※内容は、取材当時のものです。

「守り」を固め、
「攻め」を支える。
邦銀初サイバー
セキュリティ子会社設立

~中堅・中小企業の
セキュリティ対策を、
中立的な
助言と伴走型支援で実現~

  • 青木 泰憲
    SMBCサイバーフロント(株) 青木 泰憲
  • 栗田 真由美
    SMBCサイバーフロント(株) 栗田 真由美
  • 橋本 高志
    SMBCサイバーフロント(株) 橋本 高志
  • 酒井 響
    SMBCサイバーフロント(株) 酒井 響

日本の再成長

デジタル技術が企業活動に不可欠となる現代、サイバー攻撃の脅威はあらゆる企業にとって無視できない経営リスクとなっている。攻撃の手口は巧妙化し、その被害は顧客情報や機密情報の漏えい、システムの停止など、企業の事業や信用を揺るがす深刻な事態を招きかねない。特に、専門人材や予算の確保が難しい中堅・中小企業は、その脆弱性を狙われやすい。実際に、SMBCグループにも、サイバー攻撃によって事業継続に支障をきたしたお客さまからの相談が日々寄せられていた。

この状況下、SMBCグループのデジタル戦略部は、金融の枠を超えたサイバーセキュリティ支援の事業化を検討し始めた。専門的な見地からの助言を求め、グループ全体の対策を担うサイバーセキュリティ統括部に協力を要請。同部で対策を担当していた青木 泰憲は、自身も「サイバー攻撃は社会課題であるとともに経営課題である」との認識を強め、自らの知見や経験を社会全体のために活用できないかと考えていた。こうして両部は議論を重ね、邦銀では前例のないサイバーセキュリティ専門会社の設立構想が具体化していった。

銀行が持つ豊富な防御ノウハウをもとに、
お客さま目線で共に考えるセキュリティ対策

2025年2月、SMBCグループはMS&ADグループ、チェンジグループとの合弁でSMBCサイバーフロント株式会社を設立した。社長公募を経て代表取締役社長に就任した青木のもと、同社は特定のセキュリティ製品の販売を目的としない、独自のアドバイザリーサービスを展開する。

その最大の特徴は、保有する情報の性質から、サイバー攻撃の標的になりやすい銀行として培ってきた高度な防御ノウハウをもとに、特定のセキュリティ製品を販売せず、お客さまと同じ目線で最適な対策を共に考えるという中立性にある。この事業モデルは、青木らが実施した約30社へのヒアリング調査から生まれたものだ。青木は、調査から見えてきた構造的な問題を次のように分析する。

「日本の少子高齢化や人口減少を背景にセキュリティの専門家の数が不足する一方、AIの発達などによりサイバー攻撃は高度化・増加しています。この需給のアンバランスが、数少ない専門家のリソースを高単価な大企業向けサービスに集中させ、予算に限りがある中堅・中小企業では対策が遅れるという、セキュリティレベルの二極化を進行させています」

この調査で見えたのは、多くの企業が求めているのは、高価で包括的なコンサルティングではなく、まずは自社の状況を客観的に把握し、何から手をつけるべきかを知りたいというニーズだった。
そこで生まれたのが、現在の中核事業であるアドバイザリーサービスだ。対策の第一歩を促すため、無償や安価で利用できるセキュリティ診断も用意。客観的かつ定量的な評価を経営層に示すことで、具体的な投資判断を後押しする仕組みを構築した。

ただし、サービスの形は最初から決まっていたわけではない。同社 取締役の栗田 真由美が「契約書一つとっても、世の中に形がありませんでした」と語るように、実際にサービスを提供し、お客さまからのフィードバックを反映させながら、まさに手探りでサービス内容を確立し改良を重ねている。

「社会全体のセキュリティレベルを引き上げる」
―事業性と公益性を兼ね備えたサービス提供へ

邦銀初となるサイバーセキュリティ事業会社の設立は、前例のない取組だったことから、社内では「事業として収益化できるのか」という事業性の懸念と「社会インフラとしてお客さまを守るべきだ」という公益性の主張が交錯し、議論が重ねられた。同社設立メンバーの一人である非常勤取締役 橋本 高志は、当時の議論を次のように振り返る。

「サイバー攻撃の脅威増大を受け、お客さまからの相談が増えるにつれ、これは我々が取り組むべき課題であるという認識が共有されていきました。お客さま一社の安全を守ることは、その取引先、ひいては日本社会全体の安全につながります。その貢献こそがSMBCグループとして果たすべき役割であるという考えが、最終的な後押しとなりました」

こうして設立された同社だが、当初は同社とお客さまとの間に直接のつながりはなかった。しかし、ここで大きな力となったのが、SMBCグループが長年かけて築き上げてきたお客さまとの強固な信頼関係だ。営業の現場でその価値を実感する同社 営業推進部 酒井 響は、次のように語る。

「SMBCの営業担当者の方々が日頃から築いてきた経営層との絆に、私たちは非常に助けられています。お客さまは『SMBC担当者が紹介する会社なら信頼できる』と受け入れてくださり、私たちが本来越えなければならない最初のハードルがゼロになっているのです」

実際にサービスを利用したお客さまからは「これまでの銀行とは一味違う取組」「被害に遭う前に、こうしたサービスがあればよかった」といった強い共感の声が寄せられている。また、あるお客さまからは、「かつての私たちのように、まだ対策の重要性を認識されていない企業があれば、このサービスの価値を伝えるために、私たちが同席してでも強く推薦したいほどです」との声も寄せられ、チームにとってサービスの価値を改めて実感する機会となっている。

強固な基盤が企業の挑戦を可能にする。セキュリティで支える価値創造

同社は今後、コンサルティングで得た知見を蓄積・体系化し、より多くのお客さまが利用可能なサービスへと拡充していくことを計画している。青木らが社名に込めた「フロント」には、相談窓口としての「フロントデスク」、お客さまの前面に立って守る「前面」、そして最先端の技術を追求する「最先端」という三つの意味がある。このビジョンを実現し、日本社会全体のセキュリティレベルを底上げすることが、同社の使命だ。

さらに橋本は、この事業の根底に流れるべき哲学として「共助の精神」を挙げる。

「サイバーセキュリティの世界では、攻撃者は共通の敵であり、企業や業界の垣根を越えて脅威情報等を共有し、協力しあう文化が存在します。この『共助の精神』を事業の核に据え、当社の活動が日本社会全体のサイバーセキュリティ態勢の強化につながることを目指しています」

最後に栗田は、セキュリティを企業成長の基盤と位置づけ、その先にある日本の再成長への道筋を示した。

「守りがあるからこそ、お客さまは前向きに事業に取り組めるのだと考えています。例えば、AIの導入など、新しい技術を活用した挑戦には必ずリスクが伴います。そのリスクを適切に管理する『守り』があって初めて、企業は安心して『攻め』の事業にリソースを割くことができるのです。強固な守りが企業の成長に向けた攻めの事業活動を支え、それが新たな価値創造につながる。私たちは、そうした好循環の輪を社会全体に広げていきたいと考えています」

プロフィール

青木 泰憲

SMBCサイバーフロント(株)
代表取締役社長

栗田 真由美

SMBCサイバーフロント(株)
取締役 事業企画部長

橋本 高志

SMBCサイバーフロント(株)
非常勤取締役

酒井 響

SMBCサイバーフロント(株)
営業推進部