アトリエ・バンライ -ITABASHI- アトリエ・バンライ -ITABASHI-

 ※内容は、取材当時のものです。

アトリエ・バンライ -ITABASHI-

〜こどもたちの挑戦や未来を育む新たな居場所づくり〜

  • 大萱 亮子
    (株)三井住友フィナンシャルグループ 大萱 亮子

貧困・格差

教育

放課後、板橋のとある施設では、学校帰りのこどもたちが思い思いの活動に打ち込む姿が見られる。あるこどもは読書コーナーでお気に入りの本を手に取り、静かな時間を楽しむ。別のこどもは学校の宿題に自習スペースで取り組んでいる。プログラミング体験では、未来のクリエイターたちが真剣な表情でコードに向き合っている。定期的に開催される地域の住民が主催するこども食堂では大人もこどもたちも楽しそうに会話しながら食事をとっている。

こうした光景の実現を目指し、「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」が2025年4月に誕生する。この場所は、学校や家庭以外の「居場所」として、こどもたちが企業や地域とも交流しながら自由な発想や新たな挑戦を通じ可能性を引き出せる場を提供する。

こどもの好奇心を刺激する、多様な学び体験を提供

「アトリエ・バンライ-ITABASHI-」の施設名にある「バンライ」には、「千客万来」と「Bank of Life(体験という人生の財産)」という二つの意味が込められており、さらに、物事が生み出され、創造される場である「アトリエ」を加えることで、こどもたちや企業、地域との新たな交流と創造の場となることを目指している。三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 大萱は、「誰でもウェルカムという前向きなメッセージのもと、あらゆるこどもが自分の可能性を見つけられる体験の場を提供したい」と語る。

施設を開設した背景には、日本のこどもたちが直面する体験格差という課題がある。SMBCグループでは2023年5月にスタートした中期経営計画の下、重点課題の一つである「貧困・格差」の解消に取り組んできた。昨年度は特に教育格差の解消、今年度は加えて体験格差の解消に積極的に取り組んでいる。様々な理由により、十分な体験や経験の機会を得られないこどもたちは日本にもたくさんいる。

「非認知能力」と言われる体験や経験を通じて培われる能力は、その後の人生を豊かに送るために欠かせない能力である。物事に対する興味や意欲、自己肯定感を育むことでこどもたちが夢の実現や、進学や就業など思い描いた人生を送ることができるように、さまざまな体験を提供することが重要だ。「体験は、こどもたちの未来を形作る大切な要素です。こどもたちが希望すればその機会にアクセスできるよう社会が支援することが大切です」と大萱は語る。

バンライでは、多彩な体験メニューを提供し、こどもたちが自ら選び、決定するプロセスを通じて、好奇心や主体性を育むことを目指している。たとえば1階のホールでは、クラシック音楽のコンサートや大型スクリーンを活用した上映会や企業の体験プログラムが行われる。また、2階にある厨房施設を活用し、企業による麺づくり体験や野菜教室、コーヒーのバリスタ体験、NPOによるチョコレート作り体験などのプログラムの実施や地域のこども食堂の開催も予定しており、多様な学びや体験を提供する予定だ。

施設全体では約4000冊の蔵書を揃え、「じぶんについて」「これからのこと」「まなぶ・きわめる」といった好奇心を刺激するテーマ別の図書コーナーや、リラックスして過ごせる「くつろぐ」漫画コーナーなどを設置する。また、施設内で開催されるワークショップと連携し、例えば食のワークショップ実施時には、食をテーマとする本を集めて特設ディスプレイを行うなどこどもたちが体験後に読書を通じてより深く理解し、より多角的に学べる仕組みも用意したいと考えている。

こどもの成長を地域全体で支える仕組みを目指して

「学校や家庭以外で過ごせる居場所」として、アトリエ・バンライ-ITABASHI-はこどもたちが安心して過ごせる空間づくりも大切にしている。大萱は、「特に目的がなくても訪れ、ゆっくり過ごせる場所であることも大事です。何もしなくても、本を読むのでも、宿題をするのでも構いません。そうしたくつろぎの場としての役割も担っています」と語る。この言葉には、アトリエ・バンライ-ITABASHI-がこどもたちにとっての心の拠り所となり、地域に根付き、長く愛され続ける場所になってほしいという強い願いが込められている。

バンライは、こどもたちだけでなく、地域全体にも大きな影響をもたらすことを目指している。こども食堂では、地域住民が参加し、こどもたちとの新たな交流が生まれる場を提供する。また、企業の社員がボランティアとして参加することで、地域との絆や社会との一体感を強めることができる。「こどもの体験や学びの機会を増やし、企業やNPO、地域が垣根を超えてこどもの成長を支える仕組みができれば、社会全体にも良い影響を与えると思っています」と、大萱は施設の意義について語る。

今後アトリエ・バンライ-ITABASHI-では、施設で提供するプログラムの多様性をさらに拡充し、学びと体験を両立する取組を進めることを計画している。また、施設の社会やこどもたちへ与えるポジティブな影響(社会的インパクト)を評価し測定することでその成果を分析し今後のプログラム設計に反映させていきたいと考える。さらに、連携企業や自治体などへの結果の共有により、取組の価値を広く理解してもらい、さらなる協力や支援につなげて行く予定だ。

「アトリエ・バンライ-ITABASHI-のプロジェクトがモデルケースとなり、他の地域や企業にも同様の取組が広がることを期待しています。このような取組を広げ、社会全体でこどもの居場所づくりを考えるきっかけになれば」と大萱はプロジェクトのビジョンを語る。

あらゆるこどもが自分の可能性を見つけられる体験や場を提供したい。そんな想いからスタートしたアトリエ・バンライ-ITABASHI-は、多くのこどもたちが集い、さまざまな支援者から支えられ、地域に活力を生む中心地になることを目指す。

プロフィール

大萱 亮子

(株)三井住友フィナンシャルグループ
社会的価値創造推進部