※内容は、取材当時のものです。

インド農村部の家庭に
清潔な水道水を

〜ブルーローンで実現した生活水
準の向上と女性支援〜

  • アビシェック・グプタ
    (株)三井住友銀行 アビシェック・グプタ
  • ジュゼッペ・デレッデラ
    (株)三井住友銀行 ジュゼッペ・デレッデラ
  • アビナヴ・カルラ
    (株)三井住友銀行 アビナヴ・カルラ

貧困・格差

サステナブルファイナンス

インド北西部のラジャスタン州は、過酷な乾燥地帯に位置し、地下水の枯渇に直面している地域である。多くの農村家庭では、安全な飲料水の確保が困難であり、特に女性たちは毎日数キロメートルも歩いて、家族のために水を汲みに行く生活を余儀なくされている。この状況は、女性たちの教育や経済活動への参加機会を制限し、地域社会全体の発展を阻害する大きな要因となっている。

当問題を解決するため、インド政府は2019年に「Jal Jeevan Mission(すべての農村家庭に清潔な水を)」という政策目標を打ち出した。この目標の実現に向け、住宅やインフラ整備を目的として設立されたインド住宅都市開発公社(以下、HUDCO)は、ラジャスタン州の農村部における水道インフラ構築を目的に資金調達を行った。当資金調達においては、三井住友銀行(以下、SMBC)が約4.4億米ドル(約640億円)の融資を実行しており、そのなかには水関連プロジェクトに特化した資金使途での融資である「ブルーローン」も含まれる。

本融資の担当者の一人であるSMBCシンガポール支店 Global Financial Institutions Groupのグプタは、その意義について「家庭に水道水へのアクセスを提供することで、多くの女性がこれまで水汲みに費やしていた時間やエネルギーを自己研鑽や家族との時間、そして収入を得る活動に充てられるようになります。また、小規模な事業に取り組み、家庭の収入を増やすことも可能になります。このプロジェクトは、生活水準の向上だけでなく、インドの農村部の女性たちの自立支援にもつながるのです」と強調する。

ブルーローンのフレーム
ワーク構築プロセス

ブルーローンは、水資源の管理の改善や海洋保護を含む、さまざまな取組への資金を供給するものだ。今回の水道整備のプロジェクトにおいて、ブルーローンの実現にあたり、いくつかの課題が存在した。

環境全般を対象としているグリーンローンに対し、ブルーローンは実績が限られている。そのため、ブルーローンの構築に関する指針となる国際基準の蓄積も少なく、参考となる事例も少ない。これに対応するため、HUDCOは国際基準に合わせた内部フレームワークを策定した。このフレームワークでは、資金の使途がどのように国際基準が定めるカテゴリーと対応しているかを示している。

また、SMBCシンガポール支店 Sustainability Solutions Group(以下、SSG)では、ブルーローンを国際的なフレームワークや方針に適合させるため、2022年1月に公表された国際金融公社(IFC)のブルーボンド原則を参照し、HUDCOのフレームワークの構築方法を検討した。

この取組を主導したSSGのデレッデラは、当時を振り返り次のように語る。「同地域の関係者の多くは当初、ブルーローンの対象となる資産やプロジェクトの範囲を過少評価していました。ブルーローンの対象は、海洋関連プロジェクトにとどまらず、効率的で清潔な水供給や衛生設備の研究、設計、開発、実施への投資にも及ぶのです」

HUDCO向けブルーローン
の実行とその成果

このようなプロセスを経て、HUDCOに対する融資が実行された。そのなかでもブルーローンは、HUDCOにとって初の調達事例であり、これを通じて今後は、ラジャスタン州農村部の多くの人々に水道水へのアクセスを提供することが可能になる。SMBCムンバイ支店ニューデリー出張所Global Financial Institutions Groupのカルラは、取組の成果について「2024年10月時点で、インド農村部の約1億5200万世帯のうち78%が水道水にアクセスしていますが、このプロジェクトはその割合を100%に近づける一助となります。また、女性たちが遠く離れた井戸まで水を汲みに行く際、途中で水が漏れたりこぼれたりする問題も、このプロジェクトを通じて解消され、水の無駄が大幅に削減されます」と強調する。

また、デレッデラは「このような重要な取組の事例があることは、他国市場への進出において大きな強みとなっています。例えば、清潔な水へのアクセスや衛生問題が深刻なインドネシア市場では、この事例を政府機関やクライアント、子会社であるPT Bank SMBC Indonesia Tbkの関係者に紹介しています」と他エリアでの展開可能性を示す。

また、HUDCOとの関係について、カルラは「私たちは今後、ブルー、グリーン、そしてソーシャル分野でHUDCOへの追加資金支援を模索し、インドの多くの人々の生活に影響を与えられる取組を進めていきたいと考えています」とさらなる支援拡大へ意欲を示す。

今回の取組を振り返り、グプタは自身の学びとともに次のように語った。「銀行員として融資に関わる際、取引を『単なる資金調達』として捉えがちです。しかし、重要なのはその融資が社会全体に与える影響を考えることです。このプロジェクトはその好例であり、融資を通じて何十万人もの女性たちの生活を大きく改善し、彼女たちの人生を一変させるほどの大きな変化をもたらしました。私にとって、これは大きな学びでした。私たちは視野を広げ、現場で人々の生活を改善することで自らが生み出せる影響を考えるべきです」

続けて、デレッデラも「影響」における重要性に触れ、「この取組に限らず、私たちは『これはブルーか、ソーシャルか?』という議論に多くの時間を割いています。しかし、本当に重要なのは『その影響は何か?』ではないでしょうか。ブルーローンやソーシャルローンの市場が発展するなか、国際基準の策定とラベリングは、グリーンウォッシングを防ぎ、企業のレピュテーションリスクを軽減する上で重要です。しかし、最も大切なのは本質を見失わないことです。それは、私たちの行動や支援するプロジェクトが、実際にどのような影響をもたらすのかを理解することです。例えば、このプロジェクトの本当の価値は、提供されたブルーローンの金額ではなく、何百万人もの人々が清潔な水にアクセスできる機会を得て、生活水準が大きく向上する点にあります」と締めくくった。

プロフィール

アビシェック・グプタ

(株)三井住友銀行
シンガポール支店 Global Financial
Institution Group

ジュゼッペ・デレッデラ

(株)三井住友銀行
シンガポール支店 Sustainability Solutions
Group

アビナヴ・カルラ

(株)三井住友銀行
ムンバイ支店ニューデリー出張所 Global
Financial Institutions Group