※内容は、取材当時のものです。

才能に、公正な評価を。
協働と実践の機会を生む「高専インカレチャレンジ」

~ リアルな企業課題への挑戦を通じて、
次世代イノベーション人材を育成 ~

  • 髙橋 雄也
    SMBC日興証券(株) 髙橋 雄也
  • 芝崎 春香
    SMBC日興証券(株) 芝崎 春香

日本の再成長

教育

日本の再成長には、イノベーションを牽引する高度な技術人材の育成と活躍が欠かせない。しかし、その貴重な才能が、社会の仕組みによって正当に評価されず、待遇や活躍の機会が制限されてしまうこともあるという課題に直面している。

日本独自の教育システムを持つ高等専門学校(以下、高専)が、まさにその一例である。高専は実験・実習を重視した実践的な専門教育を行い、卒業生は大学レベルの知識・技術を持つが、学位が「準学士」のため、就職時に不利になってしまったり、就職できる部署が限られてしまったりすることもある。この社会的な評価の課題に加え、全国に国公私立合わせて58校ある高専の学生が、学校の垣根を越えて横のつながりを持ちにくい構造的な問題も、彼らの可能性を狭めている。

2021年5月、SMBC日興証券のイノベーション専担組織Nikko Open Innovation Lab(以下、NOIL)内のプロジェクトチーム「Funder Storm(ファンダーストーム)」は、次世代人材の育成を模索するなかで、この高専コミュニティの独自性と課題に着目し、解決に向けた取組を開始した。

異高専連携で学校の壁を越え、企業のリアルな課題に挑む
「高専インカレチャレンジ」

Funder Stormのチームは、高専生が持つ潜在能力を社会とつなぎ新たな価値創造の循環を生み出すことを目指し、協働の場として「高専インカレチャレンジ」を立ち上げた。

このイベントの根幹をなすのが二つのユニークな仕組みだ。一つは、異なる高専の学生でチームを組む「異高専連携」。学校の壁を取り払い多様な仲間と協働する経験は、学生たちに新たな視点をもたらす。

もう一つは、企業が実際に抱える「リアルな課題」への挑戦だ。参加企業から提示された実践的な課題に対し、学生たちは社会実装を見据えたアイデアを創出する。高専生は座学だけでは得られない生きたビジネスの現場に触れ、課題解決能力を磨くことができる。

2022年にチームに加わり、本取組を推進するNOILの芝崎 春香は「企画を運営していくなかで、次世代の『人』が育たなければより良い経済循環は作れないと気づきました。高専生は日本の『貴重な人財』です。この貴重な人財をより多くの人に知ってもらい、活躍できる場を提供したいと考えるようになりました」と根底にある想いを語る。

しかし本取組を形にするのは決して平坦な道のりではなかった。立ち上げ当初、まず乗り越えるべきは高専側の懸念だった。「新しいイベントの導入が、ただでさえ多忙な教員の負担をさらに増やすのではないか」。この不安に対する解決策として、チームは運営事務局が全面的に取組をサポートし、高専出身のOB/OG起業家がメンターとして伴走する仕組みを構築した。

推進役の一人、NOILの髙橋 雄也は、取組の効果をこう振り返る。「先生の負担はほぼなしという形を取ったことで『本当に円滑に運営できるのか』という不安の声もありましたが、実際にやってみた結果、学生から受賞報告を聞いて初めてイベントの終了を知ったという先生もいらっしゃるくらい、先生の負担をかけずに進行できました」

さらに、開催の回数を重ねるなかで運営体制も進化させていく。2025年4月より、SMBC日興証券は株式会社ノーコード総合研究所と共同で運営を開始し、本格的な産学連携の場づくりを目指す新たなステージとして、同社が開発した専用プラットフォームを導入。従来は手作業だったチーム編成の自動化や、参加者同士の円滑なコミュニケーションが実現可能となり、このDX化で生まれた時間をより学生に寄り添った細やかなサポートに充てることで、イベントの質を一層高めていった。

「想像をはるかに超えていた」——企業の常識を覆した実装力

こうした手厚いサポートのもとで開催された成果発表会。そこで何より審査員を驚かせたのは、学生たちの圧倒的な「実装力」だった。アイデアを語るにとどまらず、プログラミングを駆使して短期間でプロトタイプやデモ動画として形にしてくる。技術力に加え、アイデア自体の斬新さ、作り込まれたプレゼン資料、そして成熟した質疑応答への姿勢。そのレベルの高さは企業の想定を大きく上回り、審査員からは「想像よりはるかに高い能力レベルで驚きました」と、率直な感嘆の声が漏れた。

この経験は、学生自身の意識にも大きな変化をもたらした。参加した高専生は「提示されたものを実装して提出するのではなく、企業から解決してほしい課題が示され、アイデアを考えて実現する経験ができて良かったです」と実践的な能力の向上を語り、別の学生は「企業のニーズや反応をよく聞き、チームメンバーを含め対話することで、より良いものができると感じました」と、チームでの価値創造について振り返る。

確かな手応えと実績をもとに、SMBC日興証券はこのイベントを一過性のもので終わらせることなく、社会の仕組みを変えるための具体的なアクションへとつなげていく。

まず、金融機関として初となる独立行政法人国立高等専門学校機構との包括連携協定を締結。これにより、高専を中心に国際的な視野を持つ変革人材を継続的に育成・輩出するエコシステムの構築を共に目指すパートナーシップが生まれた。

さらにSMBC日興証券は2025年4月入社の新卒採用より、高専卒業生(専攻科除く)を「大卒」と同じ待遇で募集を開始し、総合職第1号として高専卒業生が入社している。芝崎は「これまでの積み重ねを通じて高専と最も親しい金融機関である当社が、高専卒業生を大卒給で採用することで、彼らが公正に評価される社会の実現に貢献できると考えています」と、その意義を語る。

高専インカレチャレンジの今後の目標は、全国58校すべての高専からの参加を実現することで、本取組をさらに広く根付かせ、挑戦の輪を広げること。そして包括連携協定を基盤に、イベントから派生する新たな産学連携プログラムの企画を通じて、高専から育った高度な技術人材が社会で活躍し、変革を生み出していくための持続的な仕組み作りを目指す。

このビジョンを実現するうえで、髙橋は「ステークホルダー全員にとっての価値創造」という考え方を重視する。高専生にとっては成長の機会、企業にとっては新たな事業創出の機会、教育機関にとっては新たな教育価値の提供。そしてSMBCグループにとっては、未来の社会を担う人材を育むことで、持続可能な経済成長を生み出すという社会的価値の創造につながる。

関わるすべての人々が同じ方向を向き、それぞれの価値を享受できる仕組みだからこそ、プロジェクトは困難を乗り越え、加速していく。この仕組みを土台として、芝崎はその先に、さらに公正な評価が息づく社会を想い描く。

「埋もれていた才能が正しく評価され、その価値がグローバルに発信されていく。その循環こそが日本が再び成長するきっかけになると信じています。今後は国内外を問わず、高専インカレチャレンジの取組に共感してくださる方々と共に、このコミュニティをさらに盛り上げていきたいです」

プロフィール

髙橋 雄也

SMBC日興証券(株)
Nikko Open Innovation Lab

芝崎 春香

SMBC日興証券(株)
Nikko Open Innovation Lab