※内容は、取材当時のものです。

日本の創薬を再び世界へ。
産学金の新たな連携で
グローバル競争力を向上

~製薬大手2社とSMBCが合弁会社
設立。
新たなインキュベーション
モデルで日本の創薬を支援~

  • 藤本 利夫 氏
    シコニア・バイオベンチャーズ(株) 藤本 利夫 氏
  • 三瓶 智英
    (株)三井住友銀行 三瓶 智英

日本の再成長

パートナーシップ

日本の創薬における国際競争力の低下が指摘されている。医薬産業政策研究所の調査では、新薬創出国として日本は2008年の世界2位から2022年には6位へと後退。背景には、新薬開発の初期における基礎研究が実用化に至らない構造的な問題がある。世界では大学の基礎研究を創薬スタートアップが事業化する流れが主流となる一方、日本では研究の初期段階で支援を求める大学と、後期段階で協業を望む製薬企業との間にニーズの乖離が生じている。

この課題は、三井住友銀行(以下、SMBC) コーポレート・アドバイザリー本部 三瓶 智英にとっても長年のテーマだった。学生時代にがん研究に携わった経験や、銀行でヘルスケアセクターを担当するなかで、このギャップを埋める新たな仕組みの必要性を痛感していた。そうした折、日本の創薬エコシステムの課題解決を目指す藤本 利夫氏(現シコニア・バイオベンチャーズ株式会社 代表取締役 Founder CEO)から、創薬インキュベーション(起業初期の育成支援)を目的とした合弁会社設立の構想が三瓶に持ちかけられ、本取組は始動した。

優れた基礎研究を
事業化へとつなぐ、
大手三社連携の創薬
インキュベーション事業

日本の創薬エコシステムが抱える課題の解決を目指し、武田薬品工業株式会社、アステラス製薬株式会社、そしてSMBCの三社が共同で設立したのが、創薬インキュベーション機能を持つ合弁会社「シコニア・バイオベンチャーズ株式会社」(以下、シコニア)だ。この構想を主導する藤本氏は、本事業の意義を次のように強調する。

「本事業の最大の特徴は、参画企業が短期的な利益や創出されたシーズ(新薬開発の起点となる基礎研究成果)の所有権を目的としていない点にあります。彼らの真の目的は、この取組を通じて自社の専門領域外の知見を獲得し、将来の事業展開に向けた『知の裾野』を広げること。この長期的視点こそが、エコシステム全体の発展につながると確信しています」

シコニアの事業目的は、大学の研究室や企業の戦略転換などによって開発が止まった有望な創薬シーズを発掘し、大手製薬企業やベンチャーキャピタルが投資対象として本格的に検討できる段階まで事業開発を支援することにある。また、単なる資金提供にとどまらず、武田薬品工業とアステラス製薬というグローバルに事業を展開する製薬企業二社が、世界水準の専門知識や事業化ノウハウを、特定の企業の色を出さずに一体となって提供する。これにより、基礎研究の段階から専門的な評価を行い、成功確率を高めながら事業育成を進めることが可能となる。また、この枠組みにSMBCが参画する意義について、藤本氏は「資金面に加え、幅広いネットワークの提供や、ガバナンス強化の面でも重要な役割を果たしています」と語る。シコニアは、こうした各社の強みを結集させ、日本の創薬エコシステムに不足するインキュベーション機能の構築を担う。

創薬エコシステム発展に
向けた連携体制の構築と、
前例のない合弁会社設立の
合意形成

国内初のこの事業モデルの実現には、主に二つの課題を解決する必要があった。第一の課題は、構想の核となる連携体制の構築だ。藤本氏が当時所属していた武田薬品工業からは、早期に構想への支持を得ていたものの、本事業の成功には複数社の連携が不可欠だった。藤本氏は十社以上の企業と協議を重ねたが、各社の事業戦略などとマッチせず、参画への合意形成には至らなかった。そうしたなか、日本の創薬の未来に対する課題認識を共有するアステラス製薬が参画を表明したことで、グローバルな知見とネットワークを有する製薬大手二社と金融機関が連携する、国内初の枠組みが実現した。こうして、日本の創薬エコシステムの再構築に向けた、業界の垣根を越えた推進体制が整った。

もう一つの主要な課題は、SMBC内部での合意形成であった。本件は、構想初期より検討を開始したものの、コーポレート・アドバイザリー本部として前例のない合弁会社設立・出資案件であると同時に、専門的で不確実性の高い医薬品開発の事業性を慎重に検証する必要があった。この行内調整を担当した三瓶は、当時の状況を次のように振り返る。

「社会的意義に異議を唱える人はいないのですが、各論に入ると医薬品開発は専門性が高いため、事業内容が十分に理解されにくい側面がありました。専門用語が多く、いわばブラックボックス化されがちな分野ですが、開発の各フェーズにおける統計的な成功確率や、シコニアのビジネスモデルが持つリスクとリターンのバランスを具体的に提示することで、事業の妥当性について理解を深めてもらえるよう努めました」

こうした三瓶による丁寧な説明に加え、本件の重要性を認識する役員が行内議論を後押ししたことも、合意形成の大きな力となった。最終的に関係各部の理解を得て承認されると、本事業は設立直後から大きな注目を集めた。最近は、ベンチャーキャピタルから自社では難しい早期シーズの共同育成の打診が寄せられ、政府からも「創薬エコシステム発展支援事業」として採択されるなど、その活動には大きな期待が寄せられている。

日本発の創薬シーズを
世界へ、
グローバル市場で
競争力を持つ
スタートアップを創出

シコニアは2026年度末から2027年初頭にかけて、インキュベーション事業の具体的な目標として1社目の新会社を設立することを目指し、有望シーズの事業化に向けた活動を本格化させている。将来的には、研究開発の拠点を日本に置きつつ、臨床開発や事業開発は米国で展開するモデルを構想。米国の有力ベンチャーキャピタルなども巻き込み、グローバル市場で競争力を持つスタートアップを生み出すことを目指している。

こうした動きと並行し、SMBCグループも金融機関としての新たな役割を検討している。近年グループが注力する大学支援の取組とも連携し、本事業を創薬分野におけるハブとして機能させていくことも視野に入れる。三瓶は「シコニアが生み出すスタートアップの成長段階に応じ、既存の金融サービスにとらわれない、新たな支援策を構築・提供していきます」と、今後の連携強化への意欲を示す。藤本氏も、シコニアが育成したスタートアップが次の資金調達ラウンドに至るまでの期間をつなぐ「ギャップファンド」の重要性を述べ、金融機関とのさらなる連携に期待を寄せている。

銀行員という立場から、前例のない社会課題解決に挑んだ今回の取組。その根底にある自身の信条について、三瓶は次のように語った。

「『銀行に何ができるか』という視点から始めると、発想はどうしても既存の枠組みに縛られてしまいます。重要なのは、まず『社会にとって何をすべきか』という起点に立ち、長期的な視点でその社会的意義と事業性を両立させる構想を描くこと。そして、その構想の価値を関係者に丁寧に説明し、根気強く理解と協力を得ていくことが大事だと考えています」

プロフィール

藤本 利夫 氏

シコニア・バイオベンチャーズ(株)
代表取締役 Founder CEO

三瓶 智英

(株)三井住友銀行
コーポレート・アドバイザリー本部