近年、企業活動においてサステナビリティを基軸とした経営の必要性がますます高まっている。投資家や取引先を含むステークホルダーからサステナビリティへの対応要請が高まるなか、多くの企業が持続可能な価値創造を目指して取組を加速させている。
この状況を受け、世界の金融市場ではサステナブルファイナンスが推進されている。三井住友銀行(中国)有限公司(以下、SMBCCN)は、大手自動車メーカーである奇瑞汽車集団が地方銀行とともに設立した自動車販売金融会社・奇瑞徽銀汽車金融(以下、Chery Huiyin)に対し、サステナビリティ・リンク・シンジケートローン(以下、SLシローン)を実行した。
お客さまの事業状況から
資金ニーズを察知し、
SLシローンを提案
中国で確固たる地位を築いてきた奇瑞汽車集団は、中国安徽省蕪湖市に本社を置き、世界をリードする乗用車メーカーの1社だ。当社は2009年、新たにEV(電気自動車)分野に本格進出。山東省・青島にEV専用の新工場を建設するなど、NEV(新エネルギー車)の事業を拡大している。Chery Huiyinは奇瑞汽車集団の自動車販売金融会社として、自動車ローンやリース、ディーラー向け融資などの金融ソリューションを提供し、グループ全体の販売促進を支える役割を担っている。
Chery Huiyinの環境・社会両面での価値向上を目指す資金ニーズを把握したSMBCCNは、サステナブルファイナンスの分野で培った専門性を活かし、NEV事業を金融面で支援するため、SLシローンを提案。このプロジェクトは金融支援の枠を超え、お客さまの成長と社会的価値創造を支援する取組となった。
プロジェクトを担当したSMBCCN, Investment Banking Dept./Sustainability Solution Dept.の瞿は、その意義について、次のように語る。「この案件は、Chery Huiyinにとって初のSLシローンであると同時に、SMBCCNにとっても、自動車販売金融会社に対する単独で主幹事行およびサステナビリティ・コーディネーターを務めた初めての事例です。我々にとってこの案件は、サステナブルファイナンスにおける新たな基準作りの第一歩となりました」


NEV市場と地域社会を
支える具体的な取組、
その鍵となったのは
高い目標設定
今回のプロジェクトで鍵となったのは、目標設定だ。サステナビリティ・リンク・ファイナンスのSPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット:KPIの具体的な改善目標)は、野心的である必要がある。簡単すぎる目標を設定した場合、その企業によるサステナビリティへの取組が形だけのものと判断され、「ウォッシュ」と見なされるリスクがあるためだ。
本プロジェクトでは、低炭素・環境保護、社会格差の是正、消費者権益の保護という3つのテーマを中心に据え、それぞれ具体的な目標が設定された。
まずは、NEV関連の貸出額に対して、過去の実績を参考に挑戦的な目標(SPTs)を設定した。この方針は、NEVの普及を目指す中国政府の環境政策を踏まえたものであり、Chery Huiyinの事業拡大に直接的に大きく貢献するものだ。
次に、社会格差の是正というテーマに関連し、金融包摂の観点から、農村部への貸出件数の増加もSPTsとして設定。Chery Huiyinによる農業用車両及び機械の購入支援を通じて、地域経済の活性化を目指す。
さらに、消費者権益の保護の観点から、金融リテラシー向上に向けた活動件数もSPTsとして設定。地方都市や農村部で実施するセミナーでは、金融サービスの安全な利用方法を啓発し、詐欺防止や消費者権益の保護を図る。この取組は、金融サービスへの信頼性向上にも寄与する。
瞿とともにお客さまのSPTs設定を支援したSMBCCN, Corporate Banking Dept. IIのリンは、その意義と成果について、「これらのSPTsは、お客さまの成長と社会的価値創造を結びつける具体的な指針となっています。3つのテーマのSPTsを設定したことにより、今後はNEV事業への融資拡大に加え、農村部への融資拡大や金融リテラシー向上の取組も進めることとなり、事業の成長と地域社会への貢献を同時に目指す仕組みを構築することができました」と振り返る。


事業理解のための対話を
通じて、お客さまとの
信頼関係を構築
プロジェクトを推進するなかで、いくつもの課題に直面した。特に、Chery Huiyinの企業情報に関しては、同社が非上場企業であることから、外部からは詳細なビジネスモデルの全容を把握することが難しい状況にあった。この課題の克服について、リンは次のように語る。「事業理解を深めるため、現地訪問や業界調査、競合分析を繰り返し行いました。こうしたお客さまとの対話を通じて、信頼関係をいっそう築くことができたと思います」
また、SPTsの設定においては、野心的な基準を求められることから、Chery Huiyinと長期間にわたって協議を重ねる必要があった。4か月以上に及ぶ交渉を経て、契約条件と取引構造を丁寧に調整し、最終的に全員の合意に至る形となった。
サステナブルファイナンスに対する理解を深めるため、SMBCCNチームはプロジェクト初期段階からChery Huiyinに対して、サステナビリティやSLシローンに関する情報提供を行った。さらに、香港品質保証局からセカンドパーティオピニオンを取得することで、プロジェクトの信頼性を高めたという。
SLシローンが促す、持続
可能な事業モデルへの
変革と議論
本プロジェクトにより、Chery Huiyinは独自のサステナビリティガバナンスフレームワークを構築し、地域社会と環境に具体的な成果をもたらした。同社は上記の取組にとどまらず、環境に配慮した事業を支援するグリーンABS(Asset-Backed Securities)やサステナビリティ関連の資金調達などを行い、さらなる持続可能な事業モデルの構築を進めている。
こうした動きに対し、リンは「SLシローンを契機に、持続可能な事業モデルの確立に向けて、お客さま社内でも議論が活発化し、それが変革へとつながっているということは、このプロジェクトの大きな成果の一つでした。今後もそうした流れを他の企業にも波及させるべく、SMBCCNとして、さらなる社会的価値の創造に向けた取組を強化していきます」と取組の手応えと未来への意気込みを語る。
さらに瞿は、サステナブルファイナンスがもたらす価値について語りながら、意欲を次のように示した。「私たちの役割は、企業が自らの在り方を見直すきっかけを作り、新しい変化を促すことだと考えています。サステナブルファイナンスは、これからの社会にとってなくてはならない要素です。このプロジェクトで得た経験を活かし、次なる挑戦に全力で取り組んでいきます」と力強く語った。

