環境先進企業トップインタビュー

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省エネインバータエアコンの普及と冷媒対策で2050年のCO2排出実質ゼロを目指す。

2018年度には6期連続で最高の業績を更新する等、好調を維持するダイキン工業株式会社。
海外での売上高が全体の76%を占めるグローバルメーカーとして成長する一方、同社製品によるCO2排出量はフランス1ヵ国分に相当すると指摘されています。こうした中、ダイキン工業では2050年のCO2排出実質ゼロを目指し「環境ビジョン2050」を策定しました。世界的な人口や、新興国を中心としたエアコン需要が増加する中での環境貢献について、代表取締役社長兼CEOの十河政則氏にお話を伺いました。

特許無償開放で省エネ型空調を世界に

貴社は世界一のエアコンメーカーとして100ヵ所以上の生産拠点をお持ちです。空調を取り巻く状況について、地球規模で起きていることを教えてください。

「IEA(国際エネルギー機関)」による2018年のレポート「The Future of Cooling」では、アジアやアフリカ等気温が高い新興国の経済成長に伴い、2050年にはエアコンの需要が現在の約3倍にあたる56億台に達すると報告されています。当然ながら新たな電力供給が必要になりますが、その量は現在の日本、アメリカ、欧州の発電総量に匹敵するといわれ、当社でもさらなる省エネ型エアコンの普及や開発が喫緊の課題になっています。

一方で当社は、深刻化する地球環境課題の解決に貢献するため「パリ協定」に賛同しています。確かに、空調需要が3倍になるのは大きなビジネスチャンスですが、私たちは同時に、2050年に向けて温室効果ガスの排出実質ゼロを目指しているのです。そのために「環境ビジョン2050」を策定し、製品やエネルギーマネジメント等の事業を通じて実行します。当社ではまた、「空気の力」という表現を用いて、独自の価値創出を目指しています。

エアコン需要と消費電力が増加していく中、相反するようにCO2排出実質ゼロを目指しているので、両立させるには大規模な技術的イノベーションが必要です。そのためにも、まずは積極的な投資を続け、チャレンジの中で答えを出そうとしています。

貴社のインバータエアコンは世界中で使用されていますが、どのような戦略に基づき普及に成功したのですか。

当社はある意味、環境負荷の高いビジネスを行っています。空調の電力消費量はビル1棟で全体の約4割を占め、家庭でも3分の1程度に達するとされています。そのため、他社に先駆けて省エネを重視したインバータエアコンを開発し、コストを下げて世界中に普及させ、環境保全に貢献しようとしました。インバータ機はノンインバータ機に比べて、電力消費量を約58%も削減できるからです。

インバータ機の普及は現在、中国やタイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア等のアジア各国で高い伸び率を示しています。その筆頭である中国市場に、当社は1994年に参入しましたが、現地メーカーが製造する低価格ノンインバータ機と正面から争うことを避けました。巨大な市場を相手に日系企業1社のみが奮闘しても、勝ち目はないと判断したからです。

そこで、当時の中国最大手エアコンメーカー「格力電器(GREE)」に当社のインバータ技術を渡し、それと引き換えにGREEの低コストに量産できる生産体制をいただくという戦略を立てました。圧倒的な「量」を誇るGREEと手を組むことで、一気に中国市場を席巻しようと考えたのです。戦略は的中し、2008年の業務提携以降、インバータ機は瞬く間に中国全土へと広まっていきました。提携前のインバータエアコン普及率はおそらく5、6%ですが、現在は70%を超えています。中国のルームエアコン市場は4,000万台規模なので、もしあのままノンインバータ機が普及していたらと考えると、大胆な市場参入によって環境保全に貢献できたのではないでしょうか。

住宅用エアコン市場需要台数とインバータ機の比率(2018年度)

インド市場には低温暖化冷媒「R32」使用のインバータエアコンを投入したと伺いました。どのような特徴のある冷媒ですか。

近年、中間所得層が急増したインドでもエアコン需要が高まり、ここにはアジアの中で最も早く低温暖化冷媒「R32」を使用した冷専インバータ機を投入しました。R32の特徴は、何よりも地球温暖化係数(GWP)が低いことにあります。これまで、当社の主力冷媒はオゾン層破壊係数ゼロの「R410A」でしたが、R32も同様にオゾンを破壊しない上、GWPはその約3分の1にあたる675しかありません。

また、R32は資源の使用量の面での効率がよく、R410Aと比べてエアコンへの充填量を30%ほど減らせます。さらに、回収や再生も容易なので省資源化につながり、現時点では住宅用・業務用冷媒として最適と考えています。そのベストな冷媒をライバルに先駆けて全世界に普及させるために、2011年には新興国で、2015年には全世界で、思い切ってR32の使用に関する特許を無償開放しました。中国市場におけるインバータ機の普及と同じく、当社が得意とするR32の市場を各国でつくり出そうと考えたのです。これで世界中のメーカーがR32エアコンを製造できるようになり、2018年12月時点での販売台数は1,700万台以上、60ヵ国以上に達しました。

