※内容は、取材当時のものです。

再エネ導入の鍵、
系統用蓄電池事業に
国内初*の融資

〜前例がない事業に、
どう向き合うか?〜

  • 前田 成惟
    SMFLみらいパートナーズ(株) 前田 成惟

環境

脱炭素

カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が一層求められている。しかし、再エネは天候に左右されやすく、発電量や電力供給が不安定になりやすいという問題がある。

また、電力の需給バランスは、発電量と消費量がリアルタイムで一致していなければならず、このバランスが崩れると停電や機器の故障などのリスクが高まる。これまでは大手電力会社の火力発電所等がこの調整を行い、余分な電力を減らしたり不足を補ったりしてきたが、2020年4月に、送配電部門の中立性を一層確保する観点から、発送電が法的に分離され、市場調達を通して需給調整を行う仕組みとなった。

その解決策の一つとして期待されているのが「系統用蓄電池」だ。送配電ネットワークに直接接続し、電力需要が少ない時間帯に余剰な電力を蓄え、電力需要が高まる時間帯に放電することで、再エネの不安定な発電量を調整する役割を担い、電力網の安定性を向上させる。

系統用蓄電池の活用により、再エネの導入がさらに進むことが期待される一方、系統用蓄電池事業は新規性が高く前例も少ないため、投資家や金融機関にとってリスク評価が難しく、その結果、資金調達が困難になるという課題もある。こうした状況下で、2023年8月、国内で初めてSMFLみらいパートナーズが系統用蓄電池事業向けのプロジェクトファイナンスの組成を行った。

プロジェクトの
開始経緯と系統用蓄電池
事業の難しさ

今回の案件は、再エネ分野で実績のある株式会社レノバ(以下、レノバ)からの依頼がきっかけだった。系統用蓄電池事業に対するプロジェクトファイナンスは国内の前例がないなか、大規模プロジェクトを複数企業で連携して進める事業者コンソーシアム(出光興産株式会社、レノバ、長瀬産業株式会社が参画)のなかで資金調達を担うレノバから、「事業者目線で物事を捉えられるSMFLみらいパートナーズに検討をお願いしたい」という要請があった。これを受け、同社の環境エネルギー開発部 前田が案件を担当することになった。

前田は約10年間にわたり再エネ関連事業に携わり、太陽光やバイオマス、風力など多様な顧客との取引を経験。そのなかで再エネ普及のためには系統用蓄電池が持つ調整力が欠かせないという認識を持っていた。「系統用蓄電池事業について学ぶほど、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて極めて価値のある事業だと確信しました。だからこそ、私たちがその事業における初のファイナンス事例を創り上げるという決意で臨んだのです」

前田はそう語ったが、その道のりは決して平坦ではなかったという。

系統用蓄電池事業は多額の初期投資を要する。一方、充放電する電力の売買においては、周波数の制御や電力需給バランス調整に必要な調整力を提供する需給調整市場や電力安定供給のための発電能力を提供する容量市場、余剰電力を売買する卸電力市場など、複数の市場との契約や入札が必要であり、日々収益が変動する。そのため、固定価格買取制度(FIT)のような安定的収入を前提としたプロジェクトファイナンスを組むことが難しい。また、新分野の事業であるため、事業評価や契約条項もゼロから作り上げる必要があった。

国内初のプロジェクト
ファイナンス組成までの
道のり

これまで系統用蓄電池事業へのファイナンス事例は前例がなかったものの、需給調整市場開設以前の調整力公募や卸電力市場では長い実績があったため、まずそれらの市場データを慎重に分析し、将来の電力マーケットのトレンドを予測することで、需給調整市場での運用を中心とした事業計画を立て、十分なストレス検証を行った上で貸付額を設定した。また、貸出金の回収の確実性を高めるために、収入の変動リスクが大きいことを考慮した柔軟な返済スケジュールも設計した。

さらに需給調整市場での電力供給条件や報酬体系、卸電力市場での電力価格・数量・期間・条件など、複数市場との契約内容を精査し、各契約が担保としての信頼性を持つように設定。これらの取組を進めるなかで、同社の審査部門からはリスク整理についての的確な指摘をもらい、新規事業領域の拡大・推進を担う部署からは蓄電池ビジネスの考え方に関して共有を受けた。この結果、早期に系統用蓄電池事業のリスク評価やビジネスモデルの整理などを行うことができた。

また、契約条件についても系統用蓄電池事業ならではの特色があったが、回収可能性を最大化すべく関係者と粘り強く交渉し、レノバを含む融資先の顧客との妥結点を見出すことができた。

こうして2023年8月にプロジェクトファイナンスが組成されることとなった。現在はその資金をもとに設置工事が進められ、蓄電システム出力15MW・蓄電容量48MWhという約3~4万世帯分の電力を数時間にわたりまかなえる規模の蓄電所として2025年10月の事業開始を予定している。

また、本プロジェクトは国際的なプロジェクトファイナンス専門誌であるIJGlobalが、世界中で行われるエネルギー、再エネ、インフラプロジェクトなどのファイナンス案件に関して、優れた取引、関係者、業績を表彰するIJGlobal Awards 2023において「Renewable Energy Deal of the Year BESS APAC」を受賞した。国内初のプロジェクトファイナンス事例として高い評価を得たこの取組は、国内外からの関心を集めている。

兵庫県姫路市にある出光興産兵庫製油所跡地
の遊休地に系統用蓄電池の設置を進めている

前例のない事業・
プロジェクトに
どう向き合うか

この成功を受け、さらなる蓄電池事業の展開を計画している。プロジェクトファイナンスにおける2号案件への取組を進めるとともに、発電事業も担う同社は系統用蓄電池の自社での事業開発を視野に入れ、土地や電力系統枠の確保も積極的に推進する。また、パートナーと共に上流の発電所、中流の需給調整、下流の小売へと、エネルギー供給のバリューチェーンを拡大していく予定だ。

前田は本案件を振り返り、次のように締め括った。「系統用蓄電池事業は新規性が高く、初めてのファイナンス事例だったため正直不安もありました。しかし、前例がない事業やプロジェクトと言っても、そのすべてがゼロから生まれるわけではありません。一つ一つは元々あった事業の延長線上にあるため、既存の事業や市場などの動きをしっかりと見て今後の展望を考え、お客さまの課題に寄り添いながら解決策を一緒に考えていくことが『シャカカチ』につながっていくのではないかと考えています」

*三井住友ファイナンス&リース調べ

プロフィール

前田 成惟

SMFLみらいパートナーズ(株)
環境エネルギー開発部