※内容は、取材当時のものです。

宇宙を「社会のインフラ」へ、
日本の宇宙産業のサプライチェーン構築

~日本の新たな基幹産業確立に向けた、
SMBC初の宇宙スタートアップ出資を通じた宇宙産業における取組~

  • 稲川 貴大 氏
    インターステラテクノロジズ(株) 稲川 貴大 氏
  • 武田 悠紀
    (株)三井住友銀行 武田 悠紀
  • 佐藤 裕人
    (株)三井住友銀行 佐藤 裕人

日本の再成長

パートナーシップ

衛星データを活用した自動運転やスマート農業など、宇宙利用の需要は世界的に拡大している。日本政府も宇宙基本計画において2020年から2030年代早期に市場規模を倍増させる目標を掲げているが、その成長を支える宇宙への輸送手段、すなわちロケットの打上げ能力が国内需要に追いついていない課題がある。国内の衛星関連事業者の多くは海外の輸送サービスに依存せざるを得ない状況にあり、これはコストや機会損失の観点のみならず、日本の国際競争力や経済安全保障の観点からも重要な課題と認識されている。

こうしたなか、国内では民間主導のロケット開発が進められている。その一社が、国内民間企業単独開発のロケットとして初めて宇宙空間への到達実績を持つインターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)だ。三井住友銀行(以下、SMBC) 成長事業開発部 武田 悠紀は、スタートアップ支援業務を通じて、お客さまが直面する宇宙輸送の課題を深く認識しており、その解決策となりうるISTの事業の可能性に着目。金融機関の立場からその成長を支援すべく、出資の検討を開始した。

SMBCグループ初の
宇宙領域スタートアップ
への出資

ISTは日本の民間宇宙輸送分野をリードする企業で、現在は小型人工衛星を低価格・高頻度で打ち上げるロケット「ZERO」の開発を進めている。SMBCは2025年7月、社会的価値創造投資枠を活用したISTへの出資と、サプライチェーン構築支援にかかる業務提携契約の締結を発表した。SMBCグループとして、宇宙領域のスタートアップへの出資は初の取組である。この取組が持つ社会的意義について、本案件を推進した武田は次のように説明する。

「国内の衛星事業者等、宇宙空間を活用したい企業は、海外ロケットへの依存により、高コスト化と事業機会の損失という二重の課題を抱えています。この宇宙輸送インフラの課題解消は、多くのお客さまの成長支援に直結する、我々金融機関が取り組むべき重要なテーマでした」

IST 代表取締役 CEO 稲川 貴大氏は、日本の潜在能力を活かすことで、輸送の課題を克服できると強調する。

「日本は、ロケットの打上げに適した地理的条件と高い工業技術力を併せ持ち、世界と戦えるポテンシャルを持つ数少ない国です。我々はその優位性を最大限に活かすため、燃料に次世代型とされるメタンを採用するなど、コストと性能を両立させる技術を戦略的に選択しています。これにより、安定供給可能な『工業製品』としてのロケットを目指しています」

不確実性が高く前例のない案件に対して、
部門を越えた連携で
出資を実現

宇宙スタートアップへの出資は前例がなかったため、行内の合意形成において慎重な検討を要した。特に、宇宙領域の知見が限られるなかで、「なぜSMBCが宇宙を、なぜ輸送を、なぜISTを支援するのか」という事業の合理性を説明する必要があった。この課題に対し、武田とSMBC 社会的価値創造推進部 佐藤 裕人は連携して事業の全体像を可視化する作業を進めていた。

本格検討のプロセスでは、武田は、国のイノベーション支援制度であるSBIRプログラムへの採択や、トヨタグループのウーブン・バイ・トヨタとの資本業務提携等、官民と連携してISTが取り組む事業のポテンシャルを伝える活動を主導。一方、佐藤は、関係各所との調整役を担い、リスク管理部門など関連部署と連携し、事業の潜在的リスクと社会的価値を多角的に評価する資料を提示した。佐藤は当時のプロセスをこう語る。

「新しい事業への挑戦は、新しいリスクを取ることと表裏一体です。だからこそ、『攻め』の視点だけでなく、それを支える『守り』の視点が重要になります。この考えに基づき、リスク部門やコンプライアンス部門など、多くの部門と多角的に議論を重ね、案件の意義とリスクの双方から関係者の理解を深めていきました」

こうした緻密な検討を経て、案件は最終的な意思決定の局面を迎えた。武田は、当時の心境をこう振り返る。

「不確実性の高い領域への投資に、自信が揺らぐ瞬間もありました。しかし担当役員、上司から『臆することなくしっかり検討すれば大丈夫』という言葉をいただき、組織としてリスクテイクに踏み込むことができました」

こうしてISTへの出資が実現。SMBC初の宇宙スタートアップへの出資は、行内外から多くの肯定的な反応を得た。SMBCグループの宇宙産業への明確な関与姿勢が示されたことで、技術力を持つ製造業など、これまで宇宙と接点のなかったお客さまからも具体的な問い合わせが寄せられるようになった。稲川氏は、この出資を「宇宙産業にとって歴史に残る出来事だ」と位置づける。

「民間が主体となって日本の宇宙産業を創出するこの転換期に、SMBCが資金提供にとどまらず、サプライチェーン構築までを担う事業パートナーとして参画したことは、まさに宇宙産業史における、一つの重要な転換点です」

日本の宇宙産業の
サプライチェーンを創出し、
誰もが宇宙を利用できる
社会インフラの構築へ

ISTは今後、現在開発中のロケット「ZERO」の初号機打上げと高頻度化を実現し、さらに自社の通信衛星事業を展開することを計画している。輸送手段からサービス提供までを垂直統合することで、誰もが宇宙を利用できる社会インフラの構築を目指す。

この構想の実現に向け、SMBCはグループの広範なネットワークを活用し、ISTが必要とする精密加工や特殊溶接などの技術を持つサプライヤー候補企業のリストアップと、具体的なビジネスマッチングを推進する。この活動が持つ、もう一つの重要な社会的意義について、武田は次のように語る。

「後継者不在で技術の存続が危ぶまれる中小企業は少なくありません。そうした企業の技術を、宇宙産業のような成長領域につなぐことで、事業承継問題の解決と新産業の育成を同時に実現できる可能性があります」

そして、この一連の活動から得られる知見は、新産業向けサプライチェーン構築の支援モデルとして体系化され、今後、成長が期待される他のディープテック領域や、既存産業の構造転換などにも応用される計画だ。

こうした一連の取組の本質を、佐藤は「人をつなぐ営み」だと語る。

「社会は『人』によって構成され、社会の課題解決を行うのもまた『人』です。今回の取組のように、社内外の多様な人々をつなぐことで、壮大な構想を現実のものにしていく。それが社会的価値につながると考えています」

そして、本取組が社会にもたらす最終的な価値について、稲川氏は次のように語った。

「宇宙産業が伸びるということは、宇宙がより一般の人々にとって身近なものになるということです。その最大の障壁となっている宇宙輸送の問題を解決すれば、多くの人々がその恩恵を享受でき、日々の生活がより豊かになります。私たちは、その最も困難な問題を解決することで、豊かな社会の実現に貢献したいと考えています」

プロフィール

稲川 貴大 氏

インターステラテクノロジズ(株)
代表取締役 CEO

武田 悠紀

(株)三井住友銀行
成長事業開発部

佐藤 裕人

(株)三井住友銀行
社会的価値創造推進部