環境先進企業トップインタビュー

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リーダーシップアカデミー TACL 代表 ピーター D. ピーダーセン氏

環境・サステナビリティ分野で20年以上、企業コンサルティングやビジネスリーダー育成に携わってきたピーター D. ピーダーセン氏。ピーター・ドラッカー氏やアルヴィン・トフラー氏とも親交を持ち、日本にLOHASを紹介したことでも知られるピーダーセン氏は、著書『レジリエント・カンパニー』で、現代企業に必要な特性として「トリプルA」を提唱しています。成長を続ける企業に欠かせない「トリプルA」や、マネジメント・イノベーションの重要性についてピーダーセン氏に伺いました。

レジリエントな組織に欠かせない「トリプルA」

経営人材を育成するリーダーシップアカデミー「TACL(タックル)」の概要を教えていただけますか。

「TACL(The Academy for Corporate Leadership)」は、しなやかで強いレジリエントな組織体質の実現を支援するアカデミーです。レジリエントは、英語圏で広く使われている言葉で直訳すると、耐性、回復・復元力、柔軟性、適応力等、ストレスを跳ね返す性質を意味します。私はこの言葉こそ、新たな時代を創造する企業に必要な要素や能力を表していると考えており、その力を備えた企業を「レジリエント・カンパニー」と呼んでいます。

レジリエントな組織をつくるには「アンカリング(Anchoring)」「アダプティブネス(Adaptiveness)」「アラインメント(Alignment)」という3つのA「トリプルA」が必要です。

1つ目の特性「アンカリング」は、日本語に訳すと錨です。これは組織全員の拠り所となり、社員と顧客を惹きつける魅力のことを指しています。いつの時代も、組織には立ち戻れる拠り所が必要です。特に、危機に直面したときの判断基準(価値観)と、何のために存在しているか(使命)、どこへ向かおうとしているか(展望)が不鮮明だと団結力は生まれません。さらにいえば、この価値観、使命、展望を実効性のあるものにするには、組織内(特に経営層と社員の間)の信頼関係が厚く、社会から信用されることが必要です。このアンカリングの要素がなければ、企業はまさしく錨が外れて漂流する船のような存在と化してしまいます。

2つ目の特性が「アダプティブネス」です。私は日本語で「自己変革力」と呼んでいますが、一言でいえば自ら変わり続ける力のことです。危機に直面しなくてもイノベーションが創発的に起き、学び続けられる組織であるために、自己変革力が欠かせません。日本の大手企業への調査結果によると、アンカリングはできていてもアダプティブネスが低いことが多く、ここは非常に重要な課題だと考えています。

3つのA「トリプルA」が必要です

3つ目の特性は、21世紀の組織に絶対欠かせない「アラインメント」の追求です。日本語では「社会性」と訳しますが、これは社会全体の方向性と自社の戦略・行動のベクトルの整合性がとれていることが重要な要素となります。倫理的な行動に徹し、高いレベルの企業統治を目指すことは必要不可欠ですが、これは土台や出発点に過ぎません。多くの企業は自社の発展と環境保全やサステナビリティの取組は「トレード・オフ」で乗り越えられないと考えていますが、レジリエント・カンパニーは「トレード・オン」を目指します。つまり、社会・環境課題の解決を目指すことが顧客と社会に受け入れられ、長期にわたる「成長許可」を獲得できると考えているのです。

現代は、この「トリプルA」を備えることが優れた組織の原理原則になってきました。こうした社会背景に合わせ、TACLでは部長クラス等のコア人材や次期リーダー層に「トリプルA」をベースにした研修を実施し、組織を分析する能力の育成に取り組んでいます。組織の信頼関係や目的を見極め、弱点や内向的な状態を改善するとともに、時代を読める組織にし、社会的な感度を持たせるためのプログラムを提供しています。

多くのリーダーシップ教本でも、アンカリングや自己変革力を重視していますが、社会性には触れられていませんね。

トム・ピーターズ氏らが出版した『エクセレント・カンパニー』やジム・コリンズ氏らの『ビジョナリーカンパニー』には社会性に関する記載はほとんどありません。しかし、私は現代の強い企業は間違いなく社会性を備えていると思います。日本のセコム社は、その典型的な企業で、社員の方々は「日本の安全と安心は、我が社が守っている」という自負心を持ち、仕事に臨んでいます。グローバルな消費財メーカーのユニリーバ社も社会性の分野で世界をリードする企業として知られています。ユニリーバ社は、社会性に取り組む理由として、現在の社員だけではなく将来の社員もインスパイアするためだといっています。つまり、パーパス・ドリブンな経営をすることは、目の前の売上だけではなく、将来にわたり社会から愛され、優秀な人材の確保にもつながる企業になるということです。

