちょうど合っていたということなんです。

生分解性樹脂に関する研究は独自に進めてこられたのですか。

ポリ乳酸(PLA)は植物由来で生分解性を有する環境対応素材ですが、耐熱性が低く、溶かして金型に流し込むと収縮する弱点を持っています。金型にぎゅっと食い付くので、取り出すのに手間がかかり、石油由来のポリプロピレンやポリエチレンのような成形速度では生産できないことが課題でした。材料が高い、成形性も悪いとなれば、商品価値として単価が高くなり、PLAを使ってカップや食器をつくっても販売が進みません。

PLA専用の射出成形システム「N-PLAjet」。耐熱性や耐衝撃性の課題を克服し、PLAの用途を拡大。
PLA専用の射出成形システム「N-PLAjet」。
耐熱性や耐衝撃性の課題を克服し、PLAの用途を拡大。

この課題に対して、当社は、金型や成形加工技術にくわしい小松技術士事務所さまと提携して研究を進め、2009年にPLA専用の射出成形システム「N-PLAjet」を開発しました。2018年には小松技術士ならびに成形加工を行う株式会社豊栄工業さまが、「N-PLAjet」を活用したPLAの量産加工技術で「第7回ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞しました。国に認めていただいたことで認知度が上がり、プラスチック業界で広く普及することを期待したいですね。

海洋プラスチック問題を防ぐには

最近、海洋プラスチック問題が大きな注目を集めています。貴社は以前から対策に取り組まれていたのですか。

海洋汚染や海洋ホルモンの話は昔からされていましたが、マイクロプラスチックの被害が具体的に議論され始めたのはここ数年だと思います。海中のマイクロプラスチックは有害な重金属と結合しやすく、それを魚が食べ、その魚を人が食べるという循環において、人体に悪影響を及ぼす可能性が懸念されています。大きな危機に発展する可能性が少しでもあるなら、社会全体の責任として対処していかなければいけません。当社ではSDGsが採択される前からトウモロコシ由来の生分解性樹脂の成形方法に関する研究開発やリユース・リサイクルの啓発活動等を行っていますが、こうした取組は社会に対する我々の責任であるとの思いを持っています。

植物由来の樹脂や生分解性樹脂が、真に「環境に負の影響を与えない素材」となるには、社会全体の改革が必要ではないでしょうか。

日本や欧米といった豊かな国でされる議論と、明日食べていくのが精いっぱいという国でされる議論は、まったく次元が違います。食べるものに困っている人が、資源のリユースやリサイクルを考えられるかというと、やはり難しいと思います。新聞記事等でも伝えられているように、海洋に流れ込むプラスチックごみの多くは発展途上国から排出されています。こうした国々のくらしが豊かにならないと、この問題の抜本的な解決はできないでしょう。私はプラスチックに罪はないと思っていますが、このままでは樹脂を使うなという話にもなりかねません。世界から貧困をなくす、海の豊かさを守るといったテーマはSDGsの中にも含まれていますが、プラスチック問題をグローバル規模で捉え、各国の生活レベルを向上させていくことが重要です。

また、今後の課題として植物由来の樹脂へのニーズに対して供給量が追い付かなくなる恐れがあります。たとえばPLAの原料となるデンプンは、トウモロコシやサトウキビをはじめ、さまざまな植物から得られますが、石油由来のプラスチックを植物由来のものに置き換えるにはまだ供給量が足りません。不足分は、アフリカでプラスチック材料となる植物を育てたり、マテリアルリサイクルの仕組みをつくったり、産業育成のための支援をすることで補わなくてはなりません。これは循環社会の実現にもつながると思います。当社1社だけでなく、世界全体で、貧困や原材料をめぐる状況を好循環に変えていく仕組みをつくっていく必要があるのではないでしょうか。

モノづくりの誇りを受け継ぐ

貴社は中国、タイ、米国にも製造拠点を持ち、海外での売上は全体の6割を超えておられます。海外展開を進める上で環境対応やCSRにどのように取り組んでおられますか。

海外の製造拠点では主に機械の組み立てをしています。鋳物加工や切削等は専門の業者に依頼していますが、各仕入れ先における環境対応状況は必ずチェックしています。EU内では「RoHS指令」により、電気・電子機器における特定有害物質の使用が制限されていますし、中国でも日本より厳しい規制が課されています。たとえば、有機溶剤は使用できず水性の塗料を使わないといけない等、いろいろな規制があるので、それらに準拠した製品をつくり、日本と変わらないスタンスで取り組んでいます。

我々は本業のど真ん中で環境対応に取り組んでいくことを目指し、CSRという言葉をあえて使わないようにしています。CSRには、ボランティアや寄付活動といったイメージがどうしてもありますが、環境対応は、景気が悪くなったらやめてしまえるものではなく、事業を継続する上で不可欠なものです。当社では、有害物質が含まれていないことはもちろん、エネルギー効率や生産効率の向上を図り、機械の性能を最大限に発揮するためのビフォアサービスや保守点検等にも力を入れています。売りっぱなしではありませんし、生産財の設計という点ではかなり優等生であると自負しています。

