少子高齢化が加速する日本において、安心してこどもを産み育てられる社会と、日本の持続的な成長の実現が、国全体の重要な課題となって久しい。こうしたなか、政府は2022年から2023年にかけて「子育て支援」と「資産運用立国」を重要な二本柱として掲げ、こども政策の司令塔となるこども家庭庁の新設や、新NISAの拡充を推進していた。国の大きな方針に呼応し、三井住友DSアセットマネジメントはこの二つの流れを結びつける国内初の投資信託の構想に乗り出した。
この構想を推進した同社 執行役員 馬岡 憲治は、新卒で三井住友銀行に入行後、国内金融機関で経験と実績を積み、2022年に約20年ぶりに SMBCグループへ復帰した。グループ内外から業界を見た経験から、SMBCグループの真価は「新しい価値を提供し続ける」点にあると確信。復帰にあたり、そのDNAを体現する「国内初の取組」に挑戦したいという強い想いを抱いていた。また、自身も未就学児の親として子育て支援の必要性を痛感していた当事者意識と、同じく子育て世代が多いチームメンバーの想いが、取組を推し進める強い原動力となった。
信託報酬の一部を
「こどもの未来応援基金」に寄付する
「はぐくみプロジェクト」
馬岡らのチームは、まず新NISAに対応した対象ファンドの純資産残高に応じて、同社が受け取る信託報酬の一部を、こども家庭庁が運営する「こどもの未来応援基金」へ年に一度寄付するという「はぐくみプロジェクト」を設計。そして、2024年1月に同社が設定した三井住友DSインカムバランスNISAファンド(愛称:はぐくむニーサ)を「はぐくみプロジェクト」の対象ファンドとした。これにより、同ファンドの残高が拡大すればするほど、こども食堂の運営支援や学習支援など、こどもたちに寄り添って草の根で支援活動を行う団体への寄付額が増えていく仕組みとなっている。
社員が「はぐくみたいもの」の写真で作ったモザイク画
「はぐくみプロジェクト」という名称には、こどもに限らず「自分たちが大事にしたいものをはぐくんでいこう」という想いを込めた。実際に、販売用資料の裏表紙は、社員から募った「はぐくみたいもの」の写真を約300枚集めたモザイク画で構成されており、そのなかにはこどもだけでなく、ペットや植物も含まれている。馬岡は、この名称設定の狙いについて次のように語る。
「『子育て』は、多くの方が肌感覚で理解できる共感性の高いテーマです。一方で、そのテーマに限定せず、お子さんのいない方にも想いを寄せていただくことが重要だと考えました。だからこそ私たちは『自分たちが大事にしたいものをはぐくむ』という、より広く普遍的なスローガンを掲げたのです。このコンセプトによって、より多くの方々の共感を呼び起こし、資産運用のすそ野を広げていきたいという狙いがありました」
省庁との対話を通じて
構築した寄付スキームの設計と、
部門連携で実現したファンド設定
この構想の実現には、いくつかの困難が伴った。その一つが、省庁との対話だ。馬岡はまず、こども家庭庁発足前の2022年、前身である厚生労働省の担当部局に飛び込みで電話をかけたが、運用会社からの突然の申し出に、当初の反応は想像よりも鈍いものだった。それでも諦めずに対話を重ね、2023年4月のこども家庭庁の発足後、正式に訪問。はぐくみプロジェクトの趣旨を説明すると即座に賛同を得て、全面的な協力関係を築くことができた。
また、寄付先については、寄付が恣意的なものにならないよう、より中立的な立場で選定する必要があった。そこで、こども家庭庁が配分を行う「こどもの未来応援基金」に寄付することで、中立性を担保した。
ファンドの設計に向けた社内での合意形成にも、いくつかのハードルがあった。運用の専門部署からは「コンセプトありきで商品を作っていいのか」という問いが投げかけられ、チーム内でも「リスクをどこまで取るべきか」「世の中にある商品と似ていても意味がない」など論点は多岐にわたり、議論がまとまらず、最適な解を模索するのに時間を要した。
議論が前に進む決め手となったのは、「お客さまに付加価値を提供するファンドにしたい」という強い想いだった。チームは「資産運用のすそ野拡大に貢献しているものにヒントがあるのではないか」という仮説を立て、NISAで実際に購入されている商品を分析。その結果、「資産運用の第一歩として、米国株や世界株が広く購入されている」というデータに着目した。そして、「投資対象資産を分散することによりリスクを抑え、安定的なリターンを目指すことができれば、付加価値のある商品として選ばれやすくなる」という設計図を描いた。
これを実現するため、チームはまず、お客さまが負担するコストを抑えることにこだわった。その手段として、投資対象とするファンドをすべて自社商品で賄うことを決断。単なる商品の寄せ集めではなく、NISAに適した商品を選抜するという思想のもと、「安定したインカム収益が期待される」「投資効率がよい」「3年以上の運用実績がある」といった厳格な基準で投資対象を厳選した。こうして、国内外の株式、債券、不動産などを組み合わせた分散投資型の商品「はぐくむニーサ」が出来上がっていった。
緻密な商品設計に加え、まさに子育て世代であったチームリーダーが「このプロジェクトを成功させよう」という強い意志を持って、社内の一人ひとりに丁寧に説明を重ねたことも、関係者全員の納得を得る大きな後押しとなったという。
こうしたプロセスを経て、新NISAが始まる営業初日である2024年1月4日にファンドを設定することができた。設定後、子育て支援につながるということが決め手となり、本ファンドを採用する金融機関も現れている。
社会の一員としてできることを。投資と教育で広げる「はぐくみ」の輪
「はぐくみプロジェクト」は今後、販売会社を増やし、賛同の輪を広げていくとともに、対象となるファンドを増やすことで、取組の規模を拡大していく計画だ。馬岡は、次の一手として、日本株に絞ってこのスキームを組み合わせることで、自らの投資行動を通して日本経済を応援しながら子育て支援につなげていく構想を描いている。
また、寄付にとどまらず、地域金融機関などと連携して各地で小学生・中学生に向けた金融教育を行うといった広義の子育て支援を含め、活動の幅を広げていくことも模索している。
最後に、馬岡は取組を振り返り、熱意を込めて次のように語った。
「サラリーマンである前に一人の人間であるという考え方が、とても大事だと思っています。一人の人間として社会に不足しているものを感じ、それを自分たちの業務を通じて展開できないかと具現化していくことが、まさに社会的価値の創造なのではないでしょうか」
※本文中に記載しているファンドの詳細等は下記をご覧ください。
三井住友DSインカムバランスNISAファンド(成長投資型)/(予想分配金提示型)
ファンド概要▶https://www.smd-am.co.jp/extra/income-nisa/index.html
[交付目論見書/成長投資型]▶https://www.smd-am.co.jp/fund/pdf/189109k.pdf
[交付目論見書/予想分配金提示型]▶https://www.smd-am.co.jp/fund/pdf/189209k.pdf