※内容は、取材当時のものです。

次世代アーティストが
彩る銀行風景

〜「継続」が育む店舗
ブランディングと対話の場〜

  • 加藤 浩子
    (株)SMBC信託銀行 加藤 浩子
  • 内田 望人
    (株)SMBC信託銀行 内田 望人

日本の再成長

「学生アートと銀行」という一見縁遠く思える組み合わせ。しかし、SMBC信託銀行では全国の支店で学生アートを展示することが、今では当たり前の光景となっている。この景色の裏には、10年にわたり積み重ねてきた地道な取組がある。

本社移転を機に
学生アートの展示を開始

この取組の始まりは、2013年にソシエテジェネラル信託銀行が、SMBCグループの一員となり、SMBC信託銀行と改称して新たなスタートを切ったのち、西新橋への本社移転が契機となる。当初、富裕層のお客さまが多く訪れることから、応接エリアなどに飾る絵にこだわりたいという意見が出ており、通常であれば応接室ごとにプロの芸術家の作品を展示するところだが、それではお客さまに新たな体験を提供することは難しく、さらに絵画購入となれば銀行の資産となるため、管理の課題も生じる。

そこで、当時、同行の経営企画部に所属していた加藤(現在は個人業務開発部)は、芸術に精通した当時の社長と相談し、若手アーティストの支援を兼ねて、美大生の作品を飾ることが決定される。元々長年フランス系金融機関に勤務していたこともあり「当時欧州では、既に若いアーティストを支援する文化が根付いていて、日本でもそのような取組を積極的に取り入れるべきと感じていました。また、学生にとっても自分の作品が社会の目に触れることで、社会に出ていくための体験を前もって提供できればという思いもありました」と加藤は言う。

応接エリアに飾られた学生ならではのフレッシュな感性が表れた作品は、アートに親しむお客さまにも新鮮な体験を提供し、作品のテーマや展示に込められた意図などをきっかけに、お客さまと社員との自然な対話が広がった。また、展示されている作品は、大学を通じて購入できる仕組みとした。お客さまによる購入が決まると、大学側から「本人もとても喜んでいました」という報告が毎回のように寄せられる。

「学生さんの作品が初めて人の手に渡る瞬間、その場をつなぐ機会を設けたことがあります。受け取る方の想いあふれる表情と、学生さんの手が震えていたのがとても印象的でした。作品を購入した方が、学生さんの作品に価値を見出し、将来に期待している姿を見ると、私たちも非常にやりがいを感じます」と加藤は嬉しそうに振り返る。

学生アートの展示を
全国の支店へと展開

先述の取組を契機に、同行ではお客さまへのサービス提供はもちろんのこと、将来の芸術家たちへの支援も含めてアートに対する取組を強化してきた。2019年から2020年においては、日本文化の持続的な支援を目指す取組の一環として日本橋支店で「洗練された顧客経験の提供」を目的に、世界的に活躍する日本人現代アーティストの作品の展示会「Art Branch」を実施した。その後、「継続的にアート作品を展示したい」という社内の反響が大きかったことを受け、各支店に学生の絵画や彫刻作品を展示し、定期的に作品の入れ替えを行うことでより多くの作品を見てもらえる「PRESTIA Art Branch NEXT」へと進化した。

PRESTIA Art Branch NEXTでは、各支店の特性に合わせた工夫を行っている。例えば、当時の日本橋のようなビジネス街に位置する支店では、抽象画や落ち着いた色彩の作品を選ぶことで、洗練された空間を演出していた。また、家族連れの来店が多い郊外の支店では、動物モチーフや明るく柔らかい印象の作品を展示し、親しみやすさや温かみのある雰囲気を作り出しているという。また、外国籍のお客さまが多い広尾支店では、日本文化を感じさせるアニメ調の作品を選定し、文化的な話題を通じて、対話のきっかけとなるよう配慮した。

本プロジェクトを担当した同行の個人業務開発部 内田は、これらの取組を振り返り、「この業務に携わる以前は、支店のインテリアに目を向ける機会はほとんどありませんでした。しかし、現在の立場から振り返ると、高級感のあるカラーリングや什器、整然とした空間そのものが、他にはない支店の大きな特徴であることに気づきました。アートを活用して支店の美しさを引き立て、訪れるお客さまに感動や新たな発見を提供することで、銀行店舗の役割を超えた唯一無二の体験を提供したいと考えています」と自身の気づきと取組への想いを語る。

アートで描く新しい
銀行のかたち

このプロジェクトが10年にわたり継続してきた背景には、活動を続けることへの強いこだわりと、そのための細やかな配慮、多くの人々の協力がある。

「プロジェクトを進める上で、一番重要だったのは『継続する』という姿勢です。価値ある取組が短命で終わることは、支援先や社会全体に対して失礼にあたると常々考えています。そのため、私たちだけでなく、パートナーである大学の教授や学生、さらにはその周囲の人々にとっても、無理なく続けられる形にすることが欠かせないと感じています」と加藤は言う。

年に一度の展示作品の入れ替え時には、大学の教授陣と連携し、学生に過度な負担がかからないよう、展示やテーマ選定のプロセスを丁寧に進めている。また、作品入れ替えの際には学生だけでなく、その家族も招待して見学会を開催することもある。展示された作品を目にした学生の家族からは喜びの声や感謝の言葉が寄せられ、取組が関係者全員にとって良い体験となるような工夫がなされている。

「この活動を、当行が存続する限り、末永く続けたいと思っています。2025年にはこの取組が10年を迎える節目となるため、学生アートの企画展を開催し、これまでの成果を振り返る機会を設けたいと考えています」と二人は展望を語る。

さらに今後は、「店舗におけるブランディングやお客さまの体験の向上を目指す取組を継続しつつ、公共の場での展示や、渋谷や丸の内といった都心の商業施設での展示など、活動の幅を一層広げていきたい」と意気込む。

内田は今後の展開について、「アートには100人いれば100通りの見方があり、それぞれの視点が対話のきっかけになります。その対話の場を広げていくことで、より多くの社会的価値を創出できるのではないかと考えています」と意欲を示す。

学生アートが信託銀行という場で展示されることで生まれる価値。それは、お客さまに新たな体験を提供し、対話を生み出すきっかけとなるだけでなく、学生や大学にとっても貴重な体験となる。担当者たちの熱い思いや努力、大学との深い信頼関係が、10年にわたりこの活動を支えている。これからも学生アートは、銀行の風景を鮮やかに彩り、多くの対話と豊かな体験を創出していくだろう。

プロフィール

加藤 浩子

(株)SMBC信託銀行
個人業務開発部

内田 望人

(株)SMBC信託銀行
個人業務開発部