貴社が開校されている「日精スクール」には海外のお客さまも参加されているのですか。

はい。日精スクールは1968年に開校しました。当初は、安全作業に関する教育がまだきちんと行われておらず、成形機を動かして手を挟んでしまう等、作業中にケガをする人がかなりいたようです。そこで、安全に正しく機械を使うこと、これをイロハのイとして、主にお客さまを対象とした研修を行ってきました。成形加工メーカーのお客さまだけでなく、材料メーカーや商社、学生、海外研修生等、誰でも入学でき、これまで3万8,800人の卒業生を世に送り出しています。

射出成形に関する技術や知識を学ぶ「日精スクール」
射出成形に関する技術や知識を学ぶ「日精スクール」

当社の社員も入社後に2週間ここで成形機について学ぶので、最終学歴はみんな日精スクールなんですよ。さらに、社内ではお客さまの課題解決のお手伝いができるようにプラスチック成形技能士(国家資格)の取得を推奨しており、全社員の8割が3級から特級までいずれかの資格を有しています。

スクールを50年以上も続けておられることに貴社の歴史の重みを感じます。

創業者から数えて私は4代目になります。自分が好きなことをやりたい気持ちもありますが、やはり脈々とやってきたことはとても重要で、変えてよいものと変えてはいけないものが間違いなくあるんですね。環境への取組も昔からやってきたことのひとつですが、先人たちのモノづくりの誇りを受け継ぎながら、それをもとに新しい取組を発信していかなくてはならないと思っています。

日本発の環境配慮技術を世界へ

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心が世界的に高まっていますが、株主とのコミュニケーションについてどのように感じておられますか。

これまで株主総会では環境関連の技術や取組に関する質問が出ることはなかったのですが、海洋プラスチック問題が新聞やテレビで報道されるようになりましたから、今後はそういった質問が増えると思います。そのような質問に十分に答えられるようにしていきたいと思います。

同じ株主でも長期保有か短期保有かによって、環境配慮に関しては意識の差があると感じます。環境対応をやっているだけでは素晴らしいとはいえませんし、環境が悪くなるより赤字の方がいいというわけでもありません。環境対応を進めながら、売上目標もきちんと達成して、さらに上を行きますと発信していくことが一番大事なことだと考えています。

今後、プラスチックでこれができたら面白いと考えられていることはありますか。

プラスチックの一番の弱点は温度です。高温に耐えられるものができたら、使い勝手がさらによくなって、食器だけでなく工業製品もプラスチックに置き換えることができます。さらに強度も付与できれば、自動車にも航空機にも利用でき、軽量化により航続距離が長くなる等、たくさんのメリットが生まれます。

ロジスティクス業界では運ぶものが軽くなると労働負荷やエネルギー消費の低減につながりますし、食品包装業界では完全に酸素を遮断するプラスチック素材ができれば生野菜の品質を1〜2週間保つことができます。ほかにも、生活のいろいろな場面で高機能な樹脂が重要になってくると思います。

ヨーロッパでは、法整備に伴い生分解性樹脂の実用化がいち早く進んでいます。日本発の優れた生分解性樹脂を世界へ広めていくことで、技術立国としての存在感を示せそうですね。

フランスでは2020年1月から使い捨てプラスチック製カップや皿の使用を禁止する法律が施行されますが、家庭用コンポストで堆肥化でき、植物由来の素材が50%(2025年以降は60%)以上含まれていれば、禁止対象外となります。最近、当社は植物由来のPLAを使ってシャンパングラスを開発したのですが、これは光加減も透明性もガラスに引けを取りません。海外の展示会や国際会議で「生分解性樹脂でこんなものもできます」と、実際にお見せしていくことが有効ではないかと考えています。

PLAの成形性を向上させ、単価を下げて製品を提供することが我々の仕事ですが、いかに普及させるかという点では、やはり補助金や法整備等、国を挙げて環境を整えていただく必要があります。日本の産業のコアとなっているのは化学業界です。業界が生分解性樹脂に舵を切ったことは、今後日本が大きく変わる第一歩になると思います。

三井住友銀行経営企画部サステナビリティ推進室室長
 末廣 孝信
日本総合研究所創発戦略センターシニアマネジャー
 村上 芽

PROFILE

依田 穂積(よだ ほづみ)

1987年、東海大学教養学部卒業。1989年、日精樹脂工業株式会社へ入社。1993年より米国現地法人Nissei America, Inc.勤務、1999年同現地法人の取締役副社長に就任、同年日精樹脂工業の取締役就任。2001年より現職。2010年より業界団体である日本プラスチック機械工業会の会長を務める。

会社概要

社名

日精樹脂工業株式会社

創業

1947年

本社

長野県埴科郡坂城町南条2110

資本金

53億6,250万円

代表者

代表取締役社長 依田 穂積

事業内容

プラスチック射出成形機およびその関連製品(周辺機器、部品、金型、成形システム等)の開発、製造、販売

URL

https://www.nisseijushi.co.jp/