※内容は、取材当時のものです。

日本の交通の未来を創るstera transit

〜タッチ決済で観光・地域課題の
解決へ〜

  • 石塚 雅敏
    三井住友カード(株) 石塚 雅敏

日本の再成長

地方創生

三井住友カードが推進するstera transitプロジェクトは、stera transitというタッチ決済を活用したソリューションを軸に公共交通の利便性を飛躍的に向上させることを目指している。2020年の日本でのローンチ以来、タッチ決済ソリューションは今や国内外で広く採用され、新たな標準となっている。

このプロジェクトにより、利用者はストレスフリーな乗車体験を享受できるようになる。公共交通の日常利用を、タッチ決済のシンプルな操作で簡単にすることが、同社の目指す未来だ。

同社はstera transitにおいて全国各地の交通事業者と連携し、便利で快適な移動手段を提供することで、日本全体の交通インフラの質向上につなげるとともに、より便利な公共交通の未来を形作ることを目指している。

stera transitが描く
交通革新と、
日本の新しい日常

stera transitは、日本の成長戦略における観光立国の実現と地方創生の推進において、重要な役割を果たす。同社のTransit事業推進部の石塚は以前、観光立国としての日本の課題を目にした。

「とあるローカル電鉄で、外国人の家族が券売機で切符を購入する際、まず日本語表示を英語表示に切り替えることから始めるなど、操作に多くの時間がかかっていました。結果、切符購入に約6分を要し、後ろで待っていた地元の方が予定の電車に乗り遅れてしまうことがありました」

stera transitは、観光地などで発生するこうした交通利用に関するストレスを解消し、快適でスムーズな乗車体験を提供することが可能だ。このシステムの導入により、観光客は現地で、既存の交通系ICカードを新たに購入したり、券売機で切符を購入する必要がなくなり、クレジットカードやスマートフォンをかざす事で支払いが可能となる。その結果、言語の壁や操作の煩雑さといった課題が解消され、誰もが簡単かつスムーズに公共交通を利用できる環境が実現する。

さらに、stera transitのテクノロジーは、柔軟性とコスト効率の面で優れている。クラウドベースのシステムにより、全国で一貫したサービスを提供し、交通事業者の導入および運用コストを大幅に削減する。

日本国内では、2001年以降、全国で交通系ICカードが広く普及している。これらのICカードは、利用前にチャージを行い、カード内のICチップに残高や権利情報を書き込む方式で運用されている。この仕組みには、ICチップに情報を書き込む専用機器や窓口対応のための設備が必要であり、交通事業者にとっては設備の導入・運用にコストが発生する。

一方で、stera transitは全国をカバーする統一されたクラウドシステムで運用されており、利用者の権利情報もクラウド上で管理される。そのため、交通事業者は既存のインフラを最大限活用しながら、新技術の導入にかかるコストを大幅に削減できる。

パンデミックのなかで
築いた、事業者・技術者
との連携

stera transitの推進には、多くの課題が伴った。特に、2018年末から2019年上期の企画立案段階では、交通事業者等からタッチ決済への理解と支持を得るのに苦労したという。

この点について、石塚は次のように振り返る。「stera transitプロジェクトを推進するなかで、日本の交通機関においてクレジットカードを使ったタッチ決済が浸透していなかったため、これを理解してもらうことが最大の課題でした」

交通事業者やバス用機器メーカー、国土交通省などの関係者との意見交換や協議を粘り強く続ける一方で、技術面ではタッチ決済による交通乗車を可能にする特殊な技術を持つQUADRAC株式会社との出会いが、利用者にストレスフリーな体験を提供する基盤を築き、早期の市場参入を実現した。

こうしてローンチにこぎつけることはできたものの、その直後にまた課題が立ちはだかった。それがコロナ禍の発生だ。当時、進行していた導入計画は一時的に中断せざるを得ない状況に追い込まれた。しかし、多くの交通事業者の理解と協力を得たことで、計画は前進。市場調査の段階から協働していた事業者からは、「今は苦しいけれど待っていて欲しい。必ずやる」という力強い言葉を受け、2020年7月には第一号となる案件を無事リリースすることができた。

stera transitがもたらす
地域経済とコミュニティ
の活性化

公共交通の利用データを活用し、地域社会の課題解決に貢献することも、stera transitが果たす重要な役割の一つだ。石塚は、鹿児島市の事例を挙げつつ、その意義について次のように語る。

「鹿児島市は人口減少の課題に直面しており、今後、経済基盤を維持・強化するためには、限られた資源を最大限に活用し、地域全体の魅力を引き出す必要があります。特に観光産業は同市にとって重要な柱であり、戦略的で効率的な運営が求められます。同市ではstera transitとデータダッシュボードの導入により、移動人数や時間帯、さらには移動目的等詳細な項目の分析が可能になりました。このデータを活用すれば、例えば観光客が特定の場所に集中している場合に、他の魅力的な場所への誘導が可能になります。その結果、地元の経済活動を分散させ、地域全体の活性化を促すことができるのです」

さらに、石塚は「例えば、健康診断で通院する際に公共交通を利用する人々に対し、運賃の割引制度を導入することで、健康寿命の延伸に貢献できる可能性を秘めています。これは単なる運賃割引ではなく、公共交通が地域社会の健康支援に直接寄与する取組の一例です」と、その応用可能性も示す。
こうした取組によって、stera transitは単なる交通システムの改革にとどまらず、地域社会が抱える多様な課題の解決に貢献することが可能となる。

部署内で連携を取りながら日々取り組んでいる

stera transitが大規模に
展開される未来

stera transitは、2024年から2025年にかけて関西圏や首都圏の大手事業者でのサービス展開を計画している。具体的には、2024年度末までに約180社、2025年度末には約230社、2026年頃までには全国の主要な鉄道会社やバス会社への導入拡大という青写真を描いており、stera transitが日本中の人々の日常生活に不可欠な存在となることを目指している。

stera transitのプロジェクトの根幹には、「日常生活をより良いものにする」「新たな日常生活を創る」という、石塚の強い想いが込められている。その重要な要素について、石塚は次のように考えを語る。「日常生活や業務のなかで、『こうなったらもっと良いのに』と感じることが、社会的価値の創造の種だと考えています。この種を育ててビジネス化することで、新たな価値が生まれるだけでなく、自分自身にとっても充実した毎日につながると信じています」

stera transitは今後、ニュースで取り上げられる存在から、日常生活の「当たり前」になることを目指している。このような取組が、日本全体の公共交通の質を向上させ、より多くの人々にとってより便利で快適な移動手段を提供することに寄与していくだろう。

プロフィール

石塚 雅敏

三井住友カード(株)
Transit事業推進部