※内容は、取材当時のものです。

国境を越えて金融経済教
育の知見を
共有し、社会
を変える「知の連鎖」を
創出

~現地のパートナー銀行と共に、
フィリピンの金融リテラシー向上
に貢献~

  • 丸島 秀
    (株)三井住友銀行 丸島 秀
  • 大澤 チダパー
    プロミスタイランド(株) 大澤 チダパー
  • 楊 妮妮
    SMBCコンシューマーファイナンス(株) 楊 妮妮

パートナーシップ

教育

2025年7月現在、フィリピンでは銀行口座の保有率が約5割にとどまり、多くの人々が正規の金融サービスへアクセスできずにいる。また学校や社会で金融について学ぶ機会が乏しいため、計画的な資産形成の習慣が根付いていないのが実情だ。こうした状況から、超高利貸し業者が蔓延し、金融知識の不足から提示された不当な高金利に疑問を抱くことさえできずに多重債務の罠に陥るケースも少なくない。この負の連鎖を断ち切るためには、人々が自らの資産を守り、将来設計を描くため金融リテラシーの向上が不可欠だ。

この課題に対し、三井住友銀行(以下、SMBC)の出資先でフィリピンの大手商業銀行であるリサール商業銀行(以下、RCBC)、SMBCコンシューマーファイナンス(以下、SMBCCF)、SMBCの3社が国境を越えて手を取り合った。きっかけは、RCBCの経営陣が来日した際、SMBCCFが日本で展開する金融経済教育に強い関心を示したことだ。フィリピンの社会課題を解決したいという三者の想いが重なり、SMBCグループとして「初」となる、金融経済教育領域での海外展開プロジェクトが始動した。

SMBCグループの知見を
フィリピンへ。
現地の法制度や生活習慣を
反映した金融経済教育
プログラム

プロジェクトの核は、SMBCCFが日本で培った金融経済教育の知見をフィリピンのRCBCへ移転することだった。しかし、それは単に日本の教材を翻訳するだけではない。目指したのは、フィリピンの文化や社会に根差した、真に現地のためとなる教育プログラムの構築だ。

プロジェクトを推進するにあたり、SMBCグループが貫いたのは、あくまで主役は現地という姿勢だった。三者のハブとして全体の調整役を担ったSMBC アジア事業部 丸島 秀は、その基本理念をこう語る。
「我々は質の高いサポートに徹し、彼らが何をしたいのかを常に考えていました。あくまで『主語』は彼らにある、ということを尊重しながら取組を推進することを意識していました」

この理念のもと、SMBCCF 海外事業統括部 楊 妮妮が実務を支え、当時SMBCCF海外事業統括部に在籍していたプロミスタイランド 人事総務部 大澤 チダパーが専門知識を提供する連携体制でRCBCとの協業が進められた。

具体的には、教材の共有に加え、セミナー企画、講師育成、教育機関との関係構築といった運営ノウハウまでを包括的に提供。特に重視したのが、現地の文化や社会背景に合わせた「ローカライズ」だ。RCBCの関連教育機関である大学付属高校も加わり、教材をフィリピンの法制度や生活習慣に合わせて見直し、人々が自分事として捉えられる内容にした。また専門用語を避け、クイズを取り入れた双方向の講義形式にするなど、誰もが楽しく学べる工夫も凝らした。

本取組の中心を担った大澤は、タイ出身というバックグラウンドを持つ。以前から東南アジアの社会課題に心を痛めていた彼女にとって、このプロジェクトは特別な意味を持っていた。大澤はプロジェクト初期の想いを次のように語る。
「SMBCCFで広報担当として金融経済教育に携わるなかで、この活動の趣旨や意義を深く理解していました。だからこそこの取組が本当に求められる地域へ導入し、社会の役に立つ存在になりたいと強く思っていました」

