※内容は、取材当時のものです。

スタディクーポンで
こどもの教育格差解消

〜NPO・自治体との三者連携で
新たな支援モデルを構築〜

  • 今井 悠介 氏
    (公財)チャンス・フォー・チルドレン 今井 悠介 氏
  • 三島 叶子
    (公財)チャンス・フォー・チルドレン
    ((株)三井住友フィナンシャルグループ)
    三島 叶子

貧困・格差

教育

パートナーシップ

貧困問題がこどもたちに及ぼす悪影響は深刻だ。経済困窮世帯では、衣食住をはじめとするさまざまな場面で制約が生じ、生活の基本条件が満たされないため、こどもたちは健全な成長や発達に必要な環境や機会を失ってしまう。

また、こうした家庭のこどもたちは、学校外での学びや体験の機会を十分に得られないことも多い。それが将来の職業選択や収入にまで影響を及ぼし、貧困が世代を超えて連鎖するという深刻な問題を引き起こすと言われている。加えて、コロナ禍や物価高騰といった社会情勢が、教育格差をさらに広げ、問題を一層深刻なものにしている。

SMBCグループは、この教育格差の解消を通じて貧困の連鎖を断ち切るため、2023年から公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)と連携し、資金提供や社員の派遣を通じて同団体の活動を支援し、こどもたちに学習や体験の機会を提供している。その連携の一環として、2024年10月には、鎌倉市、CFC、SMBCグループの三者が共同で立ち上げた「鎌倉市放課後エンパワーメント・プロジェクト」を開始し、こども支援の取組をさらに推進している。

社員が出向することで、
支援を超えた
パートナーシップを実現

CFCは、学習塾や習い事(スポーツ・文化活動)、キャンプ等で利用できる「スタディクーポン」を提供し、こどもの教育格差の解消に取り組んでいる。現金給付ではなくクーポン形式を採用し、学習や体験のために使途を限定することで、こどもたちが確実に教育の機会を得られる仕組みを構築。この取組により、こどもたちに多様な学びや体験の機会を提供することを目指している。

SMBCグループは、こうしたCFCの取組を推進するため、2023年5月に3年間で総額3億円の資金提供を行うことに加え、社員を出向させる形で人材支援を行い、CFCとの協働事業を開始した。

CFC代表理事の今井 悠介氏は、「SMBCグループからの提案には、資金提供に加えて社員を派遣するという内容が含まれており、取組の本気度が強く伝わってきました。また、メガバンクがこのような取組を進めるという事実に、大きな時代の変化も感じました」と振り返る。

学生時代から貧困や格差に強い関心を持っていた三井住友フィナンシャルグループ 社会的価値創造推進部 三島は、CFCへの出向を自ら希望した。出向後、CFCの業務に実際に携わるなかで、貧困問題への理解が格段に深まったという。

「利用者や保護者の方々と接し、CFC職員の取組を間近で見るなかで、相対的貧困の実態や各世帯の状況について、理解が大きく深まりました。例えば、出向前は、支援を届ければ十分だと考えていましたが、一方的に提供するだけでは活用されないこともあり、支援が適切に使われるようサポートまで考慮して取り組む必要性を実感しました。支援の先にも課題があることを知り、この問題をより具体的かつ高い解像度で捉えられるようになったと感じています」

今井氏は、三島のCFCへの出向がSMBCグループとの連携において大きなポイントだったと語る。

「当初、SMBCからの多額の出資により上下関係が生じるのではという不安もありました。しかし、三島さんがCFCに溶け込み、SMBCグループとの架け橋として活躍してくれたおかげで、現在は対等なパートナーシップを築くことができています。三島さんは日々の活動報告や情報共有を積極的に行うだけでなく、SMBCグループとの勉強会や共同学習の場の提供にも力を注いでくれています。この双方向の活発なコミュニケーションが、SMBCグループとの関係をさらに強固にする基盤となっています」

企業、NPO、自治体の
三者連携モデルを全国へ

CFCが掲げる「多様な学びを すべての子どもに」というミッション・バリューを実現するためには、公助の仕組みづくりなど、社会全体での体制整備が必要となる。その課題を解決するため、教育・体験格差の解消に取り組む自治体を支援し、その政策化を後押しすることなどを目的として立ち上げられたのが、「鎌倉市放課後エンパワーメント・プロジェクト」だ。

鎌倉市はこれまで、フリースクール助成や不登校支援を目的とした学校設立など、教育やこども支援に対して手厚く熱心な取組を進めてきた背景がある。このプロジェクトでは、鎌倉市とCFC、SMBCグループが連携し、民間財源を活用することで、新たな支援モデルを創出することを目指している。三者の強みを結集することで、民間財源を活用した事業の自由度を高め、自治体ネットワークによる情報周知や効果検証の精度を高める取組を行う。

また、このプロジェクトをクロスセクター協働のモデル事業とし、他の自治体や企業への波及効果を目指す。

プロジェクトでは、三者が対等な関係性を構築することを重視した。支援内容については、鎌倉市の要望を踏まえ、学習塾に限定せず、同市が誇る海や山といった自然環境や歴史的建造物を活かした文化活動や自然体験など、幅広い活動に利用可能なクーポンを提供することとした。2025年度には、小中学生1人あたり年間8~10万円分のクーポンを配布する計画だ。

取組に対し、保護者やこどもたちからは、「やりたいことをさせてあげられず歯痒い思いをしていたので、大変ありがたい」「社会が自分たちを応援してくれていると感じた」「いつかは自分も誰かを支援する存在になりたいと思った」といった感謝や喜びの声が届いている。

今後は鎌倉市との三者連携をモデルとして、全国に事業を広げていく予定だ。今回の取組に対し今井氏は、「民間企業が財源を拠出し、専門性を持つ非営利組織や自治体と協働して推進する点が、この事業の先進的な特徴だと考えています。この事業モデルは、『貧困という問題に対して、今後誰が公共サービスの提供を担うのか』という重要な問いに対する一つの解決策を示すものです。今後は貧困・格差の解消という領域以外でも、この事業モデルを参考にしたさまざまな取組が生まれる可能性があり、日本社会に大きなインパクトを与えると考えています」と強調する。

三島は、「一社や一団体で取り組めることには限界があるため、多様な企業や団体が連携することで、より大きな波及効果を持つ事業を創出することが重要です。その実現に向け、まずは事業をより良いものにし、その事業の効果や変化を積極的に発信していきたいと考えています」と、今後の意気込みを語った。

また、三島はCFCでの支援活動全体を振り返り、その価値についてこう語った。「支援活動を通じて感じるのは、クーポンを利用しているこどもたちだけでなく、支援する人たちやその周りにいるすべての人が明るく、笑顔になっていくことです。こどもたちや保護者の方だけでなく、地域の団体の方からもクーポン事業に対して前向きな言葉をいただいています。この事業は、関わるすべての人に明るい気持ちをもたらす取組だと実感しています」

プロフィール

今井 悠介 氏

(公財)チャンス・フォー・チルドレン
代表理事

三島 叶子

(公財)チャンス・フォー・チルドレン
((株)三井住友フィナンシャルグループ
社会的価値創造推進部)