※内容は、取材当時のものです。

相続のハードルを下げ、
円滑な資産承継を実現す

「スマート相続口座」

~お客さまと地域金融機関の双方
の相続課題を解決し、
特許取得と
ホワイトラベル化を達成~

  • 高橋 真興 氏
    (株)常陽銀行 高橋 真興 氏
  • 井上 康章
    (株)SMBC信託銀行 井上 康章
  • 橘 一哉
    (株)SMBC信託銀行 橘 一哉

少子高齢化

高齢化が加速する日本では、相続件数が増加を続けている。しかし、信託協会の2015年の調査によると、多くの人が「相続対策は必要だ」と感じながらも、実行に移している人は全体の1割半ばにとどまるという。背景には、既存の承継商品における手数料の高さや手続きの煩雑さに加え、自身の人生の終焉を想起させることへの心理的な負担が存在していた。相続手続きが進まないことで、個人資産の凍結リスクが高まり、社会全体の資金循環を滞らせる一因ともなる。

こうした相続の状況は、金融機関にとっても深刻な経営課題だ。相続時に次世代のお客さまへ取引が引き継がれなければ、それまで築いた関係性が途絶えてしまうからだ。実際に、SMBC信託銀行ではセカンドライフ期のお客さまの流出、多くの地域金融機関では相続に伴う資産の域外流出が、それぞれ重要な課題と認識されていた。この課題解決のため、SMBC信託銀行 信託開発部 井上 康章と、橘 一哉(現 コンプライアンス統括部)は、お客さまの相続対策の悩みを解決する新たな承継商品「スマート相続口座」の開発に着手した。

「かんたん」「スピーディ
ー」「資産入替自由」の
3つの特徴を持つ
「スマート相続口座」

「銀行が提供したい商品ではなく、お客さまの悩みを解決する商品を提供する」という思想に基づき、井上と橘らが開発したのが「スマート相続口座」だ。開発の背景には、相続に直面するお客さまの複雑な心理への深い洞察があった。チームは、相続手続きが進まない根本原因を「ご家族に迷惑をかけたくない想い」と「自身の死と向き合うことへの抵抗感」との葛藤にあると分析。その心理的な抵抗感の解消を、商品の核に据えた。そのコンセプトを具現化するため、チームは商品の設計を精緻化した。

まず、信託業法が適用される「信託商品」とはせず、民法の「死因贈与」という仕組みを活用することで、信託契約時や相続発生時に必要となる戸籍謄本や遺産分割協議書といった書類を不要とし、手続きを大幅に簡素化した。さらに、SMBCグループが提供する電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」を導入したことで、遠隔地の家族ともオンラインで手続きを完結できるスピーディーな契約締結を可能にした。そして、契約後も口座内の資産は自由に引き出しや入れ替えができるなど、日常使いの利便性も確保した。

こうした機能面の工夫に加え、設計思想も随所に反映されており、商品名には死を想起させる「遺言」という言葉を使わず「スマート相続口座」と名付けたほか、商品紹介資料などにおいても高齢者を想起させるイラストや表現を用いないなど、お客さまの心理的負担を軽減するための細やかな配慮が施されている。

特許取得と4,000件の
契約実績の積み上げに
より広域展開へ

スマート相続口座の開発プロセスでは、いくつかの課題に直面した。開発以前に手掛けた前身商品は、お客さまのニーズとの乖離から、市場に受け入れられなかった。その失敗要因を分析するため、チームは現場へのヒアリングを重ね、ニーズの再定義を行った。また、開発リソースは人員3名、予算数百万円と限られていたが、この制約をお客さまの最も切実なニーズである「手続きの簡便さ」と「契約後も資産を普段通り使える自由度」という2つの核に絞り込む好機と捉え、コンセプトの純度を高めた。さらに、手続きの簡便さを追求するなかで、遠隔地の家族との郵送手続きという課題を解決すべく、SMBCグループの電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」に着目。これが契約のスピーディーさをもたらし、後に特許取得の重要な鍵ともなった。

商品独自の仕組みを知的財産として保護するための特許取得も、主要な課題の一つであった。スマート相続口座は信託商品ではないため、信託免許がなくても商品を提供できる。そのため、他社による模倣を防ぎ、事業の独自性を法的に守る必要があった。特許取得を目指し、弁護士でもある橘が中心となり申請をしたが、特許庁から二度の拒絶査定を受けた。しかし、チームは諦めずに特許審判を申し立て、それまでの審査で十分に伝わっていなかったSMBCクラウドサインの活用を改めて強調し、「新規性」と「進歩性」の主張を補強。これにより、2025年4月、特許取得に至った。

また、この商品をSMBC信託銀行としてではなく、提携する金融機関の自社商品として提供する「ホワイトラベル化」においては、地域金融機関との調整が難航するなど想定通りに進まないこともあった。しかし、その後もチームは諦めずに地道な実績作りを継続。スマート相続口座の提供開始以降、井上が中心となって地道に契約数を伸ばし、2020年の取扱開始以降5年間で累計約4,000件という実績を達成した。

この実績が株式会社常陽銀行(以下、常陽銀行)の評価を得て、両行の提携へと発展。常陽銀行 営業企画部 戦略企画グループ新事業開発チーム 主任調査役 高橋 真興氏は、当時について「スマート相続口座は、お客さまが抱える課題と、導入する我々金融機関側の課題、その双方の解決につながる商品だと感じていました。4,000件という契約実績に裏打ちされたノウハウも非常に魅力的で、このスキームであれば、我々もスピーディーに展開できると判断しました」と振り返る。こうして、国内初となるホワイトラベル契約が実現した。

パートナーシップを
深めて機能を強化し、
地域社会に広げることで
「元気な日本」の実現へ

常陽銀行とのパートナーシップは、スマート相続口座にとって新たな展開の契機となった。井上は「地域金融機関とは競合するのではなく、共通の社会課題を解決するビジネスパートナーとして連携していきたいと考えています」と展望を語る。

また、高橋氏も「このサービスを提供することで、お客さまに『常陽銀行と取引して良かった』と思っていただきたい。今後は、我々の現場の声をフィードバックすることを通じて、スマート相続口座の機能性をさらに向上させていく連携ができればと考えています」と期待を寄せる。

チームが目指すのは、このスマート相続口座を全国の地域金融機関へ展開し、本格的な遺言信託の前に、まずはすべての財産ではなく、預貯金など一部の資産から手軽に始められるエントリー商品として社会に定着させることだ。それは、円滑な資産承継を地域社会に広げることで個人の暮らしを支え、ひいては日本経済全体の資金循環を活性化させることにもつながる。井上は取組の先に見据える未来について、「地域が活性化し、人、資金、そして活気が日本全体で循環する。そのような、元気な日本の実現を目指したいです」と意気込む。

この取組は、当初から大きな社会課題の解決を目指したものではなかった。共に開発を率いた橘は、その道のりを振り返り、自らの実感として最後にこう語った。

「何か大きな目標を掲げるというよりは、まず目の前のお客さまの悩みに真摯に向き合い、解決策を届ける。そうした地道な積み重ねが、結果として社会的な価値につながっていくのだと、この取組を通じて実感しています」

プロフィール

高橋 真興 氏

(株)常陽銀行
営業企画部 戦略企画グループ新事業開発チーム
主任調査役

井上 康章

(株)SMBC信託銀行
信託開発部

橘 一哉

(株)SMBC信託銀行
コンプライアンス統括部