来日視察を転機に、現地に
根差したプログラムを開発。
SMBCグループ初の
海外金融経済教育を実現

国や文化、商習慣の違いに加え、当初はSMBCCFとRCBCの間には事業上の接点や関係性がなかったことから、協業にはコミュニケーションの壁が存在した。この壁を乗り越えるため、丸島が調整役となり、Web会議などによるコミュニケーションを通じて、チームは粘り強い対話を重ね相互理解を深めていった。大澤は、当時について「ビジネス上の立場だけで接していては、なかなか物事が進みませんでした。そこで、いつでも気軽に相談し合えるような、個人としての信頼関係を築くことに注力しました」と振り返る。

地道な関係構築を続けるなか、プロジェクトに大きな転機が訪れる。RCBCの担当者が来日し、日本の高校で行われている金融経済教育セミナーを視察したときのことだった。この視察の調整を担った楊は、そのときの様子を具体的にこう語る。

「金融知識を初めて学ぶ学生もいるため、講師を務めたSMBCCFの社員は専門用語を分かりやすく説明することを徹底していました。例えば『名義貸し』という言葉も、高校生には伝わりにくい。そこでセミナーでは、『知人や家族に頼まれて自分の免許証やカードを貸すことですよ』と、生活に結びつけて噛み砕いて説明していました」

こうした分かりやすい説明や生徒の関心を高めるためのインタラクティブな工夫を目の当たりにしたRCBC側から、「フィリピンではこう工夫したらもっと良くなる」という具体的なアイデアが次々と生まれた。この視察時の体験が、現地での教育プログラム開発を大きく前進させた。

またこれらの現場の努力と成果を、組織的な後押しが支えた。本取組には両社のマネジメント層も深く関与しており、多くのステークホルダーがいるなかで国境を越えた意思決定が迅速に行われた。

こうして現地のニーズを深く反映したSMBCグループとして初となる海外での金融経済教育プログラムが生まれた。2023年9月のローンチ後、プログラムはRCBCのお客さまに加え、SMBCマニラ支店のお客さまである企業の従業員や学生へと広がり、313社、約19,000人に届けられた。受講者からは「銀行から金融教育を受けるのは初めてで、非常に貴重な学びを得た」と感謝の声が寄せられている。さらに、講師を務めるRCBCの従業員が「社会的に意義のある活動をしている」と誇りを持ち、エンゲージメントが向上するなど、組織内部にも好循環が生まれている。RCBCリテールバンキンググループの責任者であるキャロリン・リム氏は、SMBCCFへの感謝と取組の手応えを次のように語る。

「プログラム展開では教材の現地化や講師育成などの課題がありましたが、SMBCCFには本当に価値あるサポートをいただきました。お客さまからも『こうした金融教育を提供してくれる銀行は他にない』と、大変喜んでいただいています」

金融経済教育により
創出される「知識の連鎖」
をアジア諸国へ

フィリピンでの成功は、SMBCグループにとって海外における金融経済教育展開のモデルケースとなった。現在、この取組はタイでも導入が始まっており、将来的にはベトナムなど他のアジア諸国への展開も検討している。楊は「国内で培った金融経済教育のノウハウを各国の現地パートナーに展開し、各国の文化や経済状況に応じたカスタマイズを行うことで、より多くの人々に金融リテラシーを広めていきたいと思います」と今後の展望を語る。

このプロジェクトが目指すのは、単発のセミナー開催にとどまらない。金融知識を得た人々がその知識を家族や友人に「伝える」ことで、社会全体の金融リテラシーを底上げしていく「知の連鎖」を創出することだ。その活動の先に広がる未来をチームは次のように見据えている。

「一つひとつは小さな取組ですが、この活動を継続しパートナーの輪を広げていくことで、国全体を変えるきっかけになると信じています」

プロフィール

丸島 秀

(株)三井住友銀行
アジア事業部

大澤 チダパー

プロミスタイランド(株)
人事総務部

楊 妮妮

SMBCコンシューマーファイナンス(株)
海外事業統括部