低GWPのR32を世界中に普及させるため、特許を無償開放したのは大きな決断です。一方で、購買力のある人だけがエアコンを買えるという格差をどのようにお考えでしょうか。

確かに世界中には、エアコンを購入できない貧困層が多く存在し、当社でも対応を考えています。現在は、タンザニアを中心とした未電化地域でLEDランタンのレンタルビジネスを展開するベンチャー企業「WASSHA(ワッシャ)」と手を組み、初期費用を抑えたサブスクリプション方式でのエアコン普及を試みているところです。現地で大半を占めるのは、やはり低価格で環境負荷の高い旧型機器です。GWPの低い当社製品を広めて、ここでも環境保全に貢献できればと思っています。

アフリカは中国やインドと異なり、製造業が未発達なので中間所得層が生まれにくいとの説もあります。一部の富裕層と多くの貧困層という構造が今後も長く続くのでは、という問題意識も持ちながら、将来的にはほかの未成熟市場への展開も視野に入れ、環境負荷の低い空調の普及に努めます。

次世代冷媒の開発に向けて

R32の普及と並行して次世代冷媒を開発中とも伺いました。R32と比べてどのような改善を目指しているのですか。

環境意識が高いEUでは、住宅用・業務用エアコンに求められるGWPは750以下です。R32は675なので問題なくクリアしていますが、EUでは閾値をさらに下げる圧力が出てくる可能性があります。それに、アンモニアやプロパンといった自然冷媒と比較すると、R32のGWPはまだまだ高い数値です。自然冷媒のひとつにCO2がありますが、そのGWPはわずか1にすぎません。現在、CO2冷媒は冷凍機では実用化されているものの、空調に利用するには不向きです。そこで当社では、GWPを1けた以内に抑える次世代冷媒の開発を進めているのです。

ダイキン工業は、エアコンと冷媒の両方を開発・生産する世界唯一の会社です。次世代冷媒の開発では絶対に負けられません。

研究スピードを上げて他社をリードしようと、独自のAIを開発されたと伺っています。

次世代冷媒をつくるには、まず、何兆とも何京種類ともいわれる物質の中から有力な候補を見つけ出し、その組み合わせまで考える必要があります。以前は研究員が過去のデータや特許文献を読み込むことから始めていましたが、この工程だけであっという間に1年や2年が過ぎ、競合各社に勝てない恐れがあります。そこで今回、次世代冷媒の候補物質はAIを使って探すことにしました。シリコンバレーのベンチャー企業と組んで開発した当社独自のAIで、わずか数週間で有力な物質を洗い出し、物質同士の合成案まで教えてくれました。おかげですでに、いくつかの有力な候補を発見済みです。

iPS細胞も活用して研究を簡素化させているそうですね。

発見した候補物質は、実用化の前に人体への影響を調べる必要があります。ここでもスピーディに研究を進めるため、社内実験ではiPS細胞を活用して作業を簡素化させました。もちろん後に、外部機関による厳密な審査を受ける必要がありますが、現時点では人間に害を及ぼすような急性毒性は発見されていません。

次世代冷媒の開発は3、4年前に始まり、当初は7、8人の研究者が細々と進めていました。そこで私は「そりゃ、あかん。研究費はなんぼかかってもいい!」と体制の強化を命じ、外部の専門家も招聘しました。候補物質は、まだエアコンに利用できる状態ではありませんが、早期の実用化に向けて研究開発に取り組んでいます。

オープンイノベーションの活用

自社テクノロジーの強化とほかの企業や機関との共同研究について、どのようにお考えですか。

メガトレンドのひとつに、人口増加に伴う急速な都市化の進行があります。アジア等の発展途上国では、人々が農村部から都市部に押し寄せ、ビルやマンションの建設ラッシュで都市インフラが限界に達すると予測されています。その解決策としてスマートシティの推進は有効であり、ここでも当社にしか提供できないコアなテクノロジーがあるので、強化すればチャンスになると考えています。一方で、変化の幅やスピードが激しくなった今、ほかの企業や機関と力を合わせることも大切です。自社開発とオープンイノベーションによる協業、この両者を使い分けることが重要になるでしょう。

すでに始めているオープンイノベーションはありますか。

当社は「空気で答えを出す会社」をスローガンに掲げています。より快適な睡眠につながる空気についても調べていて、この分野では理化学研究所のライフサイエンス技術基盤研究センターと共同研究を進めています。眠りの良しあしには個人差がある上、当社は医学や生体に関する知識を持ち合わせていないので、信頼できるエビデンスを残すためにも専門機関と手を組む必要があると考えたからです。