かつては売上や利益の拡大を経営の中心に置くプロフィット・ドリブンな企業が「エクセレント」といわれましたが、今はパーパス・ドリブンな企業の方が社会へのインパクトを与えることができ、社内も活性化し、優秀な人材を確保できます。

マネジメント・イノベーションを起こすために

レジリエントな組織をつくるために、どのような教育プログラムを提供しているのですか。

TACLにはMIT(Management Innovation Training)という研修があり、自ら変革を起こすマネージャーを育成しています。

ご存じの通り1950年代から70年代にかけて日本企業はマネジメント・イノベーションにおいて世界トップレベルでした。「TQM(Total Quality Management)」や「カイゼン」「小集団活動」等の日本発の組織マネジメントは世界を席巻しました。しかし、80年代以降の日本企業は、世界に通用するマネジメント・イノベーションを起こせていません。

マネジメント・イノベーションを起こす手法として、私が推奨しているのが「ライセンス・トゥ・クリエイト」、日本語でいうと社員に「創造許可」を付与する仕組みです。これをリップサービスではなく、実務で機能する仕組みとして組織に導入する方法をTACLで教えています。これを実践することで、価値あるアイデアを生み出せる組織に生まれ変わります。

かつて日本企業は品質改善で世界をリードしましたが、社会性を持った人材を育てないと再浮上は難しいかもしれませんね。

以前、スターバックスコーヒージャパン社の代表から伺ったエピソードを紹介しましょう。ある財務会議で業績の悪化が報告されて場の雰囲気が重く沈んだそのとき、創業者のハワード・シュルツ氏が現れ、KPIや数字について何ひとつ語ることなく、ホンジュラスで出会ったコーヒー農家ミゲル氏の素晴らしい取組について紹介しました。そのエピソードを聞いた社員は感動に目を潤ませ、モチベーションを大幅にアップさせて「ミゲルさんのために数字を達成しよう!」と会議の空気が一変したそうです。シュルツ氏は組織にパーパスをインストールすることで、内なる思いを醸成できる経営者なのです。もちろん、プロフィットがなければ会社は生き残れません。しかし、現代はプロフィット・ドリブンだけで組織の力を発揮することは難しい。数字だけでは魂が震えないからです。

今、問われているのは、創造で貢献できる組織なのか、パーパスを感じて仕事ができる組織なのか、この2つです。仕事は作業ではなく、志のある「志事」でなければいけません。特に、若手社員は、社会的な使命感やパーパスを求めていますから、それがない会社には良い人材も集まりません。

「アジア立志塾」の研修風景
「アジア立志塾」の研修風景

社会性の対応力を高める方程式

社会性の高い企業になりたいと考える経営者は多いと思いますが、どうすれば実現できるのでしょうか。

私が特任教授を務める大学院大学至善館では、2019年10月にCSI(Center for Sustainability and Innovation)を開講します。CSIでは、組織が社会課題への対応力を上げる方程式を掲げています。その方程式に必要なのは、まず役員レベルが社会性に対する理解度、腹落ち感、自主性を持つことです。そこにSDGsやサステナビリティ分野等にコミットしている社内起業家的気質を持つ若手や中堅社員を掛け算します。さらに社会性やサステナビリティは社内で完結しないので、外部との協働や共創、パートナーシップを掛け算します。この掛け算ができる企業は、社会課題を解決に導き、新しい事業を生み、モチベーションの高い人材を惹きつけられます。

多くの企業がSDGsやESGにコミットしていますが、価値創造に結び付けることが難しいという声を多く聞きます。

SDGsはきれいごとではなく、2つの大切な意味を持ちます。まず人類は、気候変動や食糧問題、プラスチック汚染、エネルギーの確保等の環境問題に直面していて、新しい解を導かなければなりません。昔は、企業が社会的責任として取り組んでいましたが、それでは解決できないほど問題は複雑化し、今はさまざまなパートナーとの共創がベースになっています。ESG投資は、それを後押しするものです。

今、ESGは顧客市場でも選定基準になりつつあり、すでにヨーロッパやカナダ、ニュージーランド、オーストラリアではESG関連投資が5割前後に達しています。日本も2017年以降、急速に伸びています。これに向けて、組織のアラインメントを高めることが、企業をレジリエントにする重要なステップになります。

顧客市場は、エコカーに需要がある一方スニーカーを買うときにエコを意識する消費者は少数です。しかし、金融機関は、業種を問わず、環境・社会・ガバナンスの3領域での高いパフォーマンスを求めるようになってきています。すべての業種を網羅する金融市場のプールが「環境や社会、ガバナンスを重視しているのか?」にフォーカスすれば、経営者の目の色が変わると思います。

