少子高齢化により、日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっている。労働人口が減少するなか、国が持続的に成長するためには、労働者一人ひとりの生産性向上が不可欠だ。なかでも、未来を担う若者の能力向上は、経済全体の活力を生み出す重要な土台となる。
こうしたなか、三井住友銀行(以下、SMBC)は、金融リテラシー向上とキャッシュレス化促進につながるデジタル総合金融サービス「Olive」の若年層への普及を目指していた。SMBC 名古屋エリア 板垣 恵美は、「若者に将来への明るいイメージを抱いてほしい」という強い想いと「実践を通じて『できること』を増やす経験こそが、若者の自信と選択肢を育む」という信念を背景に、Olive普及に向けたプロセス自体を、学生が実践的に学ぶ機会に転換できないかと考えた。構想の実現に向けて、学生数が多く、SMBCのATMが置いてある大学を「運命を感じる大学」と称してアプローチを開始。その行動は、企業の課題解決と学生の実践的な学びを結びつける事業を推進していた、株式会社名城大学サービス 課長 山本 剛毅氏との出会いへとつながり、本取組が開始した。
学生が主役の
「マーケティング研究会」。
企業の事業課題を、実践的な学びの機会として提供
「マーケティング・セールスプロモーション研究会with三井住友銀行」は、名城大学、その学生、そしてSMBCの三者が、明確な役割を担い推進した共創プロジェクトだ。大学は、学生に実践的な学びの場を提供する「機会提供」。学生が担うのは、マーケティングプランを企画・提案する「プランニング」。そしてSMBCは、研究会の成果を形にする「企画実現」を担う。
この研究会には、文系・理系、さらには博士課程の学生まで、多様な学生たちが参加した。自身の専攻分野では得られないマーケティングの実践知を求める学生や、金融業界のリアルな課題に触れることでキャリア観を深めたいと考える学生など、その動機もさまざまだ。彼らにとってこの研究会は、座学だけでは得られない貴重な実践的学びの機会であり、その主体的な姿勢が研究会全体の原動力となった。
学生たちは、2カ月間にわたりマーケティングプランの策定に臨んだ。彼らは学生のリアルなインサイトを探るため、チームに分かれて学内の友人へインタビュー調査を実施するなどの活動を重ねた。こうした活動の教育的価値について、山本氏は次のように語る。「学生は、友人へのインタビューを通じて自分たちにとっての『当たり前』を客観的なインサイトとして捉え直し、それをマーケティングの視点と結びつけることで、リサーチから企画立案までを体験できました。このような実践的な学びの機会を学内で創出できたことは、非常に有意義でした」
この研究会の価値を最大化するため、板垣らは、学生に答えを教えるのではなく、思考を引き出すファシリテーターに徹した。また、学生と年齢の近い若手行員も議論の場に参加してもらうことで、学生がより話しやすい雰囲気づくりにも配慮した。
この運営方針について、板垣は「私たちの考えを一方的に伝えるのではなく、学生自身の意見を引き出すことを最優先に考えました。学生ならではの視点や発想にこそ、価値があると考えています」と語る。「主役は学生である」という思想が、プロジェクト全体を貫いている。
研究会の活動を通じて
学生のスキルや金融知識が
向上、
活動成果を基にした
プロモーションも
研究会の活動は、参加した学生に多角的な学びをもたらした。ある学生は「ボトムアップリサーチが苦手でしたが、インタビューを通じて相手の意見や考えの背景を読み取る力が鍛えられました」と、具体的なスキル向上を語る。また、別の学生は「インタビューを通じて、自分たちが『こうだろう』と想定していたこととは違う、予想外の意見に触れることがありました。仮説を立てるだけでなく、実際にリサーチを行うことの重要性を改めて感じました」と、マーケティングの本質的な学びへとつながった。
スキルや視点の獲得に加え、題材となった金融サービスそのものへの理解も深まった。当初は「Oliveの存在自体を認識していなかった」という学生が、活動を通じてその機能性や利便性を学び、「今では非常に優れた金融サービスだと感じています」と語る。一方、サービスを利用している学生からも「活動を通じて『こんな機能があったのか』と、自分がサービスを使いこなせていなかったことに気づきました」という声が寄せられた。
そして、研究会の成果である学生たちの企画・提案は、実際の取組としても推進されている。広告面では、学生がデザインしたOliveのチラシが学内サイネージで実際に使用された。また、彼らが発見した「海外渡航を控えた留学準備のタイミングは、金融サービスの必要性を強く感じる場面」というインサイトを基に、留学説明会と連携してOliveの海外生活における利便性を訴求するプロモーションも進められている。板垣は、この取組がもたらす長期的な価値に想いを馳せる。
「研究会の学生に、自分たちのアイデアが実現され、結果へとつながっていく体験をしてもらいたい。初めは低空飛行でも、やがて上昇気流に乗り、どんどん拡大していく。そんな景色が一緒に見られると信じています」
こうした学生の成長をはじめとする、三者に価値をもたらす「三方良し」の仕組みは、社内でも高く評価された。本取組は「SMBCグループ シャカカチAWARD 2024」において社長賞を受賞。三井住友フィナンシャルグループ 代表執行役社長 グループCEO 中島 達から「ビジネスを通じて地域に貢献し、三方良しを実現する商人(あきんど)らしいプロジェクト」との評価を獲得した。この受賞を機に、グループ内の他部署からも問い合わせが多数寄せられるなど、その影響は広がりを見せている。
「名古屋モデル」の確立と
県内への展開へ。
挑戦を
続ける先に描く、持続的に
成長する未来
板垣は、今回の取組モデルを「名古屋モデル」の一つとして、愛知県内の約50大学へ展開していく構想を持つ。さらにその先には、小中高から大学まで一貫した金融経済・キャリア教育の実現を見据えている。
「まずは金融経済教育、キャリア教育共に『実践』を意識したモデルコンテンツを創り、その後、愛知県内へと展開できたら最高だと思っています」
また、板垣は、長期的な人材育成の重要性について「大学生になって初めてキャリアと向き合うのではなく、小中学校の段階から将来を意識し、時間をかけて目標に向かって歩む経験を積むことが、優れた人材を育むと考えています」と強調する。
最後に、取組全体を貫く「成長」というテーマについて、板垣は自身のキャリアと今回の取組を総括し、その道筋への考えを示した。
「成長の起点となるのは、まず世の中への興味と問題意識を持つことだと考えています。そのうえで、自らが『何をしたいのか』『何ができるのか』『それは社会から求められていることなのか』を深く問い、世の中の変化を的確に捉えながら、自身を常にアップデートし続ける姿勢が求められます。そして何より重要なのは、勇気を持って挑戦し続けることです。課題を前にして『考え抜く』こと、そして『挑み続ける』こと。この地道な実践の先にこそ、成長があるのだと考えています」