また日本電気株式会社(NEC)とは、彼らの顔認証技術を利用した共同研究に臨んでいます。カメラで人間のまぶたの動きを読み取り、AIが眠気や集中力の低下を判断し、エアコンの温度や湿度、気流を変えて覚醒を促そうという取組です。実験では、眠気の兆しが見える早期に室温を3度下げると被験者が適切に目を覚ますことが確認でき、知的生産性の向上に役立つことが実証されました。この技術はオフィスでも役立ちそうですが、私は進学塾との相性が良いと思っています。室温変化で生徒の集中をサポートし、さらに受験生には風邪やインフルエンザが大敵なので、当社の加湿ストリーマ空気清浄機も力を発揮するでしょう。また、集中できる講義か否かは講師評価にもつながり、より付加価値のある進学塾になると考えています。

さらに当社では、競合関係にあるパナソニック株式会社とも協業しています。東京・丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)」では、働き方改革をテーマに計9社が最新技術を融合させ、効率的で創造的な会議室、外部からの刺激を適度に遮る集中ブース、快適な仮眠環境等をつくり出そうとしています。当社はエアコン、パナソニックは照明で参画し、利用者から得られる生体情報や機器の運転データを収集・分析して互いに共有しているのです。デジタル化時代の今こそ、こういうオープンイノベーションがますます必要になります。

次世代冷媒の先にあるテクノロジーでも他機関との共同研究をお考えのようですね。

次世代冷媒の開発と並行して、当社では「磁気冷凍技術」を開発中です。磁気を使って発熱や冷却が可能になるテクノロジーで、究極的には冷媒が不要になります。国内における磁気材料の最先端は国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)であり、現在は本格的な共同研究を検討中です。プロジェクトが始動すれば10年や20年で技術課題が見えてくると思います。当社がCO2排出実質ゼロを目指す2050年までに、磁気冷凍技術が実現する可能性も十分にあるのです。

人間とテクノロジーの協調

これからも人類はテクノロジーを進歩させていくと考えられます。どのような姿勢で臨むことが大切なのでしょうか。

大量のデータを収集し、AIで次々と分析しても、難しいのはビジネスサイドです。データを顧客価値にするには、まだまだ人間の判断が不可欠であり、この部分を牽引する人材が猛烈に必要です。

ここで重要なのは、経営の視点に文化や哲学を取り入れることです。世界的なベストセラー『サピエンス全史』には、地球上でホモ・サピエンスのみが繁栄した理由について、物語をつくる、創造する力のおかげだと書かれています。しかし同書は、やがてテクノロジーが人間を支配してしまうと予測しています。私はこの先、ミレニアル世代やZ世代による技術革新に期待していますが、彼らには同時に、人間とテクノロジーとの協調を忘れないでほしいと願っています。

デジタルやテクノロジーが進んでも、やはり人間や環境に重きを置いた経営が大切なのですね。

当社には「ダイキン経営幹部塾」があり、グローバル事業の第一線で活躍するべく、30代から40代までの社員を選抜して育てています。彼らにも利益だけでなく、人への理解を基軸に置くことの大切さを伝えています。

企業には、ある程度の利益を出した上で、それをどう社会に還元するか考える責任があります。利益を出さずに“あるべき論”ばかり口にしても、環境貢献やESG投資なんてできるはずがありません。当社が目指す2050年のCO2排出実質ゼロの実現も相当に大変ですが、とにかく前に進まないと。もちろん、地球環境の課題は一企業だけでは解決できません。国も含めて、最後は私たち一人ひとりの責任として落とし込むことで、高い目標を達成できると思っています。

三井住友銀行経営企画部サステナビリティ推進室室長
 末廣 孝信
日本総合研究所創発戦略センター シニアマネジャー
 村上 芽

PROFILE

十河 政則(とがわ まさのり)

1949年北海道出身。小樽商科大学商学部卒業。1973年ダイキン工業入社、秘書室長兼総務部長、取締役兼専務執行役員(コーポレートコミュニケーション、人事、総務、施設担当、秘書室長、人事本部長委嘱)等を経て、2011年6月代表取締役社長兼COOに、2014年6月代表取締役社長兼CEOに就任。関西生産性本部理事も務める。

会社概要

会社名

ダイキン工業株式会社

創業

1924年10月25日

本社

大阪府大阪市北区中崎西2-4-12 梅田センタービル

資本金

850億円

代表者

代表取締役社長兼CEO 十河 政則

事業内容

空調・冷凍機、化学、油機、特機、電子システム等

URL

https://www.daikin.co.jp