デジタルイノベーションで農村部女性を伴走支援 デジタルイノベーションで農村部女性を伴走支援

 ※内容は、取材当時のものです。

デジタルイノベーションで農村部女性を
伴走支援

〜デジタル技術とコミュニティ支援で地域社会の持続的
成長を促進〜

  • サエナ・ファリダ
    PT Bank BTPN Syariah Tbk,
    Financing Business Division
    サエナ・ファリダ

貧困・格差

金融包摂

東南アジア最大の人口を持つインドネシアは、今後の経済成長が期待される有望な新興国だ。しかし、その成長の陰では、依然として多くの人々が貧困に苦しみ、男女・地域間での格差も深刻な課題となっている。特に農村部では、こうした課題が顕著であり、貧困の連鎖から抜け出せない人々が多い。

この状況を打開するためには、地域経済を支える重要な存在である女性たちへの支援が欠かせない。農村部の女性たちは、地域経済を活性化させる潜在的な力を持っているものの、教育機会の不足や金融サービスへのアクセスの制限により、その力を十分に発揮できていない。

Bank SMBC Indonesia Tbkの子会社であるPT Bank BTPN Syariah Tbk, Financing Business Divisionのサエナは、主要となるお客さまである農村部の女性たちについて「私たちのお客さまのうち、7割以上が最終学歴として小学校または中学校を卒業された方々です。そのため、事業を始める意欲があっても、金融リテラシーや起業スキルが不足していることが多く、結果として事業の成功率が低いのが現状です」と指摘する。

さらに、2020年以降のコロナ禍が農村部の生活に深刻な打撃を与えた。事業収益が減少し、同社のお客さまの多くが経済的な困難に直面することになった。事業の存続が危うい状況に追い込まれ、事業の立て直しや新たな事業を始める必要に迫られたが、農村部の女性たちがその課題を克服するには、単なる資金提供だけでは不十分だった。事業改善のための具体的な知識やスキルが求められていたのである。このような現状と課題を踏まえ、同社は2021年に包括的な支援を提供する「BESTEEプログラム」を立ち上げた。

デジタル技術の活用とコミュニティ支援で農村部の女性活躍を促進する
「BESTEEプログラム」

BESTEEプログラムは、個別指導やトレーニングを通じて、お客さま一人ひとりの状況に合わせた支援を提供する点が特徴だ。農村部の女性たちが事業を通じて収入を得られるよう、ファシリテーターがお客さまに寄り添い、販売スキルやマーケティング戦略、財務管理など事業を成功させるために必要なスキルや知識を提供している。

また、BESTEEプログラムでは、お客さまとファシリテーターがデジタルプラットフォームを通じてつながり、必要な情報やトレーニングにアクセスできるようにしている。このプラットフォームにより、お客さまはモバイルアプリを通じて自分のペースで学ぶことが可能となり、ファシリテーターは活動記録をプラットフォームに入力することで進捗を把握できるため、トレーニングのプロセスが効率化され、透明性も向上している。

伴走者として参加するファシリテーターには、インドネシアの26州にある323の大学から集まった学生たちが含まれる。彼らはプログラムの一環として農村部の女性起業家たちを訪れ、ブランド戦略やマーケティング、SNS活用など事業の改善に必要な具体的な指導を行っている。さらに、学生はデジタルプラットフォーム上で、お客さまが受けたトレーニングや事業の改善状況を記録・管理することにより、お客さまの事業状況を分析して適切な改善案を提供している。サエナは「学生が現場で地域社会のニーズに触れる経験は、未来のリーダーを育成する貴重な機会となっています」と意義を説明する。

プログラム参加者は、SNSを活用した販売戦略の構築や、商品のブランド化、パッケージ改善などを学び、事業の収益を向上させている。2024年6月時点で、合計83,296人のお客さまがトレーニングに参加し、そのうち57%が事業運営にポジティブな変化を示した。例えば、テヌンという伝統的な布製品を扱うあるお客さまは、学生の支援を受けてFacebookとInstagramで製品をプロモーションした結果、売上を大幅に伸ばすことに成功した。また、別のお客さまは、Googleでの検索性を高めることで集客に成功し、都市部からの観光客の需要を取り込むことができたという。

お客さま一人ひとりの成功をコミュニティ全体の成長につなげる

BESTEEプログラムの成果は、お客さま一人ひとりの成功だけにとどまらない。お客さま同士がコミュニティとして互いを支え合うことで、地域社会全体が貧困と格差を克服する土台を築いている。「持続可能な成長を実現するには、お客さま自身が規律を持ち、コミュニティ全体で協力して成長を目指すことが欠かせません」とサエナは強調する。参加者一人ひとりの成功が他の参加者へと波及することで、コミュニティ内で連鎖的な影響を生み出し、ポジティブな変化が促進される。その結果、コミュニティが強化され、経済的・社会的な成長を支える基盤が築かれる。

しかし、BESTEEプログラムの参加者を増やしていくためには、難題も少なくない。まず、プログラムへの積極的な参加を促すには、お客さまにその重要性を理解してもらい、関心を持ってもらうことが欠かせない。また、デジタルプラットフォームを使用することに慣れていないお客さまも多く、アプリケーションを効果的に活用するためのサポートも必要だ。さらに、農村部のお客さまの多くは現地語以外の言語を使用しないため、ファシリテーターには現地語に精通していることが求められる。

同社はこれらの課題の解決に向けて、お客さまとの定例ミーティングでプログラムを紹介するとともに、説明会の実施やソーシャルメディアを活用したプロモーションを通じて、お客さまや地域社会への理解を促進している。また、地域密着型のファシリテーターの配置にも取り組み、現地語への対応を進めている。

今後、同社はBESTEEプログラムの支援を農村部以外の地域にも広げることを計画している。また、大学や教育機関、スタートアップ、政府との連携を一層強化し、多様な人々がプログラムに参加できる仕組みを整えることで、インドネシア全土で女性の活躍を促進するコミュニティづくりも進めていく予定だ。

サエナは最後にBESTEEプログラムの目指す姿をこう語った。「私たちは、経済・社会課題に直面している農村部の女性を中心に、コミュニティをエンパワーメントすることで社会的価値を創造することを目指しています。BESTEEプログラムはその象徴的な取組として、個人やコミュニティが成長を持続し、その成果を次世代へと引き継げるようにすることを目指していきます」

プロフィール

サエナ・ファリダ

PT Bank BTPN Syariah Tbk,
Financing Business Division