奄美群島の一つである鹿児島県喜界町。サンゴ礁が隆起して形成され、豊かな自然を有する同町にとって、地球温暖化による気候変動が脅威となっている。近年、台風が大型化・頻発化するなか、島内の送電線が倒壊する等の被害も増加し、長期間の停電も発生しており災害からのレジリエンス強化が急務。また、災害の激甚化により土砂崩れや道路の寸断、水道断絶の懸念があるほか、温暖化に起因した海水温の上昇でサンゴ礁が白化・死滅する恐れがあり、町民の日常生活から観光資源まで幅広く影響を及ぼす。
この課題の解決に向け、喜界町は2024年4月にゼロカーボンを目指す「地域脱炭素ビジョン」を策定した。エネルギー、ライフスタイル、人材育成を三つの柱とし、カーボンニュートラルを目指すだけではなく、クリーンエネルギーを活用した交通網整備など脱炭素を通じた地方創生を目指すのが特徴だ。こうしたなかで、三井住友銀行(以下、SMBC)は千代田化工建設株式会社(以下、千代田化工建設)、三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)と共に、同町と連携協定を締結。同様の課題を抱える離島のモデルケースとなるために、様々な施策を展開している。
官民連携で取り組む
地域課題の解決と脱炭素化
喜界町の「地域脱炭素ビジョン」のなかでも再生可能エネルギーの活用と災害レジリエンスの強化は喫緊の課題だ。2024年8月には台風10号の影響により約1週間ほど停電が続き、避難所も電気が使えない状態になったという。
包括連携協定の締結直後に発生した台風被害の際、実際に喜界町を訪れたSMBC 公共・金融法人部 大西は「台風による停電や通信障害が住民の方々の生活や産業に大きな負担を与えている現実を目の当たりにし、この事業を通じて当事者として課題を解決したいと思うようになりました」と当時の心情を語る。


さらに、同町はサンゴ礁の隆起によって形成された地形であるため、土地の保水力が乏しく、地下ダムを利用して農業用水を確保している。しかし、地下ダムから水を汲み上げるには大量の電力が必要であり、電力の安定供給は町の産業基盤を支える上で不可欠な要素となっている。
こうした状況を踏まえ、同町では災害時にも独立して電力を供給できる地域マイクログリッドの構築を目指している。また、この地域マイクログリッドに再生可能エネルギーを接続することで、災害を乗り越える力の強化と脱炭素化を同時に進めることを目指している。
しかし、地域マイクログリッドに再生可能エネルギーを接続するには、大きな課題が存在する。この点について千代田化工建設 事業戦略営業部 グループリーダーの石井 聡 氏は、「停電を防ぐには、島全体で電力の需要と供給を適切に調整する必要があります。しかし、再生可能エネルギーは天候に依存する発電手段のため、島内の需給バランスが崩れやすく、その運用が非常に困難です。このため、多くの島嶼(とうしょ)地域では火力発電を中心とした電力供給を優先せざるを得なかった背景があります」と説明する。
こうした制約を克服し、再生可能エネルギー電源を接続するには、多額の費用と長期的な視点が求められる。そのため、包括連携協定の参加者たちは、それぞれの専門知識を結集し、密接なコミュニケーションを通じて協力を進めている。取組を進展させるため、SMBCはお客さまのサステナビリティ推進を支援するサステナブルソリューション部が中心となり、総務省が提供する市町村の地域活性化を支援する制度の活用を喜界町に対し提案。喜界町は同制度を活用し、制度にアドバイザーとして登録している日本総合研究所の協力を得て、町の脱炭素ビジョンの実現に向けた施策を策定している。また、SMFLは、アセットホルダーとなることで再生可能エネルギー・省エネルギー等の取組の早期実現及び地域課題解決に応える幅広いソリューションの提供を目指している。
「本プロジェクトで構築する地域マイクログリッドのシステムは、経済的にも持続可能な設計を目指しています。このプロジェクトが実現すれば、喜界町と同様の課題を抱える世界中の離島に展開可能なモデルを構築できると確信しています」とSMBC 本店営業第三部 逸見は述べ、実現への強い意欲を示す。


今後は、町内電力の脱炭素化に併せて、電気自動車(EV)の導入促進や新しい交通システムの導入、生ごみ等の堆肥化、プラスチックごみの島内再資源化システムの確立、サンゴ礁文化を活用した新しいライフスタイルの検討、喜界町におけるCO₂排出量の見える化など、多岐にわたる取組が進められる予定だ。こうした取組を通じて喜界町の賑わいを創出し、交流人口を増加させることを目指している。
今後のプロジェクトの展望について、大西は次のように述べる。「取組を通じて、CO₂排出量の削減量や事業活動による具体的な成果を定量的に示すことが重要だと考えています。これにより、取組による価値創造が客観的に示され、さらなる共感と支持を得られるのでは、と期待しています」
逸見はプロジェクトへの想いについて、「10年後、20年後に、喜界町が離島のなかでも異彩を放つ『脱炭素アイランド』として、日本全国、さらには世界に向けて発信される姿を実現したいです。そして、その時に自分のこどもに『実はパパがこの島の脱炭素に関わったんだよ』と胸を張って伝えられると、とても嬉しいですね」と笑顔を見せながら語った。
喜界町を、
世界から注目される
「脱炭素アイランド」へ
今後は、町内電力の脱炭素化に併せて、電気自動車(EV)の導入促進や新しい交通システムの導入、生ごみ等の堆肥化、プラスチックごみの島内再資源化システムの確立、サンゴ礁文化を活用した新しいライフスタイルの検討、喜界町におけるCO₂排出量の見える化など、多岐にわたる取組が進められる予定だ。こうした取組を通じて喜界町の賑わいを創出し、交流人口を増加させることを目指している。
喜界町役場 総務課 政策調整管理監の永井 昌徳 氏は「SMBCさんには今後、ライフスタイル分野や人材育成の取組を通じた交流人口増加に向けて様々なサポートをお願いしたいと考えています。また、喜界町を実証の場としてぜひ活用してもらって、実証が成功すれば、その成果をもとに奄美群島全体の成長につなげていきたいと考えています」と述べ、強い期待を寄せた。また、石井氏は「SMBCさんが持つ、我々とは異なる物流業界や観光業界などのネットワークを活用することで、プロジェクトをさらに前進させられると確信しています」と語った。


今後のプロジェクトの展望について、大西は次のように述べる。「取組を通じて、CO₂排出量の削減量や事業活動による具体的な成果を定量的に示すことが重要だと考えています。これにより、取組による価値創造が客観的に示され、さらなる共感と支持を得られるのでは、と期待しています」
逸見はプロジェクトへの想いについて、「10年後、20年後に、喜界町が離島のなかでも異彩を放つ『脱炭素アイランド』として、日本全国、さらには世界に向けて発信される姿を実現したいです。そして、その時に自分のこどもに『実はパパがこの島の脱炭素に関わったんだよ』と胸を張って伝えられると、とても嬉しいですね」と笑顔を見せながら語った。