※内容は、取材当時のものです。

「法人カードで決済する
だけ」の
シンプルさで
脱炭素経営を民主化

~カード決済データに基づくCO2
排出量
「Scope3 Category1」
算定機能を世界初*で提供~

  • 近藤 元気
    三井住友カード(株) 近藤 元気
  • 尹 春英
    (株)三井住友銀行 尹 春英

環境

脱炭素

パリ協定や日本政府のカーボンニュートラル宣言を受け、企業の脱炭素経営に対する要請は日増しに高まっている。一方で、温室効果ガスの自社直接排出量(Scope1)やエネルギー使用に伴う間接排出量(Scope2)に加え、サプライチェーン全体での排出量(Scope3)の開示が求められるなか、多くの企業がその対応に苦慮している。

この状況に対し、三井住友カード(以下、SMCC)、三井住友銀行(以下、SMBC)、ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社(以下、Visa)の三社は、2023年11月に法人カード決済データからScope3のCategory6(出張)と7(通勤)における排出量を自動算定するサービスを開始。しかし、お客さまとの対話を重ねるなかで、排出量の大半を占め、データ収集・分析の手間が多い「Category1(購入製品・サービス由来の排出量)」への対応が、脱炭素経営を推進するうえでの鍵であることがわかった。

実際に、SMBC 法人戦略部サステナブルソリューション室 尹 春英は、「データ収集の手間から、Category1の算定に挫折してしまう企業も少なくありませんでした」と、現場が直面する困難を肌で感じていた。

「法人カードで決済するだけ」でCO2排出量を可視化できる機能の開発へ

Category1の自動算定機能の開発を推進していた SMCC BM事業開発部 近藤 元気は、決済データに含まれる「決済金額」と「加盟店カテゴリ」という情報が、環境省のガイドラインが示す金額ベースの算定ロジックに応用できる可能性に着目した。

この着想は、SMCC、SMBC、Visaの連携により具体化。グローバルな決済インフラを持つVisa、お客さまとの接点と商品開発を担うSMCC、そして算定後の排出量削減支援や金融サービスを提供するSMBCが、強みを結集させ、法人カードで決済するだけでCO2排出量を算定できる「法人カードデータCO2可視化サービス」の開発に乗り出した。

「世界初」より
「カスタマーファースト」を。品質に妥協しない決断

開発チームが直面した最大の葛藤は、「世界初」のスピードか、実務において使いやすい「品質」かの選択だった。早い段階でサービスを提供できる状態にはあったが、チームはあえて品質向上に時間をかけるという決断を下す。

「他社に先を越されるのでは」という不安がよぎるなか、その決断を支えたのは「お客さまにとっての本当の価値は何か」という徹底した議論だった。近藤は、当時をこう振り返る。「『お客さまにとっての本当の価値は何か』を突き詰めた結果、それは長期的な使いやすさであるという結論に至りました。だからこそ、品質向上を最優先し、『良いものを、世界初で提供する』ことこそが真の価値提供になる。その考えが、最終的にチームの共通認識となりました」

「カスタマーファースト」を合言葉に、チームは膨大な加盟店データの精査に着手した。例えば、機械的な判定だけでは、CO2排出とは無関係なデータまで算定対象に含まれてしまう。こうしたお客さまの混乱を招くデータを取り除く一方で、安易に削除しすぎると特定の企業のニーズに合わなくなる可能性もある。一つひとつのデータと向き合い、要不要を見極める作業は、まさに骨の折れる仕事だった。

この品質へのこだわりは、開発の遅れというリスクと隣り合わせだった。しかし、SMCC、SMBC、Visaの担当者は会社の垣根を越え議論を重ね、専門知見を持ち寄ることで、この地道な作業の精度と速度を高めていった。結果、2024年7月、Visa法人カード決済データに基づくScope3 Category1の算定機能の提供開始を「世界初」で実現した。

このサービスにより、お客さまは煩雑なデータ収集作業から解放され、本来注力すべき「排出量の削減」に向けた分析や施策立案にリソースを集中できるようになった。また、これまで「Scope3算定はコンサルタントに依頼するもの」と高いハードルを感じていた企業も、日常業務の延長線上で、気軽に第一歩を踏み出せるようになった。

さらに、このサービスはSMBCグループ内に新たな好循環を生んだ。SMCCにとっては、お客さまの経理部やDXの部署だけでなく、これまで接点の少なかった経営企画部やサステナビリティ推進部といった部署との新たな対話の機会が生まれた。「脱炭素経営をどう進めるか」という相談から、カード管理の効率化など、新たなビジネス機会へとつながっている。逆にSMBCからは、算定の効率化を求めるお客さまに本サービスを紹介することで、より深い関係構築が可能になった。グループの総合力を活かしたこの連携は、お客さまの課題解決を起点に、新たな価値創造のサイクルを生み出している。

「可視化」の先へ。
目指すは「法人カードで決済するだけで
CO2排出量を削減できる」未来

「法人カードデータCO2可視化サービス」の提供はゴールではなく、新たなスタートだ。企業の脱炭素経営には、「可視化」の先にある「削減」への具体的なアクションが不可欠となる。SMCCはすでに次を見据え、削減ソリューションの開発検討を進めている。

また、SMBCグループ全体としても、この動きを加速させている。SMBCは、CO2排出量算定・可視化クラウドサービスを提供する株式会社アスエネ(以下、アスエネ)との連携を強化。アスエネが持つ膨大なお客さまのデータと、SMBCが持つ財務・非財務情報を組み合わせることで、より精度の高い排出量削減提案や、サステナブルファイナンスといった金融面での支援を一体で提供していく体制を構築している。

今回の案件を振り返り、現場でお客さまの声に耳を傾けてきた尹は、「共感を呼ぶストーリー」を提示することの重要性を語る。

「お客さまから『なぜ、誰が、どのように脱炭素を進めるのか』といった質問をいただくことがよくあります。私たちは今回、三社の強みを組み合わせることで、『誰でも、法人カード決済という日常業務から、気軽に脱炭素経営を始められる』というストーリーを提示することができました。共感を呼ぶストーリーこそが、多くの人を巻き込み、社会課題の解決につながると感じています」

そして最後に、このプロジェクトを「金融と非金融をつなぐ新しい価値を生み出したい」という想いで推進してきた近藤が、次のように締めくくった。

「社会課題は、多くの要因が絡み合い、複雑に見えることが少なくありません。しかし、だからこそ解決策はシンプルでなければ、多くの人を巻き込むことはできません。複雑な課題を前にしたときこそ、その本質は何かを考え抜き、誰もが参加できるシンプルな仕組みを追求する。その姿勢こそが、社会的価値を創造するうえで重要だと考えています」

*Visa法人カード決済データに基づく
Scope3 Category1の算定において世界初。Visa調べ

プロフィール

近藤 元気

三井住友カード(株)
BM事業開発部

尹 春英

(株)三井住友銀行
法人戦略部サステナブルソリューション室