ESGやSDGsを推進する上で金融グループが果たす役割は大きいということですね。

とても大きいです。金融機関がESG的なビジネスを企画し、社会課題を解決して利益を生み出す情報の提供、そして仕組みをつくることは、これまで以上に重要になるでしょう。

今、中国国内の電気自動車メーカーは100社を超え、上海ではスクーターが電動化されました。さらに、アフリカで現地の公共交通機関として電気バスを走らせる施策を進めています。未来の声を読み取る力は日本にもありますが、それを企画して商品化するスピードでは、中国の方が何倍も早いのです。

世界市場は成長途上にあり、1日あたりの人口増は22万人とパイは拡大し続けています。しかし、いずれ人口ピークアウトを迎えるとゼロサムゲームになり、経済的な奪い合いが始まります。今後10年20年の間に、日本的なよさを保ちながら組織文化にメスを入れ、イノベーションが起こる風土や仕組みをつくらなければ、世界に遅れてしまうと危惧しています。

日本のよさを生かして世界をリードするには何が必要でしょうか。

最大の強みは型、テンプレートです。それを武器に日本企業は品質経営で世界市場に進出し、1950年代後半から右に出る者がない時代を築きました。以前、私は『第5の競争軸』という本を書きましたが、そこではかつての「品質経営」と同じように、「ESG経営」でも確かな哲学、フレームワーク・組織、そしてツール群という3点セットを揃えて取り組むことが必須だと主張しました。現在は、そこにサステナビリティも入りますが、すべてを整えられれば実行においては日本が世界一だと思います。

社会課題への対応でも日本は型をつくればイノベーションを起こせるはずです。日本には守破離という言葉があります。型を習って自分のものとし、その型を破ることを繰り返せば、答えは見つかるかもしれません。

社会の問題は機会の源泉

社会課題も型から入って解決できるでしょうか。

日本は内向きの議論が多く、組織内の宿題をこなすことにエネルギーを費やしていますが、社会課題の解決には外部の情報を取り込み、外を向かなければ大粒のビジネスになりません。

ピーター・ドラッカー氏は『マネジメント【エッセンシャル版】』で「社会の問題は機会の源泉である」と書いています。要するに、社会的イノベーションを実践した企業が、一番大きな飛躍を遂げると予見しているのです。

時代のニーズを読むには社会の声や未来の声を外部から取り込み、事業として企画できる能力が必要です。先ほどパートナーシップが重要だと言ったのは、この社会的感度を高め、次なる大きなビジネスを見つけるためです。だからこそ、マネジメント・イノベーションに着目しているのです。

「価値は外にあり、中にあるのはコストのみ」というドラッカー氏の考えもあります。要するに社内報告のための資料をつくっても、積み上がるのはコストだけです。

パートナーと手を組み、社会との向き合い方を変革する時期を迎えているのでしょうね。

今我々は、ひっ迫した世界に住んでいます。生活が豊かになった半面、成功の副産物として環境問題等多くの危機に直面しています。そして人類共通で解決すべきことの線上には必ずビジネスが生まれます。

今の世に松下幸之助氏や本田宗一郎氏、盛田昭夫氏がいれば、きっとSDGsをベースにしたビッグビジネスを形にしているでしょうね。

SDGsはイノベーションの源泉といえますね。

電気がない時代のGE、生活が不便だった時代の松下電器、ITやOSがない時代のマイクロソフト等、社会課題に取り組んだ企業の多くがビジネスで成功を遂げてきました。

SDGsは2030年をゴールとしていますが、あくまでガイダンスと考えた方がよいでしょう。日本では宿題みたいにSDGsの課題と番号を暗記している人を見かけますが、そうではなく自分や企業のパーパスと社会が求めるものを掛け算し、大粒のビジネスを見つけることにパッションを燃やしてほしいですね。

三井住友銀行経営企画部サステナビリティ推進室室長
 末廣 孝信
日本総合研究所創発戦略センターマネジャー
 岡元 真希子

PROFILE

Peter David Pedersen(ピーター D. ピーダーセン)

1967年デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学卒業。環境・CSRコンサルティングを手がける株式会社イースクエアを2000年に設立、約400のプロジェクトに携わる。2014年、TACL代表に就任。2015年、次世代リーダーのグローバルネットワークNELISの共同代表に就任。2019年、大学院大学至善館特任教授に就任。著書に『レジリエント・カンパニー』、『SDGs ビジネス戦略』(編著)等がある。

組織概要

組織名

リーダーシップアカデミー TACL 株式会社トランスエージェント内

設立

2001年

本社

東京都目黒区碑文谷5-14-13 グレースビル2F

資本金

1,000万円

代表者

会長兼TACL代表 ピーター D. ピーダーセン

事業内容

マネジメントイノベーション支援事業、交渉力・協働力向上支援事業、BtoB営業・マーケティング支援事業

URL

http://transagent.co.jp/service/tacl