※内容は、取材当時のものです。

挑戦する大学運動部に
100万円を支援

〜応募プロセスで「戦略的思考」
の機会も提供〜

  • 為末 大 氏
    Deportare Partners 為末 大 氏
  • 立石 千尋
    (株)三井住友銀行 立石 千尋

日本の再成長

スポーツ支援

少子化が進む昨今、若者がスポーツに取組む難易度が上がっている。部員数の減少による活動休止や、部活動の地域移行など、学生のスポーツ環境にはさまざまな課題が存在している。

そのなかでも大学運動部は、あくまで「課外活動」として位置づけられることが多い上に、最近では学業への要請が強まる動きもあり、以前よりも大学でスポーツに打ち込むことが難しい状況になってきている。一方、大学運動部での経験は、単なる競技力の向上にとどまらない。資金集めやデータ分析、チームビルディングなどに接する機会が多く、社会に出た後も役立つスキルを習得するための場として有益だという声もある。

しかし、大学で運動部に所属すると部活動で使用する道具の購入費用、さらにトレーニングや試合に伴う交通費や食費など、金銭的負担は決して軽くない。これらの費用をまかなうためにアルバイトをする学生も少なくないが、学業、スポーツ、そしてアルバイトをすべて両立することは、時間的にも体力的にも非常に困難だ。さらに、物価高騰の影響も加わり、こうした費用負担は、スポーツに打ち込みたい学生にとって一層大きな障壁となっている。

このような課題の解決をサポートしながら、大学時代にしか味わえない挑戦や成長の機会を企業として支援したい。そんな想いから誕生したのが、「シャカカチ BOONBOON PROJECT」だ。

大学運動部へ、
自由に使える100万円の
資金を提供

同プロジェクトは、大学時代にボート部の活動に打ち込んだ経験を持つ三井住友銀行 社会的価値創造推進部 立石が、「自身が人間的に大きく成長させてもらえた大学スポーツに恩返しがしたい」「スポーツに励む学生を応援したい」という強い想いをもって担当した。さらに、アンバサダーとして、元陸上競技選手でDeportare Partners 代表の為末 大 氏をはじめとするアスリート4名を起用。為末氏は、三井住友銀行(以下、SMBC)とともに企画の骨子を固めるだけでなく、学生たちにプロジェクトの意義を伝える役割も担い、その理念を広める重要な役割を果たしている。

為末氏は、同プロジェクトの意義について次のように語る。「スポーツを通じて得た経験が社会でどのように活かされるのかは、私自身のなかで大きなテーマです。また、このプロジェクトが学生にとって教育的な意義を持つ点にも深く共感しています。世の中の課題を解決するためには、教育のような取組こそが最も本質的で価値あるものだと考えています」

同プロジェクトでは、特設ホームページから応募した大学運動部を対象に、選考通過後に自由に使える100万円の資金を提供する。立石は、この応募プロセスを設計する際、戦略的に考えなければ応募ができない仕組みを取り入れることで、学生たちが課題の分析力やロジカルシンキング、さらにはプレゼンテーション能力といった、実社会で求められるスキルを自然と養えるよう工夫したという。

「選考プロセスそのものが学生の成長機会になれば良いと考え、設計しました。あなたが所属する部が目指す姿は何ですか?その目指す姿に至るまでの課題は何ですか?その課題をどのように解決するつもりですか?その課題解決のために、この100万円をどのように使いますか?という流れで質問を構成しました。このような聞き方をすることで、設問から私たちの意図を感じ取ってもらえるよう工夫しています」

この点について、為末氏は次のように強調する。「資金の使い道を皆で考えるプロセスは、どのようなチームにしたいか、という目標の設定から逆算されるものです。学生選手たちには『戦略的に考える』姿勢をより積極的に取り入れてほしいと考えています。戦略は予算配分や目標設定と密接に関連しており、これをしっかりと考えることが非常に重要です」

プロジェクトの実現にあたり、公正な選考プロセスの構築は非常に重要な課題だった。特に、不適切な団体に資金が流れるのを防ぐ観点など、入行来、営業店や融資審査の経験が長い立石自身の知見の活用や、SMBC内の各部署が専門性を発揮することで、障壁となる課題を一つずつ克服し、過去に例のないプロジェクトを具体化させていった。

広報面では、学生たちに運動部での活動が持つ価値や、応募プロセスを通じて得てもらいたい経験や学びについて伝えるため、為末氏が登壇するウェビナーも開催した。プロジェクトへの反響が不透明ななかでの試みだったが、結果的に約500人もの学生が参加。ウェビナーでは、質問が次々と飛び交い、学生たちの関心の高さがうかがえた。SMBCの想いが学生にしっかりと伝わっていたことを実感する瞬間となったという。

学生スポーツが
人材育成の場として
認められる社会へ

最終的に応募団体は270に達し、ファンづくりのために所在地域の地域貢献に力を入れる団体や、競技の持続的な発展のため高校生への競技指導に力を入れる団体など、自分たちの活動と社会とのつながりを見据えた応募も見受けられた。

また、寄せられた応募内容に目を通すなかで、立石は、都市と地方の情報格差や練習環境の違いといった、学生たちが直面する多様な課題を改めて実感したという。「北海道からは、冬場でも練習できるような環境整備に資金が必要だという応募や、他の地方からは、資金を東京への遠征費として利用し、強豪校との練習や試合を通して、トップレベルの知識・知見を習得する機会を得たいという応募も寄せられました。どの団体も自分たちの置かれた環境のなかで課題を真剣に考え、その解決に向けた強い熱意を持って応募してくれたことが印象的でした」

今後は更に多くの学生に同プロジェクトを知ってもらえるような工夫を検討していく予定だ。また、同プロジェクトをより社会にインパクトを与える企画へと成長させるべく、現在パートナー企業との協議を進めており、今後はさらに多くの企業や自治体を巻き込むことも視野に入れている。

プロジェクトの今後について、為末氏は「学生スポーツが人材育成の場としてその価値を広く認められるようになることが望ましいと考えています。また、スポーツ界全体で考えると、今回のような取組がさらに増えていくことを願っています。SMBCがこの取組をどのように発展させていくのか、とても楽しみにしています」と大きな期待を寄せる。

プロフィール

為末 大 氏

Deportare Partners 代表

立石 千尋

(株)三井住友銀行
社会的価値創造推進部